53話 オールスター 前 挿絵有り
遅れました、短いです
「はっ!」
遠当てはできた。イメージが固まるのに時間はかかるけど、確かにそれはできた。成功したイメージを元に更にもう一度。次は失敗した、何が違う?近くのモンスターを斬り、ビームを受け流しながら更に考える。さっきと今は、何が違った?距離?それはもとから離れていた。速度?それも違う。剣閃の速度は大きく変わらない。なら、何が違う?モンスターを見る、さっきと違う事・・・。
(焦点?)
モンスターを見る。斬れるのだ・・・、先程は斬れたのだ。1体のモンスターを確かに私は遠当てで斬ったのだ。邪魔なモンスターを抜刀で一閃、背後からレーザーカッターを振り回すモンスターを地を這うようにしゃがんで躱して、振り向きざまに一閃、1体離れた所にいる。見ろ!焦点が結べば!
モンスターはそこにいる。斬るべきモンスターの像は既に定めている。なら、それを斬ろう。虚像と実像を結びその斬撃は転写される。それは望田に見せてもらった。笛が鳴ればモンスターが斬り飛ばされるその瞬間を。私は音ではなく剣で戦っている。なら、斬るモノがあるのなら、当然斬れる!
「2体目!」
「清水さん、それで終了っす。遠当て出来るようになったんすね?」
「話を聞いてのインスピレーションだけどね。確かに職の説明は正解だよ。ただ、職を選んだ人間を痛めつけてくれるけど。」
2回の遠当てで頭痛がする。多分、遠当てする際に空間把握や認識拡張なんて事を無意識下でやっているのだろう。取り出した回復薬を呷り頭痛を治める。今までは如何に早く近付き斬れるかに焦点を置いていたけど、次からは遠当てなりなにか別の事を考えてみようかしら。
「職に就くのは簡単でも、使いこなすのは難しいっす。だから、至った卓や宮藤さん、クロエさんは凄いんすよ。俺もなにかきっかけがあればなぁ。」
雄二はそうボヤきながら頭を掻いている。中位か・・・、なりたい私とは何なんだろう?先ずはそこから考えないといけないのか・・・。
「皆さんお疲れ様です、卓君達の方は方がついたみたいですよ。」
「望田さん、なんかヤバイ事があったんすか?」
「いや、クロエ曰く背負い込み過ぎたそうです。向こうも負傷者は出てないので、気にしなくていいみたいですよ。いやぁ~、私もようやくこちらの班復帰ですね。」
そう言って望田は笛と、3つのボールをクルクル回している。彼女は元々こちらの班のメンバーだったけど、彼女がオールマイティー過ぎたので、クロエからバイト共に駆け回る事を厳命され、バイトに乗って走り回ることになった。確かに彼女がいれば、防御にしろ攻撃にしろほぼ無効化出来てしまっていたので、その采配はありがたかった。しかし、そのおかげで何度死にかけたか・・・。
「望田さん復帰って事は、そろそろ危なくなるのかな?」
「小田さん、もう19階層も終盤なんですよ?赤峰さん達は1足先に20階層に行ったみたいですし、卓君達ももうすぐ20階層ですね。」
「えっ?うわぁ〜、日も登らないし、景色も変わらないから日数狂ってた!」
望田さんの指摘に小田が腕時計を見てうろたえる。確かに風景の変わらない山岳地帯を昼夜関係なく歩いて戦ってたまに寝て、それもモンスターがいれば起きて戦うなんていう、ビックリ行軍をしていれば感覚は狂う。今更だけど、回復薬半端ないな。
「20階層は流石に雄二君なら、分かりますよね・・・?」
「・・・、うっす。ちょっとみんな来てくれ。」
そう言って雄二が皆を集めて情報共有を図る。彼の話を総合すると退出ゲート付近が一番危ないらしい。何度か大型モンスターとも戦ったけど、雄二曰くモンスターを捕食するモンスターが本当にヤバく、その上好戦的で何をしてくるかわからないらしい。しかし、それを聞いて思うのは、そんな場所を1人でピクニックしたり、キャリーするクロエの異質さ。中位に至ればなにか違うものが見えるのだろうか?
「さて、話も終わったし行くとしますか!」
雄二の声で歩きだす。このまま行けば20階層で卓チームと合流出来るかもしれない。今のチームが弱い訳ではないけど中位のネームバリュー的な安心感は感じてしまう。弱気と言われればそれまでだけど、ここでそれを抱くのは致命的かも知れない。何せイメージなのだから、弱気だとそれに引きずられて出来る事も出来なくなってしまう。
「そうだな、ピクニックを楽しもう。」
そう言うとみんなが笑い軽口を叩きあう。いい雰囲気になった。彼女の真似をしてみたけど、変に意気込むよりは淡々と出来る事をこなすか、さもなくば楽しむ方が夢は持ちやすい。
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卓、雄二チーム20階層到達
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先行した赤峰、兵藤チームはリーダー2人が至ったそうだ。宮藤からの連絡で聞いたが、近接職1号は赤峰。紆余曲折あったようだが、全員無事らしい。そのまま退出してもらい、先に駐屯地で風呂なり英気を養うなりしてもらおうかな?ゲート付近で他のチームを待ってるらしいけど。そして、どうやらカップ・・・、いや、婚約?した者も出たらしいし。さて、20階層攻略は卓チームはいいとして、雄二チームには若干不安が残る。それは強い弱いではなく、中位がいない事。
いれば確実に中位が安全装置として働いてくれるが、いない場合は難易度があがる。一応、雄二は20階層体験者なので采配をミスするとは思えないが、気にかけるならこちらのチームだろう。望田というカードは強力だが、強力過ぎて犬と放逐してほとんどドサ回り状態だった為、連携力の足りなさも不安に拍車をかける。まぁ、望田自身は割りと一人旅を楽しんでいた節はあるのだが・・・。
今回の目標は20階層到達なので、合流するならしてもいいのだが、卓チームが先行したので、そちらに犬を付けて雄二チームをメインで見守るかな、行き先のゲートは同じみたいだし。なにかきっかけがあれば雄二は至れると思うのだが、そのきっかけは本人にしかわからない。まぁ、早く至ればいいというモノでもないし、道は本人に見つけてもらうしかない。
「さて、訓練場所の確保さえできればいいけど、モンスター達がやすやすと場所を提供してくれるかな?中層に行くなら最低限中位じゃないと無理っぽいけど。」
秋葉原で魔女は言った。中層のモンスターを倒すなら、中位に至らないと足手まといだと。つまり中位なら中層へは行けて戦える。犬がどれくらい強いかを考えると、あれは確かにこの辺りにいたら無敵だろう。空間ごと咀嚼するし、動かずとも攻撃手段はいくらでもあるし。あれに対抗するなら・・・、やはり中位か。卓は勝てるビジョンが見える。宮藤も多分勝てる。しかし、他は無理だと思う。相性もあるが、歯が立たない。先の二人も相当な苦労がいるし、場合によっては瞬殺される。
「やはりパーティーか。」
卓が本気でないにしろ、掃除するならチームで挑むのを推奨しよう。本部長なんてものになったからには、安全管理も仕事のうち。自己責任はいい言葉だけど、指標も立てずに無作為に突っ込ませるのは無能である。
「おっ!あれは清水か。」
雄二と練習していた縮地が様になり、かなり速い。基本的に居合は一撃必殺。抜いた時点で事が終わっている事が前提の剣術なので、自顕流何かと一緒。まぁ、居合の方がうるさくないからいい。何かを掴んだのか、失敗はあるものの遠当てでモンスターを斬り裂いている。イメージは刀で斬った感じかな?モンスターの上半身がずれる様に滑り落ちる。
完全な居合スタイルは乱戦だとやりづらいと思っていたが、なかなかどうして。納刀出来ないなら、出来る状況を作る、作れないならそのまま斬ると早い判断でモンスターを倒している。遠当ても出来る様になったし、全身の靭やかなバネもあるので彼女の剣術はソードダンスを彷彿とさせる。
逆に雄二は防御が固くなった。元々脇構えは対人ではリーチを読ませないと言う利点があったが、モンスター相手では読み合いより出会ったら即倒す事が求められる。文字通り手数が増え、本来片手で扱う為力不足が懸念される二刀流だが、上がった身体能力がそれをカバーし攻防一体の剣術となっている。
「どちらのチームももう退出ゲートか、収穫はあったな。」
これで至ったのが4人。講習以外で至った人間がいるかは分からないが、それでもかなり早いペースだと思う。元々下地がある人間が多かったというのもあるが、それでもやはりこの成果は驚異的なのではないのだろうか?自画自賛ぽくなって嫌だけど。
『どうでもいいけど、君はたまに抜けるよね?』
「え?なんのこっ!あれはなんだ!」
『助けるモノかな?』
何をという言葉はない。高速で飛来するそれは、俺達には見向きもせずにゲートへ向かって高速で飛んでいく。なんか知らんが、賢者が喋りかけてくるって事は多分ヤバい。全力で飛んで、目の前の飛行物体に煙を這わせる。
「あれは倒していいんだよな!」
『別にいいけど、アレ早くしないと外に出るよ?』
「なっ!何でそんな事になる!溢れる以外に外に出るなんて聞いてないぞ!」
『そりゃあ、ゴミ掃除に失敗したと思われたんじゃない?溢れる以外にモンスターは外に出ないよ?でも、連れ出すのは別だよね?時間かけすぎたんだよ。』
「そんな事が、可能だと・・・?」
『退出ゲートは君が作ったじゃないか。あれは指定して何処にでも出れる。でも、良かったね。まだ、失敗とは判定されてない。アレが飛んでる間はまだ猶予がある。速やかに外のモンスターを倒すといい。』
「失敗と判定された場合は?」
『ん〜、見た感じ古い型だからなぁ。確か、いるであろう範囲を壊滅させるんだったかな?何も無ければそのまま帰るよ。』
つまり、どこかの馬鹿がモンスターを連れ出したと?何の為に?考えられるのは研究やら転用やらだが、今はそんな事考えている場合ではない。とりあえず、何か情報はないか!退出ゲートに向かうモンスターを引き止めようとするが、大きさが違いすぎる!
「カオリー!音を響かせてー!!コイツを押し留めてー!声を伝えてー!!今はゲートからコイツを出さないようにー!!!」
あらん限りの声は木霊し、どうにか望田に届いたようだ。笛の音が周囲に木霊し、声を伝え反発音がコイツの速度を少し殺す。情報があるなら千代田か。
「はよ出ろ!はよ出ろ!」
スマホのコール音が長く感じる。煙を纏わせたモンスター?ガーディアン?を惑わせながら潰そうとするが、傷付きはするけど、押しつぶせない。多分、迷ってるからだ。倒してしまうのが最良なのかと。
「どう・・・、しま・・・、した?」
「緊急!モンスターがどこかに連れ出された情報は!一刻を争う!」
「確認・・・、された・・・、のは・・・、2国・・・、殲滅・・・済み!」
「分かった、なんか知らんが。モンスターを追ってガーディアンっぽいモノが起動した!殲滅は確実か!」
「・・・、た・・・、ぶ・・・ん。」
確証なし?なら、海外での事象か!えぇい!こっちが必死こいてスタンピード対策やら、人材育成やらやってるのに!これでは意味がないではないか!出た国をどうしてくれようか!いや、今はそんな事はいい!ゲートが間近だ!倒してもいいなら、倒してしまおう。後処理は出てからでいい。
「魔女、あれを止めろ。」
『可愛そうだし面白みに欠けるけど、オーダーなら。』
「這い回り、楔打ち込み、行き場なし、アナタはここから逃さない!」
まとわりついた煙が楔となってガーディアンに刺さり、その先が地面に刺さり移動を阻害する。しかし、それも一瞬。強引に煙を引きちぎり、先へ進む。再度同じ魔法で固定するが、やはり引きちぎられる!何か一手ほしい。望田も音を響かせているが、それでも動きが止まらない。
「クロエさんよぉ!楽しそうな事してんじゃねーか!」
「はっ?赤峰さん?」
「おうよ!中位赤峰!コイツを殴って止めてやらぁ!守ってやらぁ!」
地面を駆け、ジャンプした。ただそれだけで赤峰は10m近く飛び、更に空を蹴ってガーディアンを殴り付けて激震を与えて速度を完全に止め、その直上には彼がいた。
「助けを求められたなら、駆けつける!君は一人ではない、モンスターと戦うなら君も仲間だ!」




