551話 種子島へ その2 挿絵あり
「おっすおっす!先乗り許可サンキューね!いやぁ〜、おかげで久々に有意義な語らいが出来たよ。流石の私もビビる事は多い!」
「それを聞くと私も怖いんですけど?」
種子島に到着してから神志那に連絡を取ったら迎えに来てくれたが、彼女がビビったって言葉が不穏・・・。いや、人間だから驚く事はあるんだろうが試作品は大丈夫なのだろうか?立ち話も何だと車に乗り込むとそのまま走り出し種子島宇宙センターへ向かうと言う。
窓から見える景色は長閑なはずなのだが、すれ違う車にNASAのエンブレムが入っていたり、航空写真で見た限りでは森と畑が多いイメージだったがラボの様な作りの、仮設と言うには多少豪華で平屋と言うには無機質な箱型住宅がカプセルホテルの様に置かれている。
多分山口の指示だろう。神志那に聞くとやはり山口の指示+米軍の指示で速やかな拠点構築及び災害時の支援活動のあり方と言うのを模索したらしい。物凄く乱暴な言い方をすれば、1人に1つ箱型住宅を配布しておけば、既存の家がハリケーンなんかで倒壊しても住む場所が確保出来ると言う話らしい。神志那も1つ貰ったらしいが、中は米国人に合わせたワンルームマンション的な広さでシャワーにトイレ、小型発電機も完備で無いとすればアンテナとか?
トイレタンク問題やら発電機はガソリン式を採用していたりと、まだまだ改善の余地があるとは言え下手するとこれを家と言い張って好きな所に住み出すホームレスとか出てくるんじゃ・・・。いや、これが家ならホームアリ?何にせよ米国のスケールはやはりデカいな。まぁ、今までハリケーンの被害もデカかったし、気象観測所なんかは逆に自然災害の予兆を潰す方に注力してるとか。
「やはり海外の方が多いですね。と、言うより多すぎません?」
「共同開発と言っても前例のない物だし、基本はラボの超技術って持て囃されるモノだからにゃあ。ありがたいと言えば山口ちゃんがカモフラージュいるかもって言って秘密基地みたいなのも作ったらしいよ?」
「秘密基地?ちょっと心躍りますけど管制システムとかは地上の宇宙センターなんでしょう?」
「そうでもあるしそうでもない。そもそも1基しかないモノを監督するならそこまで大規模な管制システムは要らないんだよね。それに、エレベーターなら当然中にボタンはあるよね〜。」
「なるほど、順番さえ指示できればいいと。」
確かに勝手に飛んで勝手に帰ってくるモノを遠隔で管理するのは非効率的だな。それならエレベーター側に離発着システムを任せてしまって、地上では帰還時の安全管理さえ出来ればいい。そもそも今回試作品を宇宙に送る理由として、宇宙空間でのエネルギー消費量の算出と言うものがある。
エレベーター内の電力で数カ月は十分に賄えるだけのエネルギーがあると言われているが、逆を言えば数カ月後にはエネルギーが尽きてしまう。その為に内部循環システム構築したりペロブスカイト式の発電を内側で行ったりとしている。惜しいと言えば間に合わなかった条件下エネルギー装置の開発がまだな事か。
これが作れればエネルギー問題にも目処が立つし、一度宇宙に上げてしまう。或いは宇宙でコロニーを建造してもわざわざ地球に降ろす必要性もなくなる。何にせよこれから先宇宙開発は本当に加速しそうだな。
「そう。でも、その指示は地上側との連携取るよりもエレベーター単体の方が楽っていうね〜。なにせ斥力飛行だと連携失敗するとずっと反発して浮いてる事になるし。」
「やはり肝は帰還時にあると?」
「そそ。宇宙では飛行ユニットを全周囲展開しながら固定してるし、重力下では引力で宙吊り状態だけど計算間違いすると砕けちゃうからにゃあ。地上側の受け入れシステムも飛行ユニット使って微少な斥力で受け入れつつそれを最終的にゼロにして受け入れる。だから、静かなのはめっちゃ静かだよ。それに離陸自体も簡単にはバレないかな?」
「地域住民としては嬉しいんでしょうが他の国としてはガチギレ案件ですね、それ。」
昔のEV車でもあったな・・・。メーカーが音が静かと言うのを売りにして車を売りまくった結果、ユーザー側やら歩行者側から静かすぎで気付いてもらえないし、車が来ても気付かないと言う批判が・・・。実際それのせいでEV車やらハイブリッド車は多少音がうるさくなったし。
それを宇宙エレベーターに置き換えると、気付かないうちに宇宙で好き勝手されていたなんて恐怖が・・・。まぁ、飛行ユニットの製造方法は開示された。はらむ危険も大きいがそれは同時に防衛システムの再構築に繋がる。軍事産業が潤うのがいいとは言えないが、そんな中でしか育たないモノも確かにある。
「間違いなくね。でも、そこでキレたら自分達も作れなくなるから批判は出ないかな?精々ミラーボールみたいにバンバン目立たせて黙らせるとかなら出来るよ!されど人間は宇宙人と踊るってね。」
「宇宙空間で誰が踊るんだあんなキモいのと・・・。それはさておき、どれくらいで試作品って地球を離脱するんですか?」
「今の予定だと安全考慮して2日で地球圏離脱予定。詳しくは宇宙センターに着いてからにしようか!」
神志那のテンションが高い。有意義と言うだけあって興味が尽きないのだろう。しかし、離脱に2日か。ロケットなら墜落案件だがエレベーターならありなのかな?高度順応は考慮しなくてもいいとしてガラスだから冷えた時の収縮率の問題とか?素材がケイ素だから熱膨張率が小さく、徐冷温度が高いからその辺りは大丈夫なはずだが、やはり大きさの問題と言うところか。
そんなこんなで着いた宇宙センター。ソフィア達はなんか作ってるのを見たと言っていたが、大詰めに差し掛かったせいか高い壁やら覆いやらで物理的に隠してある。う〜ん・・・、空撮ならと思わなくもないが自衛車両も米軍車両も走り回ってるから簡単には・・・。
「おっ?ハミングさんだ。」
「は?クロにゃん見えるの?」
「まぁぼちぼちと。」
物事を多角的に見る。かなり難しいが確かにガーディアン解体で何となく理解はして来た。そもそも見ると言われて目で見ようと思うから1つの視点でしかないのであって、情報処理感覚器官としては皮膚の方が更にモノは視ている。そう、肌に当たる風も日の暖かさも触れ合う温もりも何もかも。
確かに映像と言う面では視覚情報処理が優先されるのだろうが、それは人の話であって肉体がないモノ達にとっては更にその先、精神でモノを視ているのだろう。まぁ、流石にそこまでは出来ない。出来ないが漠然と近くにいるいないくらいはね。
「はぁ〜、米軍中位の人だけど対空観察要員って名目で色々な所をうろうろしてるんだよね〜。」
「そうなんですか?と、言う事は他の米軍関係者も?」
「ううん。流石にそれは軍事行動待った無しで言い訳効かなくなるから、メインは自衛隊で一部の米軍関係者はNASA職員の護衛として来てるよ。」
「のどかな島なのに物々しくなってきてますね・・・。」
「中露としては何がなんでも見ておきたい、なんなら収集出来るデータはごっそり持っていきたいってところだからね。まぁ、関係が冷え込んでるから本番に招待するって話をすればプライドが邪魔して高確率で断るだろうし、呼ばないなら呼ばないで挑発行動って文句言ってくるかにゃあ。」
「言わせておけばいいですよ。間違いも恥も認められないなら、その間違った認識の中で生き続けるしかないですから。と、アレが・・・。」
「そう、今はもう浮遊実験してて後は飛ばすだけ。」




