574話 石 挿絵あり
「クロエ殿、お土産があるでござるよ。」
「なんです藤くん?面白い物なら受け取りますが厄介事は返品ですよ?」
「これは大丈夫でござろう!テレレッテレー、月の石〜。」
「おぉ!これで私もピッピからピクシーに!」
「クロエはいつからポケットの中のモンスターになったんですか・・・。なにはともあれ藤さんにお疲れ様でした。宇宙での実験はどんな感じでした?」
「割と快適でしたぞ望田殿。と、言っても拙者はスペースシャトルに乗った事はないゆえ比べようもござらんが・・・。ただ、一月半程度暮らした感じ地上との差異はござらん。本来なら無重力下で筋力低下等のダメージを人体が負うとされておるが、拙者含め研究員の方々も浦城殿達も降りてすぐに大地を歩けた。斎藤殿や他の研究者達の見解では飛行ユニットによる引力発生により、地上と変わらぬ体調管理が出来たのが大きいと言っておったな。」
「確かに無重力下だとゼロ負荷で身体は衰えるけど、引力に常に引かれた状態なら筋力低下も免れるか。」
宇宙から試作機が帰って来て斎藤は記者会見やらJAXA、NASAとの連絡会やらで種子島に缶詰にされている中、藤は自由気ままと言うかオペレーター的な立場だった事をいい事にこうして大分ギルドに遊びに来ている。まぁ、遊びに来ていると言っても半分はゲートからラボへデータを持ち込んでラボでも研究を進める下地を作ると言う作業もある。
今回宇宙へ行ったメンバーで中位は藤のみ。特に襲われると言う懸念はないが種子島にはゲートがなく、最寄りのゲートは鹿児島ゲートとなるが、せっかく九州にいるなら会いに来ると言い出したらしく単独行動でも信頼の置ける藤ならまぁ、いいだろうと言う事でこうして遊びに来ている。
しかし、お土産に月の石かぁ〜。過去を振り返るなら太陽の塔が有名な大阪万博で展示されて見物人が大行列を作ったらしい。藤に渡されたそんな月の石を手に取って見てみるが、目で見た感じ普通の石でその辺りに落ちていても多分気付かない。
海外には隕石マーケットとか希少な鉱物を取り扱うマーケットもあるそうだが、年代測定とか成分検査でしか昔は隕石やら隕鉄と判定は出来ないだろうし、鑑定書の偽造なんかも怖いので買う気にはなれないない。今なら鑑定師が鑑定出来そうな気もするが武器でもない石の鑑定って宝石商でもやってないと無理な気もする。
なんにせよ、どうせ買うならパワーストーンとかかなり安くなった宝石の方が目を楽しませてくれるし、黒曜石や翡翠ならあるかもと宝探し気分で浜辺や川を歩くのは割と楽しい。・・・、そのうち宝石がダブついたら砕いてばらまいで本当の宝探しアトラクションとか作られるのだろうか?1人金貨1枚でもそこそこいい商売にはなりそうだが・・・。
「うむ。それにスィーパーの宇宙線耐性はかなり高いでござるな。ゲート内で高純度ウランを見つけても火傷で済むし、回復薬でチャラに出来るでござるが、宇宙ではどうかと検証した結果、地上と変わらぬ状態を維持し続けているとされておるらしい。」
「はえ〜・・・、つまり宇宙を長時間飛び回っても何の被害もない状態って事ですよね?」
「そうでござるよ望田殿。他を言えば固定処理のあるなしで劣化速度にかなりの差が出たり、硬度照射装置により完全均一素材のプレートで防御膜を展開したり等々、中々面白い実験が出来たでござるな。ついでに言うと人形ではなくアンドロイド的物の制作も進めるとか言っておったよ。」
「アンドロイド?なんでまたそんなモノを?確かにいれば便利だけど必要性に疑問がある。あんまり機械に頼って便利過ぎると人は怠けるからなぁ・・・。」
危険な所でロボットやアンドロイドが働くと言うのは理にかなっている。例えばスィーパーでない人が潜水作業をするなら酸素確保と減圧症の危険がついて回るが、ロボットならとにかく頑丈に作れば作業してくれる。今なら魔術師:水なら海底散歩出来る人もいるし作業員が足りないと言うニーズに答える物だろうか?
「佐沼殿からの依頼でござるな。これから宇宙開発をする上で建造プランを考えると無重力下の方が開発しやすい。なので、試作機の成功を受けてゲート搭載型コロニーを開発の足がかりにして、大規模開発をする為にロボットが必要との事。台湾のサイ殿でござったか?あの御仁が持ち込んだシステムも組み込めば細かな遠隔操作も出来ると言う話でござる。」
「・・・、それってサイコミュ使ったGビットなん・・・。」
「それ以上はいけないでござる!確かに月は出ていると言うか常に満月でござるが、それ以上はいけない!」
「Gビット?」
「望田殿も掘り下げてはならぬ!」
「嫌な事件だったね・・・。」
「事件?」
「触れてはならぬ・・・、ならぬのだ・・・。」
望田が不審な目をしている。鮫島事件っぽく流したが別に作品自体は良作である。そして、この時代と言うか現状にリンクする所もある。ニュータイプ賛成派と否定派の話だがまんま、宇宙進出派と地球居残り派に別れてしまいそうな・・・。
スィーパー自体ガッツリと人を逸脱ししているが、周りも一緒に逸脱しているので不公平感はない。寧ろ新しい説と言うか、16歳ゲート入を第3次成長期と捉える学者も出てくるくらいなので、もしかしたら中位に至るのをそのうち第4次成長期とか言い出すかも。
そこはいいとして、遠隔操作系の武器やら追跡者が追尾で武器を動かしたり魔法でやったりと、ビットシステム作る前からそれが出来る人が割といるんだよな。
「触れてはならぬはいいとして、ロボットと言うかアンドロイドって稼働時間とか大丈夫なんですか?」
「大丈夫でござるよ?ロボット工学は全くの素人でござったが、ラボでパワードスーツやらを作っているとかじらぬ訳にもいかぬ。人と同じサイズで作る事を想定するなら望田殿がいうように動力と言うかエンジンの小型化も重要でござるが、それよりも先ず出てくるのは頭の方でござる。」
「人口知能と言うかAIの方がやはり小型化の目処が立ちませんか。いくらアプリやらを作って効率化しようとしても限界はありますからね。それこそマザーブレイン式にした方がいいんじゃありません?」
「いや、それは駄目でござる。反乱とかが怖いとかではなくマザーブレインを作ると肥大化した時に改修出来なくなるし、何より不特定多数が扱えばそれだけいらないデータも増えるでござる。AIを搭載する上で一番怖いのはいらないデータによる矛盾の拡大ゆえ、マザーブレイン式ネットワークシステムを作るなら数十年先でござろうな。」
「と、言うと頭の中には何を入れるんですか?今の話だとAIはサポートと言うかリスポンス式みたいですけど?」
「そこで出てくるのがサイ殿のトレースシステムでござる。サポートAI+トレースシステムを組み込んだ遠隔操作型ロボ。流石に思考ダイブシステムとか言うものはまだ完成しておらぬらしいが、トレースのみならどうにかなるらしいでござるよ。そこで試しに作ったのがこれでござる。まぁ、外観のみでござるが。」
出された写真に映るのは半分メカニカルな部分が剥き出しの少女型ロボ。どうでもいいいいが胸はパツパツに見えるし完成すればツインテールになるのだろう。ただ、なんとなく藤の趣味とは違う気もする。
「女性型なんですね、それも海外の方の様な顔立ちで。」
「NASA側からもロボが欲しいと言われて指定された外観を作ったでござる。エネルギーはクリスタル式でござるが、ロボを作る上で制御システムを組み込むなら胸部なので拙者が作るなら全て女性型か胸筋パツパツのマッチョでござろうな。日本側はまだ完成しておらぬが内見はこんな感じでござる。」
「今度はやけにスタイリッシュな今時になったなぁ。ゼノっぽくて好きですよ私は。」
「邪神モッコスは回避したでござる。」
「アレは流石に悪い。個人的にはエピソード1のキャラディテールが一番好きですね。後のはなんだが不気味の谷に落ちた様な・・・。」
「なんとなくオタク会話ってのは分かりますけど私を置いていかないで下さいよクロエ。」
「流石に古い作品だからやれとは言わないけど、面白いのは面白いよ?舞台も宇宙だし。まぁ、なんにしても藤くんは後数日は大分にいるんでしょ?神志那さんも会いたがってたよ。話聞かせろってね。」
「うむ、斎藤殿から神志那殿に渡して欲しいと預かったものもある故、会いに行くとするでござる。」




