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街中ダンジョン  作者: フィノ


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570話 引き込めるかな? 挿絵あり

 リーがいない間は悠々自適だった。階層的にリーが怪我する事は考えづらくスパイである事の露見の可能性もなく、仕事のオーダーもない。言ってしまえば不労所得で飲み食いして豪遊三昧。他人の金で食う旨い焼肉と言うやつだ。まぁ、表立ってそんなに豪遊なんてしないけどね。精々一般的に高い物を食うくらいか?


 並行してやることと言えば情報収集しかないが、それも接触や連絡を封鎖して久しく溜めた情報も古ければ捨てるくらいだ。実際、ギルドに表立った動きもなく仲間も動けない者が大半で集まる情報は多くない。情報戦と言えば聞こえはいいが、祖国に送らなければ精査は厳しく、それのリスポンスで私達が動くと言う事の繰り返し。


 アナログだと言われるかもしれないが、そもそも侵入地で大規模なハッキング設備を整えるのは非効率でデータのやり取りを不用意にやればそこから辿られる。やはり情報のやり取りは直接対面でやるに限る。相手が変装していようとも符帳は毎回変えているし、捕まって自白剤を使われない限りは大丈夫だろう。最も今の世界で大丈夫と言う言葉が薄っぺらい事は誰でも知っているけどね。


 そんな私の元に嫌な者が来たのは昼過ぎ。見覚えのある顔は警察の伊月だ。素知らぬ顔で話を聞けばリー達のパーティーで怪我人が発生した為、ファーストから家族を集めて欲しいと言われて迎えに来たそうだ。


 ・・・、罠かどうか?リーが怪我する、この点を考えると確率は低い。本人からの連絡でも暗号を読み取れば順調と取れる。ならファーストの息子にその恋人に対象、その誰かが負傷した事になる。伊月に誰が負傷したのか聞いたが、慌てて集めてくれと連絡を受けたから知らないと言う。


 チリチリと嫌な予感が首を持ち上げるが、スィーパーの怪我はギルドで治して病院送りなので来いと言われればギルドに行くしかなく、そこに到着すれば真相が見えてくる。さて、最悪を考えて言い訳くらい用意しておこう・・・。


「ここの部屋ですよ時枝さん。どうぞ中へ。」


「ここですか?救護室とは違う様な・・・。」


 言い訳を考えている内に車は進み、ギルド到着してとある部屋の前に連れてこられる。いくつか考えた言い訳は使いたくないが使うしかないとも言える状況で、リーが何かしらのミスを犯したのだろう。問題はそのミスがどれに準ずるものか、だ。


 嬉しいモノはリーが息子を庇い負傷し、それに対する謝罪と感謝を述べられる事。これなら適当に涙を流しながらリーの無事と怪我の具合を心配しつつ上手く立ち回ればファーストに更に一歩踏み込める。流石にクローン計画は頓挫したと聞くが、それでも永遠を自負する彼女から何か採取出来ないかと言う声はあるらしい。


 次点で言えば誰かの死亡。それなら全員で暗い顔をしてその時の状況を聞きつつ悲痛な顔でもしておけばいい。ゲートに死亡は付き物でそこでの死は嘆きながらでも受けいれなければならない。その場合、死亡者は佐伯 千尋が望ましい。1番作戦に害がなく且つ、共通の仲間の死と言うのは更に取り入る隙を作りやすくなるし、何より悲痛な過去は対象から離れないカモフラージュとしては扱いやすい。


 最悪想定ならリーの露見だろう。ただ、露見したリーが大人しく拘束されるのか?その点にはやはり疑問が出てくる。中位と言うものの強大さを私は言葉や行動からしか読み取る事が出来ない。しかし、それでもリーが時枝 加奈子としてではなくリー・フェイシャンとして拘束されると言う状況が中々考えつかない。


 そもそも拘束ないし露見する状況とはなんだ?姿を変えゲート内で負傷しても拡張ならケロッとしているだろうし、すぐに薬を使えば軽症だったと言い訳が出来る。どこかに疑われる要素があろうとも姿を偽り続け接触時から加奈子としているなら、わざわざゲートを出た直後を狙う必要はなくもっと気軽に呼び寄せる方法はある。


 まさか、わざわざ私の様な小物を釣る為に利用した?確かに私は長くこの国で間諜として過ごしているが、取り立てて今すぐ潰す必要性のある者ではない。伊月に促され扉のノブを回し空いた隙間から私の手首をガッチリと掴む指が・・・。


 驚いたふりをして扉を締めてもいいのだろうが、既に背後にいる伊月の事を考えると無意味だ。そのまま引きずり込まれる様に中に入れば窓もない部屋の机の上に横たわるリーと、閉められた扉の前には青山、そして椅子に座るファーストが・・・。


 最悪を想定したがなお悪い。胸の動きからリーは生きている。しかし、動かない事を考えると気絶しているのか?特に何かで拘束される事もなく転がされている。なら、私が取る行動は知らばっくれるだろう。どの時点で露見したかは分からない。なら、この娘を知らないとして行動を取るしかない。しかし、それはかなり断定的にファーストに潰された。お前はこの娘を知っているだろうと。


「猿芝居?私は加奈子達のパーティーで怪我人が出たと言われて連れてこられただけですよ、その娘さんが誰かなんて私には・・・。」


「そうですか。鑑定術師を呼んで鑑定してもらい洗いざらい情報を抜かれるのと、素直に話して最小限の被害に留めるのはどちらがお好みですか?ご存知の通り大分ギルドには鑑定術師が在籍しています。」


「それは余りにも横暴でしょう。」


「横暴?私はマスターとして、この娘を鑑定してどこの誰か判別していい権限も持っています。全く持って横暴ではありませんよ、それにこの娘を知らないと言った時枝さんには関係のない話では?」


 面倒な。いや、これは私が揚げ足を取られただけか。この部屋に入った時点で私の選択肢はかなり少ない。リーを見て私を呼んだ時点で関係性はバレているのだろうし、そこを取り繕うには今度はファーストがどうやってリーを気絶させ捕まえるに至ったかの経緯が分からないと話が出来ない。


 どこだ?どこの時点で私とリーの繋がりがバレた?寧ろリーはどこで疑われた?リーから話を聞く限りでは関係は良好で疑われる素振りなく、ファースト自身を対象としない為バレる危険性も少ないと言っていた。それに、息子や対象の前でわざわざその友人に危害を加えたとも考えづらい。


 後ろの青山が噛んでいる?青山はファーストに心酔している、ならファーストの為に独自調査をした?いや、その独自調査でも対外的に我々がバレる事は・・・。


「個人情報保護の観点から私はしない方がいいと思いますよ?気絶しただけで鑑定されて色々見られたと言いふらされたらギルドとしても体面が悪いでしょう?普通に病院に運んで回復を待つべきでは?」


「それは貴方が決める事ではなくマスターである私が決める事です。そもそも知り合いでもないのでしょう?」


 ・・・、どうする?なんの未練もない祖国だがみすみす、中位を手放したとなれば私の命も危ない。計画が露見すれば撤退と言う手筈だが、私が帰りリーが捕らえられたとなればその時点で私への叱責は免れず粛清される可能性さえある。いや、寧ろされる。


 仁義を尽くすほどの思いが国にあるか?どうせ独り身でこの国に来てからの方が生きた年数も長い。そして、1人で生きて来たが私に手のかかる様な娘が出来たのもまた、この国だ。はっきり言えば、私も辟易としている。今の生活は悪くないが祖国の思想にはついていけない所も多い。


「・・・、私とその子の身の保証は?」


「先ずは本名からどうぞスパイさん。」


「先に保証だ。お互いに誓いなんてものは薄っぺらいと知っているだろう。」


「なら、保証が薄っぺらいのも知っているでしょう?察するに保証を求めると言う事は、活動が露見すれば祖国に撤退する予定なのでしょうが、中位を置いて自分だけ帰っても身の危険があるという事です。その中で出せる保証とすれば・・・、この娘と貴方にギルド関係者であると認定を出すくらいですよ。」


「ギルド関係者の認定?」


「ええ。大分ギルド、ギルドマスター直属の部下とかね。少なくともその肩書があればおいそれとは狙えないし、他の国も手が出しづらい。私は権力なんてものはいりませんが、使えるものは使う主義です。そちらはスパイ活動を好きな時に行う、私はその活動内容に口出ししない代わりにギルドマスターとして仕事を出して必要な時に情報をもらう。言わばギブアンドテイクですよ、ギブアンドテイク。まぁ、他のギルドに行くのはやめてもらいますけどね。」


  挿絵(By みてみん)


 多分中国のスパイだろうが中国の情報って増田がスパイ使って集めまくってるんだよなぁ。だから、中国の情報は個人的にいらない。代わりに他の国の情報は欲しい。それはPCで得られるデータ的なモノではなく肌で感じた私見的なモノが。


 悪い取引かと言われればそこまで悪くないだろう。なにせ公認スパイでありつつ身の保証が付いてくる。それに、俺としても今のギルド本部の防衛体制も知りたい。絶対ダメなものは指輪に入れているが、それでもいままで加奈子はギルドを好きにウロウロしていた。


 その時点で何かを盗まれたと疑ってかかってもおかしくない。まぁ、その盗まれるデータとしても世界を揺るがす様な物はない。


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― 新着の感想 ―
挿絵を境にパパからファーストへ視点が入れ替わっているのでちょっと混乱しました。
青山でほぼ正解 こうしてみると優秀だな 頼れる能力頼りたくない人格って奴だな 今日のクロエのイラストは大人っぽいな
ゲロ甘な保証だな、まあ今まで敵地でスパイを行い露見せずにいたプロだもんな しかも相方は肉壁で鑑定士等以外は騙せる中位で何処でも潜入可能 このスパイの存在、凄い便利で高い報酬出してこっちに忠誠心持たせな…
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