587話 まとまらない集団
「やはり無視がいいのではないか?選出戦の映像記録では不明なモノは無視するとあった。アチラが無視するならコチラも無視する方がやはりいいと思う。」
「今更いうなよ。数の有利もスィーパーとしての職の種類もこっちにある。中位なら職2つ、2人とも中位でも4つそれに引き換え俺達は5倍程度の戦力と多様性はある。教官殿からは自分達で話し合って答えを出したなら尊重すると言われた。そして・・・。」
「この階層で私達を観察する様な人間は脅威でしょう?私達はまだ何も見せていない。でも、それを見ようと留まるなら何かしらの作為がある。それが宮藤教官の言う遊んでくれるお客さんなのか、それとも稀人なのかは分かりませんが。そもそも話し合って教官の言う遊んでくれる様な相手なら、やり込めて鼻を明かしてやろうと決定したはずです。」
「それでもガンナーが言うには黒スーツ2人組みで顔は不明だが金髪と白髪コンビ。嫌な予感がしないでもないが・・・、クソっ!背丈や格好で判断は出来ん!サバイバーの偵察は?」
「ダメダメ。隠密と撤退を考えたけど魔術師かなんなのか、少人数で近寄ろうとすると高確率で各個撃破されるし、下手に視線を送っても感づかれる気がする。それだけ気を張ってるのか、それとも誰も何も信用していないのかは分からないけど、やるなら一気に攻めないと多分まずいぞ?」
「誰か職は割り出せないか?少ない判断材料だとしてもなにかあるだろう?サバイバーが近寄るのを嫌うならガンナーとか索敵に長けた探索者とか或いは・・・、鑑定術師?」
「今ある職は全員頭に叩き込んでるよ。そうしないと対人系の訓練はさせないと教官が拒否したし、なにより食ってかかればもれなく灰に閉じ込められてサウナコース。私達は鼻っ柱はへし折られたけど、それでも食ってかかって対人スキルを寄越せと言った。だから青筋浮かべながらでも遊んでくれる相手をくれたんだろう?」
「まぁ、ファーストなんかより教官の方が強いさ!そんな教官に訓練されてやってる俺達は強い!なにせファーストは戦いをほとんど見せないし、中位を殴って勝ったとしても内輪でのパフォーマンスだろ?あんなチビが俺より強いわけねぇし、EXTRAと言っても魔術師なら殴れば済む。しっかし、礼儀やら日常生活に口を挟むのはやめてくれんかね?」
「日本人だから仕方ないだろ?挨拶やらにうるさいし考え方やらも変な所で固い。なんだよ会えば挨拶、なにかしてもらったらお礼。そりゃ命を助けられたら礼も言うし、駄賃も払う。でも、気に食わない奴は見捨てても構わんだろうて・・・。」
「『お国事情は捨てろ。』最初に言われたでしょう?チームとして活動出来ないならリーダーを置かない。だから私達は対等に話し対等に議論しちゃんと意見も吸い上げる。その代わり誰かに指揮されるのを省いた。ただ、突撃バカは死ね。」
「それがいけないなでしょう?私達は少なくとも国へ戻ればそこそこ要職につく。なら、パイプとしても仲良くあるべきです。例え互いを如何にして倒すかと考えていたとしてもね。」
「あ〜、ウチは日本ギルド案採用路線だからギルドに組みしてる間はスィーパーは戦争行為に不参加。まぁ、時と場合によるけど命が足りない。しかし、相手はどこまで悠長に構えるんでしょうか?一向に動きもないし一発撃ち込んで動かせば・・・。」
「バカ言え、先陣を切るなら盾師に任せろ!ワンショット・キルで終わらせたら面白くない。遊んでくれるなら遊んでもらえばいいだろ?どうせ日本の中位。髪色的にカナエと・・・、中位でもないアオヤマか?確かアオヤマは探索者で探るのは得意。カナエは魔術師で雷ならサバイバーが嫌がるのも分かる。」
「いや、多分両方女・・・。」
「だからやはり対話を!」
「面倒くせぇ!俺は行くぜ!攻撃するのは決まった!玉無しも玉有も付いてこないなら好きにしろ!FOooo・・・!」
「あんの突撃バカが!」
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宮藤がイラッとするのも分かる。攻撃するならするで陣形なり包囲網なりバックアップを考える時間は十分にあった。それなのに誰かが奇声を上げて走り出すと数人が続き、残りはそれに遅れて対応を取ろうとする。
「会話を聞かれて声で判断されても面倒だ。魔法で互いの声だけ漏れないようにしようか。これでヒソヒソ話じゃなくてもよくなる。」
「それは有り難イ。逃げ隠れするのは性分に合わン。それで遊ぶにしてもどこまで許されると思ウ?私は骨折まではいいと思うガ?」
「命が残ればいいんじゃない?多分宮藤さんも回復薬のストックはあるだろうし、参加者も薬のストックが無いなんて馬鹿な事は言わないよ。まぁ、薬ある限りゾンビアタックされるから気絶狙いとか?と、狙撃はウザいな・・・。」
ガンナーに狙われるのはこんな感覚か。額狙いの一撃を首をそらして躱すが、見られた瞬間には当たっている様な感覚がある。隙があるとすればそれは弾があくまで飛来する物と言う所で、一瞬のラグは避けるだけの時間をくれる。
「私もハミングにエアーガンで狙って貰いイメージを付けたガ、元々銃のない日本ではやりづらいだろウ?」
「まぁ、ガンナーがいると想定して飛来する物を避けるけどねぇ!なにせ瞬着する魔法は更に早い!地雷から?」
「それも含めて行くとしよウ、右は任せタ!」
そう言い残しエマが左に走り出す。km単位であっただろう距離は既になく、先頭集団は盾師や格闘家メインなのかラウンドシールドに片手剣や全身黒いアーマータイプやらがいて、その影に多分サバイバーなんかもいる気がする。そして、更にその後方にガンナーと魔術師か。移動していない訳では無いが身体能力の上がらないガンナーだが高速移動出来ないとは思えないし、魔術師にも強化は教えているだろう。ただまぁ・・・。
「射線を切るなら人の盾。慣れないけど対スィーパー戦と行こう。」
強化はする。飛行もする。そしてキセルを取り出し伸ばして煙を伸ばして纏わせる。化粧箱はいいな。こう言う時に武器を別の色として見せられる。なにせ他の中位の武器は灰色になったらペンキを塗っても剥がれ落ちて灰色に戻るし、そもそも中位としてはそんなモノを武器に塗りたくりたくもないらしい。
「よぅチビすけ!なんのよ・・・。」
日本語は話せるのか。ただ、襲いかかりながら要件を聞くのは如何なものか。身長差概ね60cm、走りながらの飛び膝蹴りをそのまま掬い上げる様にキセルでホームラン。悪いが軽い俺が大男を吹き飛ばすなら相手を飛ばすしかない。視界は切り替え全周囲を視て対応したいが、順番に襲いかかるなんて行儀のいい事はない。
姿勢を低く。小さな身体を武器とするならば、すばしっこさと小回りで撹乱しつつ襲撃者の群れに足を踏み入れる。左から振り下ろされる剣閃をキセルで受けつつ捌かれる前に踏み込んだ足の膝を蹴り抜いて砕き、格闘家の迫る拳に髪を数本持って行かれるがそれは巻き戻るので気にしない。それよりも動くガンナーや魔術師が気になる。常に人の影を意識して動かないといけないし・・・。
『エマ、程度のいい追跡者がいる。』
『こっちは採掘家だナ。』
「貼り付けこの思い、上限を上げよう。」
「治癒師はどこだ!チビを結合しろ!」
「槍師邪魔!短槍に変えて!」
「射線軸が通らん!狙撃はいらないぞーーーー!!!」




