閑話 112 ビギナー@3
修理の終わったバイクを回収して遅れました
「先に回復薬買い込むか?」
「いや、その前に上昇アイテムがラインナップに並んでないか見よう。金額的には買えないと思うけどあるかないかはチェックしないとね。」
対象が先導して縫う様に進み統合基地内へ。ここに来るまでに見た人間の格好はバラエティー豊かでドレスにパワードスーツに普段着に迷彩服。マントやコートを羽織る者も多く、1番の変わり種は中世騎士やアニメのコスプレだろうか?
他人の服装や格好に・・・、既に髪型や色、人種に文句を言う段階は終わっている。例えば小柄な東洋人と大柄な西洋人が喧嘩をしてどちらが勝つのか?前なら西洋人有利だったかもしれないが今ではその有利性は目に見えるものではない。なので容姿と言う判断材料はなくあるのは真の実力のみ。故にここの人間はお行儀がいい。それだけではなく、旗のある統合基地周辺の治安はどこもいいと言える。
「ここのカウンターにしようかな?空いてるし。みんな引き換えになるからドック・タグ貸してね。では、武器とかの一覧を見せて欲しい。」
「購入後の規約は知っていますか?」
ドローンカメラが浮くカウンターに立つ人物が聞いてくる。そのカメラは犯罪発生時に速やかに情報共有され退出後、つまりはタブレットを窃盗した場合外で犯人を捕まえる時の材料になる。まぁ、それでも逃げ道はあるがそこまでしてタブレットを盗む様なスィーパーはいない。
「はい!特定の品は外に出たらすぐに申請します。」
「分かりました、どうぞタブレットです。注文表記はここではない所にある物ですから購入する場合は確認のお時間を頂きます。」
「分かりました。これは僕達のタグです。」
対象がタグと交換にタブレットを借りて適当なテーブルに陣取る。ゲート内窃盗は様々な問題と初期では泣き寝入り防止に目の前で商品確認させて時間がかかったと言う話だが、国際会議後に変わったのだろう。ギルド世界化は可決されて祖国でも統合基地とギルド本部が建設されているが、ゲートの数が多く管理不十分な所もある。しかし、ここで捕まえられなかったと宣言するのは、他国に自国のスィーパーの程度が低いと宣伝する様なモノなので、スィーパー関連の拿捕要請にはかなり厳しく動く。
それは祖国だけではなくどの国も同じで、タブレットの賠償金は少額とは言え本質的に支払っているのは国としてのプライドだ。スィーパーは個人だとしても、その個人も制御出来ない国と他国に宣伝している様なものだろう。
「なんかいいものあるか?」
「う〜ん、上昇アイテムは売り切れで値段確認しても今の資金じゃ買えない。やっぱり箱開けて探すしかないかな?回復薬は買えるけど・・・、何か気になる武器とかある?」
対象は上昇アイテムの欄を見た後はすぐに那由多達にタブレットを渡した。上昇アイテムか、祖国で中位に至る過程で3階層分の物を発見して確保した。それを適当な箱を開けた時に発見したとして話に出そう。流石に対象もコレを売るとは言わないだろうし、発見物は発見者にその権利がある。
即席パーティーではそのまま奪い合いになる可能性があるので、基本的には外に出て別れるまで箱開けはしないとする所が多いが、このパーティーは友人同士の仲良しこよしパーティー。金は魔物だが金銭的に余裕のない人物はいないし、対象としても私から取り上げようと動く様な事も考えにくく、サバイバーと言う職も有利に働く。
「この囲碁のごけだっけ?みたいなのはなんだ?」
「さぁ?取説動画を見てみようか。」
キャッキャとカップルがはしゃぐ姿に若干の近寄りづさらを感じつつ横からタブレットを覗き込む。掌より少し大きいくらいの壺の蓋が開き中から黒い小皿程度の円盤の様が複数浮かび上がる。見た感じ使用者の意思により動いている様だし、形も円盤から球体や鏃等に姿も変わるし1枚の壁の様にもなる。
確かにコレは外に出せば危ない。見た目は武器的ではないが用途を考えれば使い道は幾らである。紹介の最後に対応した職評価と言うものがあるが全ての職で使用可とされている。確かに剣士が剣を使うのは基本だが、この武器なら剣を形成しつつある程度の遠距離攻撃も防御も行える。追跡者が最適にも思えるが、ある程度使い慣れれば壺から幾らでも取り出せる様だ。
「コレ凄いな。」
「凄いけど売りに出した人は更に凄い武器を持ってると考えると怖さも出てくるな。那由多としては改造してみたいか?」
「プランは全く思い浮かばないけど・・・、パワードスーツ取り付けとか?父さん曰くマルチタスクはながら作業で精神分裂とか多重人格が極まったらいいらしいけど、例えば何かを斬りながら飛んでる玉をイメージするのは難しいってさ。まぁ、大雑把なイメージならそうでもないらしいけど。鍛えるなら料理とか日常生活を熟すのがいいらしい。」
「確かに司さんは日常生活を熟すと言うか魔法で色々してるしな。毎度思うがよく見えない家の外の物まで扱えたり畑を耕したりしてると思う。」
「記憶力と感覚拡張と魔法があれば出来るらしいけど、俺にも分からない。まぁ、魔術師はそれぞれのイメージや目標で生きる傾向が強いらしいけどな。」
「それだと結城も強い目標があるのか?」
「なに僕の目標?男って言ったらやっぱり最強を目指すよね?」
「結城君はそんなタイプじゃないですよね?」
「バレてしまったか・・・、最強とか面倒だしどちらかと言えば土ってイメージの方が強いかな?母なる大地は皆を支え導くのだ!我と共に歩み星を崇めよ!ってね。」
「それも嘘だろ!寧ろ詐欺師のセリフだろそれ!」
「フッフッフッ・・・。と、特に欲しい物がなければこのまま行こうか。資金はみんなで貯めたけど最終的にこれが終われば等分して返すし、行く前にポッド風呂に入って体調整えて回復薬を買い込めば出発だ。」
そう言ってタブレットを返しタグを回収して回復薬を買い込む。風呂と言っても服のまま入る箱サウナの様なモノと普通に水着で浸かるような物がある。全員でさっさと箱サウナに入り食事を取った後、街を歩き街の外に出ると馬が姿を現しそれに乗りゲートを目指す。
「そう言えば、那由多君は司さんからなにか借りてこなかったんですか?」
「借り手はないけど餞別に魔法はくれた。ビーム減衰を何個かと本当に危ない時の切り札ってやつ。本当は切り札なんてない方がいいと思ったけど、他のスィーパーもなにか切り札はあるしありがたく貰ったよ。後なんか杖とか?」
「使わないに越した事はないがあると気持ちが和らぐな。」
ファーストの魔法・・・、ビーム減衰は他の魔術師もそれぞれのイメージで作り販売しているが高い。効果の程は実演と言う形でしか確認出来ないと言うのも拍車をかけているし、動画で効果の程を流している者もいるが、命を預ける物だからと買うスィーパーも目の前で作られたものしか信じない。
まぁ、ネームバリューと言う言葉を考えるならファーストが作ったと息子が言う時点で信頼性は高い。しかし、切り札とはなんだ?ファーストが切り札と言うからには想像を絶する魔法でも込めてあるのか?例えば発動すれば周囲のモンスターを瞬時にクリスタルに変えるとか、ファースト本人を呼び出すとか。或いは蘇生薬を解析して蘇生魔法を完成させた?
ソフィアと言う者はその出典は不明でテイからもその出生は不明と言われている。素直に信じるなら米国にいた実子と言うか、養子なのだろうが対象や那由多、千尋もその辺りは昔からいて米国で治療を受けていた妹としか言わない。
多分この件で私が真実を知る為には、更に対象の心の内に入り込み話しても大丈夫な相手と信じ込ませるしかないだろう。大丈夫だ・・・、時間はある。ただ、捨てられた様に連絡はなくテイとの家族ごっこも継続されている。祖国は・・・、私を今後どうするのだろう?
祖国の目標は私の考えと反する。私は全体的に幸せで差がなく不幸な者が少ない世界を共産主義と言うものに夢見た。しかし、祖国の考えは永遠を得て一部の権力者が安全な所から指示を出して共に汗を流す事もなく、現状を知る耳目を閉じて圧迫する。
かつてとある指導者が米の出来を視察した時にスズメを見て害獣と言った。それが引き金となって凶作はおこった。物を知らないと言うのは罪だ。そして、知ってからも固執するのはバカだ。なら、私はどうなのだろう?
「見えてきた。アレを超えれば最後、僕達は進む以外の道がなくなる。幸運のストックは十分?十分なら上昇アイテムを見つけられる様、大放出して欲しいな!」
「ストックは知らないが報酬は貰わないとな。だから、命大事にモンスターを倒しつつ箱を回収しよう。加奈子頼んだぞ?」
「はい千尋ちゃん!那由多君ももしもの時は切り札お願いしますね。」
「分かって。だけど鍛冶師は腕力とタフネスには定評がある。簡単にはくたばらないし皆を守れる様に色々作ったり増やしたりするさ。」
そんな会話をして私達はゲートの前で馬を降りて進む。生きて返せ・・・、か。私は茶番を演じる道化師だ。この階層では過剰戦力と言ってもいい。だが、それを抜きにしてビギナーとして歩むとしよう。




