555話 種子島へ 終 挿絵あり
斎藤達が管制室に行く映像が流れているが、外部からの撮影なので建物に入った時点で映像は途切れて景色の映像へ。見応えと言う部分では天と地の間を映しているのでそこそこ映える。多分内部カメラもあるのだろうが、そこは研究者としても写せない部分に関わってくるので意図的に切っているのだろう。
一応、斎藤や他のチームがかけるメガネは小型カメラ内蔵式らしいが、流石に全世界にそれを見せるかと問われれば技術流出も怖いしね。ただ、これも後数年もすれば誰しもが知る物になるのだろうか?
飛行ユニットの開示は成され後は建造するだけと言う段階に世界的にも来ているし、程度の差こそあれ作るのが不可能と言う国は少ない。まぁ、基礎科学的な部分での問題はあるにしても技術交流自体は滞ってないしね。ただ、国としても技術は重要な取引材料になるのでおいそれとは広めないかな?
『うわっ、回線オープンになってる。さっきの会話も聞かれたかな?はじめまして地球外にいる斎藤です。』
『アニソンの著作権で訴えられないか心配な藤でござる。誓って故意ではなく事故で放送されたので平にご容赦を!』
「著作権の話は私が収めておく。歴史的な快挙の場だからもう少しこう・・・、威厳と言うモノを持ってだね。いや、時間が惜しい。斎藤博士、地上では現在飛行に関しての記者会見を行っているが、映像はそちらに届いているね?」
『ええ、この試作機は大型通信システムを搭載して地球と宇宙との通信ラグゼロ化も目指してます。そのおかげか今の位置でのラグはなく、理論的には周囲を飛ぶパワードスーツや成層圏付近で静止するアンテナ等を介して通信システムを構築していけば月付近でもノーラグ化可能だと思いますよ?そうしないと藤くんのやる気バロメーターに響きますし。』
『アニメはリアルタイム!録画を見直すのも良いでござるが、見られるならどこでもリアルタイムで見たいでござる!』
会場では失笑も聞こえるし田辺のこめかみには青筋も浮かんているが、不便をなくすと言う意味ではありなのかな?実際宇宙と地球で通信すればラグも発生するし、やり取りするデータ量にも限界がある。それは何故かと言われれば距離の問題もあるし、増幅器が置けないと言う事もある。しかし、試作機は今成層圏付近で静止して見せ、通信システムを構築してしまえばラグゼロ通信と言う快挙にありつける。
発明の父が発想とするなら母はきっと不便だろう。見たいが遅れたら嫌だ。だからリアルタイムを追求する。初の試みなのでどこまでなくせるかは別として、情報のやりとりがリアルタイムで出来るならそれにこした事はない。まぁ、それを笑うか笑わないか?知識人なら笑えないだろうな。どんなにデータ形式で送るのか、或いは通常放送を傍受するのかで多少は変わるものの、約30分の動画を動画データをノンリスクノーラグでやり取りすると言っているのだから。
「それよりも今の時点で何か世界の皆さんに話す事は?加速による地球の重力突破方式ではなく飛行ユニットと言う未知の技術を使用しての地球離脱、話せない部分は多数あるとして話せる部分を何か。」
『話せる部分・・・、おお!基本的には外殻以外にも歩いている地面部分にも飛行ユニットを搭載して内部では地球上と同じ1Gを発生させています。なので無重力体験は出来ません。その代わり普通に歩行したりは出来ますが、ユニット同士の反発を利用して大ジャンプや擬似的な飛行等も可能ですね。後はこれからの検証と言うものになりますが無重力下に置ける人体への影響をどこまで無効化出来るのか?食料は指輪にあるのでそこまで重要ではないですが、長期滞在を見越すなら筋力量の低下や宇宙線への検証も重ねないといけませんね。』
『拙者は活動領域方面でござるなぁ〜。船外活動に置ける魔法の劣化具合等をメインで任されているでござる。そうは言っても宇宙に電気は多数あるし目新しい発見があるかと問われれば微妙でござるなぁ。ただ、嫁以外の人形を使いどこまで遠隔活動出来るかは調査するでござるよ!』
「この試作機に対する開示可能なデータは?世界としてもその辺りに注目が集まっている。何1つ開示できないわけでもないでしょう?」
『開示可能なデータ?試作機の?藤くん何か良さそうなのってある?話さなくていいなら何も話したくないけど。』
『アレはどうでござるか?宇宙空間で外と中の出入りが割と簡単だという話。』
『それしちゃう?設計上、外部からの侵入は特定経路で行いますが、不凍液流体層を通過すると言う話になるので液中を泳いで待機した後に酸素ゾーンに侵入すると思ってください。従来のドッキング方式だと密閉状況等が不安と言うか酸素漏れを懸念する場面でもありますが、元から酸素が無い状態で侵入し、その後酸素を注入しつつ排液するので漏れ等は一発で分かりますし、大型化宇宙船のドッキング方式は今回調査外として考慮していません。ただ、それのプランニングも何通りかあるので小型模型でも作れれば試していきたいですね。』
『駐車場方式とかも初期案ではあったでござるな。流石に強度面の不安からボツになったでござるが。』
『流石に通路が折れたりする懸念があるからね。ただ、試作機を大型化すれば内部で航空機が飛ぶ姿も見られるだろうし、飛行ユニットを節約するなら日常的にパワードスーツを着装して活動し、住居区画だけ引力下で生活すると言うのもありかな?どちらにせよ飛行ユニットそのモノはモンスターの素材や出土品からしか作れないから大量生産なんて言われてもまだ先になります。それでは時計を見て下さい。私の時計では今15時ちょうど、アナタ方の時計は何時ですか?私達はもう・・・、完全に宇宙にいます。それではまた!』
斎藤が通信を切り映像が切り替わる。そこに映し出されるのは地球で斎藤との通信速度誤差は約5秒程度。つまり、ほぼリアルタイム通信は実験されここに来た記者達も段々とその凄まじさが分かってきたのか各所に連絡を取り出す。
「さて、私はこれで。」
「もう行かれるのですか?まだ記者からの質問はあると思いますが。」
「元々出席する予定のなかった人間です。なら、あまり私が口を開くわけにもいかない。そもそもこの功績はラボの人間のものですからね。では。」
そそくさと記者会見の現場を後にして控室へ。テレビもそうだがネットの方の反響が凄いな。1つは藤の嫁について。大会を見て造形師を知ればノーヘルで宇宙を飛ぶ和服美人が人間でない事は分かる。分かるのだが、それを実運用レベルでここまで制御しているとなると話しは変わってくる。
生命のない兵士が空から悠々と降りてきて国を蹂躙する。どんなに対空迎撃に重きを置こうとそれが子供ほどのサイズなら完全迎撃は不可能に近く、対空爆破で凌ごうとも今度は鉄の雨が自国に降り注ぐ。もっと言ってしまえば最初から本丸ではなく無数のデコイを盾に本命を離れた地点に降ろしてもいい。
結局のところ藤の能力限界が分からないから騒がれるとも取れるが、通信設備まで作り出したから話しがややこしくなり、その施設を経由すれば地球上のどこへでも襲撃可能なのではないかと盛り上がっている。
2つ目は飛行ユニットの取り扱いを世界的に早期に決めるべきと言う声。試作機浮上と共に中露及び国内でも技術開示は成された。つまり、飛行ユニット技術は秘匿されたものからオープンなモノに様変わりしたのだが、そこから出てくるのは激化する生産競争にモンスターの争奪戦。
飛行ユニットの核は光るディスクの様な物なのだが、これは基本的に飛行型モンスターを倒し素材としてバラせれば回収・・・、出来なくもない。そもそもモンスターを倒すのにはクリスタルを抜く必要性があり、ならそのクリスタルは固定位置にあるかと聞かれれば、モンスター内部を動き回るのでモンスターを綺麗に倒そうと思えば外装を破壊して、あるのかないのか分からない内部に手を突っ込むなんて無茶をするか、大人しく切り分けて行って逃げ場を塞いでいくしかない。
しかし、片腕やら両足っぽい所を無くしたくらいでモンスターは止まらないし、クリスタルが抜かれるまでは武装が残ってれば殺しに来る。だからこそ素材の持ち帰りは難しいし、飛行型も羽根っぽいので飛んでたらない事もある。狙うならパチンコ玉だが、アレはアレで不定形浮遊金属っぽいのでクリスタルを抜くとなるとかなり手間だとか。
まぁ、回収度外視なら全損させればいいよ。破片でいいなら回収出来るし鍛冶師なら寄せ集めでもどうにか形に出来るから。ただ、小銭なら使うけど紙幣は崩したくないと言う人がいるように、人というモノは何故か最初からキレイにあるものに惹かれるので破損なしなんて言う無理なオーダーも増えそうだな。
と、話がそれたが飛行ユニットも立派な戦略兵器足り得るのでせめて保有数くらい登録した方がいいやら、製作方法を開示されても作るまで漕ぎ着けないなんて話もあり、販売を望む声も多い。何にせよ中露は今頃血眼でゲートを進んでるんじゃないかな?斎藤達がやってる事って中露が夢見た権力者がいるべき場所作りなんだろうし。
「おつかれぃ!あんまり騒ぎはおこんなかったにゃあ。」
「いえいえ、私と神志那さんか口を開いたらどんどん情報漏洩しますよ。例えば試作機はケイ素が主な材料なので、使い終わればそのままシリコン化して超大型集積回路にする案とか、量子コンピュータ案とか。まぁ、お役御免になった後はどうするか決まってるんですけどね。」
「ん?解体じゃないんですか?それとも記念オブジェとか?」
「なんか藤君にあげるらしいよ?宇宙デリバリー案とかあるし、こう・・・、回復薬生産プラントを組み込んだら宇宙から地上にドーンと。」
心強いが何やる気だよ。てか、藤のドール王国が領土持っちゃったよ!誰発信の案かは知らないが、文句とか出ないのかな?いや、試作機だからこそ真人間外れてそうな人に譲るとか?会見時は何の不備もない様に思えたが、実は色々アウトな部分がないとも言えない。
例えば酸素の発生が停止すれば藤以外は生存タイムリミットが出てくるし、宇宙線やら放射線に強いスィーパーでも暴露され続ければ不調になるかも。それだけじゃなく、仕事オンリーでチームで過ごすにしても精神が参らないかと言う点もあるな。
なにせ宇宙なので喧嘩しても同じ空間には居続ける事にはなるし、パワードスーツ着て外遊するにしても離れすぎて見失えば永遠の孤独に苛まれながら死ぬ。まぁ、選ばれた人達だからその辺りの精神鑑定もしてあるだろう。宇宙遊泳自殺と言うか外宇宙旅立ち自殺とか斬新すぎで保険会社も困るだろうし。
「あっ!ドーンで思い出した!」
「なにをですか?何を。明らかに碌なことじゃありませんよね?」
「大丈夫、大丈夫。クロにゃんじゃなくて橘さんに関係あるやつだから。」
「橘さんに?またパワードスーツ着て宇宙に来いとか言うんじゃないでしょうね?いくら橘さんが不死身のサイボーグでも・・・。」
『聞こえてますよクロエ。不死身は貴女でしょう?それで神志那さんもどうしました?今飛行ユニットの情報開示で至る所でサーバー負荷がヤバいんですが。』
「なら手短に言うね。親方!空から女の子が!以上。」
『リアルラピュタはトレンドぶっちぎりましたが何ですかそれは!』
「宇宙行った藤くんからなんだけどさ、フェムが帰るって聞かないからトランクに詰めて宇宙からの宅配実験に使うって。受け取ったらサインよろしくね!」
『待ちなさい!それは何時何処に来るんですか!?下手すると恐怖新聞案件ですよ!』
「大丈夫だって、彷徨う第1ドールが襲撃するだけだから!じゃ!」
橘が掃除とか叫んでいたが、力関係的に橘はフェムより下らしい。同一精神の産物である以上、対等か本来なら橘が上のはずなんだろうが、どんな精神加工したらそうなるんだろ?いや、既に独立して長いから別物なんだろうか?う〜ん・・・、例えば脳を培養して別々の身体に封入したとする。なら、それに付随する精神は同じものになるのか?答えは違うだろう。
確かにスタート直後は同じかもしれない。しかし、身体が変われば目線も感じ方も生活様式もまるっと変わってしまう。橘とフェムの場合それは顕著で大人と子供、人と人形、守る側と守られる側に分かれる。なら、正しくフェムは1人の新人類なのだろうか?
「難しい顔してどったの?」
「サテラビューと言うゲーム機を思い出してましたよ。」
「古いやつですね!確か触れ込みでは宇宙から新しいゲームが降りそそぐとか。確かひっそりと2000年頃にサービス終了しましたけど、その頃ってもう次世代ゲーム機とかインターネットの普及とかも相まって実働当初から・・・。」
「降ってくるのはゲームじゃなくてフェムだけどにゃあ。でも、流れ星にならずにゆっくり降りてくるからそれをDL時間と思えば?」
「何にせよ制御不能で燃え尽きない事を祈りましょう。下手に壊れるとフェムは呪の人形にクラスチェンジしそうですからね。」
「藤くん曰くトランクには飛行ユニット取り付けてるるし、フェムはエコーボール内蔵で勝手に飛ぶから大丈夫なんだってさ。私が言うのもなんだけど完全にオーパーツだよね?」
「それは今更ですよ。他人のイメージから作られた産物が全て本人以外に理解出来るわけはない。多分、これからもっとわけの分からないものは出て来ますよ。」
あの試作機だってそう。理論やらを聞けば理解できなくもない。しかし、それで作れるかと聞かれれば頭を悩ませ、現物を見せられても頭を抱える。でも、車の仕組みを全て知らなくても運転は出来る。多分、これから先はそんな使えるけど分からないものが増えていくんだろうな。




