590話 参戦
「ほら、起きろ起きろ。」
「うっ・・・、あっ・・・。」
「気絶した奴は起こせ、起きてる奴は黙って考えろ。自分が何が出来て何が出来なかったのか?まだ遊びたいなら来てもいいが、その時は遠慮なくまた気絶してもらう。残り3人、さてはてもう少し遊ぶか宮藤が出てくるか・・・。」
ドバドバと水が出る箱に腰掛けて辺りを見るが起きてるのは2人か。そろそろエマの方も終わりそうだし、あの3人が龍を仕留めるか食われるかで決着は付くだろう。まぁ、非殺傷と言うか食われたら肺に圧力かけて酸素を抜く様にしているので瞬時にイメージを固めて対抗でもしないと漏れ無く気絶コース。
内部を空洞にして真空からのエアシューターでも良かったが、それだと人を排出する時に龍の胴体に一瞬水のない箇所が出来るし、それは弱点で逆鱗だと考えてしまうので採用はしなかった。
項垂れる参加者はノロノロと仲間を起こしているが、この中で暴れるなら本当に暴れてもいい。ただその場合、卵の殻が完全に割れた龍が制約なく暴れる事になる。外の3人は取り敢えず心は折れていないし何かしらの作戦を考えたのか、適当に出している薙ぎ払いやらを避けてこの卵に向かって来ている。
水の供給は十分と言うか、そろそろブレスでも出さないと龍が大きくなりすぎるなぁ〜。でも、ブレスってスィーパーにはあんまり意味がないんだよなぁ〜。ビーム避けるスィーパーが単純に吐き出される水圧弾程度を避けられない事はない。
やるなら隙を作っての狙撃が有効だし、龍として姿を見せているならそれに対するイメージも何をして来るかのイメージもそこそこ作っているだろう。あえてここで姿を崩して水球とかにしてもいいが・・・。
「箱を起こすか。流石にこれ以上大きくしても面倒だ。」
「しっ!」
「やる気けっこう。でも、攻撃する気なら声もなく速やかに当然の如くやるといい。殺気やら怒気やらなんてモノは本人にしか分からないし、本人が抱く感情でしかない。でも、目は口程にモノを言う。」
水箱から降りて起こそうとした時に背後から襲いかかられたが、さっさと鼻と口以外を糸で簀巻きにして拘束。まだ何かやろうと思えばやれるのだろうが、それはそれで面倒だし外の3人も奮戦中なのでそちらに気を割きたい。割きたいが襲ってもいいと言ったのでコチラを睨む様に見る参加者達が・・・。
「次に襲えば骨を折る、それで諦めないなら更に折るし外す。大丈夫、医学書は読んだから多分綺麗にヤれるから・・・。いや、試してないからここで試すのも・・・。」
流石に骨格標本で見ても紙で読んでも限界と言うものはある。流石に進んで誰かに危害を加える気はないが、襲ってくる相手にまで優しくする必要もない。と、言うか今は何処も訓練やら格闘技の試合やらは苛烈になっていて、R・U・Rがあるにもかかわらず実戦形式でやる時は回復薬がある事をいい事に酷目の怪我しても続けるんだよね・・・。
まぁ、モンスターと戦う前提で異種格闘技やらをするならそれは仕方ない事だし、片腕切り落とされたとしてもくっついて動かせるので怪我の判定と言うものがかなり甘くなっている。甘くなっているが、普通に生活していればわざわざそれを試す機会もない。一応、息子の泥人形とかでも試してみたが難しいのは難しい。
ーside エマ ー
「ほらほラァ!足元がお留守だゾ!」
そろそろ終いなのかクロエが魔法を使い出した。使い出したがアレはお遊びレベルなのか本気レベルなのかは迷う。閉じ込められた、火攻めされた、穴を開けて龍を出そう。その発想にたどり着く辺りやはり頭の作りが違うのだろう。普通ならぶち破って飛び出し他の攻撃手段を考えそうなものだが・・・。
米軍式で鍛えるならこのままボロッカスになるまで話しながら追い込んでもいいが宮藤の鍛え方もあるし、何より米軍の教育方法をここで明かすのもダメだ。現在進行形で米軍内で模索されている訓練方法は基本的に待つ事が多い。
確かに対人戦を想定した訓練も行うが、それはモンスターを狩りイメージを固め自身がそれを自然に扱える所までを行ってから初めて対人戦へ移行する。そもそも人とモンスターと言うモノを考えた時にどちらも獲物である事に代わりはない。
なら、叩き潰す対象を最大限利用して当然の様に勝つイメージを養ってから対人戦へ移行すれば、手加減も出来るだろうし自身の得意とする距離や戦法も分かる上に、下に行けば行くほど強くなるモンスターを狩っていれば、そこまで行っていない相手に遅れをとるなどと言う事はそもそも考えない。これは慢心ではなく当然の事。
「なんなんだよ!お前!なんなんだよ!」
「お前達が獲物だと思った者だガ?どれほどモンスターを倒しタ?どれほどゲートを進んダ?どれほど自分と向き合い職を理解しようとしテ、イメージを蓄え知識を増やし考えて動き出そうとしタ?」
「職が使えれば俺は・・・、強い!」
「話しにならんナ。最高の教官がいるのに何故斜に構えル?」
話しながら自笑してしまう。かつて私もそうだった。そして、今貫手を放とうとして胴体をトラバサミに挟まれた奴もそうだ。いや、私はコレよりも更に程度が悪かったか?今でこそ自在に出せるトラップは出せず、最初の3つも覚えておらず自分を程度のいいガンナーと言った。
確かに変な顔をされても仕方ない。あの時あの場に今の私がいればジョークにもならない戯言を話していると思うだろう。まぁ、その私も宇宙に行った後の司令も来ている。曰く、S狩人を育てて欲しいと。
S職は出辛いが出ないわけではない。そして、オンリーワンでもない。米国内でS狩人に就いた人物を鍛え、戦力増強を図りたいとして話が回ってきたが、はっきり言えば出会ってもいない人物のプロフィールをペーパーで読み取っただけでどうこうしろと言われても困る。多分、クロエも同じ様に頭を抱えた末に私を選んだのかもしれないし、ダブルEXTRAと言う職ならなにか選ぶ基準が分かるのかもしれない。
「っ!」
「そろそろ終わりでしょうから自分も来ましたよ。皆さんはこれから見学!そもそも対人戦をするとどうなるのか?安くない力を持って私的利用を外ですればどうなるのか?そして何よりちゃんと確認や観察を怠るとどうなったのか?結果は地面への熱いキスでしょう?」
「私からで良かったのカ?」
「ええ。あちらの方はまだ手を抜いてるみたいですからね。先にコチラから手合わせお願いします。」
「畏まらなくていいゾ、教官殿。どこまでやル?」
「薬のストックはあるので参ったまでは大丈夫ですよ?いえ、単純に自分もストレス発散したいのか、なっ!」
左右の後ろと左右の爆破!宮藤を相手にするなら距離を考える必要はない。離れても燃やされる、近づいても燃やされる。そして何より、私は米国に帰るまでに彼に勝てるイメージが作れなかった。なら、今から私は挑戦者となろう。
「弾丸はゴム弾を想定すル!卑怯とハ?」
「言いませんよそんな無粋な事。どうせ当たれば骨が砕けるレベルでしょうしね。」
地面から出したベアトラップは挟む前に溶かされ、前に動かされながら放った弾丸は灰の腕で受け止められる。そのまま起爆するが、灰に沈んだ弾丸はその爆発で一瞬腕を膨らませるに留まる。
「フラッシュボム!」
「その光は熱であり熱とは炎、なら燃え尽きれば灰は出る。広がり降り積もり地を固めて不毛の地としよう。」
駆ける足に灰を踏む感覚と頬にも白い物が付く様に感じるがそれに惑わされるな!灰と言う物は確かに燃え尽きた後に出てくる物だが、なら、その燃える物は先に存在するはずだ!
「ぺンデュラム!」
「おっと!」
「動いたナ?ピットホール!ダウンストーン!」
「舞い上がれ灰よ、脆くとも一瞬でいい。」
逃げ場を奪い追い込み動かす、動けば罠を踏みそこを起点に更に罠を張る。落とし穴は確かに現れその中に仕掛けた槍も確かにあり頭上からは岩を落とす。ただ、そのどれもが灰に絡まれる。面倒なものだがそれはクロエのフィールドと言うもので知っている。本人の得意な領域、本人がイメージを作りやすい領域。だが、私とて灰の領域でイメージを失う程弱くもない!
戦地を歩き焼けた木も家も人も見た。なら、そこを歩む者は罠にかかり逝った者達だ。落ちた岩は灰の屋根で斜めに転がり悠々と歩く宮藤の瞬間発火が私を襲うが、それは反応装甲をパージして無力化する。装甲の中を燃やされたら?それをさせない為に射撃しながら走り近づき殴りかかる!
「接近戦もそこそこ自分は出来ますよ?」
「それでも離れるよりはマシだ!」
突き出した拳の先に地雷を出したが、それに合わせる様に突き出した灰の腕に絡まれる。一瞬腕を引くのが遅ければそのまま固められていただろう。肉壁はまだ痛みを感じるが、既に肉ではなく灰となった義手は痛みを感じず姿を変えて襲いかかる。殴れる距離、殴られる距離、遠距離よりは多分マシだがその視線を避け目を潰しイメージを崩して隙を作る!




