575話 それぞれのその後 挿絵あり
藤は神志那の所に向かい定常業務をしつつ望田と意見を交わす。藤がロボを作るならモデルは女性型と言っていたが、コストを考えるとかなり割高だろう。身近なロボと言えばファミレスの配膳ロボットとか?
そもそも二足歩行ロボットのメリットは少なく、下半身をキャタピラやら多脚にすれば姿勢制御に割くタスクは減るし、その分の処理能力を指に回せばより繊細な作業も出来そう。介護ロボとかなら寧ろ転ぶ可能性のある二脚よりもそちらの方が喜ばれるんじゃないかな?
デメリットと言えば人が通れる狭い通路が通りにくいとか?流石にそこを通る為だけに脚部開発に重点を置く事はないだろうし、何よりマザーブレイン式を辞めているなら個としてのロボに色々と組み込む物が増える。
「さっきの話ですけど、映画とかならマザーブレインってよく使われるんですけど、ネット接続とかも藤さん達は廃止するんですかね?」
「う〜ん・・・、そこは残すんじゃない?ロボとかアンドロイドの利点って教育なしにロールアウトされたら即プロとして仕事出来るって所だし。話を聞く限りだと業種別とか作業別にサーバー作って、そこでデータ蓄積した後に統合ブレインを作るとか?そもそも国が多数あるマザーブレインを作ったとしても他の国は従わないだろうしね。」
「あ〜・・・、日本はこのブレインと親和性良くても外国だと親和性悪いとかですか・・・。」
「そう。例えばラーメンは日本だと啜るモノだけど、海外では麺を啜る事が悪とされるとかね。人よりも数段以上マルチタスクは得意かもしれないけど、相手によって対応を変えるとか難しい。だから最初は個別AIで使用者登録でもしてデータ収集からやりだして、ある程度集まったら統合するんじゃない?まぁ、統合するにしても今度は山程矛盾が出てくるから、それの処理に今度はAIが落ち着くまでは使用不能とかになりそうだけど・・・。」
「時間と根気のいる開発計画ですね・・・。しかし、ロボットとかアンドロイド作るのになんで人型を選ぶんだろ?」
「フランケンシュタイン症候群なんじゃない?特に男は子供産めないから自分の手で何かを作りたいと思う。けど、作ったもの、この場合はロボットに滅ぼされるんじゃないかって恐怖もある。」
マザーブレイン式を辞める理由はその辺りもあるんじゃないかな?元々フランケンシュタイン症候群と言う名称はSF作家のアイザック・アシモフ先生が付けたものだが、人は偏執的なまでに人に似たロボットを作ろうとする。それこそ子供を産める女性含めてだ。
仮に機能美を追求するロボットを作れと言われたら、俺なら素体は1つのみで生産性を向上させ、オプションパーツを増やす方向にする。その方がカスタマイズも自由で用途別に仕事をさせやすいし、何によりメンテナンスと言う部分で相当に簡略化出来る。
作る素体も先ずは頭は不要で胴体にサテライトビュー式カメラを搭載し360°視覚化を行いどの方向の作業にも対応、寧ろ四角い箱型にでもしてジョイントを作り、それにパーツ取り付け式を採用すれば、素体に搭載する物はAIとカメラだけで済む。
昔ターミネーター2の始めを見て、子供ながらに何であんなに足場の悪い所で二足歩行ロボットを採用してるのか不思議だったんだよなぁ〜。ポストアポカリプス的な世界を演出したとするなら今なら納得出来るが、現実世界でスカイネット側ならひたすら航空機連打で空爆による地均ししてからターミネーターを投入しレジスタンス殲滅に移行するだろうな。まぁ、投入前に食料が尽きて全滅しそうではあるか・・・。
「AIやロボットに取って代わられる仕事って10年くらい前から何個も名前上がってますもんね。仕事なくなったらどうやって生活しようか?なんて話もよくしてましたし。」
「どっちに受け取った?」
「ポジションかネガティブかですか?昔はポジティブでしたよ?一日中好きな事をして暮らしても勝手にご飯は出てくるし、頼めばロボットが全部してくれる悠々自適な生活が来るって。でも、実際その可能性を示されたらネガティブですね〜。やる事なくなったら何していいか分からなくなりますし、最終的にモンスター退治しかする事なくなったら人類プレデター化とかするんじゃないですか?確かプレデターって超科学技術持ってるはずですし。」
あのブサイクはゴリゴリの戦闘民族だが人よりも科学力が進んでいる・・・、と言う設定である。そもそも惑星間航行出来る時点で人より先で、肩のプラズマキャノンもあの威力の物は人には作れない。ただ、ゲートの武器とか試作機考えると類似する物を作る事は出来るんだよなぁ〜。
流石にプレデターのコスプレしたスィーパーは見た事ないが、仮面付けて配信してる人もいるし、なにより純度が高く資源調達が容易になったせいか最新のドローンとか凄い。スィーパーを撮影するに当たり超ハイスピードカメラは標準装備だし、そのカメラもハイスピードカメラなら1秒間に30コマの撮影が標準だったのが超が付いただけでコンマ1秒で30コマとなったらしいし、表面に刻印を施して一撃で破損するリスクを減らしたりしているらしい。
ただビームの種類によっては帯電して落ちるらしいので、追加パーツ売ったり本人が職で制御したり、割高でも撮影者にカメラを回してもらったりと本人達のスタイルで色々やるそうな。
俺が愛用と言うか最初に貰った首輪カメラは賛否が分かれ、FPSゲーム風に楽しめる人には人気だが、それでも締め付ける程固定していないので画像はブレるし明後日の方向を向く時は向くし、極めつけは接近戦だとモンスターの全容も見えず且つ、頭をやられたら血のシャワーが確定で見えてしまう。
最近日本のテレビもモザイク廃止運動と言うか、グロ系の映像に関してはモザイクをかけなくなったので、地上波でもバンバン血は見えるし、往年の映画ほど最近の映画はゴア表現していなかったからかグロとかゴアとかの規制が緩かった昔の映画を各局流しているのは、使用料が安いと言うのもあるかもしれないが、実は政府主導で人の生死やら人体破損に慣れさせると言う目的があるとか。
俺が小さい時とか友達と遊んでは膝を擦りむいたり、カッターで竹とんぼを作ろうとして指切ったり切った奴を見たりと、割と大出血とまでは言わないが血を見る場面は多かったし、俺にはこないが月のものがある女性は毎月血を見ている。
そのせいか血がダメな若者の大半は男性スィーパーだったりするし、何をトチ狂ったのか潔癖症なのにスィーパーに成ろうとする奴もいるとか・・・。確かにゲートの中は相当クリーンである。それこそその辺で用を足しても直ぐに分解してなくなるくらいに。だが、そのクリーンさを求めてゲートに入ると言いつつ補助者と素手で握手も出来ない、避ける時に地面を転がれないと言うのはちょっとねぇ。
シュワちゃん見たくヘドロ塗ってジャングルでプレデターとドンパチやれと言ってないんだから、その辺りは妥協して貰わないと補助者も困る。まぁ、これも精神的な部分が絡んでくるのでとやかく言える問題ではないのだが・・・。
「今の所、プレデターじゃなくても超技術持った宇宙人がいるのは確定してるけどね。なんにせよ人が仕事しなくていい時代なんて多分永遠に来ないよ。それこそマザーブレインじゃないけど、超AIが開発されたとしても人はそれに服従はしない。なにせ、今でもカーナビやら音声ガイダンスと喧嘩したりして人のいる窓口に来る人が多いからね。」
「と、言う事はこの書類の山は形を変えたとしても今後も送られて来るんですね・・・。」
「そうなるね・・・。まぁ、仕事しようか・・・。」
ーside リー ー
身バレと言う失態は今の所明るみに出ていないし、司からのギルドオーダーも来ていない。テイとギルドで会った当初は泳がされるよりも逃亡した方がいいのでは?と言う話も出たが、公安も接触してくる事はなく厳しい監視の目があるわけでもなく、さりとてサバイバーの退路が完璧に逃げ切れると言う事も訴えて来ない。
多分私が知らない何処かで、逃げ切れないだけの予防線がはられているのだろう。テイ曰くスパイとして見付かったがスパイ活動は禁止されていないので、難易度は上がるが情報収集そのモノは継続すると言われた時は正気を疑ったが、確かにこうも目がないなら開き直って活動するのも有りかと思う。
実際私をスパイと知った後に結城達と話を合わせる為、時枝 加奈子として礼をしにいかなければおかしいと思い菓子折り持ってテイと那由多がいる事を確認して礼をしに行ったが、その時も司は普通に菓子折りを受け取り、なんなら私とテイを家に入れて持って行った菓子折りを開けて茶菓子として出してきたし、なんなら本人が最初にその菓子を食べた。
普通ならここでの毒を疑ったりするのではないかと思う。私がスパイである事は司を除けば青山はその場にいたので分かっているとして、その他の人間からすればまだ正体不明の暗殺者となれるだろう。まぁ、本当に毒なんて盛る気はない。それは余りにも祖国に不利益だ。
この事はテイとしても余りにも意外だったのか判断に迷っていたな。なので、数日間は日常生活を演じつつ大人しく家で息を潜めていた。そんな中で祖国からテイが暗号文を受け取ったと言う。内容的には情報交換方法をゲート内に絞る事と、その際は祖国側から指定された接触者以外には白を切り通せと言うもの。
つまり、我々の行動は何も変わらない。変わったのは情報交換方法で通信機や私が持って来た衛星電話も廃棄しろと命令がでたらしい。何でそんな事を?と考えていたらテイと共にこの国に来て北へ向かった者達が祖国と通信した際に電波傍受されてバレたと言う。
この国に来て十数年スパイをした祖国の者が捕まる・・・。罪状は密輸に関わったとしてあり、テレビでも青森の水産会社で違法な密輸がされていたと報道されていて、その中にテイの昔見た者に似た人物がいたと言う。・・・、我々もバレた相手が司でなければ今頃大問題になっていた可能性が高い。
なので安全を期す為、祖国から持ち込んだ通信機器や私やテイをスパイと匂わせる物は全て廃棄した。それこそ指輪の中に入れてあった物も含めて全てだ。獣人と言う職に就けて指輪の中がある程度見える者も警戒するならこれしか方法がない。
「どうした加奈子?新学期特有のブルー?」
「あっ、いえ違いますよ結城くん。2年生で帰らなかった子がいるクラスを思い浮かべてました。下手したら私だったのかなぁ〜って・・・。」
「それは・・・、ごめん守れなくて。」
「いえ、大丈夫ですよ。こうして生きてますし、なにより専属になるなら危険はつきものですから。」
「それでも・・・、ごめん。しっかしあの変質者はなに者なんだろうね?ゲート関連の記事を調べたけど何の話も出て来ないし・・・。」
「裸でゲートから出てくる人や、裸でゲートをうろついてる人はそんなに少なくないですからね。モンスターに刻まれて破れたりとか。」
結城と2人校庭のすみで昼食を取る。司から解放されるまで一緒に潜った3人はギルドで待っていてくれて無事を喜びあった。即興で考えたシナリオはあの変質者が悪いと言うもので、私は武道家、名をリャンと言う者からの特殊な攻撃でノックアウトされたとした。そして、司はその状態を打開する為に現れて私を連れて行ったとも・・・。
嘘ではないが真実でもない。確かに初動はリャンだ。しかし、その後は青山のせいでもある。まぁ、今から恨み言を言ったとしても何も変わらず、下手をすれば状況は悪化する。
「確かに僕達も服は破けたりしたしね。消耗品と割り切るしかないか・・・。」
私を見ていた結城が何かを思い出したのか頬を染めて目を逸らす。多分偽装工作の為にわざとモンスターに服を破かせて下着が見えたのを思い出したのだろう。遊んでいる様に見えて結城はその実初心だ。
「もう!目を逸らして何考えてるんですか?」
「いや、ちょっと・・・。」
「これから2人でやっていくんです。多分・・・、これから何回も見ますよ?下着も・・・、その下も・・・。」
「それは・・・、ね?あっ!僕のも見る?」
「・・・、真面目にしてください。」
「真面目に話したらOKしてくれる?」
「それはどうでしょうか?でも、言ってみないと分からない事もありますよ?」
司のギルドオーダー・・・。いや、それよりも先ずはギルドで名を売り功績を残す。その為には結城と更に親密になり功績を残せるだけのチームとならなくてはならない。それなら恋愛関係と言うのもありだろう。
「好きです、加奈子。付き合って下さい。」
「はい、よろしくお願いします。」
ただ、私としてはそれ抜きにしても結城は好ましい。夢を持ち、世界を知ろうとし、自ら行動を起こして歩こうとする。この弟の様な少年はまだ甘ちゃんだが、うん。それでも多分、凝り固まった私になにか新しいモノを見せてくれそうな気がする。それこそそう、この地に来て教えられた博物館からの眺めの様に。




