561話 クリスマスを超えて 挿絵あり
静かなクリスマスは何処へやら。急な来客はあったものの一般家庭に好待遇を求められても困る。推定大統領と女王陛下は身分を明かさず一般人の誰々と言い張りウチで飲み食いして帰って行った。フェリエットはいいとしてソフィアも中々に図太い。カードで勝ったからと服をねだったりしていた。まぁ、位置づけとして親戚の誰々さんと自分の中に落とし込んだのだろう。
若返り老人会が何やら拡大しそうな勢いで話していたが、拡大してどうするんだよ。定期的に集まってどんちゃん騒ぎするだけならいいが・・・。いや、政治の話厳禁でしたら脱退なんて事も言っていたし、本当にどんちゃん騒ぎするだけかも。ただ、人んちを立ち寄り所とかにはしてほしくないなぁ・・・。年齢的に初老は超えたが老人とも言い難い俺も幽霊メンバーらしいが、特に会員の何かがあるわけでもないので本当に名前だけとか?
何にせよ帰り際にサイラスとエマが顔を隠して迎えに来たので誰かは確定している。ついでに言えば本当に息子は朝帰りしたと言うか、昼くらいまで帰って来なかったが、その辺りに突っ込むのもデリカシーがないと思い特に言及する事なくスルー。年齢的にも大人で2月になれば自由登校になるし、何より冬休み中に15階層を超えると言う話もあるので思い残しはない方がいい。
この15階層超えと言うのは難易度としては専業としてようやく駆け出しレベルとも言えるし、資金次第では初心者の延長線レベルとも言える。ソロで行ければ専業としても十分だし、1人である程度生き抜く事が出来るとの証明にもなる。低人数のパーティーなら活動資金やら素材集めとしてもそこそこやっていけるし、次を目指す足がかりにも出来る。
そして資金をぶち込んで大量に護衛や補助者を雇った集団なら、セーフスペースでの仕事やもしもの時にスィーパーとして実績を示す用の証明となると。まぁ、証明であって実力はないので企業人の箔付けとかになるのかな?少なくともセーフスペースから出るには次の退出ゲートを目指すか、5階層に戻り退出ゲートを探すしかない。上昇アイテムは全く出ないわけではないが、1階層上がるだけの物でも高いし、それを商売としてセーフスペースで護衛兼務の退出屋なんてのもいるが、割と暴利を貪っているので、企業としてはアイテムを買って長期的な節約を目指すか、次のセーフスペースに行ける人間がさっさと退出して来るのを待つ事になる。
まぁ、その場合も集団で15階層へ行った人間は護衛を雇わないとお亡くなりになる可能性は高いし、企業としてもそこは理解しているので企業警備員として雇っているスィーパーに護衛させる事になる。ただ、護衛も絶対ではないので本人が自衛手段と言うか戦える手管を持つ事は各企業としても推奨してるし、福利厚生で最近は格闘技教室やらクレー射撃、他にもランニングで出勤すると補助金をだしたりしてるとか。
「お兄ちゃんはゲートに旅立って、フェリエットはバイトで私は宿題・・・、暇だからギルド行っていいです?R・U・Rも使いたいです。」
「ソフィアもギルドに来るの?家で1人で寂しいなら構いはしないけど司はどう思う?」
「ん?そうだな・・・、仕事中はあまり構えないけどそれでいいなら。託児所もあるしそこで子供達の相手をしてもいいし、冬休みに入ってぼちぼち学生も増えてるからランダムパーティーでR・U・Rの探索モードをやるならやってもいい。それとも温泉やらジムで汗でも流すか?」
「話だけ聞くとスパリゾートです!お父さん達の仕事の邪魔はしないですし、帰る時はフェリエットと帰るから大丈夫ですよ。確か今日は昼くらいまででしたよね?」
「14時までだなぁ〜。私がウェイトレスしてる間にソフィアが宿題して私がそれを写すとWin=Winだなぁ〜。」
「それはズルじゃないです?」
「私も仕事してるなぁ〜。下手すると黒服に呼ばれてゲートに行ったりするからあんまり暇がないなぁ〜。」
「確かにフェリエットは要人観察とか犯罪者観察なんて話もあるからな。学校側とは話はついているが全くしないのも悪い。学期末テストでは2人とも平均点以上は取れてるしぼちぼち頑張ればいいさ。」
ソフィアとフェリエットの学期末テストは平均すると70点くらい。歴史と地理がネックで一番悪く後はそこそこ。ただ、歴史と地理は今学期で終わり後は公民をメイン3学期と3年生を通して学ぶ。これは文部科学省が打ち出した方針で、小学校で歴史と地理を集中的に覚え中学では公民メインでやっていくと計画された流れから来ている。
その覚える公民も幅が広く三権分立なんかは初歩として、スィーパーにかかる法律やら裁判の手続き、公文書の書き方や契約書の作り方等々、16歳でスィーパーとして働き出す子が詐欺等に合い搾取される側にならない様にする為に義務教育として教育する事となっている。実際、俺が学生の頃は裁判やら契約書やらは漠然と大人の世界のモノで、自分に関係のあるのは精々市役所の種類程度だと思っていたが、時代が変われば色々と変わってくる。
タブレット学習を学校でやっているソフィア達は普通に政府のHP見て政策に対してのディスカッション学習をしたり、判例を元に裁判手続きをやってみたり等々かなりディープに社会を学んでいると思う。まぁ、それが高校まで続くので再起の場がないわけでもない。勉強の本腰を入れるのは高校から、スィーパー勉強法学習塾なんてCMも流れている。
まぁ、その勉強法を取るにしても初期のとっかかりはいるので、早くから勉強するに越したことはない。それに、日本でも飛び級制度導入が検討されている。これは疎開により16歳未満でスィーパーと成った子供達をどう教育するのか?と言う話から出た話で、他の子よりも覚えも良く身体能力もスィーパー譲りなので平均的な教育を受けさせるよりも飛び級させて高校等で専門分野を覚えさせる方が効率的なのでは?と言う流れから。
確かに普通の子の中にスィーパーの子がいた場合、何らかの問題が発生して喧嘩に発展したらスィーパーではない子は最悪死ぬ。そんな事故回避の為にスィーパーが多数いる高校へと言う話からだ。例えスィーパーとは言え、子供は時として感情的になるからな。それに、逆に異物として疎外感を味わう子もいるらしいし・・・。
「ぼちぼちです。しかし、藤達は宇宙からまだ帰って来ないですか?」
「帰ってくるのは年明けくらいの予定だったかな?宇宙で今回やる実験なんかが終了すれば早期に帰ってくる事もあるけど、基本的には1月中旬を予定してた。なんだ?ソフィアは藤に会いたいのか?」
「藤師匠はズッ友です。この前もアニメの話で私と加奈子お姉様と盛り上がったです。」
「あらあら、もう1人のお兄ちゃんね。」
「藤は強いからいい男だなぁ〜。司には負けるけど繁殖するなら・・・、アレは繁殖出来るのかなぁ〜?」
「さぁ?本人も半分人辞めてるからな。中身はあんまり変わってないけど・・・。」
藤とは大会前にコンビニで出会い、大会で中位に至ってからもラボ関係で顔を合わせる機会は多い。それに、ソフィアもあの事件の後藤とアニメを見て日本語勉強したりしてたし何かと関わりは深いな。昔はアニオタで本当に造形師として仕事していて、今は高槻製薬で斎藤の元で副主任をしつつハーレム野郎を満喫中。現代版サクセスストーリーと言えば藤の名は上がってくる。それに勝手に作った国土なき王国の国王だし。
「昔から藤は藤だったですか?」
「う〜ん・・・、私も大会直前で出会ったくらいだから分からない。まぁ、今見てる藤が好ましいなら前からそんな感じだったと思うぞ?人の性格は中々変えようと思って変わるものでもないし。それに、クリスマスのサプライズには世界が度肝を抜かれてたしな。」
「確かに宇宙にスモークでメリー・クリスマスと書くのは凄かったですね!」
定期的に放送される試作機映像。通称試作機通信だが、クリスマスの時はリアルタイム映像で宇宙からの贈り物と題して藤の嫁やパワードスーツで飛び回る浦城達が宇宙にスモークで文字やサンタの絵を描いた。まぁ、そのスモークは砕いた大量の鏡だったと言う話だが、ビーム撹乱膜とかってこう言う物なんだろうか?
何にせよ試作機無害アピールの一環らしいが、自由に飛び回る有人無人機を見て本当に無害と言えるかは微妙な様な・・・。何にせよ兵器として使える物は出していないからいいのかな?代わりにそのスモークで宇宙人に呼びかけろと言われたら困るのだが・・・。
そもそも惑星間航行出来る様になったら他の宇宙人と同列に成れるとも限らないし、既に肉体まで捨てた宇宙人からすればようやくそのレベルと笑われるかも。怖いのは肉体を持つ方の宇宙人だが、その宇宙人も先手取っていきなり戦争を仕掛けてくるかと聞かれれば判断に迷う。人の感性なら戦争の理由は資源や領土だが、それをぶん取る為に仕掛けてくるかと問われればかなり微妙。
宇宙には星も多数あるし地球に適応出来るかも分からないのに攻めてくる必要性はないし、資源を得ようと考えるなら近場から開拓すればいい。仮に近場になくても何光年もかけて地球まで来る必要性は皆無である。まぁ、その何光年が数分レベルにまで短縮されていたらちょっと興味あるから来たなんて話も考えられるのだが・・・。
「キラキラして綺麗だったわね〜。でも、クリスマスプレゼントの方がソフィア達は嬉しかったんじゃないかしら?」
「お菓子一杯貰ったからお腹のお肉が・・・。」
「私はマタタビとマタタビ酒でご機嫌だなぁ〜。新年に飲むなぁ〜。ギルドのもみの木は切られて門松にするらしいなぁ〜。」
「えっ?アレって戻す予定って聞いたけど?」
「門松にして薪にしてお焚き上げだなぁ〜。ゲートで死んだ奴を弔うらしいなぁ〜。」
「そうか・・・、それなら止められないな。」
「朝から湿っぽい話は辞めましょう。そういえば遥から今年の振袖どうするかって連絡があったわよ?LINEでイメージ映像も来てたし。ソフィア達も年明けには着ましょうね。」
差し出されたスマホの画面には晴れ着を着た俺が・・・。羽織袴でもいいが去年も着たしまぁいいか。今年はソフィア達も着るならより華やかだろうし。
「さて、今日はカオリも休みだしぼちぼち出勤しようか。ソフィアも来るなら用意して。」
「はーい。」




