592話 呼び出す者 挿絵あり
「してもらいたいのは山々なんですけど、今するとまずいですよね?」
「まずいですね。現段階でやると多かれ少なかれ魔術師一強思想が出来てしまいます。まぁ、それでも水龍は斬られ殻は割りましたけどね。」
宮藤が負けるのはこの場合よろしくない。しかし、次に俺が勝つと近接組が割を食う。自分達負けたが教官は負けていない。しかし、教官が魔術戦で負けると言うのはよろしくないし、エマも降参してしまったので総合的に見ると近接≪魔術と言う図式が頭の中に出来上がるし、そこに俺が加わると魔術師に近接では勝てないと言う枷が出来てくる。
多分ここに来るなら俺よりは雄二と卓や赤峰と兵藤なんかのはっきりと分かりやすい図式を作るか、或いは俺単騎の方がまだ良かったのだろう。う〜ん・・・、俺が近接組の真似事をしても結局は魔術として本人達の中で処理されるか、EXTRAなら出来ても当然なのでは?と言う要らない先入観も出来てくる。
やっぱり対人戦は後回しだな。参加者が弱いとか強いとか以前に前のめり過ぎて過程をすっ飛ばそうとしている所が問題で、この先喋るモンスターと対峙した時に勝つのは至難の業だろう。滞在場所がセーフスペース内と言うのは仕方ないのだが、もう少しこう・・・、イメージを補強出来る様な仕組みと言う物を・・・。
「その・・・、俺達が弱いから対人戦はダメなんですか?それともモンスターを更に狩らないと許されないんですか?俺達は国に選ばれて来ました。背景は色々でみんな頭の中も違う。でも、それでも国に帰れば警察っぽい事もしなきゃならないんです。」
「ふむ・・・、確か鉄拳でしたっけ?鉄拳のエンゾ?」
「はい、それにユエンにドボールが最後まで立ってました。」
龍退治の3人組のエンゾが代表する様に口を挟む。日本メンバーで約1年。魔女が選んだエマで更に短いが、その根底にあるのはある程度似た様な教育水準や仕事として軍なんかで兵器やそれに準ずるモノを取り扱ったり、或いはアニメマラソンさせられてイメージを作ったりと言う作業をして来ている事。
どこから何のイメージを持ってくるのかはもう、お国柄としか言えないし宗教に神話に哲学に科学に化学に漫画にアニメに映画等々、本人が何を吸収しやすいかも触れてみなければ分からない。分からないのだが、それを他人に求めるのは違う。
「その立っていた事は貴方にとって通過点ですか?それとも終着点ですか?」
「通過点だ!私は龍を斬り先に進む、その為にこうして教育を受けに来た。」
「よろしい、ならなんで自身の通過点なのに他人を気にするんですか?ここにいると言う事は多かれ少なかれ配信を見て情報を仕入れ、講習会メンバーの至った経緯を確認し、その上で教えを請うとして来たはずです。その貴女は何故モンスターではなく他人を求めているんですか?」
「それは・・・。」
「多分宮藤さんからも言われたと思いますが、自己のイメージが固まらないまま対人戦繰り返す・・・、若しくは対スィーパー戦術を行えばあやふやな自己しか出来ませんよ?例えばエマ、貴女の自己イメージは固まっていますか?」
「当然ダ。私は逃げも隠れもするが必ず獲物は追って仕留めル。何度後退しても必ず舞い戻り確実に仕留めらるモノを追求すル。私はそう言った機構でありスィーパーだ。」
マッド・ドッグね。不屈の精神は変わらず勝てないなら引いて機会を伺いその獲物を狙う者。だからこそ降参や参ったと言っても何度でも立ち上がる。実際渡した包帯を巻いて座っていても目は宮藤から離さない。その点、ここの参加者にはまだそれが足りない。言ってしまえば余裕がないのだろう。
狭い視界では点しか見えず、その点が本人の生涯を捧げられるものならいいが、違えば何度でも多分やり直す事になる。その事は宮藤も分かっているし説明はしているはずだ。それでもこうしていると言う事は、急かされる様に望まれる様に他者からの希望を他者から受け取ったまま進もうとしているからかな?
「私は教官ではないのでとやかくは言いません。とやかくは言いませんがギルドが世界化する今、こうして集まって教育されているならいずれ肩を並べる事もあるでしょう。その時、自己の判断ではなく他者の判断のまま動くつもりですか?別にワンマンに成れとは言いませんが、譲れない一線は必ず持ってください。望みは光で希望は導く、それさえなければ路頭に迷う。」
俺は妻の夫でありたい。それだけは譲れない一線で何をしようともそこに必ず舞い戻る。例え妻が老衰してもその事実は死後まで変わらないし、妻の死後に誰かを愛したとしても夫であった事は変わらない。
項垂れる参加者達が何を思い何を感じたかは分からない。相手が強過ぎたから負けたと言う者もあるだろうし、対応先が反対ならまだやれたと言い張る者もあるかもしれない。ただifはなく負けたと言う事実だけは変わらないだろう。まぁ、俺の方で立っていた3人は見学するからやめたと言うかもしれないが・・・。あの3人も叩き潰した方が宮藤の為だっただろうか?
全員負けたなら言う事を聞く様にもなるだろうし、それでも反発して来るならもう、そう言う性格と言って認めるしかない。実際エマとか反骨心の固まりみたいな性格だし。
「宮藤さん。立ってた3人って負かした方が良かったですか?必要なら今からちょっと参ったと言わせますが。」
「いえ、その3人はリーダーにしますよ。今までゲート外のお国事情でリーダーが立てられませんでしたけど、こうして呼び寄せたクロエさん達相手に立っていたなら、その実績を認めない事もないでしょう。ちなみに負かすってどうするつもりですか?」
「それは当然・・・。」
キセルをプカリ。わざわざ地面耕して荒れ地にしたんだ。川の氾濫は被害をもたらし、穏やかに見えてもいつ牙を剥くかは分からない。人々を困らせ贄を求め荒れ狂い明確な災いとしてその名を残す。そう・・・。
「足りない首を生やして贄を喰らうまで止まらない者を魔法で生み出すだけです。その者の名はヤマタノオロチ。」
爛れた腹は別に再現しなくていいが、赤い瞳は共通するので投影させてもらおう。中層では湧き出すムカデも見たし、泥水が混ざるので姿は黒くなる。まぁ、ヘビっぽいからいいかな?中層のモンスター程禍々しくないのは多分、現物を見る事が叶わず完全にイメージの産物だから。それでも、暴れれば3人を負かす事は出来る。
「相変わらず上手いモノのだナ。前に犬に追われたがそれよりはまだやれそうな気がするカ゚、大きさはそこまで意味をなさないのカ?」
「イメージ構築の問題だからね。コレの中身はほぼない。ほぼないけどそれを補うだけのイメージは入ってる。そもそも巨大なモノである必要性もなければ小回りが効く方がいい。」
「流石にコレもまだ早いですよね。総掛かり戦と言うなら大丈夫でしょうけど、自分の兵と一緒で削っても再生するでしょう?」
「その為に地面耕したり水害の後風にしたりしてイメージ補強してますからね。何より湖の近くというのがいい。水害の化身なら湖に潜れば水がいくらでも補給出来ますからね、いらないなら消しときますけど?」
「いえ、補給なしで戦わせましょう。自分の兵だとどうしても火傷してしまうんですよね。灰だと強過ぎて蹂躙してしまいますし。」




