581話 そこが裏目に
「良からぬ事なんてどうでもいいよ。心に思うだけで犯罪者なら、この世から人間はいなくなる。さてと、米国の状況は大体見えて来たし、下手に民間を締め付けても打倒政府なんて言い出すから裏から手を回すって感じかな?」
「概ねそうなル。流石に無管理状態は国としてまずイ。しかシ、様々な人種が混在する中で下手な締め付けを行えば暴れ出ス。来期も・・・、当面の間はジョージ大統領が大統領で居続けるだろウ。」
下手に大統領が変われば引き継ぎで混乱が出るか・・・。大統領の任期は4年。しかし、スタンピードもあればギルドの設立もあるので今の所は続投して国を安定させる路線だろうな。実際、若返って人気もあるし手腕としても決断力としてもあるので、リーダーとしての資質もある。
「ゴタゴタ回避なら延命は最適だろうね。国連はいい顔しないだろうけど。てか、米国の国連本部は?日本でスタンピード発生後にスイスにほとんど機能を移してそちらで国連軍とかまとめたって後から聞いたけど。」
「日本でのスタンピード後にスイスに国連軍として常備軍を一定数置いていたガ、米国スタンピードでも活躍出来なかった事により解体されテ、今は少数の国連軍・・・、いヤ、規模で言えば1000名程度を各国から集めて編成したものを保有するにとどまル。米国国連本部は残されているガ、中身はスイス国連本部との連絡所と言う立ち位置だナ。」
米国スタンピード後の話としては立ち上がった義勇軍はほとんど猶予を稼ぐ為にゲート送りにされたし、いるかと聞かれた国連軍も断ったので米国側としても維持する必要に疑問を呈する場面はあると言う。ただ、国連そのモノは国同士の繋がりと言う話で必要なんだよな。先の国際会議も主導は国連で、呼びかけに対して集まる国も多い。
どの道スタンピード発生時に会議する場は必要なのでなくなる事はないだろうが、その機能や権限なんて部分では変化していくかもな。今の時代スィーパーは戦力で間違いない。それこそどう言い繕おうと戦う力のある者である。
そのスィーパーを国民数と取るならパワーバランスと言うモノはかなり歪で小国ほど戦力は少ないし、大国ほど充実していく。まぁ、そこにSやら中位やらが関わるので一概には言えないし、そもそも自国優先が叫ばれているので派兵なんて所にまで手が回らない。
因みに今の日本も産めよ増やせよ路線を取りつつある。子供を産んで育てるにはかなりいい状況で、高校までの教育無償化も決定したし医療費もかなり安くなった。その反面、同性婚の割合も増えているし獣人と結婚する人もいる。DNAやらの人間科学は急ピッチで進められているが、いつ実るとも言えないな。
「時代が変われば機能も変わる。そうなるならそう言う流れだったんでしょう。何にせよ動いていた世界に方向性が芽生えたみたいなもんです。まぁ、人同士で小競り合いするよりも嫌いでも高め合う方がいい。」
「切磋琢磨する仲と言うやつカ。クロエ相手にそれが務まる相手がいるとは思えんがナ。それはそうとフェリエットに会わせてもらえないカ?職に就いた獣人はほとんどいないからそちらも確認したイ。」
「いいよ。ソフィアと学校に行ってるのでその後になるけどね。」
「学校カ。獣人教育のテストケースと言う話だったナ。頭はいいと聞いているガ・・・。」
「実際いいよ、メンサ会員が天才と言うほどにね。まぁ、それは会ってから話してみるといい。じゃあ、ギルド内の案内と行こうか。」
エマを連れてギルド内散策へ。法律課に鍛冶課に販売やら依頼斡旋やらしている所に救護課にその他はトレーニングルームやらR・U・Rの配置場やら、鑑定課に温泉と案内する所は多い。まぁ、地下の金庫は話題にしない方がいいだろう。知っていると何かあった時に疑わない訳にもいかないし。
ただ莉菜がそのうちエマとじっくり話してみたいと言っていたな。確かに話には上がるしテレビで顔も見ているのだが、今の今までバッティングする機会はほとんどなく。あると言えばクリスマスくらいか。
「そう言えばカオリはいないのだナ。別の仕事カ?」
「カオリと神志那さんはラボに行ってるよ。宇宙でスタンピードが発生した時にカオリの職が通用するのか早めに検証したいとしてね。」
「音カ。真空の中で通用するのだろうカ?」
本来と言うか真空中では音は響かない。なので宇宙では音が響かない。それは音を元にして戦う望田にとっては致命的で、音のない所でどうやって音を響かせるのか?そのイメージを積む為に神志那とラボに向かい納得出来るイメージ構築に入っている。
俺がいない時は望田に任せ望田がいない時は俺がギルドを仕切る。持ちつ持たれつで回すしかないので、時間を有効に使うと言って最近は神志那を連れてラボやモンスターとの戦闘にウェイトを置いている。
「そこを打開するのがスィーパーであり本人でありイメージだからね。」
「それを聞くと私もうかうかしていられなイ。そのうち手合わせを頼ム。」
「いいけどわざわざ対人戦?モンスター狩る方がいいと思うけど?」
「それでもダ。犯罪スィーパーを捕まえる必要もあるしナ。当面の間はあたり触りのない仕事を回してほしイ。ギルドの仕事も実践しないと覚えないからナ。」
「なら明日から書類に埋もれてもらいましょうか。スィーパー式勉強法やら問題点の抽出なんてのもお手の物でしょ?」
「お、お手柔らかに頼ム・・・。しかシ、私に構っていていいのカ?今日も書類が溜まっていただろウ?」
「PC系は終わらせたから残りは書類だけ。あの量ならそこまで時間かからないかな?」
稼働当初より書類はかなり減ったな。まぁ、稼働当初はここしかギルドがなかったからどんどん判断やらを迫られた。それもギルドフル稼働に伴い各県での処理が可能になったし、頭の痛い設計図は出たと聞いていない。出て来ないのはいいのだが、臭うのは引きこもった国連とか?最初の1枚はクリスタル結合装置の設計図を高額で買いとった。なら、他は買い取ってはいないのか?或いはあちらの国からでていないのか?
それにスイスにはハドロン衝突型加速器がある。そして、それの効率的な使い方と言うか飛行ユニット開示でハドロン衝突型加速器はそのまま小型ブラックホールを生み出す可能性もあるし、もっと単純に引力の塊を作るなんて事も・・・。無視するのも何処かで国として辞めるだろうし、俺としても上手く付き合う方法と言うものを・・・。
「考え事カ?」
「国連が他に設計図を買い取っていないのか?エマは何か聞いてません?」
「設計図ヲ?スイスに移ってからは聞いていなイ。米国国内では設計図自体価値が分かる者と分からない者に別れていると言う部分もあるガ、政府の大々的な買い取りは控えていル。」
「なんでまたそんな事に?」
「単純に研究者が研究すればいいと言う考えでもあるシ、大掛かりな施設を建造するにしてもすぐにバレる。なにせ、米国でもラボ建設案と言うか山口主任を長とした研究施設をゲート内に建造中ダ。外で研究せずにゲート内でする事に口出しは出来なイ。」
「あ〜・・・、ここが裏目に出るか・・・。」
ゲート内は治外法権。つまり、ゲート内でブラックホール作ろうが、タイムマシン作ろうが設計図を元によからぬ事をしようが自由だ。元組織がデカいだけに物の集まりはいいだろうし、前は仕事をする国連として動き回っていた。つまり、何かしらを持っていて研究中と言う事も考えられるな・・・。なにせソフィアはゲート内で研究されてああなっていたのだし・・・。




