588話 混戦中 挿絵あり
『おっと!』
「クソっ!なんで受け流される!コイツはなんだ!」
「どけっ!俺がやる!」
「1人でやろうとするな!数を活かせ!」
付与師が上限を上げたせいか速度も力も上がっている。ゲームで言うバフなら適当な時間で切れるのだろうが、残念な事にそのバフを切るなら相手の体力切れを狙うしかなく、拘束して転がしても単純に休憩を与えるだけだろう。魔法を極力控えての立ち上がりだったが、流石に相手もここに来るだけあって一筋縄ではいかない。
付与師の武器だろう小さな付箋を貼られる前にはたき落としたが、それでも一瞬ガクンと力が抜ける。警察に欲しい人材だな付与師は。確か前に黒岩がスィーパー拘束要員で集めたいと言っていたのも頷ける。別れたエマの方も閃光やら爆音が聞こえるのでそこそこ派手にやっている様だし、苦手な対人戦の練習として魔法を更に使うか。
(流石闘争心を認められただけはある。)
(そうね、無意味な事にこれだけ熱中するんですもの。掃除人としてはいい拾い物なんじゃないかしら?ほらほら、当たるわよ?)
(うるさい気が散る)
無意味な事か。確かにこれは魔女達やソーツからすれば無意味だろうな。モンスターを狩るでもなく肩を並べるはずの仲間と斬り結び、怪我を負わせて効率を落とす。多分俺達より知性の高い星って、モンスターと言う共通の敵が現れたら即刻団結して対処とかするんだろうな。いや、そもそも争いもなくて仕事やら娯楽としてゲートを使っているのかも。
なんにせよ人には中々難しい選択だな。スタンピードは起こったしモンスターも脅威として認識している。しかし、それでも人は争うし国同士もまだいざこざはあるし、主義や主張が違えば話し合って解決しようとしつつ矛を持つ。
「付与師やれ!一瞬動きが悪くなった!」
『さてその付与師は何人いるのやら・・・、3人か。』
「剣士でもスクリプターでも槍師でもいい!手の糸を切ってくれ!」
「魔術師!そいつは魔術師よ!強化で走り回るなら限界もあるはず!近接戦で仕留めて!」
「クソっ!いつ巻き付かれた!手練だ!瞬間発火や窒息にもけいか、モガっ!」
喋る口に猿轡をして付与師の両手は糸でぐるぐる巻きに。指輪から適当な武器でも取り出して落下する所に手を差し出して糸を切ればいいのだろうが、切られた所で糸はいくらでも出せる。無力化ではないが、武器無しで付与するとなると何らかのアクションは必要だろう。それも面倒なので更に簀巻きににして首だけ出して身体は土の中へ。
戦場ど真ん中ではないが、踏まれたり蹴られたりしたら盛大に文句と悲鳴を上げてくれよ?安いブービートラップの代わりなんだしさ。
「魔術師か!なら動かせ!考える暇なく動かせ!斬り結べないわけでも当たらないわけでもない!そこ!」
『切っ先に糸で鞘を。背後の追い付いたガンナーの目に目隠しを・・・、跳弾!見誤った、追跡者が増えたか。』
本来跳弾とはなにかに反射させて弾の軌道を変えるものだが、スィーパーに関して言えばそれは当てはまらない。なにせ追尾してくる弾はカーブもすれば直角に曲がる事もある。そして、その弾は一発とは限らないしはたき落としたからと言って止まるとも限らない。
狙いはどこだ?足か頭か心臓か?流石に魔法糸や錬金術師の糸で出来たビジネススーツでも当たれば貫通する。流石に痛いのは嫌だな。当たってやる言われもないし。大きく跳ねて空を飛び、ギリギリまで引き付けて盾を指輪から取り出しそれにぶち当てる。しかし、空を飛べば当然射線が通るわけで・・・。
『落ちろ。』
「当たれ!」
「見えた!雷鳴よ!」
「なんなんだよあの落下速度!」
飛行ユニットは中身まで見た。そして、それがどうやって浮いているかの原理も聞いた。そして何より空を飛ぶ者は必ず落ちる。風に乗るのではなく飛来物として星に惹かれて地に堕ちよう。
流石に盾で押し潰しては死んで・・・、しまわないか。なにを思ったか下で受け止め様と待ち構える奴と、その隙を狙う奴がいる。まぁ、普通に考えれば盾で隠れた下の事なんか見えてないと思うだろうな。ただ、魔術師と断定したからにはそんな常識的な尺度で測られては困る。
宮藤なら灰で奏江なら雷の鳥で兵藤なら周りの水分を通して・・・、相手を見つける手段はいくらでも持ち合わせている。武器的には盾師かなぁ!?
「かかった!殴れ格闘家!やれ魔術師達!」
「シッ!」
「かこめかこめ!岩の檻!」
「そのまま維持しろ!蒸し焼きにする!」
「維持頼むぞ!内に溢れ出ろ水よ!」
篭手を持っていたから盾師だと思ったが肉壁か。足にまとわりつく指はそのまま伸びて裾から中を這おうとする。身体を弄られるのは嫌なので踏みつけるが、スライムの様に伸びてくる。そろそろ魔法も本格的に使っていこう。
『這うは雷、流れるは電流、行き着く先は電気椅子。「気合入れろよ?」』
「えっ?がっ!?」
『エマ、そろそろ声を漏らすけどいい?』
『いいゾ?中々面白い連中じゃないカ!ほらそこ!コールギロチン!片腕は貰ウ。』
ーside エマ ー
米国でもテロリストは血祭りに上げて殺してきた。楽か否かと言われれば楽だ。生け捕りにする必要はなく貰った情報を元に叩き潰して回ればいい。まぁ、たまに生け捕りの要請もあったがそれはドゥが担当した。そもそも私の職は攻撃的で余り生かす方面には向かない。罠とは即死を狙う物だ。
ブービートラップなら死体を裏返えせば手榴弾のピンが抜けて起爆。戦場に似つかわしくない縫いぐるみが置かれていて、それをクリアリングしようと持ち上げれば縫いぐるみが爆発する。当然当たりどころが悪ければ死ぬまでの時間は伸び、助からないと思えばその額に穴を開けてやる。
救急キットの中身は全てモルヒネでもいいと私は思う。小さな包帯や止血帯でどれほど永らえられるのか?中に残った弾をえぐり出して傷口を焼き固めてもどれだけ動ける?狙撃手に囮にされた深傷を負った仲間の叫びを何回数えればいい?と、まぁコレが私の知る戦場で、新しく知る事になった戦場での行動方針は死んでないなら見捨てるなだ。
日本の講習会でも言われたが仲間を見捨てず、出来るだけ助けろと言う言葉は今の戦場に即している。仲間1人が死ねばその分職を使える人間が減り作戦に支障をきたす半面、明確に死んでいなければ助かる見込みもある。そして、助かればまた戦える。
兵士1人の命は軽いと思っていたが新しい戦場ではその生命は重く、上官として立つなら最優先で部下の職を暗記し、口を開いて部下と話してイメージを探りつつ何が出来るのかを明確にしていく必要がある。悔しいがウィルソンのアニメ缶詰はいい仕事をした。今の米軍でアニメをバカにする奴はいないし、映画やゲームを否定する奴もいない。
アナタの職はなんですか?が挨拶なら、会話の糸口は何のアニメや漫画を見ている?と言うのが常套句。ハミングはマジンガーを見ていたし、ダレスやグリッドはあしたのジョーやロッキーを見る。ディルはゲームに悪態をつくし、ドゥはスライムやら怪人二十面相、妖怪人間なんてのも見てたな。
少佐だったらメスゴリと呼べ、呼んだら玉を捻り潰してやる。そんなジョークを私も言う様になった。何気にカメレオンアーミーのイメージには使いやすく、女傑と言っても過言ではないキャラクターだろう。
「Sの狩人か!やりにくい!」
「お、俺の腕を拾ってくれ!治癒師頼む!さっさと繋げてくれ!」
「薬で治せ!動いても狩られる、動かなくても狩られる!あっちのチビよりまだマシか!?」
「まだまだ軽いゾ?大勢で来たんダ、ゆっくりしていってネ!」
殴りかかる奴に合わせる様に腹と拳に手を添え起爆。吹っ飛ぶ仲間を尻目に突く様に剣を繰り出す奴を真横からフルスイングの破城槌で吹き飛ばし、それぞれの頭にたらいを落とす。私は餌であり罠だ。面倒な採掘家は地中に潜っているが厄介だ。巧妙に地面設置型の罠の起点を掘り起こして潰し、荒れた地面は魔術師が我が物顔で形を変える。
「ほらほらどうしタ?私を襲うなら襲うだけの技能を示セ!」
「編集してやる!その罠もお前の動きも!数刻前・・・!」
「スタングレネード、目を潰されたスクリプターはなにをしてくれル?なにも出来ないなら仲間を巻き込み自爆しロ。」
走って触って蹴って起爆。流石にジャンプマインは仕込まないが、スタングレネードは大量に仕込む。小手先の技と思うかもしれないが、一瞬でも動揺してイメージが崩れればそれだけ隙が出来る。走り出す前に足に絡んだ糸や、瞬間発火された反応装甲は逐次パージしつつ再構築。
潜っていた漁師が背後を取ったと思い飛び出しながら捕縛する為に網を投げてくるが、それをグランドランスで跳ね上げその漁師も両腕を串刺しにする。まだこれくらいなら反撃してくるだろう。ここに来るのにこの程度の傷や痛みは怪我とも呼べない。
宮藤が鍛えているならこの程度で弱音を吐く様な鍛え方はしていない!スラムのヤンキーの様にギラギラした目が私を捉え、ガンナーのスナイプは私の額を眉間を狙い、魔術師の真空の刃が挟み込む様に上下左右から差し迫る。米国のテロリストは儲けにかまけて鍛えてはいなかった。だが、こいつらは面白い!
「マイン起爆!ほらどうしタ?風の刃は爆破の衝撃で掻き消さレ、眉間への狙いもホコリが遮っタ。もっと攻めてみロ!健在な獲物を前に寝る暇はあるカ?」
「なら、その背から心臓をくり抜く!」
「お前を追尾していたヨ。この中で面倒なのはお前ダ。いケ。」
「なっ!」
「飛び出してくル。それはどこかに入るのと変わらなイ。扉にブービートラップを仕掛けるのは当然の事ダ。」




