565話 ある意味挑戦状 挿絵あり
三賀日も終わり通常営業のギルドだが年越し気分が抜けているかと言われると微妙な所。まぁ、職員の方は気にならないがうろうろしているスィーパーからはどこか休み気分が抜けない感じもする。そうは言っても企業人ではない彼等は自由業なので仕事始めも自由に決められる。肩慣らしに1階層から入る人もいれば、今日はいい依頼もないし素材集めもやる気が出ないと言って帰る人もいる。
そんな中で変わったことと言えば米国が飛行ユニット開発に成功したと言うか、前々から技術協力もなんかもしていたし山口もあちらにいるので逆にいつ発表する?状態だったらしい。エマから届いたメールでは山口に扱い方を習いつつ量産態勢を模索したり、素材集めに奔走したりと忙しいらしい。
そんなに忙しいならジョージもエマをSPにしてわざわざクリスマスにウチに来なきゃいいのに。ついでに言えばメアリーも来たが、俺は留学生のメアリーにしか会っていないので分からない。そう、ジョージもどこかの大統領に似たジョージおじさんで、エマもエマに似たエマニエルさん!
そう言えば英国では獣人スィーパー2号が出た。サイラスからのメールによると2号は犬人の女性で職は妖怪。俺の知る限りでは3人とも妖怪なので、獣人は妖怪と言う職固定なのかもしれない。まぁ、それがいつまで続くかは分からない。獣人の子も妖怪なのかそれとも人と同じ様に育ち他の職に就くのかもしれない。何にせよこれも時間と共に出るデータを集めるしかないのかもしれないが、今の所妖怪の職に就いた人間の話も聞かないのでその辺りは獣スキーな魔女達の同胞と人間側の適性によるのかも。
何にせよ時間経過による判断しかない部分は大きいな。佐沼の所も時間経過による判断というか監視者の育成の部分は大きいし、サイとの共同研究も一足飛びには行かない。サーバー処理能力的に高精度AIの作成にも取り掛かりたいとしているが、作るにあたって何か要望はないかと雑談がてらに聞かれ、俺の回答としては一定の不自由は残して欲しいと返した。
例えばAIが発展してアンドロイドを統括し、人の代わりに家事や育児を全てしてくれるとする。それが介護と言うカテゴリーの中でなら優秀なのだろうが、私生活と言う部分でそれを頼りだすと最終的に何もしない人間が出来上がる。そうなれば職の使いこなしや発想、イメージも貧弱極まりなくなるだろう。
便利な生活には誰しもが憧れるのだろうが、便利すぎる生活は牢獄である。何もせずに座っていていいと言われて一体どれだけの時間座っていられるだろうか?少なくとも本やらスマホ、ゲームなんかの趣味で潰せる時間はそんなに長くないし、それの供給元もいなくなれば続きはなくなる。
なので人が楽できるギリギリでかつ、そこに何故手が届かないと言った風な不便性は残して欲しい。例えば裁判はAIで簡略してもいいし、役所仕事も本人確認さえ取れれば口頭でどんどん書類作成を進めてもいい。その半面、どこかの部分にAIにはこれが出来ないと言う思い込みの部分を人側に残して欲しいと言った。
「お焚き上げ後の整地とか済ませてきました。いや〜、魔術師の方達もすぐに平らにしてくれて助かりますね。」
「流石にずっと窪地を残すわけにも行かないし運動する人も多いからね。」
「それだけじゃなくて飛行ユニット試作機飛行場にするって息巻いてる人もいましたよ?日本ってどこか開発成功してましたっけ?」
「広い意味ではラボが成功してるけど、それ以外だと一気に取りかかった感じかな?あれってモンスターの素材を吟味しないといけないし何より斥力と引力。つまり物理学も研究しないといけない。だからCERNがある所は速いんじゃない?下地だとなるデータも多いだろうし。」
「重力波とかの観測でしたっけ?目えないからイマイチ実感わかないんですよね。こう、モデル資料とかだとそこだけ歪んだ様な感じとかになりますし。」
「あんまり変な実験はせずに空飛ぶだけにして欲しいんだけどね。」
飛行ユニットの質量は小さいが、それを大型化してくっつけていくとどうなるか?質量のある引力の塊答えはすなわちブラックホール的な何か。今の所まだ、ブラックホールエンジンまでの発展はないと思う。でも、ばら撒いたからにはその辺りも急激に発展しないとも限らない。
流石にコレは解禁時期の話し合いもしないといけないのかなぁ?中身は確認させてもらったし確かに丁寧な書き方だった。ただ、日本語以外が除外されてかなり読みづらくデータと言う言葉を情報集積集と書いてみたりとこう・・・、明治大正時代に書かれた文かと思ったよ・・・。
何にせよやるなら宇宙。それも銀河の端とかでやってくれないと困る。足がかりは出来た。開示するつもりはないと信じたいが手段を手に入れたなら人は歩くだろう。まぁ、ブラックホールエンジン作るにしても、まだまだ必要な物があるからハイ出来たとはならないと思うが・・・。
「マスターは在室ですか?」
「はい、なんでしょう?」
ノックと共に入室客を出すと職員が長い包を持って入ってきた。破魔矢の類は頼んでないがなんだろう?長さにして約50cmの細長い包と古めかしく蝋封のされた手紙。紋章からして・・・、魔法省?なにやら王冠と杖の紋章が入っているがこんなの使うとすれば魔法省くらいだろう。地球に残ると宣言した英国は懐古主義でも花開いたのだろうか?元々古めかしい街並みの残る都市だったがそこまで古くなくてもねぇ。
「誰からですかこれ?」
「多分サイラスさんかなぁ?とりあえず開けてみよう。ここに持ってくるって事は神志那さんチェックは通ったんだろうし。」
パリパリと剥がれる蝋を尻目に手紙を開くとサイラスさんの像が浮かび上がり話し出す。魔法大好きにしても魔法の手紙を再現する辺り、こう言った形式を進めているのは女王陛下ではなくてサイラスさんかも。
『ハッピーニューイヤー。昨年のクリスマスは似た誰かさんと出会ったと思うが私ではないし、連れのメアリーも女王ではない。さて、今回贈り物を用意したから受け取ってほしい。包を開いてみたら分かると思うが、私なりの魔法の杖を形にしてみた。難しい技術で荒削りな所もあり、見苦しいところもあるだろうが、勘弁して欲しい。なお、この手紙は話終わると自動的に文字が消える。では!』
一方的に話した像が消えると確かに文字もなくなって白紙になっている。多分インクではなく顔料あたりで書いたのかな?或いは受け渡す魔法をそのまま文章にしたとか文章そのものが魔法陣とか。何にせよ面白い魔法だな。特定の個人を対象とした秘密のやり取りだとするならそこそこ秘匿性が高い。
「魔法の杖ですか。クロエが英国で作ったって言ってたものの模倣ですかね?」
「魔法の模倣はかなり難しいというか無理。他人のイメージを完コピした所でそのイメージそのモノが本人にそぐわないなら、魔法は成立しないよ。なにせ説明文に沿うだけの事が出来ないからね。さてと、何の杖かな?」
包から出て来たのはなにやら真っ黒い本体に鷲の金細工が持ち手に施された綺麗な杖。手にとって眺めたりくるくる回してみたりしてみる。割と手に馴染むけどさてさて・・・。そもそも俺って鑑定師でも何でもないから使い方教えてもらわないと分からんのだが?
「くるくる回したりしてマーチングバンドのドラムメジャーみたいですけど、それが使い方なんですか?そのままぶん殴ったほうが強そうですけど。」
「ノーヒントで魔法の解析とか無理ゲーじゃない?まぁ、考えてみるけどさ。」




