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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 116 ビギナー@7 挿絵あり

 ナイフはいい。銃も慣れている。しかし、両手両足のみと言うのは久々だ。長年それで生きて来たが身体を自由に変化させられると言う事は両肩に重紐で銃をぶら下げていても即座に射撃出来るし、必要なら更に腕を増やして銃も取り扱える。寧ろ私の戦闘スタイルは近距離寄りで文字通り手数で押すスタイル。


 言ってしまえばイソギンチャクだろうか?捕まえ離れず這い回って帯で切り裂く。離れていようと帯は長さがあり十分に仕留められる。ただ、それは露見させられず拡張としての再生も薬で誤魔化すにとどめ、使えるのはサバイバーとしての能力のみ。こうなるなら時枝 加奈子と言う存在をもう少し戦闘寄りに強化してイメージを植え付けさせておくべきだった。


 トロンプ・ルイユで出した足場でビームをかわし、駆け抜けながら片手で射撃しつつナイフで切り込み隠密を使い隠れて背後に回り更に斬り付ける。無言と言う事は中層のモンスターと呼ばれるモノほど進化ははたしていない。さっさと始末してしまいたいが、結城も見ているし千尋と那由多が来ているのも・・・。


「はっ!そこ!」


「どらっしゃ!なんだコイツ!柔らかい!?」


「伏せろ!囲め土よ!浮け盾よ!」


「っ!」


 千尋の飛び蹴りに那由多の怪力ハンマーばぶち当たり一瞬仰け反ったモンスターを結城が土壁で固める。しかし、それも一瞬の出来事で壁は切り崩され更に撃たれたビームは盾を焼き落とす。ただその盾が稼いだ一瞬は私達が回避するには十分な時間だな。


 千尋は伏せた後、そのままゴロゴロと転がりながら体勢を整えバク転や側転での避に移行し、那由多は鍛冶師の能力で出された盾を改造しビームの中を突き進む。ただ、その盾も削れているので長くは保たない。


「結城!やれ!」


「おうさ!」


 切り札か。はっきり言えばもったいない。そして今後を考えるなら残しておきたい。しかし、動ける内に札を切って置きたいと言う心情も分かる。ここで負傷して癒やして時間を食うよりもさっさと切り札で始末して遁走した方が生存率は上がる。上がるが退出ゲート付近にモンスターがいないとも限らない。


 ズタボロにされても生きて出られれば多分どうにかなるのだろうが、今度は負傷により出られない場合を考えると今切るのは早計とも思える。声をかけて辞めさせるか?プロパガンダは十二分に祖国で学んでいる。


「待って下さい!まだゲート付近にモンスターがいるかもしれません!人の力に頼ってここを切り抜けてもきっと次で躓きます!」


「加奈子・・・。」


「とうでもいい!さっさと決めろ!」


「全くだ!」


 私の言葉で結城が一瞬止まり、その間に千尋がモンスターに駆け寄り正拳突きを放とうとするが、銀の玉を取り込んだのか腕のない場所から細い針がノーモーションで飛び出し顔を襲う。その針を那由多がハンマーで叩き落としつつタックルでモンスターを吹き飛ばそうとする前に、モンスターの方が先に後ろに飛びながらビームを放つ。


「追撃するぞ那由多!」


「分かってる!作成、ハンマーをタワーシールド、柄を槍に!」


「私も行きます!」


 ハンマーはタワーシールドと言う名の傘の様になりビームを受け止めながら那由多が先頭で進み、その後ろを千尋と私が駆ける。ジグザグに進んでいるが退路は残っているか?残っているが今はマズイ。完全に捕捉されモンスターの流体の身体が地中を進みこのままかち合えば下から串刺しにされる。


「トロンプ・ルイユで踏み台を出します!それでみんな跳ねて!」


 3段階段の踏み台を出しそれを駆け上がり跳ねる。言葉は少なかったが下からの攻撃を予見した那由多が盾を下に向け攻撃をいなし、飛来したビームは千尋が那由多の盾に跳び乗りその体重で沈んでやり過ごす。私も危なげなく攻撃をかわすが、普段ならそのままモンスターを掴んで引き釣り寄せていたな。


 仕切り直しはなくそのままモンスターに接近し鋭い拳と蹴りでラッシュを行うが、決定打はなく致命傷はないものの傷は増える。大火力と言えば那由多だがハンマーをツルハシにしての一撃も相性が悪い。突き切れればいいのだろうが、当たったそばからモンスターの表面が波打ち衝撃を逃がしているようだ。


 ならばナイフで切るか。帯よりも短いナイフは確かにダメージを与えた。最も切った部分は流体で隠されて、どの程度のダメージになったかは分からないが切り刻めば十分だろう。隠密で隠れてモンスターにナイフを這わせるが確かに切れる。切れるが流体が被さって行動不能にはならないし、端を切り飛ばした所でこのモンスターには痛くも痒くもないだろう。


  挿絵(By みてみん)


「くっ!」


「千尋下がれ!」


「片腕と太ももの表面を焼かれただけだ!すぐに薬で治る。」


「それが命取りなんだよ!俺が押さえるからちゃんと治せ!」


 那由多が更にハンマーを振るい、モンスターはそれをかわし時に受け止め、反撃のビームも流体の斬撃も振るう。致命傷を避ける為にナイフでその刃をいなすが結城が判断する前に決着は付けたい。私の手札を考えろ。表にはサバイバー、裏には拡張・・・。流石に私が消えて通りすがりの強者が助けてくれたと言うシナリオはずさん過ぎる。ここまで前に出たのに怖くなって隠れたと言うのは通じないだろう。


「決めた!切り札を使う!遅くなってごめん!」


 タイムリミットか。決定打は千尋の負傷だろう。元々ここに来るまでに怪我は多く目にして出血を目にするのにも全員耐性はあるし、それが薬で癒える様も見ている。ただ、今回の攻撃が通用しているとも思えない状況ではそれを切る選択肢しか出てこないか。


「分かった。千尋、加奈子後退だ!」


 那由多がハンマーを盾にして殿に残り私が薬を使っている千尋を庇いながら後退する。表面を焼かれたと言っても炭化しているのでこの薬でも多少時間がかかるか。寧ろ、炭化した分痛みが少ないのがありがたい。


「行こう千尋ちゃん。」


「すまん。」


「退路は任せたぞ加奈子!また下からから来たら避けてくれ!」


「それは僕が受け持つ!」


 結城が叫ぶと同時に地面が動き出す。それは私や千尋だけではなく那由多も含めて。切り札とは結城の側でなければ使えないほど広域を攻撃するものなのか?或いは対象を指定出来ない魔法?結城が那由多からリーダーが持てと言われて持つ様になったが、その効力は聞き及んでいない。


 引き寄せられる私達を見たモンスターが動きビームをデタラメに撃ちながら文字通り飛んでくる。正面から受ける形だが大丈夫か?流石に飛行型を考慮していないとは思わないが・・・。


「切り札発動!おいでませ猟犬!」


 結城がそう叫ぶと切り札とされた玉から濃い煙が広がる。ビーム無効よりも濃く、何処か暗鬱とした気分にさせる煙は確かにここに揺蕩いそれを見たモンスターも急停止する、確かにこれは興味を引くものだろう。私の中で今までなかった退路が産まれ、拡張としてある抵抗が抵抗するなと警鐘を鳴らす。


「な、なんだ?」


 ズルリ・・・と、煙から犬が出て来た。いや、犬の形をした何かが・・・。ゾロリと並ぶ歯に濃い煙の躯体、目はないのか闇を宿し、幻を見せられているかの様な流動する犬がズルリ・・・、またズルリと・・・。言葉を発さないモンスターも何かがおかしいと思ったのか再度動き出し最初に出た犬をそのハサミの様な手で切り裂く。


 その瞬間、産まれた犬達が一斉にモンスターに目を向けた。その後は余りにも凄惨と言う言葉が似合う。一斉に動き出した犬はモンスターに向かい駆け寄りその牙と爪でモンスターに襲いかかる。ただ、モンスターもやられっぱなしと言う事はなくビームで、爪で、流体する身体を這わせ迎撃しようとするが、そもそも実体のない犬達には全くダメージが無く仮に有るとすれば私達にビームが飛んできた時に受け止めた犬が消えた時だろうか?


 モンスターは逃げようと飛ぼうとしたがそれさえ許さず幾重にも噛みつき、爪で切り裂きその身体を引き裂いていく。この魔法はなんだ?どうすれば・・・、仮に敵対したとしてどうすれば私達は切り抜けられる?司を殺す?無理だ。本人は死なないと宣言した。それを試すのは即ち敵対するのと同義だ。


 謙る?敵対前ならそれも出来るだろう。しかし、祖国は既に不興を買い過ぎている。無視する?それが妥当な判断だが、その判断をくだすには余りにも魅力的で目は離せない。いい得て妙だが司をかごの鳥とするなら私達は眺める側の人間だ。しかし、その人間はかごの鳥から目が離せない。鳥がいくらこちらを気にせず自由にしていたとしてもだ。


「大丈夫か?加奈子。凄い魔法だよね・・・。」


「えっ?ええ。凄いですね。」


 いつの間にか結城が私の肩を抱いていた。知らずの内に私は震えていたのだろう。倒せるモンスターが当然の様に倒され分解される姿に。いや、倒される姿ではない。この程度のモンスターしかいない場所に明らかに過剰な魔法を持たせたファーストと言う人物に。親心と言うならその気持ちは分かるのかもしれない。しかし、祖国はその親心も使い不興も買った。


 ・・・、無理だ。今の祖国では必ず潰れる。それがどれほど先かは分からないにしても、この魔法1つ街中で使われただけで壊滅的な打撃を受けるし、コレが護身用程度の切り札として持たせたと言うならどう足掻いても打つ手がない。現に未だに抵抗するなと言う警告は感る。


「もう終わったか。悔しいけど父さんにかなわないな。」


「比べるもんじゃないだろ那由多。しかし、こいつらいつまでいるんだ?それに司さんは猫派だったと思うが。」


「多分モデルはバイトだよ。」


「あの犬が、発動停止。クリスタル回収してくるね。」


 結城がそう言うと犬達は輪郭が薄れ消えていく。切り札は玉として残っているがまだ使えるのだろうか?それとも、フルパワーで使うだけの相手ではなかった?魔法も受け渡しも作った本人しかその内容は分からない。簡単なモノなら私でも制御を奪えるのかもしれないが、そこまで私は魔法に造詣が深くない。


「大丈夫か?加奈子?顔色が悪いぞ?」


「あ、あははは・・・。ちょっとさっきの戦いを思い出して怖くなっただけです。回収も終わったなら行きましょうか。多分この先ですゲートは。」


 頭を切り替えて退出ゲートを探して進む。しかし、あの犬の光景は嫌と言うほど頭にこびり付く。個人と祖国と未来。ごちゃ混ぜにされた感情は私の根幹を揺るがしこのままでいいのかと訴えかけてくる。足取りは重いが進む。先ほどのモンスターが食ったのか特に危険はない。だからこそ思考に頭をさける。


「ん?なんか人が走ってる?って、全裸!?おーい!大丈夫かーー!!」


「あれば男だよな?髪は長いが・・・。」


「千尋は見るな!あんな汚いもの丸出しの変質者!」


 青山は私に気付いているとして、なぜその話は司の耳に入らない?アレの狙いはなんだ?泳がせて更に何かしらの情報を得る?日本がスパイを使うという話は聞かない。過去には東機関と言うものもあったがそれを再興させたのか?流石に警察関係にテイも協力者はいないだろうし、橘を恐れるなら既に撤退済みだろう。


「我来到自己身边ーーーー!!!!!出口在哪里ーーーー!!!」


「なんか叫んでるけど何語?ってこっち来たーーー!!ゲート見えてるし走れ!もうすぐだ!」


「このまま飛び込もう!そうすれば外人なら追ってこれない!」


「千尋、加奈子行くぞ!」


 他の狙いが有るとすればなんだ?情報ほしさに泳がせているなら長すぎる。確証が持てないなら最も私達を探るはず。しかし、探られた様子は微塵もない。だが探索者と言う職なら分かる事もあるのか?そうなると我々は祖国の首元に突き付けられた刃にも・・・。 


「えっ・・・?」


「别挡道ーーー!!!!」


 3人が前を走る、それを追い越し私が進む。いや、吹き飛ばされた?やけにスローモーションに移る世界の中で私の中に荒れ狂う衝撃波が反発し加速する。ヤバい!ヤバい!!ヤバい!!!なんだこれは!衝撃の逃げ道が塞がれ反発している!?これはあの人が!


「がっ!」


「加奈子ーーー!!!」


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謎の中国語を喋る人、我に返ったと言っているが一体誰に何をされていたのだろうか 戦闘狂みたいだが分からないな魔女に呪いをかけられていた人ならもっと深い場所だろうし 主人公がまさかソーツ以下の自由意識を操…
やはり中国は迷惑な厄介者だな こんな所で個人で証明しなくても良いだろうに 被害者も中国人だから他所でやれ
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