594話 簀巻き 挿絵あり
残念な事に人とお金は切り離せない。かと言って適正な報酬というのもまた算出するのは難しい。ならなにか物でいいかと問われればそれにも疑問が出て来る。かなり難しい話で全員が納得してOKを出すモノがない以上、平等な報酬と言うのは無理で最悪参加者に尋ねてそれを報酬とするのが1番だと思う。
まぁ、見えづらい貢献度なんてものは先に除外するしかないのだが、端っこに縮こまって終わりまで眺めるなんて事をされても困る。と、言うか人間である以上逃げ出す可能性もある訳で・・・。狩猟をメインに仕事をしている人なら命の危険性と言うものを熟知しているかもしれないが、それでも今の時代ナイフ1本で虎や熊を狩れとは言われない。
まぁ、どこかの部族の成人の儀式では槍でライオンを倒すなんて事もあるが、それはもう特殊な事情と言うやつだろう。ゲートに自ら赴くならそれは自己責任でいいが、スタンピード参加と言うのはどちらかと言えばお国事情で俺や自ら志願する人は別となる。
米国での死者はかなり少なくなったが、それでも絶対に安全な戦闘はなく。更に言えば次のスタンピードがいつになるかは誰にも分からない。これが頻発する様なら色々と考え方も変わるかもしれないが、中層以降の掃除もしている関係上そこそこの猶予はあると思うし、そこを掃除出来る人が増えれば更に猶予は増える。
う〜ん・・・、確かにお金や時間の面では本部長やるよりただのスィーパーである方が儲かるし、先に進むにしても準備や時間と言うものを気にしなくてもいい。残念な事に本部長としての魅力って安定した収入とか政府に文句言えるとかしかないのよね・・・。後は出土品を真っ先に触れるとか?いや、それもゲートを旅した方が触る機会は多いか。
やり甲斐で働けと言われても、代価がなければ暮らせない。根性論なんてクソ喰らえ、言った奴が身銭切って根性見せろ。経済的にはどこも潤ってるしODAなんかも資金より技術と言う方面に舵切りが進んでいる。なにせゲートに入れば金貨が手に入るのだし・・・。
「なんにせよ今自分達が悩んでも答えは出ませんよね?」
「むしろ今すぐ出たら批判の的じゃありません?『分かりきった事を何故今更決める話になる!』ってね。グローバル化はいいとして、格差がなくなったらそれはそれで面倒と言うか仕事を出す人も出される人も報酬で難儀する。」
例えば異世界に行ってゴブリン倒せと言われたとする。支払いが銅貨5枚で納得できるのか?その日食うに困る人はやるかもしれないが、余裕のある人はしないだろうし依頼を受ける側にも断ると言う選択肢がある。逆に貼り出された依頼を自分で選んだのなら、最初から納得済みなので問題は起きない。
日本の場合最初からスタンピード発生時に置けるギルド協力体制なんてものが盛り込まれているので、わりかし国内での発生にはスムーズに対応出来るし、米国でのスタンピードにも参加したので報酬面でもある程度上限と下限は決まっている。
他国にもその辺りの資料をだしているはずなのだが、国家予算なんて国毎で違うのは当然なので仕方ない。まぁ、今はそんな答えの出るか出ないか分からない事よりも、参加者のやる気問題と言うか来た中位に対して報酬を別にだしてパフォーマンスを上げてもらうか否かか。
「モンスターを倒したり箱を回収すれば本人の物なんでしょう?訓練中も。」
「それは当然ですよ。お給料貰いつつ訓練してモンスター倒したりしてますからね。まぁ、箱優先モンスター優先なんて別れる場面もありますが・・・。」
「なにかこう・・・、あんまりやりたくありませんが参加者記念品と言うか首席卒業的なモノでも作ります?至る至らないは別としてやる気の低迷は困るでしょう?」
「それは一応自分の魔術を渡すとか、回復薬を割り引いて渡したりはしてます。ただ本人の資質的なモノとなると・・・。それ以外にもプライドが高かったり、教わる態度でない人は鼻をへし折ったりもしてるんですけどね・・・。」
全員日本人と言うか単一民族にはない部分での問題かぁ・・・。ただ、そんな人達ともこれから上手くやっていかないといけないんだよな。まぁ、その部分については俺達と言うかギルドではなく政府の領分だろうし、いちいち態度が悪いからと目くじらも立てていられない。実際、海外だと授業中にジュース飲んだりガム食っても大丈夫な所もあるし。
「取り敢えず政府に投げられる部分は投げてしまって、宮藤さんはぼちぼち肩の力を抜いてやるといいですよ。究極的に言ってしまえば、ここを出た後に国に帰って文句を言われるのは彼等であって私達ではない。指導内容やらは書面に残す事をおすすめします。」
「来て帰って死なれても困るんですけどね・・・。まぁ、目を瞑る部分や息抜きなんかには気を付けますよ。それで、この杖は?」
「『解放』が呪文です。頭に『完全』を付けるとフルスペックで出るので、卒業試験にでも使って下さい。さてと、話し込みましたが戻るとしましょう。」
現時点で言えるのは国毎にある個別の問題への対処はその国に任せるしかない。それこそ国が減って統合でもされて行けば、ある程度問題に対しても強行策や事前に準備する事も出来るのだろうが、今の段階では全員違う方向を見て歩いているので仕方ないだろう。
「遅イ!ここはフルスペックで戦える場所ダ!相手を侮るナ!モンスターをゴミ虫と思エ!襲うならちゃんと襲って相手を負かセ!訓練でなければ死んでいるゾ!」
参加者の所に戻れば数人は立っているもののそれでもボロポロで、今もエマのいい蹴りがエンゾの尻に入れられている。中々米軍式指導は過激な様だ。まぁ、話して通じないなら分かる方法で分からせるしかないし、その方法が暴力と言う方法でもここでは仕方ない。
何気に騎士団と山賊だと山賊の方がまとまりがある様に思えるんだよな。暴力による押さえつけるだろうが、その暴力に庇護されている分強者や頭目には逆らわないし。まぁ、その頭目も負ければ全てを失うわけだが・・・。
「エマ、戻りました。そろそろ帰りましょうか。」
「そんな時間カ。確かに長居した様に思うナ。」
「まて!俺達は米国人とは戦ったがファーストとはた・・・。」
血の気の多い事だ。死んだふりじゃないんだし姿を現したからって、そんなにいきり立たなくてもいいしエマが相手をしているんだからわざわざ挑もうとしなくてもいい。
「挑むなら静かに。それで?今なにかしようとしましたか負傷者諸君。」
叫んだ奴はさっさと簀巻きにする。ついでに動いた奴も簀巻きにする。拘束衣をイメージしつつ包帯でミイラの様にぐるぐる巻きに。包帯を使うのは当然負傷者であり、それが巻かれているなら動けない程の怪我をしている。なら、藻掻けば藻掻く程苦痛は増すだろう。
「うんんんんん・・・!うんんんんん・・・!!!」
「相変わらず手早イ。ここまで魔法を自在に操るコツと言うモノはあるのカ?米国中位のディル曰く、構築速度を上げるのは中々難しいと言っていたガ。」
「それは自分も興味ありますね。確かに瞬間発火等も出来ますけど、複数にピンポイントでやるのは多少時間を取りますし。」
「そうですね・・・。」
言えない・・・、この速度やオールレンジでの視界を持ってしても魔女や賢者には届かないし未だに駄目だしされる。ただ、なんとなく分かってきた事と言えば魔女達は最初からそれがあるとして全てを構築していると言うか、構築する事を構築していると言うか・・・。
イメージ発生=完了でありつつ完了したイメージもまた発生させていると言う卵が先か鶏が先かと言う状態だと思う。まぁ、多分コードを使いこなせばそれが可能なんだろうし、強靭な精神も有れば大丈夫なのだろう。因みに卵と鶏なら鶏が先だと思うぞ?生物がいなければ子孫は産まれないし。
「知識や雑学、事象に対する対応力にその事象を見定める目。後はユーモアと無駄と不要物の抽出とかですかね?箱に人入れて剣で刺す。この時人は刺されるか刺されないか?マジックショーと頭に付ければ種があり、拷問と付ければ逃げ場はない。因みに参加者全員物凄い苦痛を今味わってますよ?」
「エ?」
「負傷者ですか。痛みはどの程度の?」
「産まれてこの方骨折した事もないので火傷とかですね。水膨れするやつ。アレが包帯巻かれてる所全体に継続的に・・・。」
「嫌らしいにも程があル。」
「でも、こうでもしないと拘束の意味はないですからね。」
子供の頃焼肉してて火傷したのは痛かったなぁ〜。水膨れして中の水抜いてさっさと乾かして治そうとしたけど痛いのなんの。ただ、この魔法も杖にして欲しいと言うオファーが松田から来ている。イメージの否定もスィーパーには有効なのだが警官全員にそれを伝授すると危ないからと、こう言った職を使えない或いはイメージを阻害して拘束する系の魔法が欲しいと言われ、それを作る過程でこんな物が出来ている。
見た感じのたうち回るミイラ多数で攻撃して来る事もないので概ね良好と言う所かな?無論、先に包帯を切られれば拘束は出来ないしどうやって巻き付けるのか?と言う部分でまだまだ試す所は多い。まぁ、拘束して捕まえられればそれに越した事はないんじゃないかな?余程どうしようもない奴でない限りわざわざ殺す必要性もないんだし。
そんな話をしてエマとゲートを退出。脱出アイテムを使っても良かったが、流石に参加者の目が絶対に届かないと言う話もないだろうし、久々のゲートと言う事で更に潜りエマがモンスターを倒しつつ退出ゲートを探した。
「本部長業務と言うのは中々ハードなのだナ・・・。また書類ガ!」
「その書類は明日やる分でいいよ。今日は帰ろう。」




