553話 種子島へ その4
「ただいま浮上を開始しました!これは試作機と言う話ですが、ゲート外で初となる飛行ユニットによる大規模空中生活圏及び、宇宙での生活スペースとなる新たなる建造物・・・、仮称としてSky eye Skyと呼ばれています。今、ゆっくりとですがそれがパワードスーツを着装した方達と共に空に向かって登っていきます!」
管制室に映し出される試作機、仮称スカイ・アイ・スカイ(s・y・s)は報道陣の目やネットの盛り上がりとは裏腹にゆっくりと上昇している。そして護衛として周囲を飛ぶパワードスーツはこのまま離脱して宇宙まで行くらしい。まぁ、中身は人ではなく藤の嫁と浦城さん達なので大丈夫だろう。
これもまた見る人が見れば幻想的な光景として目に映るかもしれないが、中身は機械仕掛けなので新たに幻想科学なんて言葉が生まれるかも。まぁ、いい言葉だよな幻想科学。魔法と科学は接点という面で反発的なイメージを持つ人は多い。それはどうしても形としてあるモノと空想としてあるものが交わりにくいから。しかし、魔法は衆目にさらされ受け渡しや杖さえあれば魔術師でなくとも使えるし、科学も急速に発展して魔法の様な科学と言われ始めている。
「惜しかったにゃあ。まぁ、そのうち宇宙行けば色々分かるし、見通せる範囲で鑑定すれば地球の近くにいる宇宙人も観察出来るかも。」
「見ても接触と言うか対話しようとしないでくださいよ?何があるか分からないんですから。」
「その点は注意してますね。ラボとしても現段階では宇宙開発はしてもそれ以上には手を出すきはないですし、何よりコミュニケーションの仕方が独特で斎藤さんも今の所否定派です。米国ラボとしても非接触を支持して足場固めを推奨してます。まぁ、NASAは範疇外なので分かりませんけど、大統領としても会議でのスタンスは否定なので暴走しない限りは大丈夫かな?でも、S・Y・Sがガラスで出来ているから何らかの形で言語を発していると取られたら寄ってくるかもしれませんね。ただ、姿が見えない以上、入りこまれても知るすべはないですし早急に知るすべを調査した方が?」
「「「ウぉぉぉーーーーーーー!!!!!!!!」」」
神志那と山口と管制室でモニターを見ながら話していたが、高度が上空3000m付近に差し掛かると歓声が上がる。順調に成層圏到達か。この位置で静止する必要はないが表面を冷やすためか少し止まるそうだ。さっきの雄たけびはNASAとJAXA管制員の雄たけびで順調に上昇する試作機が成層圏に到達した事を祝ったと言うかその姿に興奮した為。
報道陣の手前かなりゆっくりと上昇しているが、本来はもっと早く上昇するらしい。なら、わざわざお披露目の為に遅く飛ばしているのかと言えばそう言うわけではなく、周囲のパワードスーツに対して干渉力を減らす為だとか。
「内部気圧正常、全体にひずみは散見されないと報告あり!」
「飛行ユニット正常、斎藤博士からは快適な空の旅を満喫中だそうです。」
「内部電力プラント等の稼働率も大丈夫です。現在高度で1時間静止後再上昇を開始します。」
慌ただしく報告やら現在の状況が両職員間で交わされていくが、不穏なものは混ざってないな。歴史的な快挙とは言えこの後ある記者会見までは誰が乗りどこまで飛んでいくのか?と言う具体的な話は出ていない。それは情報流出を懸念してと言う話でもあるし、今回乗り込んでいるのが斎藤や米国チームの人間だと言う所も大きい。平たく言うとテロ起こして撃墜しても痛くも痒くもないと思う人もいるのよね・・・。
試作機を形成する石英ガラスの硬度はモース硬度で約7とモース硬度4の鉄よりは断然硬いし、それに硬度照射装置を使い更に均一化して硬度を増したり固定処理や刻印を使って、最早ミサイル撃や艦砲射撃でも無傷を実現しているし、何より飛行ユニットを反転させた時点で物質なら反射される。
しかし、その性能を知らないならガラスは砕けるとして何かをやらかしてもおかしくはない。例えばラム・・・、歩兵用の対戦車火器だが弾頭部から棒を伸ばしてモンロー効果を活かして撃破する。それを踏まえて形成弾頭部なんかを撃ってこられても、試作機は無事でも周りへの被害の方が問題になる。まぁ、仮に直撃しても試作機は球体なので衝撃をかなり逃がせるから無事なのだが・・・。
「記者会見って山口さんも出るんですか?それともJAXAが主導で?」
「私はここで管制室を統括しないといけませんし、不測の事態には地上からのサポートが必要なので動けませんよ。」
「ならJAXA主導ですね。私もここでタバコでも吸いながら見学しておくとしましょう。」
「いやいや、クロニャンなんでここに引き止められたか分かるかにゃあ〜?」
「ふむ。おいしいご飯にポチャポチャお風呂、あったかい布団は堪能させてもらいましたね。」
「それも含めて試作機の話を詳しく教えたのは、私も山口ちゃんも人前で話すとヤバいからなんだよにゃあ〜。乗せられたり聞かれたりするとバンバン機密事項とか話しちゃうよ、マジで。」
「ゔっ・・・、それは確かに・・・。いや、でもJAXAと提携してるなら他にも詳しい人はいるでしょう?」
「総括の斎藤さんは宇宙へ行きました。」
「藤っちは新婚旅行で月まで行くよ。」
「月まで行くのガチだったんですか!?えっ?試作機って使える使えないの検証でしたよね!?」
「行ったら次のステップに進むよね?」
「身近な到達点の1つとして月、その前のラグジュポイント付近での重力の影響調査なんかもありますね。そもそもラグジュポイントを実際に証明した人は居ないんですよ?あくまで計算と仮説により証明されたに過ぎず、飛行ユニットが増産されればそれも必要はなくなると思いますが、宇宙いくならやれる事をやれるうちに調査するのは当然の事でただ宇宙空間に留まって浮遊するだけなら宇宙ステーションが既にあるじゃないですか。確かに試作機でしか出来ない研究ってありますけど、何1つ問題が発生していないなら試作機は正式運用機にランクアップする予定でしたし、当初の理論としても飛行後に・・・、成層圏迄に問題が出なければ残りの問題は内部処理可能としてありました。なので、JAXAとNASAのチームが雄たけびを上げたのは更なる実験続行を祝ったからだったんですよ?」
マジかよ・・・、最初の話では宇宙行って帰ってきてから正式品作ろうって話だったんじゃないの?確かに内部を見た時にやたらめたら機器やら動物やらを入れているとは思っていたけどさぁ!そのまま地球出て行って月まで遊びに行くとは思わないだろ!
もしかして、中露牽制のため?確か前に月にちょっかいかける見たいな話はあったけど、それを先制して月に基地と言うか着陸地点を作れば行き来も出来る。どちらがと言うか誰が言い出したかは知らないが、学者達のやりたい事と政治家の目論見がマッチした結果とも言えなくもない。そして、試作機が宇宙へ行った以上、中露への飛行ユニットの技術開示は確定事項で先制のタイミングは今しかないと。
うわぁ~・・・、丁寧に無視してるからこそ相手の思惑を正面から潰しに行くスタイルかぁ・・・。宇宙は誰のモノでもないので誰が何をしようとも簡単には干渉出来ない。だからこそ先に監視すると言う威圧を加えられる施設をそこまで行けると見せつけておく。宇宙にある天空の目とはよく言ったものだ。
人の小競り合いを宇宙に持ち出した時に宇宙人に干渉されないかと言う心配はゼロではないが、そもそも何で干渉してくるかも分からないしなぁ・・・。今の所斎藤達は危険な研究するつもりでもないし大丈夫だとは思う。そして、人類程度の研究で寄ってくる宇宙人がいるとすれば、それは同じくらいか少し上程度の及第点なのではないだろうか?と、そこは横に置いておくとして・・・。
「そもそも記者会見って私何か話すんですか?一切打ち合わせとかないですけど・・・。」
「それは大丈夫だよ!基本的には田辺理事って人の補佐だと思えばいいから。あの人は理事ではあっても現場の事は殆ど知らされてないんだよねぇ。」
「ラボの開発技術開示って、政府からもリスト化された人以外には絶対に開示するなって通達来てますし、それを破るとラボと政府から重罪扱いですよ。例外があるのはラボの出資者ですけどね。」
「それって暗に私には勝手に開示して縛り付けておけって言われてません?特にあの試作機が正規品になったなら私は乗せられる可能性があるし、分からないものに乗りたくないって言う拒否権を先に潰す的な・・・。」
事がスムーズに運びすぎている気がする。宇宙行ってもソーツとは会えない、それは会議でも政府とも話はついている。しかし、他の宇宙人への防波堤とされていないとは言えない。多分、中露が怖いんだろうな・・・。飛行ユニット開示で加速すれば間違いなく目が届かない所が増えると言うか、宇宙なんて目がいくらあっても足りない。
その足りない所で何かをしでかす可能性のある人達が、知らない間に取り返しのつかない事態を引き起こすかもしれない。人の闘争心に陰りなしか・・・。多分、どんなにステージが上がろうともそこは変わらないんだろうな・・・。




