559話 年末は変なテンション 挿絵あり
「飛行ユニット開示から人が増え続けてますね。ロビーもごった返してますし。」
「俗物的だけど今が一番売れば高値がつくからね。依頼を出すにしても取ってくるにしても世界規模なら争奪戦になってるんじゃない?」
出勤してマスタールームに行くまでに通り過ぎたロビーは、これからゲートに入るであろう人でごった返していた。師走で年越しをゆっくりと過ごしたい人は今が踏ん張りどころだろうし、自身を強化したい人も飛行ユニットと言う物を早く作って慣れたいのだろう。高みの見物組と言えば飛べる人達となるが、商品価値という面では見過ごせないし貨幣価値が崩壊していない以上、買い物するなら何らかの手段でそれを得る必要かある。
ただ最近はその貨幣価値もバグり気味で、売る方も値段を付けあぐねているなら、買う方もその値段が適正か考えあぐねている。実際欲しいものならある程度の金額を出すのは仕方ないが、要らないものには財布の紐を締めるし、投資と言う面では配当まで生きていられるかと言う疑問も出てくるので企業としても投資家を集めつつ、より売れるだろう商品開発に重きを置く場面が増えた。
例えば強いスィーパーや有名なスィーパーに新型の撮影機材を無償、無担保、弁償金なしで料金を払いモニターになってもらい使用感と撮影感の意見を集めてから正式版をロールアウトするとか。前なら原材料の確保や半導体やモーターの購入等々目が飛び出るような金額になるであろう物も、豊富な資源がある事を誰もが知る所になりアホみたいな金額は提示されない。
その代わり技術料に比重を置くようになっているので、最新型と銘打たれればそれなりの金額となる。まぁ、配信用の機材関係はそこそこ力を入れつつと言う所が多く、売るならパワードスーツ系で儲けようとする企業が多いかな?
大まかな形が決まっているパワードスーツやライン生産品は安くても金貨3千枚スタートが多く、その代わりマイナーチェンジされればそこそこの値段で改修作業も企業がしてくれる。その代わり鍛冶師が手を加えると企業としてもサポート対象外とする事が多いのでスィーパーとしても考えどころだろう。
まぁ、その企業も売れ筋なら生産ラインを残すが、あまり売れないと踏んだらさっさと別のパワードスーツを開発すると言う方が多い。実際選出戦で展示されたパワードスーツはほぼ生産ラインを外れてしまい、その時に買ったスィーパーは鍛冶師に改造依頼を出すと言う流れだとか。
その代わりと言ってはなんだが魔法糸と調合師の糸はかなり安定的な生産が見込まれ、衣類メーカーはそれを元にスィーパー向けの衣類を販売したり、ゲート内でもカワイイを追求しようと装飾師確保を頑張ったりしている。
有名な装飾師となると娘の遥になるのだが、遥の場合シンプル・イズ・ベスト路線なので男女共に人気があり安定した機能性と防御性に定評がある反面、配信者からすると画面映えと言う部分に多少の難があるので、他の衣類と合わせて華やかさを出したりしている。
制服効果は未だ健在だし、チャイナドレスでモンスターを殴り倒す配信者やら、いつの間にか騎士団規模にまで上り詰めた配信者やら、舞踏会に行くようなドレスで魔法を乱発する配信者等々、今年のコミケのコスプレは更にバラエティー豊かになるかもな。ん?ビキニアーマー?たまにいるよ?なんと言うか・・・、怪我する前提なら破きにくい服を着るよりも怪我した部位が分かりやすい方が効率的と言う考えらしい。
個人的には着るつもりはないが、ゲートに入ったら上半身裸の野郎もいるし本人がそれでいいならいいのだろう。
「企業からの依頼も相当増えてますからね。ただ、全部出来高制って言うのがスィーパーとしては痛そうというかなんというか・・・。」
「安いけど最低保証額はあるし箱は譲るって契約が主だからスィーパーとしてはついでに回収するってのが主になるんじゃない?実際スィーパーもそれぞれの目標で潜ってるし。」
「不老とか不死狙いの方も多いですからね。発見出来れば即引退とか。」
「多分そんな人は直ぐに舞い戻ってくるよ。引退詐欺じゃないけど寿命の薬買ったり遊び回ったりしてると収入がなければ数年で資金が底をつく。ブランクが怖いって人は大金が入っても定期的にゲートには入ってるしね。」
「確かにブランクも怖いですけど物価バグも怖いですからね。安いのは安いですけど高い物は本当に高いですし。受け渡し用の魔法なんて使い捨てなのに平均相場額100万からですよ100万。内容的にはそこまで有用か悩みますけど・・・。」
「魔法販売ねぇ・・・、怖い所でもあるけど買う人は多いからなぁ〜。ガンナーとかはそれで魔法を撃つイメージ作ったり、切り札の魔法を探したりとか。そもそも魔法の受け渡しが出来る人の魔法ならモンスターに大ダメージも期待出来るし、どんどん増えて攻めてくるモンスターからの離脱用に欲しい人もいるよ。」
奥に行けば行くほどモンスターは増えるし、上層と中層の境界付近は強いモンスターも多数いる。そんな中である程度安全に離脱する事を考えると、広範囲を焼き払う等して目眩まししつつ近接組なら全力ダッシュか、身体能力が上がってない組は中々出ない上昇アイテムを使って1階層上昇して仕切り直す事も選択肢に出てくる。
まぁ、上昇アイテムは階層を上がるだけなので下手すると1つ前の階層のモンスターの目の前に出て即戦闘再開なんて事もあるし、安全性を考えるなら5階層上昇する物を見つけて保険としたい。因みに民間組も最近では36階層を超えて40階層付近まで行けているようだが、海外とは違い命を大事に思考が強いせいか足踏み状態。
逆に海外組は何処も奥を目指す傾向が強くガンガン進むが、同時にノウハウを渡す前に死ぬ事があるので後進育成と言う面では国が主導する部分は大きい。ただ、日本からギルドのノウハウ持って行ったから多少は落ち着くだろう。まぁ、不死薬のおかげでゴタゴタしてる所はしてる様だが・・・。
「ツカサの魔法ならかなり価値が出そうですよね。こう・・・不可能を可能にする的な。」
「そもそも売る気もないけどね。あるとすれば記念品とか身内に配るとかかな?」
「ならクリスマス用の記念品作りましょう!ギルド稼働して初めてのクリスマスですし!」
「え〜、どうせサンタコスとか言うんでしょ?でも、サンタコスか・・・。」
「えっ!?そこ嫌がらないんですか?前ならこう・・・、性に合わないとか言ってやらなかったですけど。」
「性に合わないけどソフィアの事を考えるとウィルソンさんにクリスマスカード的なモノは送らないと怪しまれるし、疑われる勝負所はここ2、3年だと思う。なら、そんな写真も必要だろうし何より写真集の話もね・・・。」
「「話しは聞かせてもらった!」」
「だ、誰だ!」
いてもいなくてもいいのにこんな時だけ耳が早い。扉の前には柊と青山が変なポーズを取りながらいる。うん・・・、本当に青山は聞かなくていいよ。奉公する者と意気投合してるせいか最近そつなさに補正がかかってると言うか、俺の好みを外れる様なチョイスが減ったと言うか・・・。
「メイクの装飾師:柊見参!」
「奉公の使徒:青山推参!」
「あ〜、2人とも職務に戻りなさい。今は業務中です、雑談は控えて業務に戻りなさい。」
クリスマス前で年末も近いのに何でこの二人は平常運転かね?確かに偽装工作と写真集の為に写真は必要だが、出来れば写真集の写真は見合い写真みたいな無難なものがいいな。今見返しても前回作った写真集はやり過ぎな気もするし・・・。多分あれだろう、卒業式間近で妙なテンションになって恥をかきすてた的な?
ただ色々と使い道のある写真集だから作らない事には始まらないし、自分で自分の写真を撮るにしても趣味が偏って黒い服一色になるだろう。そうなるとなんだが申し訳ない気もしてくるんだよなぁ・・・。
「えっ?これも業務ですけど?」
「俺はそこそこ自由が利きますが?」
「柊さんはいいとして青山は帰れ。女性の下着やら服を選ぶんですよ?」
「純粋な男性の意見は必要では?もらう相手としても男女共にいるじゃないですか望田さん。」
「柊さんもよくないだろカオリ・・・。」




