55話 座談会 挿絵有り
明日、明後日は続けて閑話になるかもしれません
穴が開く、巻き戻る、魔法を返す、消し飛ばされる、それで足りないから、更に魔法を紡ぐ。どれほど思考すればいい?どれほど妄想すればいい?空想も操作も具現化も・・・法さえ破っているのに、なぜ賢者に傷一つ付けられない?なにが違う?あれは傷付けて当然だ。星とかどうでもいいが、家族を危ない目に遭わせようとした、それだけは許せない!
「ちったぁおとなしくしろ!そして殴られろ!」
「そうそう、それでいい!ほらほらおいで!ここは君の中だ、もっと自由に!そう言えば、昔間違った事もお仕置きしてあげよう、第6感は彼女のモノだ。」
なんでもいい、あれを捕捉出来るものは何だ?糸、鎖、網、紐、繊維、もっと何か!繋がって斬れないモノ!アレには無くて、俺にはあるもの!姿形があるんだろ?荒唐無稽でもなんでも、頭の中を振り絞れ!自由にと言うがイメージしている。捉える物、縛る物、拘束する物何がいけない?何が足りない?蹴られ殴られ、飛ばされ叩きつけられ、しかし、元に戻る。どれだけ追えば捕まえられる?どれだけ進めば捉えられる?
差し出した手は空をきり、また土手っ腹に衝撃が走り吹き飛ばされる。さっきよりは飛ばない、さっきよりは衝撃を受けない。それでも遠い・・・、嘲笑うかの様な賢者の顔はそこにあるのに届かない。愚者を笑う者・・・、アレはそう名乗った・・・。なら、嘲笑われている俺は愚者なのだろう。
愚かなのだろうか?人には余る力を貰い、人ならざるモノを掃除する姿は愚かしいのだろうか?確かに、俺は仕方なく選んだ。しかし、『誰かがするであろう仕事の誰かとは、自分で有っても問題ない。』と言う考えは、間違っているのだろうか・・・?いや、これはもう俺の仕事の筈だ。なぜ、そのやり方にケチを付けられているのだろうか?
「その先だよ、その先。」
「その先?」
その先とは何だ?掃除した先?仕事した先?コイツを殴った先?ケチを付けられた先・・・?先も後もない。俺はココにいる。立ち止まってる暇はない。スタンピードなど起これば、家族が危険にさらされる。そうでなくとも、ガーディアンが外に出ていれば、連れ出されたモンスターの居所によってはやはり、家族が危ない。俺は家族を守りたいのだ。妻を・・・、子を・・・、知り合った人達を守りたいのだ!
「うんうん、だいぶいい。広がった。」
「お前に何が分かる!姿さえ無かったお前に何が!」
「情景かなぁ〜?君は僕にはなれないけど、僕も君にはなれない。ただ目を通して見て、君の思いに触れるだけ。僕より彼女の方が深いけど、それでもこうして話せるようになったからには、僕だってやりたい事があるんだよ?」
情景?やりたい事?職のやりたい事?掃除か?中層にも行っていないと文句を垂れたからには、奥を掃除しろと言う事か?それを1人でこなして歩き回れと?コイツが十全に使えれば可能なのかも知れないが、その十全とは何だ?魔法を使えばいいのか?頭の中身を作り変えればいいのか?イメージを積み重ね、強固な物にするが、それでもやはり賢者には届かない。
・・・、何が違うんだ?全ての工程は踏んでいる。魔法の顕現もしている。なら、なぜ賢者に届かない?なぜ触れると言うその一動作にこうも手間取る?そこに賢者は居る。いるのになぜ歩こうが走ろうが飛ぼうが、距離が詰められない?アレからはタコ殴りにされてるのに?握る拳を開いて話をしよう。
「その方向は違うよ。」
「どれが違う?」
「ん〜、僕のやりたい事。強いて言えば再会かな?彼等は嫌がるけど。ずさんな掃除だけど、溢れるにはまだ猶予はある。」
「再会?他の職にでも会いたいと?意志なきお前達が?」
「そうだね・・・、昔を思い出そう。君には僕が何に見える?」
その問は・・・、犬の時の助言?形は作った。視ろと言われて賢者を思い描いた。そして、目の前の賢者ができた・・・。本当にそうなのだろうか?出来たてホヤホヤの者がこうも喋るものなのだろうか?思考しろ。頭を回せ。そうか・・・、賢者を定義してないのか。小憎たらしくて、一発殴りたいコイツを思い描いたが、最後に定義はしていない。なら、どう定義するのが正しい?
意志の宿った職?それは少し違う。コイツは防具の話をした時、誰も彼も身体を脱いだといった。邪魔だからと。なら、元は身体があった?職に身体?そもそも職とは何だ?ゲートに入って選定されて・・・、道を選ぶ感情の爆発で進化する。なぜ、感情の爆発を感知出来る?いや、根本の問題だ。なぜ寄り添ってくれる?
「お前は何だ・・・?」
「質問を質問で返すのかい?そうだね・・・。強いて言うなら隣人かなぁ?君達の言葉で言うなら。」
「隣人・・・?」
ご近所さん・・・?いや、物理的ではない。隣に居る人だから隣人。なら、一緒に歩いてくれるパートナー?それならしっくりくる。わざわざ人の適性を見てそれに沿ったものを選定して、道が決まれば至らせてくれる。掃除するだけなら押し付けでもいい。適性なんて関係ない。ソーツが勝手に入った人に押しつけて、強制すれば済む話なのだ。それをわざわざ選ばせて、目の前の賢者は隣人といった・・・。
一歩踏み出す。コイツは何に見えるのだろう?姿は変わらない。コイツは思い描いた姿しか考えられない。なら、見るのは本質だ。賢者、複数の名を言っていたが、それから選ぶのが正解なのか・・・?その選択肢に乗る?・・・、いや、それは、ないな。イメージは固まってきた。後はそれをコイツに叩き付けるだけ。
「お前をイメージしよう。うん、お前は悪ガキの賢者だ。強大な魔法を使おうとも、師となろうとも、嘲笑おうとも、俺にとっては何時も側にいる、全てを内包した悪ガキの賢者。それが俺の見たお前の姿だ。」
「欲張りで酷い言い様だ。敬意はないのかい?」
「ない。有るのは親愛のみ。俺に成れないお前と、お前に成れない俺は隣人であり、互いを慈しむしかない。」
一歩更に踏み出す。距離は離れない。更に一歩、更に一歩。歩む先の賢者は、ただ優しげな顔をしてそこに立つ。何処にも行かない。何処にも行けない。何処にも行かさない。俺とコイツは目で繋がっている。なら、同じモノを視ている。コイツが視れて俺が視れない道理はない。賢者と視線が交わる。視線の先には俺がいる。
「君が同じモノが視れるなら、こんなに嬉しいことはない。悪ガキと言った事も許してあげよう。親愛の錠はかけられ縛られた。」
「あぁ、ありがとう。所で賢者、ガキの意味は知ってるか?」
「ガキ?確か、君達の言葉で子供だったかな?」
目の前に着いた、絡まりあった視線は解けない。よし、この距離なら外さないし逃さない。多分、この機会を逃せばそれは、永遠に訪れないだろうこの機会。いや、隣人なのなら会えるのか。どうやって会うかは知らないが、声の届く範囲にはコイツはいる。スコンっと脳天に一発。大きく振りかぶって振り下ろす。
「いった〜っ!慈しむって言わなかった!」
「あぁ、子を叱るのも親の務めだ。悪い事、危ない事をしたら叱る。道理だ。愛のある親父の拳骨は痛い!そこに頭の良さは関係ない。」
誰も見ていないが、傍目から見れば姉が弟を叱ってるようにしか見えない。それでも俺は父親である。それに一発殴るといったのだ、殴って文句言われる筋合いもない。しかし、これで良かったのだろうか?
「それで、これで・・・、強くなった?」
確かに悪ガキ賢者と繋がった感覚はある。しかし、これで強くなったんだろうか?イマイチ実感はわかない。賢者は正確にイメージ出来て固まっているのだが・・・。
「難しい事を聞くね・・・、そもそも強さの定義が曖昧だよ。君には腕力なんてないし、魔法だって僕に比べたら貧弱だ。でも、君は僕を定義した。そして繋がった・・・。急に超絶パワーアップなんて事はないけど魔法を使う時、僕が君の足りないところを助けよう。」
「そうか、それは助かるの・・・、かな?」
どうやら超絶パワーアップは無いようだ。ガーディアンを軽くひねる程度強くなれと言われたのだが・・・。何やら賢者は助ける事で納得しているし、藪蛇は・・・、いや、この際だ座談会と行こう。毎度危なすぎる橋を渡るのは真っ平だ。
「色々聞きたいが、大丈夫か?」
「ん〜、開示できることなら、これでも色々制約があるんだよ。」
制約・・・、誰が何にどんな。確かに、言葉は面倒だ。今賢者が言った言葉にもそれだけのクエスチョンがつく。何から聞くのがいいんだ?いや、その前に。
「魔女は?」
「彼女が会ってくれるかどうかは知らないなぁ。呼んでみたら?」
とりあえず、声を張り上げようかと、息を吸い込んだ時にそれは現れた。香る色香に優しげな顔、美しいと思う立ち振舞。この香りは手に持った花から・・・?魔女・・・、なのだろうか?イメージとだいぶ違う。鍋をかき回し、薬を作り毒リンゴとか配って鷲鼻で黒いローブの老女、或いはとんがり帽子にボン・キュッ・ボンの妖艶な女性。
現れた魔女と思しき女性は、どれにも当てはまらず清楚な紫の衣装に微笑みをたたえ、愛おしげに俺の方を見ている。ここにいると言う事は魔女で間違いない。しかし、イメージを積み重ねていないのにその姿を形どっている。
「魔女・・・、なのか?」
「えぇえぇ、貴方がそう呼ぶ者。勘違いしている者。悲しいわぁ、貴方は私を醜くしようとした。だから、崩される前に私は私を貴方から作り上げた。」
魔女はニコニコと笑いながら俺を見る。女性のイメージは確かにあった。しかし、ここまで詳細にイメージした覚えはない。なら、これが本来の姿?賢者を見るが、彼は首を竦めて口を開く。
「女性は醜くされるのは嫌うよ。遠い昔に忘れてしまったモノでも、彼女だけはソレを許さない。君は何処まで名乗るんだい?」
「そうねぇ、なら貴方が女の子になった原因を教えてあげようかしら?」
女になった原因?魔女の女の部分で女性にされたんじゃないと?他にも思い当たる原因はなにかあるのか?ソーツは性別やらなんやらは多分知らなかった。だから、魔女を選んで女になったと思っていたが、根本的な原因がある?
「それは何だ?なるべくしてなったのか?」
「えぇえぇ、貴方は私を選んだ時点でそうなった。魔性の女。私の1つはそれが刻まれてる。貴方とは相性バッチリよ?ここの原生生物は貴方を見たら美しいと思う。魅力はあらゆるモノに付いてくる。なら、私が力を出すのは容易なの。」
嫌なパズルのピースが嵌る。望田は言った、車から降りて微笑んだだけで動画は拡散したと。秋葉原ゲートでは話しただけで、群衆は散った。媚びて願えば何かが貰え、出歩けば握手や何やらをねだられた。女性なのに女性に妙に言い寄られたのも・・・?
「しかし、それで戦えるのか?」
「あんまり得意じゃないわよ?だから、賢者の魔法を使ってた。私の力は他にある、いつか貴方が気付くなら、その時になれば教えてあげる。それじゃ、顔見せは済んだから、かわいい私を覚えてね?」
「おいまて!どこに行く!?」
魔女は言うだけ言って霞むように消えていった。まだ何も聞き出せていないのに!そもそも、クラスも教えずにただ魔性の女と言われてもどうしろと・・・。あぁ、しかし考えていた魔女とこうも違うなら、確かに薬は作ってくれないな・・・。
「行っちゃったね。まぁ、彼女が来てくれただけで僥倖だよ。僕は来ないと思ってたからね。」
賢者が魔女の事を知っているように話すが、どこかで共に仕事をしたのだろうか・・・。居なくなっても、俺の中にいるのは分かる。選択した職は離れられない。長い時を共に歩むなら、いつかは、全てを教えてくれるのだろうか?
いなくなった場所を、しばらく眺めるが変化はない。多分今はもう帰ってくる気はないのだろう。強制的に呼べは来てくれるかもしれないが、ああも人間的に振る舞う彼女に強制させるのはなんだか気が引ける。なら、賢者の方か。これはかつて考えた疑問。あり得るあり得ないを考えた時、それは多分あり得る事。
「賢者、質問だ。職業システムを作ったのはソーツじゃないのか?」
「別といえば別だけど、一緒といえば一緒。ただ、その質問に意味はあるの?」
また分かりづらい返しを。別だけど一緒・・・、拡大解釈すれば、大本が一緒で分岐した?或いは、同時期に同じ所から発生したとか?ソーツは介入出来ないといって、今の返しなのだから多分、別なんだろう。それに意味があるかと言われれば微妙な所だが。一応、保険にはなる。
「意味の無い質問は嫌いだから、あんまり答えないよ?」
「分かった。次の質問だが、ガーディアンがいるなら、なぜソーツは掃除するモノを作らない?」
「エラーコードだ。その質問は答えられない。君に近しい人間もそれを考えたけど、念の為にその思考は消した。」
何やら不穏な事を言い出したぞ!しかも、何がエラーなんだ?考えると掃除するモノだよな?なぜこれがエラーになる?誰でも考えつきそうなことじゃないか?
「は?何だそれは!危なくないのか!?てか、どうやって?むしろ誰の?」
「いい犬がいるじゃないか。君がほとんど観測出来なくして犬にしたアレが。アレは君と繋がってる。だから、思考を食べるなんて訳もないよ。だってその思考を観測出来なく出来るんだから。黒メガネだったかな?そう考えたのは。彼も色々知ってるから念の為にね。」
そこまでして消す質問なのか?誰かに不利な質問?或いは何かを覆す質問?いや、もっとシンプルに作れない?モンスターを倒すモンスター・・・、稼働エネルギーが一緒だから結局排出される?いや、仕事がなければ停止機構を盛り込めば止まるはずでは?
・・・、その状況だと溢れる状況が多くなりすぎるから?ソーツがそれを気にするのか?いや、外にモンスターが連れ出されただけで、ガーディアンが壊滅に向かうんだ、過保護・・・、いや仕事に文句を付けられたくない?
「ガーディアンの動力は?」
「御馴染みクリスタルだよ。」
同一エネルギーか。ガーディアンが倒して回っても、他のモンスターがクリスタルを捕食すればエネルギー総量は変わらない。なら、なぜ別のエネルギーを使わない?誰かが倒して外に持ち出せば、ゴミ箱が溢れる事はないよな?それだと掃除をしないから?掃除する事になにか意味がある?
他の星は退出も自在で、モンスターも蚊と変わらないらしい。逆を言えば、そんな星でもゲートを受け入れる。まぁ資源が目的なら分からないでもない。蚊を叩いて石油が貰えるなら喜んで叩く。しかし、例外なくゲートに入れば職に就く。掃除ではなく職に就かせる事が重要?
「はい、時間切れ。」
「な、今いい所まで考えてたんだぞ!思考を止めるな!」
「うん、だから止めた。それ以上は下に行ってからだよ。降りておいで。下に行ったら教えてあげる。その頃にはエラーコードも緩和される。」
「・・・、無理を通したら?」
「重大なエラーとして警告を受けるかもね?」
賢者は柔和に微笑んでいるが、目は笑っていない。多分、ここが思考の潮時。重大なエラーの警告とやらが何かは知らないが、いい事じゃないんだろう。賢者が無理矢理止めるのだ、ここは、
引き下がろう。
「頭に思考そのものは残ってるんだが、これも危ないのか?」
「その程度なら大丈夫かな?怖いなら、繋がった僕が引き受けよう。」
賢者が危ない思考を預かってくれるらしい。なら、預けてしまおう。ふとした瞬間に考え出しても危ない。
「・・・、分かった。うっかり考えても危なそうだ。なら、引き受けてくれ。話せるその時まで。」
「うん、君は賢いね。来れば話そう。空いた思考は適当にお茶会の記憶でも入れておこう。さぁ、話もこれくらいにして構えなよ?」
「構える?」
「そう、君を鍛えなきゃ。あんまり引き留めると、外の人に悪い。スパルタで行くよ・・・。」
「分かった、その訓練受けよう。」
さて、どれ程イメージを重ねて強くなれるかな?
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どれくらい戦い。どれだけイメージを重ねたのだろう?どれ程のモノを視たのだろう?賢者と繋がった目は、魔法のイメージを見せてくる。確かにこれが分かれば魔法を潰すのも奪うのも容易くなる。職とは就いた人間により千差万別に変化する。それは、モンスターの攻撃も然り。犬の不明だった攻撃さえも今は理解できる。ただ、スパルタといった通り全ての魔法も攻撃も、死なない事をいい事に例外なく俺を狙い撃つ。何度腕か飛び、何度頭が吹き飛んだか・・・。捌くのに失敗すれば消し飛ぶ。
途中からぬるい、痛みを増幅しようと言い出した時は、殺意が湧いた。しかし、その甲斐あってか必死に視てイメージを積んだおかげで、賢者の魔法をだいぶ捌けるようになった。そう、捌けるように。捌けると言う事は、処理出来るという事。なら、その逆も然り。途中からは魔法を魔法で相殺できるようになった。
「さて、そろそろ頃合いかな。立ちなよ、寝そべってないで。」
「・・・、どれくらいたった?」
立ち上がる気力もない。身体は多分元気だが、精神の方が悲鳴を上げている。破損する身体の痛みと、叩き付けられるイメージは確実に精神を蝕んだ。このまま寝てしまいたい。
「外だと1日くらいかな?ここはあくまで君の中。夢の中の時間経過なんて意味はないだろ?」
「そうか・・・、まだ1日か・・・。結局ガーディアンはどこへ行ったんだ?」
「飛んでたのは中層に突っ込ませた。良かったね、2体ほど大物を倒して爆散したよ。これで溢れるのに更に猶予ができた。他のは眠ってる。多分、そのまま動く事もなく眠り続けるんじゃないかな?」
朗報だ・・・。時間もそんなに経ってない。次のスタンピードの猶予も多分、中層のモンスターを倒したのならかなり出来たと思う。今どこにいるかは分からないが、遥や仲間に元気な姿を見せて安心させないといけない。俺さえ起きれば、憂いなく休暇に入れるはずなのだから。億劫になる程疲れたが、腕や足に力を入れて立ち上がる。
「それで、どうやれば帰れる?」
「目覚めをイメージして目を開けばいい。そうすれば君は目覚める。」
「そうか・・・、何かあればまたここに来れるのか?」
「来れるよ。ここは君の中で僕と魔女がいる。あぁ、そう言えば、外で職を話すなら僕の名前を出す事を許そう。魔女はまだだめだよ?彼女が許してないからね。」
「わかった、こそばゆいが賢者を名乗ろう。俺は愚者の部類なんだがな・・・。」
「それを知っているなら大丈夫だよ。」
特に見送りはないし、別れの言葉もない。そもそも別れないし見送るどころかそこにいるのだから。眼を閉じて目覚めをイメージして目を開く。頭ははっきりしている。周囲を見回すとどうやら病院の個室のようだ。タバコの箱が鏡台の前に山積みになっている・・・、祭壇かな?。日が入っているので朝だろう。付き添いはいない。まぁ、いつ目覚めるか指標さえないのだから当然だろう。講習メンバーもあの時点では半月近くゲートに籠もっていたので、流石に疲れが溜まっている。
とりあえず、起きてナースコールを鳴らすか。下手にウロウロすると何を言われるかわからない。コールを鳴らすとやけにドタドタうるさい廊下を走る音が聞こえてくる。誰だ、病院の廊下を走るのは。他の患者さんにぶつかったら危ないじゃないか!うるさいように走る足音は扉の前でピタリと止まった。
足音の感じから10人はいそうだ。こんな朝っぱらから誰がいるのだろう?ちょいと寝てただけなので、そこまで大事ではないのだが・・・。賢者も寝て1日ぐらいと言っていたし。実はこれが1年でしたテヘペロなんて言ったら、賢者は再度殴りにゆこう〜か。ヤーヤーうるさい扉が開き、そこにいたのは遥や望田他講習会メンバー。
「おはよっぐはっ!」
「良かった!本当に良かった!!死んじゃったかと思ったよぉ〜〜!!」
遥が目にも留まらぬ速さで抱きついてくる。いいタックルだ、きっと世界も狙える。他の面子も思い思いに俺の顔を覗き込んでくる。入院とかした事なかったが、こんな感じなんだな・・・。
「遥か、大丈夫だから。他のメンバーも私は大丈夫、ちょっと疲れが出ただけだから。」
そう笑顔で伝えるが、どうもメンバーが訝しそうに俺を見てくる。・・・、多分バレたかな・・・。ゲートでぶっ倒れたなら当然心臓マッサージだの人工呼吸だのすると思う。その過程で、多分胸に耳を当てたり脈を取ったりしたのだろう。
「胸触った人と、胸に耳を当てた人挙手。」
見回すと遥以外の全員が、顔を背けながら手を挙げる・・・。えっ!?なに?知らない間に全員に襲われてたの?いや、とりあえず全員で確認したとかだよな?心音がない!うそ!間違いよ!の繰り返しとか。まぁ、元からない胸は触っても面白みは無いだろうが・・・。それと望田。多分お前の耳なら薄々気付いてただろうに・・・。
「まぁ、バレてしまっては仕方ない。この事は他言無用だよ?」
「その・・・、不老不死とかの薬のせいなんですか?」
おずおずと小田が手を挙げて聞いてくる。あ〜、そういう認識にもなるのか。まだ誰も見つけてない薬を、ひと足お先に飲んでしまったと。さて、どうするかな。ここで変に嘘をついても良いことはない。なら、職をバラしてそのままそれにしてしまおう。
「違うよ。私の職それを習得する時に色々あってね。不老不死の薬がどんなものかは知らない。」
「その・・・、クロエの職は何なんですか?」
代表するように望田が聞いてくる。第2職とか突っ込まないでくれるといいけど、話したら魔女がへそ曲げそうなんで、これだけは何が何でも今は伏せよう。
「私の職は、EXTRA 賢者。呼び名が色々有るらしいけど、魔法を定めた者らしい。職の説明は空白。多分、考えて思い描けって事だと思う。」




