564話　心軽く　挿絵あり

　ギルドの立ち位置は民間と政府の中間組織。有り体に言えば橋渡し緩衝材的な役割が大きい。なので一般企業の人も公務員もうろうろしているし、警官や自衛官と言った一般人が話しかけにくい職種の人とも雑談したりしている。そして、政府と民間会社から投げられた旅行客窓口案なのだが、どうしたもんかなぁ〜。

　メールのccを見ると他の本部長達にも投げかけられているので意見をまとめておくにこした事はない。海外企業との取引はほぼセーフスペースで行われているので問題にはならないのだが、旅行客と言うと取引ではなく観光目的なので直接現地入りが必須となる。

　かなり高い飛行機代を払ってまで観光に来る辺り、本当に趣味人としか言えない人種だが観光ビザで来て遊ぶ金欲しさにゲート内で金を稼ぐと言う部分をどうするとか、パックツアーで来たのにゲートに隠れて行方をくらまし、不法滞在するなんてケースもある。

　その辺りが緩いと言うか地続きで管理不足な国は諦めてしまって、タグでスィーパーと確認出来ればパスポート確認してビザ切れでも国外退去と一定の罰金で済ませる所が多くある。そんな中で島国日本はどう対応するかの部分にギルドを絡めたいらしい。

「青山、海外から来るスィーパーって言うか旅行客って大分だとどんなもん？」

「見た目で判別するのは無理です。APU(立命館アジア太平洋大学)もあるから留学生も多くて一概に旅行客と判別出来る人は少ない。大学や管理団体に問い合わせれば留学生や技能実習生の名簿は揃いますよ？」

「揃ったとしても顔と名前と資格証を一致させるなんて職質でもしないと無理だろ？マスターとして職質の権限とかもありはするが、怪しくもないのに無闇矢鱈と職質していいわけでもないし、旅行客や留学生って本国で審査されて身元がはっきりしてる人じゃないと許可出ないから、全員が全員どうこうって訳でもない。」

　言語的には旅行客やらの大半は少ないながらも日本語が分かる。寧ろ審査基準に日本語の項目があるらしく、旅行客でも翻訳アプリなしで簡単な日常会話が出来る事をみられたりするらしい。ゲート内は日本語と言う話しでどの国でも日本語に力を入れているおかげだが、逆を言えば日本語が話せないなら不法滞在者とも言えない状況でもある。

　日本語って適当に相槌打っても成立するし、海外の人は空気を読むのが苦手だとしても現物持っていって『コレ』とか『欲しい』と言えば勝手に商品説明や使い方に会計までしてくれるし、スィーパーはゲート内の退出やら報酬の名を読める様になっているのでそれに拍車をかける。流石に鎖国する訳にもいかないし、政府としても鎖国の方針はない。なら現状維持はなく締め付けるか緩めるかの2択となるのだが・・・。

　正直政府に丸投げしたい。勝手に入国管理やって法整備して締めるも緩めるも好きにして欲しい。しかし、そうするとこっちに『一般人はウチで面倒見るんでスィーパーよろしく！』と言われかねないんだよね・・・。原始回帰ではないが、どっかの政治家が国境をぶっ潰す！とか誰か言い出さないかな？

　今だとスィーパーの人数=国力と言う図式が出来ているし、政府がCM作ると言うのもその延長にある。なので無くされたら困る役人は多数いるものの、一般人としては面倒な入国手続をなくして地球を自由に旅したいなんて声も。

　ヒマラヤやらマッターホルンなんかも最近では勝手に駆け足登山して1日で帰ってくる人もいるし、スーパーへの買い物感覚で青島へ行く人もいる。それこそ青島は別として政府が入山を許可していなくてもだ。

「職に就いた獣人を増やして危ないものを持っていないか確認するのと、主要施設に鑑定師とかの配置くらいしかこの先守る手立てがないと思いますよ？」

「それは分かってる。だからこそ中旬から獣人のゲート入り試験やらを開始する手筈になってるからな。まぁ、何にせよ民意がどこまで動いて国がどこまでそれを飲めるかだな。」

「クロエ帝国を樹立して各国への中継パイプとしましょう！そうすれば国内管理と旅行客統制で好きなだけ検査も出来ます！」

「そんな面倒な事できるか！そもそも中継パイプ作っても人は来ないだろうし、直接乗り込む方が圧倒的に安いから誰もこんわ！」

「えっ？俺市民になって社畜とか戦闘奴隷とかをまとめ上げて貢ぎますけど？」

「奴隷なんていつの時代の話だよ・・・。」

　そう言いつつも地球人ってソーツにいい様に扱われてるんだよな・・・。ゲートがあれば戦争はなくなる。ソーツがそんな事を言っていたが、確かに戦争はほぼなくなって今は地球規模で内政パートをやっている。その過程で人の決めたルールも変わってきているし、協定拡大により入国手続が緩くなる国同士も出た来ている。

　そもそも奴隷って言うと鞭打たれて理不尽に殺されたり、或いはゴミの様に粗末に扱われる様なイメージがあるが、本来は資産枠で商品扱い。つまり、簡単に死なれても困るし病気になられても困るし、やる気がなく生産性もなければ扱いにも困る。そう考えるとやりっ放しジャーマンなソーツに対して魔女達はストッパー的な役割も兼ねてるんだろうか？

　割と剥奪とかした相手には目をかけてくれると言うか、ゲートのある所には暇つぶしで職として力になってくれるようだし。まぁ、暇つぶしなのでどこまで飽きられないかと言う話も出てくるのだが・・・。人類総道化でエンターテイメントでも提供すれば魔女達の本体も来るのだろうか？いや、無数にあるゲートと追体験を経てわざわざここに来る用事もないか。

(来て欲しいの？)

(いや、来たら宇宙戦争起こりそうだからいい。)

(いとおかしだっけ？戦争って同じだけの技術力や性能がないと発生しないよ。縛りプレーは暇つぶしにいいけど、それでも縛りすぎたプレーは窮屈だから初手で終わりだろうね。)

(絶対来るなよ？ジョークじゃなくでガチで。)

　初手で終わりだってさ・・・。それはつまり今ようやく作ったコロニーとかも無意味で敵対=滅亡と言う話だろ？何が引き金になるかは分からないとして、会わなければ引く引き金もないから会わないに限る。まぁ、魔女以外身体捨ててるみたいだから来ても気付かないと言う話はあるかもしれないが・・・。

「犯罪者をそう扱おうと言う国はあるみたいですよ？今回の試作機を見て宇宙刑務所コロニーを作り、そこにゲートを設置して資源やらの採集刑を課して隔離して住ませるみたいな。」

「どこがやろうとしてるか想像はつくが、それって独立国作るのと変わらないって気づいてるんかね？」

「運がいい受刑者は上昇アイテム見つけてセーフスペースに入り浸る者もいるみたいですからね。必要なクリスタル回収や素材回収を長期的な目で見ると言うなら、モンスターを積極的に狩るリスクも減りますし、統合基地としても受刑者だから入れないと言うわけでもないですし。」

「それはそうなんだけど、宇宙刑務所とか下手すると戦闘マシーンになって帰ってきそうだな・・・。」

　エイリアン3ならそんなコロニーが舞台だったな。2と監督違って『なぜ少女を殺した！』と前作の監督からガチ説教されたとかされなかったとか。それはさておき受刑者集めてコロニー作ったとして、看守の数と犯罪者の数に圧倒的な差がうまれればそこの支配者は犯罪者である。

　隔離されたコロニー内で自由を謳歌する犯罪者はいずれ自身の罪も忘れ、日常生活が送れるなら外へ出たいと言う欲求もなくし、そこを第二の故郷とする。住めば都とはよく言ったもので慣れてしまえば勝手にルールも出来てくるし、何よりゲートがあるならセーフスペースでの買い物も出来る。

　開拓移民とか口減らしとか目障りだから隔離とかならゲートを搭載せずに土と植物と家畜だけ渡して原始的な生活をさせて、宇宙アルカトラズなんて事も出来るのだろうが、本気でゲートを乗せるなら既に独立国予備軍である。と、言うかナチュラルにゲートを宇宙に出しても統合基地に行けると考えていたが行けるのだろうか？

　ここの部分は流石にどこの国も検証していないので分からない。流石に重大エラーには該当しないよな？ゲートが何らかの要因で宇宙放出されて怒り狂うなんて事はないと思いたい。寧ろ、これが重大なエラーなら早期に警告して欲しい。なにせ次の飛行ではゲートを搭載する話もあるんだし・・・。まぁ、動かしてもいいし固定具もなんでもいいゲートなので、何か言われたらその時考えよう。

　そんな話をしながら時間は過ぎ、特にこれと言った事件もなく昼を回り食堂で昼食を食べてから受付嬢に話して外の視察へ。青山は昼食まで一緒に食べた見返りとしてマスタールームで電話番である。スマホも持ってるし、何かあれば受付嬢からすぐに連絡も来るので特に必要はないが、朝から晴れ着を着て初詣に行ったと話したらやたらと見せろとうるさかったので、電話番も妥当だろう。

　朝から見たお焚き上げの炎はまだ消える事なく、海風を受けながら燃え盛り訪れた人達が後から後から何かを投げ込んで行く。その火で温まる人達もいるので、供養とは別に人の糧になっている。そこの猫人達、あまり近寄りすぎると燃え移るぞ？

「たこ焼き2舟、そこの箸巻きも貰おうかな？」

「ギルマスどうも！支払いは金貨ですか？それとも現金？」

「金貨で。溜め込むばかりでは悪いですからね。」

　お焚き上げを後に露店方面に行けば屋台やらが軒を連ねる。ちょっとした縁日の様だが、モンスター素材特売やら、装飾改造承ります等々旗と店番だけいる所もあるのでスペース的には余裕かな？たこ焼きを食べつつ歩きながら声を聞くが、支払いは金貨と現金が半々くらい。

　そもそも金貨1枚が一万円の価値と言う保証はまだ消えておらず、それを考えると釣り銭を出さないでいい金貨でのたこ焼きと箸巻きの買い物はかなりの豪遊と言える。言えるのだが、駆け出し以上のスィーパーってその辺り気にせず金貨を出す人多いのよね。報酬割合の話を会議でして、それがソーツとの交渉で通れば割合は少なくなるが、それでも俺の様に箱を溜め込んでいる人もいる。

　タンス貯金ならぬ指輪貯金の潜在的な額は億を超えて兆になるのではないかとテレビで言っていたが、あくまで潜在的な額なので当てには出来ないし、箱を溜め込んだ人が死んでしまえば表には永遠に出てこない。

「ん？那由多からか。」

　LINEの着信があり誰からか見ると息子から。歩きスマホは悪いのでギルドのロビーに戻り読む。どうやら洞窟を見つけ、そこで全員で年越ししたらしい。入り口も空気が出入りできる分以外塞いでしまったのがカンテラの明かりとあけおめと書かれた小さなケーキの写真が添えつけられている。文章を読む限りだとこれを食べたら2人で警戒しつつ残りは休憩を取るらしい。

　回復薬の備蓄や怪我の状況等も詳細に聞きたいが、本人が話さない限りはまだ余裕があるのだろう。今年は10日まで冬休みとしてあり残りの期日は10日。到達速度は9階層にいるそうなので悪くもないがそろそろ急がないと残り時間を考えると新学期に間に合わなくなる。

　那由多の同級生と言うか同い年の子も数人ゲートを進んでいるので、全員生きて帰ってきてほしい。新学期早々どこかの学校のクラスがお通夜ムードで開始と言うのは寂しいし、俺から学校に誰々がゲートで消息を絶ったと言う知らせもしたくはない。まぁ、俺がする前にその子の関係者が先に連絡をしている事もあるし、息子達のチームの様に全員初心者で帰らないと言う場合は親御さんが希望を抱いてギルドに通う事もある。

　専属をやる様なベテランと行動を共にして確実な死亡の知らせを受けるのと、帰らないと言うだけの不確かな死亡判定を受けるのは果たしてどちらがいいのだろう？人は機械ではないので割り切れない事は沢山ある。俺だって切り札を渡したりしたが、それを使う前に死なれてしまっては悔やんでも悔やみきれない。

「やっぱりもっと話して無理やりにでも豪華装備とか持たせるべきだったかなぁ？後悔先に立たずとも言うし、親のエゴだとしてもマスターの立場を捨てでても1人の親として贔屓するべきだったのかなぁ・・・。」

「何か悩みかにゃあ？」

「神志那さん、明けましておめでとうございます。」

「あけおめことよろ！で、なに黄昏てんの？私でよければ話しくらい聞くぜ。」

「いえ、息子が友人達とチームでゲートに入ったと言う話です。目標は15階層を超えたセーフスペース。その道のりを考えると親としてはこう・・・、ね。」

「クロにゃんも親だかんね。でも、色々手は回したんでしょ？出来る範囲で。」

「出来る範囲と言うか息子を1人の人間として扱うギリギリの所ですね。最終チェックに青山も使いましたし、多分これ以上何かしてやるのは自立の妨げになるとも思って・・・。」

　放任主義ではないし家族仲もいい。しかし、息子が大切だからと部屋に閉じ込めて危険から遠ざけで愛でるばかりでは何一つ育たない。何をすべきか考えろ。息子にはそう常々言い聞かせていたし、息子はちゃんと自分の頭で考えて就職も決めて来た。

　そしてゲートに入るなら贔屓されるのではなく、他の一般人と同じ様に扱って欲しいとも。確かにギルド職員はスタンピードが発生すれば最前線で対応に追われる。しかし、国際会議で決戦用地案が出てからは多少風向きも変わっている。

　曰く、自国ではなく戦う土地があるならギルド職員は事務方であり、必要なら警備用のスィーパーを募ればいいのではないか？間違ってはいない。しかし、その決戦用地も選定されず未だに話は先に進んでもいない。

「不器用だにゃあ。」

「そう言う生き方しかして来なかったもので。」

「クロにゃんだけじゃなくで息子さんも。頼ればすべて解決してくれる無敵のお父さんに頼りたくなくて、自力でどうにかした姿を見せたい息子さんと、自立を後押ししたくてでも心配でたまらないお父さん。普通の親子なんじゃないかな？私は割と親から放置されてPCばっかり弄ってたから心配されるって感覚はないけど、それでもたまに来る連絡で話したら大丈夫かって聞かれるしね。多分、親は子をずっと心配し続けるし子はずっとそんな親の心配心に甘えてるんだよ。」

「普通の旅行ならそんなに心配しませんけど、行き先がゲートなら死ぬ可能性もあるから甘えるならもっとこう・・・、何かをねだるとかでもいいんですけどね。」

「あはは・・・、ねだったら駄目だよ。息子君からすればねだるって言うのは自分の力が足りないって事の証明になるからにやあ。だから、ねだらず友達と一緒に安全策を考えて装備を整えて大人になる一歩を踏み出す。ただ守られる対象じゃもうないって言う証明にね。」

「気持ちそのものは分からないでもないんですけどね、私も親に相談もせずに勝手に仕事決めたりしてましたから。でも、親がこんな気持だったと知るにはちょっと遅かったかな？先に知ってたらもう少し色々話したかも。」

　今こうして思えば親父殿の俺は困らないと言う口癖は教育でもあり、自分自身への戒めでもあったんではなかろうか？すぐに手を出したら本人の為にならない。だから、自分を困らないと言う。そんな優しさの裏返しの様なセリフ。他人の気持ちは想像しか出来ないし、多分親父殿の気持ちはこんな感じだったんだろう。

「お父さんが超絶美人で話しづらいけど、バっリバリワンマンアーミーだからその部分が息子君も似たのかもね。まっ！青やんが見立てて大丈夫ならいいと思うよ？なんだかんだで青やんが大丈夫って言ったパーティーは生存率高いし。」

「それを噂で聞いたから青山に確認させたんですよ。なんだかんだでギルド立ち上げ当初から補助者として色々なパーティー見てますからね彼奴。さて、話してスッキリしたのでシャワーでも浴びて帰ります。外で潮風にも当たりましたしね。」

「了解〜。元旦で静かだしにもないと思うけど、なんかあったら連絡するね〜。」

　　

　地下に降りてシャワーを浴びて帰宅。人に話すと少し心が軽くなると言うが確かに少し軽くなったな。