593話 世知辛い
「ではこのまま?」
宮藤にそう話を振りつつ生徒を見ると一瞬身体をビクつかせる。人と戦いたいがモンスターと言うかこの魔法はダメとかなるとかなりアンバランスだな。むしろモンスターを倒して回っていて、それを国としても認められたからここに来ているのであって、今更モンスター風味な外見のこの龍が怖いとは言わないだろう。
そりゃあ、エマや俺と戦い多少の疲れもあるかもしれないがそんな事で泣き言を言っていたら命がいくらあっても足りない。それともなにか戦闘方針が違うとか?俺が主に見る配信って日本の物とたまに米国程度で他の国の事は知らないし、ネットやニュースは見るが流石に国別個別戦闘方針とかは出て来ない。だからこそリーと言う民間向けの駒も欲しかったし、宮藤の苛立つブートキャンプも見に来たのだが・・・。
「いえ、受け渡しで貰えれば来たるべき時に使うとします。」
「ふむ・・・、なら多少時間を貰ってもう少し使いやすくしましょうかね。エマ、ちょっとそこの人達を米軍式にしごいてて貰える?」
「構わないが何をするきダ?アレを圧縮するのに時間がかかるなら請け負うガ。」
「時間はかからないけど宮藤さんとちょっとね。足が使えないけどいいハンデでしょ?それとも治す?」
「軽く言ってくれるガ、治癒師さっさと足を治してくレ。それから再開するとしよウ。ありがたく思エ、治した治癒師は最初に狙わないでやル。全員何の遠慮もいらン、私が誰かを知って攻めて来いと言っているんダ・・・、簡単に寝るなヨ?」
エマはメンバー急かし、まだ終わらないと悟ったメンバーは準備を始める。戦いのゴングは治療が完了した瞬間だろうし、相手が誰か分かっているなら遠慮もないだろう。そんな事を思いながらエマ達からヤマタノオロチを連れて多少離れる。
「離れてどうしました?クロエさんに不完全燃焼感があるなら相手になりますけど。」
「違いますよ。エリザベス女王陛下のお披露目式は覚えてますよね?そこで使われた杖、アレ作れます?」
「いやぁ〜・・・、色々やろうとしてるんですけど中々時間が取れません。モンスター・ハントも任せてるんですが中々危なっかしい所もありますからね。」
「不思議に思ったんですけど、中位が混ざってなんであの程度なんです?いくらなんでもと言う部分があるでしょう。」
宮藤に杖の作りの実演をしつつ話を振るがなんかこう・・・、いまいちチグハグと言うかなんというか・・・。至るなら至るだけの思いがあるのだろうが、その思いを持ってしても何処か浮ついてるような・・・。
「その至る思いが問題と言えば問題で、平たく言うと彼が全力を出す状況ではないと言う事ですよ。色々と話して探りましたけど必要なのは報酬です。」
「報酬?賃金が発生しないとやる気が出ないとか?それなら寄越した国から支払われているでしょう?来たい人は多くあると聞きますが、流石に来た実績やその後のポストを報酬とするのでは納得しないでしょう?」
流石に仕事として来ているから無償はない。ないのだが本人が納得した額ではないと言う事なのだろうか?しかし来てからそれを言い出されても困るし、宮藤としてもそんな状態の生徒を指導するのもかなり厳しいしイライラするのも分かる。分かるのだが相手が中位と言う事はそれだけの思いがある分、中々修正と言うか常にベストの状態を出せと言うのも厳しいのかな?
「国からとしての報酬は貰っています。ただ国ごとの格差と言うか・・・、ポストを得て貰う報酬よりも、自分自身がスィーパーとして活動して得る報酬の方が上だと、ここに来て他の国の人と話してから考えているらしいんですよ。」
「つまり、報酬の上乗せを要求していると?」
「そうですね。どの国も急激に金貨が手に入って外貨獲得にそこまでやる気を出してません。そして、そうなると基軸通貨への疑問や国としての紙幣を廃止して金貨での取引だけでいいんじゃないか?って話も出てきてます。その中位は発展途上国からの参加者で元々余り学のないタイプの方で、がむしゃらにお金を求めていた時に至り、それを聞き付けた役人からのオファーで参加してます。その時、契約書を作って貰ってるんですが支払いはその国の紙幣でと・・・。」
「IMF案件ですね・・・、確かに日本の円は基軸通貨で金貨1枚と1万円が等価とされてますしドルも100ドルで金貨1枚、他の国基軸通貨も最高紙幣=金貨1枚とされたおかげでスィーパーの取引は活発になり、国毎の格差もゲートで金貨を得ればなくせると動く所は動いている。そんな中で自国通貨を報酬と言われるとやる気的にはね・・・。」
お金が欲しい!それは大人なら誰だって考えてるし子供だってお菓子やらゲームやら欲しいからとお小遣いのやり繰りに頭を悩ませる。人が作って囚われて本当にそんな価値があるのかと疑う事も辞めたものだからこそ、生涯をかけてそれを得続けると言う人もいるだろう。
いるだろうが、ギルドは世界化しても管理はその国なので俺達としては簡単には口が出せない。特にその人は報酬の為に至る程に執着している以上、安月給に納得していなければパフォーマンスは下がる一方だろうな・・・。しかも、ポストに就くと言う事はそれだけ時間を取られてゲートに入る時間も減る。
その人の国としては自国通貨で支払えるなら財政もそこまで気にしなくていいし、何より最悪刷ってしまえばいい。それだけで個人への報酬は賄えるし、金貨を蓄えて置けば自国通貨が暴落や廃止しと言う流れに成っても、経済的には回せてしまうし国としても維持が出来る。
「その辺りも各国でギルドが稼働したら話し合いとか言う流れになるんですかね?スタンピード対策で国連が主導したりするとなると、報酬面ではある程度の均等化案が出て来ると思いますが。と、コレって素材はなんでもいいんですよね?」
「なんでもいいですよ。宮藤さんとは相性がいいと思いますよ?灰の腕使える分、魔法で物を動かしたりするのは得意でしょうから。国連主導は私としては構わないんですけど、最悪保険の様に掛け捨てなしの積立式がいいですね。加盟国全体で一定額支払っていれば大丈夫でしょうし。」
スタンピード指揮と言うか派遣されるスィーパーの保証人は国連である。その上で派遣されるスィーパーへの報酬を一定額払うのもまた、国連である。当然加盟国への資金提供を呼び掛けるだろうが莫大な額は必要ない。なにせ移動するのはゲートと人で弾丸一発の値段は考えなくてもいいし、燃料やら兵站もそこまで気にするものでもない。
最大のネックは人件費となるが、自国スィーパーを主力にする関係上、派遣スィーパーを減らせば億単位ではあるもののバカげた額と言うのは考えにくいし、193カ国から1000万毎年集めたとしても相当額となる。
命が掛かる戦場なのでそれで声の掛かったスィーパーが頷くかは別として、封じ込め失敗=モンスターの大規模流出と言う流れになるので国連としてもケチれないだろうし、頷かなかったスィーパーも否が応にも戦う流れとなる。それに管理している国連が別の所に予算を勝手に回して使い込んだとなれば猛批判の対象となるだろう、ギルドが世界にあると言う事はそれだけ支払い関係の書類のやり取りはやりやすくなる。
「自分としてはボーナス分程度の額で参加してもいいんですけどね。まぁ、下手に言うと買い叩かれるので増田さんとかには言いませんが。」
「私はギルド予算にプールでいいですね。そんなにお金を使う事もありませんし、溜め込んだ箱とかもかなりある。まぁ、金貨を減らす交渉もする予定なので、その分価値が出て来ればいいかなと。」




