560話 クリスマス前 挿絵あり
作らない訳にはいかなくなった写真集だが、そもそもこれで本当に設計図って集まるのだろうか?一応、ジョージの前で設計図を取引したと言う実績もあるし、外務省からたまに在庫ないかと問い合わせも来る。設計図の出土自体かなり少なく、今年に入ってからは1、2件の報告しか聞いていないが、そもそも箱を溜め込むスィーパーも多いし、見つけても理解出来ずに放置して理解出来る様になったら売るなんて人もいる。
それもこれも初期の国連が悪い。写真集との交換はある意味無償取引と言うか、その後を見据えた投資とも取れるのだが、金を出して買い取ってしまった以上、その金額をスタートラインとして見てしまう。別に設計図を見つけても直ぐに届け出ないといけないと言う法律もなければ、どう扱うかは発見者にあるので潜在的な出土はもう少しあるのかも。
特に飛行ユニット開示からモンスター狩りも盛んだし、パワードスーツを自国で開発したい所は資源もまとめて買取契約なんかもしてスィーパーを回している。因みにクリスマスやら正月が近い日本では箱福袋なるものが売り出され階層毎で値段が跳ね上がっていく。と、言うか15階層超えた所の箱が500万からって高くない?
未開封を売りにして完全ランダムだとしたとして、寿命の薬2〜3年物が出ればトントンか取り返せるが、武器と金貨や資源だけだとマイナス確定だし、どこの層に向けての福袋なのかイマイチわからない。ただ、予約はあるみたいなので金持ちが買ってるのだろう。
「こんな事なら旗の写真残しとくんだった・・・。」
「クロエ本人がデリートしちゃいましたからね。でも、各国の基地に行けば見られるから価値としては・・・。手元で見られるって利点は大きいですけど。」
「ギルドを警邏してても旗の写真は売らないのかって声は聞こえてきますからね。」
「俺はたまに秘蔵のブロマイドがないか聞かれるな。もちろん、目に焼き付けて盗撮とかはありませんよ?」
「そこは盗撮したって豪語して僻地に追いやられろよ!なんなら今からでも宇宙行って来い宇宙!はぁ〜、取り敢えず写真集用の衣装は適当にギルドで公募して選ぶとして、クリスマス用のサンタコスは何パターンか魔法の玉にでもして記念品にしようかな?写真で残されるよりも魔法の方が跡形もなくなるし。」
「それだとかなり高額になるのでは?」
「元手ただだからいいよ。毎年配るわけでもないし、適当な個数作る・・・、と暴動が起きそうだから他のギルドにもクリスマス記念の展示品として配布かな?個別に渡すのは身内とかに絞ればいいだろうし。まぁ、いらないならいらないで送らないだけで済むしねぇ。」
大分だけに展示すると仕事が増えるので、配るなら各県のギルドやら支部まで行き渡らせよう。大分ギルドは物見遊山的な人も多いし、本来仕事の場なのだが日本国内を回って路銀が尽きたから稼ぎに来たと言う人も少なくない。そんな人を拒否する術はないし、なら最初から配った方が人は分散する。流石に縮小営業してるのでこっちもマンパワーが足りないんだよ!
「47着サンタコスとかします?各県のシンボル的なものを入れるとか。例えば名古屋なら金の鯱にまたがる的な。」
「それはめんどいからしない。そもそもそんな各県の特色出すと行脚する人が出てきそうだから迷惑がかかるよ。無難が一番いい。獣人もいるからケモミミ付けるのは妥協するとして、普通のサンタコスでいいよ。」
そんな話をして適当な衣装にちゃっちゃと着替えて撮影と言うか魔法の玉を作る。前にクラッカーとかミラーボールも作ったし、アニメーション的に動く方がいいと言われて箱から飛び出すような仕草をする。ふと思うが、仕事をしてるはずなのだがこれは真っ当な仕事なのだろうか?何気に昼過ぎまでかかって午前中は撮影で終わってしまったが・・・。
もちっとこう・・・、専属モデル雇うとかの方が経済を回すのには役立ちそうなんだけどな・・・。ただ、テレビ関係の知り合いって東海林しかいないし英国から東海林が帰って来てからちゃんとインタビューも受けたが、その後も各地を飛び回っている様だし、この前はフリーになって各社と提携して全体的なインタビューアーと言うかリポーターになったなんて事も・・・。
確かに名刺持った東海林にしかインタビューを許してなかったから、各社から不満の声が出たなんて事も書かれてたかな?でも、全てを許すといつも誰かが待ち構えている可能性もあるし、仕事が滞る方が問題が出る。何にせよ東海林には頑張ってもらおう。
東海林は種子島にも来てきたようだが、その時はバッティングしなかったし本人が宇宙リポーターとか言ってたから、下手したら各局が協力して宇宙に送り出すんじゃない?知らんげとさ。そんなゆるい仕事をしていると増田から電話が。
流石に今から宇宙へ行けとは言われないだろうが、この時期になんだろうか?本部長会議議事録は政府にも提出して獣人のゲート入り等は問題なかったように思う。アフター5動画の方も好評で大会後に本部長となった組の強さも見せられた。ただ、宮藤よ。俺はそんなに手厳しい訓練なんてしてないぞ?
寧ろ現在進行系で毎晩魔女と賢者相手にやり合ってる方が大変だし、ほぼ勝率ゼロは応えてくる。と、言うかね?地面まで外されて真っ暗な中漂いながら絶え間ないオールレンジ攻撃を2人からされて捌き切るとか無理ゲームに近い。そう、無理ではなく近いにまではたどり着いた。
多分見かねて手を抜いているのだろうが、どうにか即死は無くなったし原点回帰と言うか絶対に受けてはダメと言う攻撃も分かるようになり、その逆に受けても凌げるものも分かってきた。まぁ、基本的には360度からの飽和瞬着攻撃がメインなので回避一択なのは多分原点回帰だろう。嫌らしい時はそれさえも目眩ましにしてボコボコにされるのだが・・・。
「もしもし増田さん?2日程早いですがメリークリスマス。なにか亜沙美ちゃん用にプレゼントでも欲しくなりました?」
「もしもし、プレゼントは私から贈るので大丈夫です。今回お電話差し上げたのは2点ほどお伝えしなければならない事があったからですが、時間は大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。先ほど撮影が終わったばかりですし。」
「撮影と言うと写真集ですか?部数は少数で構いませんが少なくとも数千部はお願いします。そして、なくなれば次を用意して継続的に設計図の買い取り促進に貢献するシステム作りをお願いします。」
「なんかふざけた事言ってますがそんなに何回も作りませんからね?今回の撮影はギルド稼働記念+初のクリスマスと言う事で各ギルドに届ける物です。それで、伝えなければならない事とは?」
「1点目は日本国内におけるスィーパーの地球離脱規制法案です。」
「地球離脱規制法案?要約すると勝手に宇宙行くなって話ですか?まぁ、飛行ユニットの開示が行われたので先手を打つには多少遅いにしても、法案を通すならこのタイミングしかないでしょうね。それがギルドと何か関係が?」
「分かっているでしょうクロエ。パワードスーツも飛行ユニットも扱う大多数はスィーパーで、そのスィーパーの管理はギルドで行っています。今の所まだ個人の手に飛行ユニットが渡ったと言う話しはどこからも上がってきません。しかし、地球の中を飛ぶのと宇宙へ勝手に行くのは理由が違う。端的に言うと勝手に個人単位で宇宙開発されても困ると言う話です。そもそも、大多数が勝手に空を飛ばれても困るのは困るのですが・・・。」
「流石に飛行機に接触したら両者共にただでは済まないでしょうからね。しかし、勝手に宇宙開発はどうでもいいとして、本質的に怖いのは勝手な国境越えでしょう?協定拡大と犯罪者はその国で裁くと言う話しが出た以上、そこまで目くじら立てます?」
人と飛行機が衝突したとして浮かび上がるのはトロッコ問題。車と人ならまだ両者が助かる道は無数にある。しかし、飛行機と人となるとどちらかしか助からないケースも出てくるだろう。特に飛行ユニットってパワードスーツやらロボテックスーツに使う前提の人が多いし、そんな金属の塊が飛行機と衝突したとして、よくてコックピットのガラスが割れて中に入り込む。悪いと跳ねられて尾翼や翼が損傷して墜落やら、タービンエンジンに巻き込まれれば空中爆発なんて事も・・・。
バードストライクならぬ空中でのヒューマンストライクって今までは考えられない事象だし、勝手に宇宙開発よりもそっちの方が怖いと思う。最悪人をひき逃げして大多数を助ける様に飛行機の装甲やらを厚くする?その場合更に強いエンジンとかを開発しなければならないが・・・。
「目くじらを立てて厳しくするのが政府の方針です。特に宇宙人を呼び込みたくない国としては、政府主導の機関やラボ等の開発チームが計画性を持ってする分には許容出来ますが、個人単位で接触して更にゲート外のモノを持ち込まれても困ります。」
「う〜ん・・・、言いたい事は理解出来ます。しかし、現実問題として管理は不可能に近い。各企業が今か今かと待ち構えた末に開示されて、一斉に走り出した所ですよ?日本は法治国家で資本主義経済で企業国家としての側面も持つ。企業を経営することと国をつくることは同じで、企業国家論では財源をどのように使うことで、豊かな国となり国民を幸せに導くのかを考える。つまり、大多数が欲しいと言う以上、企業としては売らないとは言えない。そして、それを買った大多数がどこで飛び立つかは誰にも分からない。」
「政府側としては高度制限案がでています。飛行禁止区域をパワードスーツにインプットするのはもちろんとして、限界高度を定めパワードスーツに識別番号を割り振るとも話していますが?」
「無理でしょう。勝手に宇宙に行くのを止めたいなら高度制限案は有効ですが、海外に行きたい人間が飛び立って排他的経済水域を抜けて他国の領土に入ったかどうかを確認してからしか捕まえに行けないですよ。それに何より警官とチキンレースして警官ごと海外に行ったらお互い不法入国になる。問題はそれだけではなく、フライトチケットやビザを持って勝手に飛んでいく人もいます。現実的に考えるなら行った先の国で捕まらない事を祈るくらいしか・・・。」
物理的な制約が今まではあった。人は渡り鳥ではないので地続きでもない限り徒歩で島国には行けないし、泳ぐにしても限界があった。だからこそドーバー海峡を泳ぎきれば記録者としてチームで名を残していたし、鳥人間コンテストは頻度は少なくなったが行われていた。しかし、今だとスィーパーなら遠泳で韓国から日本に来る事も出来るだろうし、鳥人間コンテストなら機体が壊れるまで飛び続ける事も出来る。
そんな状況下で何かに制約を付けるのは実質不可能に近いし、管理しろと言われても精々飛び立つ所を決める事や飛行機の飛行経路に侵入しない事を約束させるくらいだろう。実際、識別番号付けるならオープンチャンネルでも作って呼びかけさせた方が遥かに事故は減りそうだ。
「そこまで行くと国境と言うものが機能しなくなってしまう。」
「既に機能不全で末期でしょう。ゲート内セーフスペースに国境はなくどこもかしこも人種の坩堝となり、国と言う籠が開け放たれれば翼を持つ者は宙を舞う。これから先、求められるのは個人のモラルですよ。仮に管理をすると言うなら低学年からの教育で道徳やら他人とのコミュニケーションを学ぶ比重を増やすしかないんじゃないですか?」
「既に国家解体レベルの状況であると?確かに有識者からは国家存亡と言うより、これから先国家統合が起こり産まれた国への帰属意識のみが国と言う形を作ると言う意見も出ていましたが、それはまだ先の事であるとされました。」
「されたとしても現実的にほぼ無償でハワイに行けるなら行くでしょう?私だって寒い時は沖縄に行きたいし、暑い時は北海道で涼みたい。」
冬になって泳ぐにしても温水プールくらいしか泳げないし、狭い室内で泳ぐくらいなら沖縄やらハワイまで行って泳ぎたい。人はわがままなので手段があれば試すし、それが時間と初期投資はかかったとしても永続的に手元に残るなら間違いなくテレビで見たからちょっと来たなんて事もする。
おニューの水着には興味ないが、ホノルルビーチでのサーフィンには多少興味があるしジェットスキーで引っ張って貰う様なアクティビティも試してみたい。今年の夏は惜しかったな、見るだけで乗り逃してしまったし。
「その程度の思いで国境を越えると?そんな遊び感覚で越えてしまうと?」
「日本人ですからねぇ。元から国境と言う意識は低いですし、海外行くならパスポートが必要と言う事は知っていてもそれがどの程度で取得出来てどれくらいの料金がかかるかを正確に知っている人は少ない。いいですか増田さん。相手は官僚や役人や要人ではない一般人です。なら、こんな言葉があるでしょう?赤信号みんなで渡れば怖くないってね。日本人がしなくても海外からそんな話が舞い込めば私もとなると。それなら行ける国を指定する方がまだ効率的で国家間の法整備も政府主導で行える。」
「これもまた、時間との勝負ですか・・・。松田さんにはクロエからの意見として届けましょう。もう1点の話しはExtra誕生の話しです。」
「Extra?眉唾やら騙りですか?職を騙ってもいい事はないですし仮に誕生したなら大々的に報道するのでは?」
突然変異Extra。賢者の見立てではかなり先にならないと誕生しないと言う話だが、誰にどんな適性があるかは分からない。なので切って捨てる訳にもいかないが、同時に騙りだとすれば本人は相当に追い詰められる。言い方は悪いが下手すると俺と同じ事を求められて行き着く先は最前線。
それも護衛等はなく1人で延々と戦わされた挙句に弱ければ文句を言われる事も・・・。後から騙りでしたと言うのは簡単かもしれないが、それに国なんかが絡み出すと後には引けなくなる。う〜ん・・・、増田から話が舞い込むならやはり騙りかな?鑑定師の腕次第では中位でも鑑定出来ない事もあるし。
「ええ、私達もそう考えています。出たと言う情報だけで詳細は一切不明。確認を取りますがクロエはExtraと出会った場合相手がExtraであるとわかりますか?」
「Extraであると分かるか?う〜ん・・・、出会った事がないのではっきりとは言えません。ただ、Extraの武器は透明です。私のキセルがそれに該当しますが、中で煙が揺蕩っているので遠目には白い武器と見えるかもしれません。仮にそのExtraと言った方の武器が白なら上位の可能性はありますね。」
「ふむ・・・。中位で灰色、その先が白でExtraは透明になると。判断材料として報告しても?」
「してもいいですがあまり意味はありませんよ?そもそも武器を抜くまで判断出来ないなら疑う他ありません。そもそもその話はどこから舞い込んだんです?」
「それが・・・、我々としても不確かな情報としか言えません。現在政府としてネットの書き込み等も含めアンテナを高く張り巡らせていますが、まことしやかに囁かれる噂としてExtra誕生と言うものがあります。実態不明のネットミームと言われればそれまでですが、一応何らかの見分け方があるならそれもまた判断材料になればと・・・。」
ネットミームかよ!まぁ、誕生したなら仕事押し付けで悠々自適も夢ではないのだろうが、原生生物から生物とか人間とか言われるくらいまでに進化しないと多分Extraは出ないんじゃないかな?魔女達の性格を考えると暇人で観測者で観客だが、無闇矢鱈と力を貸すような輩とも言いづらいし、何より職業システム的に考えていけばいきなりExtraと言い出すよりも新しい職が出たと賑わう方が先だろう。
多分、職は全て出ていない。何故そうなるかと言われれば上位の名も明かされていないし、発達したからこそ出だす職もありそうだから。まぁ、憶測でしかないが集約されるのは戦闘手段として使えるかどうかとか?
「一応、私の方でも情報を洗ってみましょう。正直Extraがいようがいまいがあまり関係はないですが。」
「政府としては優位性と言う面が揺らぐので仮に真実なら早めに報告をお願いします。では。」
「ええ、では。」
電話を切りネット接続へ。必要な単語はExtraと書き込まれた各言語・・・。流石に膨大過ぎるので条件を加えて行くが、あるのは噂レベルでどこにも真実と見受けられるようなものはない。まぁ、まだ始めたばかりなのでこれから本腰をいれるかな?
流石にネット接続されてないものは探せないし、Extra誕生が嘘なら自爆しておしまい。さてさて隠し玉として本当にいるのかな?




