562話 新年 挿絵あり
「さてと、新年明けましておめでとうございます。」
「「おめでとうございます!」」
「年明けから2人とも元気がいいわね。その元気で皿洗いとかしない?脱コタツムリはすぐそこよ?」
「コタツで丸くなるので忙しいなぁ〜。」
「雪は降らないですけど寒さが身に染みるです・・・。お父さんカイロを使っていいですか?お母さん独り占めは卑怯です。」
「私までお呼ばれしちゃってよかったんですかね?年越し蕎麦まで頂いちゃって。」
「いいのよ香織。離で1人除け者にして新年迎えるだなんて嫌じゃない。」
「ありがとうございます。毎年仕事か1人で年越しでしたが賑やかだと昔を思い出しますね〜。さて、コタツムリ2人が動かないなら私が洗い物をしちゃいましょう。それが2人へのお年玉と言う事で・・・。」
息子は帰ってこないが時は進む。クリスマスが終わってからの旅立ちだったが、浅い階層を旅しているのでスマホで連絡も取れれる。今は8階層付近を進んでいるらしいが、怪我はそこそこにあるものの薬で治しているし順調と言えば順調かな?
ゲートの旅は運と言う要素も結構関わってくる。それは強いモンスターに見つかる見つからないもそうだし、箱の中身が値打ちのあるものかそれともハズレかにもよるし、何より大きいのが次へ進むゲートが見つけられるかにも関わってくる。
上層は薄暗くゲートは落ちた蒼月の様にそこそこ光っているので見つけやすいが、それでも土地は広大で山陰や渓谷の下にあれば見つけにくいし、出た場所次第では周りに一切ゲートがなく長距離移動を強いられる事も多々ある。そこで登場するのが車やバイクとなるが、当然普通の物では遅くてモンスターに袋叩きにされるし、簡易拠点にするにしても洞窟なんかを見つけないと車体をビームで貫通されれば爆発炎上で更に混沌としてくる。
流石に全員で寝て警戒を怠る事は今のスィーパーにはないが、新人ゆえのうたた寝はないとも言えない。まぁ、その辺りはエナドリ飲んで起きてるとしか言えないのだが・・・。
息子達にはキャンピングカーをレンタルするのはやめろと言ってあるし、結城君と息子なら簡易拠点も作れるのでゲート内で如何に安全で気の休める所を作れるか?と言う方面で考えさせた。流石に専業を目指す結城もいるので洞窟見つけて雑魚寝や平地で何かを作ると言う案ははなから出てこず、最終的にはツーマンセルで警戒しつつ洞窟内を補強してから外見も弄ってただの山型の地形に見せると言う案で落ち着いた。
実際モンスターは視認と言うかレーダーと言うか、上層のモンスターは何か騒があれば集まってくるのだが上手く隠れればやり過ごす事も出来る。ただ、数は減ったが三つ目ないし三つ目を取り込んだ奴、てめーは駄目だ。どうもあのモンスターの赤い光はかなり広域に索敵出来るらしく一度光を浴びると延々と追ってくるらしい。そして、その追ってくる過程でモンスターも引き連れてくる。
三つ目は目標を追いモンスターは三つ目を追い、そして知らないスィーパーはモンスターの大群と対峙する。たどり着く前に三つ目がモンスターに捕食されれば一旦解散なんて事もあるかもしれないが、モンスター同士も捕食し合うので残って強化されたモンスターと戦うなんて事も・・・。
何にせよその辺りも運としか言えない。そしてその運と言うモノに息子達は中々恵まれているらしく、かなり低確率でしか出てこない上昇アイテムを加奈子ちゃんが箱から見つけたらしい。息子に行く前にいるかと聞いて、いると言えば箱開けマラソンをするつもりだったが回答はノー。高校卒業したてのスィーパーが持つには余りにも高く、専属を目指すならどこかのチームで下働きから入ってゲートの歩き方を覚えたりする中、それを借りるのは卑怯と言うか気が抜けすぎるとか。
親としてはそんな御託はどうでもいいから無事に帰ってきてくれればいいのだが、意見を頑として譲らず最終的には補助者をしている青山から見て大丈夫ならそのまま行かせる事となった。主観で目が曇るのは悪いし、多分俺が見ると世話を焼いて色々と渡してしまうから。そして、旅立ちの日にチームを確認して大丈夫だと判断した。絶対に保証はない。他の新人含めて全員生きて帰ってくるとも思わない。
しかし立場上どこかのチームに肩入れする事も出来ず、息子だからと贔屓する事も対外的には厳しい。・・・、もっとワガママに振る舞うべきだったのだろうか?元気と言う連絡はスマホに来ている。しかし、次の瞬間死んでいる可能性もある。それは息子だけではなくチームの誰かが・・・。
「新年早々何か考え事?なんだか暗いけど。」
「息子のいない新年だ、ちょっとアンニュイなだけだよ。毎年アイツも騒がしかったからな、お年玉くれって。」
「ならお兄ちゃんの分までソフィアがお年玉貰うですよ?」
「そのお年玉ってなにかなぁ〜?おいしく食べられるのかなぁ〜?蕎麦はあまり腹にたまらなかったなぁ〜。」
「那由多の分は那由多が帰ってから渡す。最後のお年玉になるかもしれないからな。ソフィアとフェリエットにはお年玉を選ばせてやろう。片方は現金、片方は現金と同額の食べ物やらお菓子の詰め合わせ。どっちがいい?話し合ってもいいぞ。」
(フェリエット、ここは現金です!現金1択です!)
(私は食べ物でもいいなぁ〜。お金はそこそこ待ってるなぁ〜。)
(でも、お年玉出し合ってなにかを買うのも姉妹の楽しみですよ?)
(出し合って更に食べ物買ってくれるなら考えるなぁ〜。)
(ぐぬぬ・・・、時にフェリエット。明日はお節なるものが出るそうですがその中の3品で意見を変えませぬか?)
(それだとお年玉を好きに使われてしまうなぁ〜。お節全部をお年玉で買ったと言う話なら納得するなぁ〜・・・。)
2人でヒソヒソと話しているがどう結論を出すかな?お小遣いはそれぞれに渡しているがフェリエットはバイトで稼いでいるし、獣人は現物思考が強いのでそこまで金銭に魅力を感じない。まぁ、現金で食い物が買える事も理解してるし足りないなら買って食いもする。
それに引き換えソフィアは買食いよりもお洒落方面に関心がある様で100均で化粧品を買ってメイクしてみたり、ナチュラルメイク主体で余り化粧道具を持っていない妻の借りてみたり、遥や友達に電話でメイクの仕方を聞いたりしている様だ。ただ、俺にもメイクの話題を振ってきたがした事ないと返したら眩しいものを見る様に両手で顔を押さえた後、話を振らなくなった。
「結果が出たです。お節と引き換えにお年玉を手に入れました。」
「残念な知らせだが、お節はオードブル込みの大皿料理。引き換えにされると私達も食べられなくなるから却下だ。」
「ぬぉぉぉ・・・。」
「ソフィアは何がそんなに欲しかったの?お小遣いが足りてないって事はないと思うけど?部活もしてないし。」
「お母さん・・・、ちょっといい福袋を狙ったら若干お小遣いが足りなかったです・・・。」
「福袋ねぇ。中身に期待するなよ?大体売れ残り商品とか型落ち商品がメインなんだからさ。夕飯のお節をフェリエットに掻っ攫われても困るからお年玉は2人それぞれに渡す。先ずは私と莉菜から。次に親父殿から、最後に遥からの3人分な。」
ポチ袋を受け取ったソフィアは喜びフェリエットはさっさと指輪に入れている。うちは親戚が少ないと言うか、疎遠の人も多いのでそこそこの額を入れているが、挨拶回りする程親戚の多い子には憧れたな。お年玉だけで数万とか子供の夢だ。
「今日は初日の出見てから初詣行くから、寝るか起きておくかは自分で決めるように。まぁ、車で寝ててもいいからな。」
「「は〜い。」」
フェリエットはコタツでそのまま寝ようとしたので部屋で寝る様に言うと息子の部屋に消えて行き、ソフィアも2時くらいまで頑張ったが船を漕ぎだしたので部屋で寝かせる。残った大人組は新年特番を見つつチビチビ飲みながら出発時間を迎えた。必要はないが運転するにあたりさっさとエナドリ飲んで呼気で0.00を確認してから、車を運転して鶴見岳へ。朝5時から臨時で動くロープウェイで山頂に登り他の人にジロジロ見られつつも初日の出を眺める。
どうでもいいが雪中行軍と言うか雪中爆走しているスィーパーは何がしたいのか?間に合わないと思うなら大人しく駐車場から見るのも手だろ?山から初日の出を見た時に樹氷やらを叩き落としながら走り、新雪も踏み固められて轍があったのではちょっと風情が・・・。
「初日の出ーーー!!私は生きてる事に感謝ーーー!!!」
「クソ寒いからさっさと照り付けろだなぁ〜・・・。コタツが!コタツが見えて来たなぁ〜・・・。」
「フェリエット!そっちは崖です!危ないです!コタツはここにはないですよ!?」
「ま、魔法で暖をとるなぁ〜・・・。山ごとお焚き上げだなぁ〜・・・。」
「それは山火事です!放火は罪ですよ!」
フェリエットが寒さに負けて放火しようとするので、とりあえず熱風を送ってまとわせておく。寧ろ最初から全員に温風を送っているが視覚的に樹氷やら雪で寒さを知覚しているのだろう。寒い所の猫は猫人になっても大丈夫だと言うのにフェリエットはにゃん太時代から寒いのは苦手だからなぁ〜・・・。
外に行こうと玄関を開けるまでは良かった。開けたら冷気で心が折れてコタツに帰ってくると言うのを何往復も繰り返していたし、眠くなると鳴き声を上げて寝室の暖房を入れろとせがんだりもしていた。居間で寝かせると大変なんだよな・・・、電気を落として寒くなると寝室の部屋窓から入ってきて閉めなかったし。
「帰りは私が運転しましょうか?OFFですし。」
「それを言ったら私もOFFよ?」
「OFFなら大人しく休む。私は今日から仕事だし最悪飛ぶから気にしない気にしない。さぁ、話し込むのは車に乗ってからでいいだろう。じゃないと初詣にいけなくなる。」
暖かくなってキャッキャと騒ぐソフィアと震えるフェリエットを回収し、途中でコンビニに寄って軽く朝食を済ませ家へ。初詣は近くのこじんまりとした神社と言う事で時間はそこまで取らないが、代わりに晴れ着を着ろと言うか、着付けするから脱がされ晴れ着へ・・・。濃い藍色の着物と言う所が俺への配慮か。
ソフィアとフェリエットも着付けをされ、妻と望田は普段着で初詣へ。妻にこっそり抗議すると秘め始めの時に着て見せるというので引き下がった。お互い歳も歳だが夫婦の仲がいいのはいい事である。でも、それって俺もまた何か着せられる・・・?
「すごく人が多いです。出店がないのが残念ですね。」
「こじんまりとした神社だと思ってましたけど、霊験あらたかなんですかね?徒歩の人がほとんどですけどかなりの人が・・・。」
「動きにくいなぁ〜。あの神社は静かでお昼寝には持って来いだったのに、人が増えたら寝てられないなぁ〜。」
「えっ?なんでこんなに多いの?莉菜、去年も多かった?一昨年はこんなに混まなかったはずだけど?」
「多分貴方が帰って来たからかしら?ほら、ウチってたまに観光目的とかで来る人いるでしょ?だから家バレしてるなら、この近くの神社にお参りするんじゃないかって言う。」
「まさかそんな・・・。」
短い参道は人がごった返し無料配布の甘酒にも列が出来ている。お屠蘇も配布しているが、そちらの量は少なかったのか継ぎ足される清酒の瓶もすぐに空になり指輪に収納されていく。しかし、徒歩なのをいい事に歩きながらストゼロ煽るのにはちょっと憧れるな・・・。流石に出勤なので今から飲む訳にもいかないが・・・。ただ、歩いて分かったが多い理由はあの幟のせいだろう。
色々と書かれた幟旗の中で1番真新しい旗にはスィーパー神社なる文字が・・・。宗教も時代と共に変わるものだが、そんなに旗立てたアピールして神罰とか・・・。はい、八百万いるので今更増えた所で関係ありせんね。救いとすれば元々こじんまりとした神社だったのでテレビ局やらは来ていない。但し、人は多いので注目はされる。
「おお!みかんに委員長に本田君!明けましておめでとうございますです。」
「あけおめことよろ!ソフィアもフェリエットも着飾ってるね〜、私は晴れ着とか疲れるから普段着で来たよ。でも、物凄く混んでるね・・・。毎年こんなだっけ?」
「明けましておめでとう。地域に根ざした神社だがここまで混む事は今までなかった。ただ、理由とするなら・・・。」
「ファーストさんファミリーかな?明けましておめでとうソフィアにフェリエット。2人ともよく似合ってるね、写真撮っていい?後で絵に描きたいし。」
「私は甘酒飲んでるから好きにするといいなぁ〜。」
「フェリエット、ガブガブ飲めとは言わないが舌で掬うのは人前だとやめなさい。こう、口でフゥフゥとだな。」
横から息を吹きかけるがそんなに湯気も出てないし多分結構冷めてる?何にせよあまり人前で音を立てて飲むのは行儀がいいとは言えないな。
「微妙な温かさが私の芯を温めてくれるなぁ〜。それに、他の獣人も同じ事してるなぁ〜。」
人が多いので端に避けてソフィアとフェリエットの友人と話しつつ周囲を見るが、確かに獣人達が熱い物を飲む時は先に舌から行く様だ。確かに家で鍋を食う時も舌や鼻先で温度を確かめる様な事をしていたな。なら、種族としての特性なのだろう。
「飲み方はいいとして、音はあまり立てるなよ?」
「分かったなぁ〜。」
「写真を撮るなら私が撮りましょうか?集合写真の方が後から見返した時に思い出にもなりますし。」
「なら、私も撮影に回ろうかしら。那由多にも写真を送りたいし。」
妻と望田にスマホを向けられそれに同調した他の人からもカメラを向けられる・・・。と、言うか俺は入らなくてもよくない?あまり写真で撮られるのも好きじゃないし。ただ、ソフィアとフェリエットとしては初めて迎える新年なので入ってくれと言われ、息子に送る写真には妻が入り友人達が抜ける。
そんな撮影を終えてギルドへ出勤。新年早々変な事は起きないと思うが、今年も1年頑張っていこう!




