579話 プレイボーイ? 挿絵あり
「フェリエット、そんなに食べたら夕食入らないですよ?」
「まだまだ入るから大丈夫だなぁ〜。ご馳走されたならいっぱい食べないと損だなぁ〜。」
「でも師匠の財布が・・・。」
「大丈夫でござるよソフィア殿。これでも拙者は高給取りでござる。ささっ、遠慮せず食べられよ。」
「でも、スィーパーじゃないからお腹にお肉が・・・。スィーパーは体型維持とか考えなくて良さそうだからいいですね・・・。」
案内された喫茶店で注文したスイーツや料理をフェリエット殿は食べておる。ミルクレープにケーキセットに、バスタにハンバーグセット・・・。獣人はよく食べるので驚くほどの量でもござらん。まだ来てない料理も考えると更に増えるが、ラボの獣人もかなり食べるでござるからなぁ〜。
半田殿がゲートの食材を色々な味付けして獣人に試作品として振る舞っておるが、そのせいか半田殿の周りには常に獣人がおって世話を焼いているでござる。ただ、弟子入りする獣人がいないのでそこがもったいないと言えばもったいなかろうか?
「ソフィア殿はいい体型でごさるよ?色々とフィギュアや人形を作ったでごさるが、人体バランスとしてはかなりいいと思うでござるから、多少食べたところでそのバランスは崩れないでござるよ。」
「藤が言うと説得力がなにか違うですね・・・。なら、ケーキと紅茶セットを・・・。」
「頼むとしよう。」
呼び鈴を鳴らすとボーイが来てくれるが、そのボーイも獣人。テーブルの上の料理とパクパク食べるフェリエット殿を見て羨ましそうにしているでござるな。まぁ、飲食店で働く獣人は皆同じ様な表情を浮かべるので仕方ない。ただ、慣れればそうでもない獣人もいるので、この犬人はまだ日が浅いのでござろうな。
「師匠、宇宙ってどんな感じです?やっぱり無重力で寝ると落ち着かないですか?」
「無重力・・・、そうでござるなぁ〜。試作機には無重力区とそうでない所があって生活スペースは地上と変わらないでござるよ。むしろ試作機の中全体が無重力なら、何もかも固定していないと勝手に何処かへ行ってしまうでござろう?ただ、面白いと言うか、試作機の中は上下がないでござる。」
「上下がない?」
「どこにいても落っこちないのかなぁ〜?」
「落っこちないでござるな。床を歩いて反対側に行っても普通に歩けるでござる。」
「頭に血が登らないのかなぁ〜?ずっと逆立ちしてると頭が痛くなるなぁ〜。」
「大丈夫でござるよ。飛行ユニットの引力でくっついていて、血流も正常でござる。そもそも宇宙には上下が元からないので、足元が下としか思わないでござるな。」
「乗れる様になったら乗って、無重力の中を吸盤銃とか使って移動する夢が崩れたです・・・。」
「無重力区なら可能でござるよ?ただ、その区画は無重力実験様区画でござるが。」
「無重力の中を飛んでロボテックスーツとかに乗るのはないんです?」
「そんなもの早着替えすれば済むなぁ〜。むしろ、早着替え出来ないと壊れた時に逃げ遅れて宇宙の藻屑になるなぁ〜。」
「御名答、フェリエット殿の言う様に早着替え技術は最優先技能でござる。壊れない様に作ったとしても何があるか分からぬ。非常事態を想定して全員パワードスーツの早着替えはマスターしたでござるな。」
宇宙に出るまでに何度早着替えしたか・・・。スペースデブリ衝突を危惧して訓練したでござるが、使わなくていい技術と言う物もある。仮に拙者がパワードスーツを装着せずに宇宙空間に放り出されたらどうなるのでござろうか?死にはしないと思うでござるが・・・。
「早着替え・・・、やっぱり体型の維持は大切です!うぅ・・・、お父さんが羨ましい・・・。」
「クロエか・・・、よく食べるでござるからなぁ〜。」
「私よりも食べる時は食べるなぁ〜。」
来たケーキセットを突きながらソフィア殿が項垂れておるが、確かにクロエ殿は食べるでござるからなぁ〜。国際会議の折改造されて永遠を歩くとしておったが、あの美しさのまま永遠に現世に閉じ込められると言うのはどう言う気持ちなのでござろう?
親しい人が逝き・・・、逝くのでござろうか?不老や不死がある限り1人で永遠を歩くわけでもござらぬか。拙者も嫁達と末永く生きる予定でござるし・・・。話に花は咲くが流石に夜遅くまで2人を連れ回すわけにもいかぬ。喫茶店の後はゲームセンターでプリクラを撮ったりクレーンゲームをして遊び、駅まで送りタクシーを捕まえ金貨を渡す。危なくはないと思うが、クロエ殿の御息女なら一応の配慮も必要でござろう。
「師匠もウチに遊びに来ないです?」
「時間があれば参ろうか。流石に今から押しかけたら夕食時で迷惑でござるよ。では、運転手殿頼んだそ。」
扉が閉まり滑り出すタクシーを見送るが、やはりソフィア殿は人。そう・・・、1個人としての人でござる。しかし、なら嫁達はどうなのでござろう?全てのパーツを人と同じにすれば人なのでござろうか?なら、逆に拙者は人形なのでござろうか?分からぬ。
「旦那様どうかしましたか?」
「いや、なんでもないでござるよアジサイ。大分の夜、皆で夜景や温泉を楽しむでござる。」
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夕飯時に帰って来たソフィアは上機嫌で藤と遊んだり話したりした事を話す。かなり藤に懐いているが、別に悪い事ではない。ただ、息子が若干妹を取られた様な雰囲気を出しているのは、シスコン故かはたまたなにか別の理由か・・・。
「藤さんか・・・、お嫁さんいっぱいいるからなぁ・・・。」
「なにか問題です?お兄ちゃん。」
「那由多は妹の行く末を憂いてるのよね〜。」
「違うよ母さん。ただ、プレイボーイって藤さんみたいな人の事を言うのかと・・・。」
「私より那由多が『妹はお前なんかにやらん!』って頑固親父ムーブかましそうだな。」
「藤はお金もあるし強いからいい男だなぁ〜。喫茶店でも獣人のボーイとかウェイトレスが私達の席を見て熱い視線を送ってたなぁ〜。」
「それはフェリエットも視線を送られる対象だろ?獣人って強い人に好意的って言うし、父さんはよく獣人に抱き着かれたりしてるし。」
「本能的な部分らしいからな、それ。と、そう言えばエマが日本に来るらしい。」
「エマさん?米国の?あの英雄って言われる?」
「確かクリスマスに会った人よね?遊びに来てウチに泊まるのかしら?」
「いや、仕事で来るからそれはないよ。まぁ、期間的なものもあるしまったく遊びに来ないとは言えないけどね。カオリとも仲いいし。」
「離れが賑やかになるかもしれないわね。」
エマが来るのはいい。いいのだがリーはどうしよう?下手にバッティングしてスパイバレとか・・・。流石に一目でスパイと見抜く事はないと思いたい。思いたいがエマは軍人である。そして、リーもまた軍人である。そうなると軍人故に軍人を見抜く目がないとも言えない。
互いに中位である以上、一筋縄ではいかないと思うがエマの職がS狩猟者に追跡者、リーが拡張にサバイバー。ある意味正反対なのだがそこでSと言う職の評価がどう作用するかは分からない。まぁ、来て早々スパイを探すなんて事はしないと思うが・・・、一応の警告をリーに送っておくか。
手駒として動いてもらう以上、この情報を渡さない訳にもいかないし渡した所で歯止めもある。情報収集能力は見れないが、歯止めが確実か知るにはいい機会と受け取ろう。
そんな夕食済ませて寝る前の一服。定位置は離の前だが望田も知っているしここで電話しても構わないか。一応消音対策はしておくが、流石にこの距離で電話すれば望田の耳から逃げられるとは思わない。
「もしもし?時枝さん?」
「・・・、こんな時間になんだ?早速情報が必要と言う話ではないだろう?」
「そこまで毛嫌いしなくてもいいでしょう九郎さん。今回の電話は警告ですよ警告。そろそろ自由登校の時期も近い、なら結城くんもゲートに行こうと言うし、それに連れられて加奈子ちゃんもゲートに行く。そして必然的にギルドに来る回数が増える。」
「早く実績を詰めと言う話なら断る。加奈子はサバイバーとしてのみその職を明かし行動している。それが急に拡張となるのはおかしな話だろう?」
「別に急かしませんよ。警告はエマが日本に・・・、ギルドの視察に大分へ来ます。バレない対策は任せますが、バレた時はコチラとしては二重スパイとしか弁明出来ません。」
「・・・、分かった。勘付かれない様に行動する。期間は?」
「多分1〜3ヶ月程度でしょう。どうせ発表もあるので先行して言いますがエマも宇宙へ行きます。」
「それは・・・、いや。クロエからの情報なら疑う余地もない。バッティングしない様気を付ける。」
「ええ、そうして下さい。私としてもバレてもらっては困る。」
話し終えて電話を切る。さてと、これで発表までに中国側に情報が出回るか否か。出回れば再度歯止めの強化を依頼し、出回らないなら歯止め出来てると受け取ろう。まぁ、テイ達が情報を流さなくとも別口から流れないとも限らないか。
ただ、エマの宇宙行きの情報はどれほどの価値があるのだろう?多角的に考えると喜ぶ所と面白くないと考える所がある。少なくとも日本と米国、台湾に英国はポジティブに取るだろうし、国際会議で日本側に好意的な反応を示した国も悪くは取らない。
ついでに言えばゲート内宮藤ブートキャンプ開催のお知らせも流れ参加を表明する国も多く、自国のギルドを日本式にと考える所や中位がまだいない国なんかは戦力増強+パイプ作りと考えて人を送って来る。実際宮藤からどこかの時点で顔を出して欲しいとは言われてるんだよなぁ〜。
人員が講習会の倍近い人数いると言うのもあるが、業務が忙しい本部長が大半で、初っ端に稼働して比較的安定してお抱え中位多数の大分ギルドは人員を割くだけの余裕もあるし、なにより参加者が会いたがっているとも聞く。
参加者に会う会わないは別として、教導官に任命したと言うかお願いした手前顔を出さない訳にもいかないし、高槻からも回復薬生産プラントを良さげな国の統合基地に作りたいとも言われている。一応、ラボに来ている海外研究者はそのまま自国の生産プラント主任要員なので大丈夫なのだが、それでも世界各国から来ている訳でもない。
次にプラントを作る国はやはり好意的な国になるだろうな。わざわざ敵意剥き出しの所に作らなくてもいいし。高槻はある程度目星を付けてるらしい事も言っていたし、そろそろ研究員を戻していくつか建設する時期とも言っていた。
確かに各国が統合基地を建設するなら、それに乗じて基地近くにプラントを作る方が安全だな。全く無いとは言えないが、回復薬生産プラントを牛耳って暴利を貪る人が出てこないとも限らない。その辺りは相手の政府と協定を結ぶしかないのでどう転ぶかは分からない。
と、思考が逸れた。面白くないのは中露方面だな。月面基地建設計画は有ったにしてもS・Y・Sの正式版ロールアウトが済めば、手の届かない所で好き勝手する事は難しくなり、宇宙空間で領土主張は意味をなさず近くを飛行する度に監視され続けていると考えるだろう。
なら、自国でコロニーを作ると言う方向に傾くと思われるが・・・、S・Y・S開発より先に大規模宇宙ステーションを建設済み。う〜ん・・・、最悪コロニーを後回しにして飛行ユニット大量生産に舵を切る?
少なくとも飛行ユニットの大量生産が実現すればスペースシャトル打ち上げはいらなくなり、多数の個人が宇宙へ行く手段を手に入れれば一夜城もかくやと言う間にコロニーを作り上げる事も出来る。まぁ、流石に巨大なコロニーなら建設段階で・・・、パーツを繋げている段階で下手すれば衛星なんかで発見される。
まぁ、建設するなとは言えないし勝手に作る分には批判も出来ないか。ただ遅れを取る事にどれだけプライドが傷付けられるかだな。現状を技術戦争と取るなら日本は最先端を走っている。米国は・・・、ジョージは設計図を公の場で日本に渡し完成した物を買うと言った。英国は地球に残り後からでいいと表明した。そして中露韓は永遠を求め宇宙を目指した。
「まだ寝ないんですか?」
「ん?起こした?声は上げてなかったと思ったけど。」
「気配と言うか大体この時間とかにタバコ吸ってますからねツカサは。」
「寝る前の一服だからね。長年の習慣は早々変わらないよ。」
「それで?エマが来る事でなにか動きそうな感じですか?」
「動きそう・・・、今は何をしても動きはあるよ。まぁ、なる様にしかならないかなぁ〜。私が知らないところで動けばそれまでだし政治は政治家、ゲートはスィーパー、宇宙開発は研究者ってね。なんもかんも1人じゃ出来ないよ。」
「後手後手ですね。先手を打つにしてもどこまでが先手かも分からないか。でも、明日も来るから早く寝ましょう。」
「そうだね、机上の空論で考えても仕方ないか。」
そんな話をして数日後、エマが日本へやって来た。




