548話 本部長会議 その2 挿絵あり
「獣人の件はテストでいいとして、内容は各ギルドに任せるか統一するかですね。私としてはどちらでも構わないと思っています。面倒なら統一した物を数十から数百枚作りランダムに配布すると言う形になります。」
「やっぱり数字いじったりニュアンス変えただけじゃダメかねぇ?」
「それはダメでしょう赤峰本部長。スィーパーじゃないにしろ同じ問題の使い回しならパートナー側のスィーパーが対策してきますし。」
「そう思うかい鬼頭さん。ぶっちゃげた話すると俺としてはパートナーの責任で入れちまってもいいと思ってるし、どちらかと言えば守る側の進み具合で判断するってぇのもありだと思う。」
「確かに赤峰君の言う事には一理あるね。テストをするにしても頻度や会場、試験官となる人間の手配と仕事は増えてしまう。そう言えばクロエ、獣人が学校に通うと言う話は今後拡大すると思っても?」
「今の所試験的に通ってるだけなので本格的に通うとすれば数年は見ないといけないですね。初の獣人ベイビーが誕生したのが先日。その子が人と同じ成長速度だとするならうちの国で義務教育に入るまでに5、6年はありますよ橘さん。特に今の薬で獣人となったグループは全員成人と言う体裁を崩せない。うちの国だけならまだいいでしょうが、海外もその方針なので教育を義務化するなら獣人の子供達からにしないと混乱が起こります。」
テストで決まりかと思ったが別の意見も出たか。まぁ、想定の範囲内なのだが報告によれば個体成長薬は減少の一途を辿っているらしい。他国のデータまでは流石にまとめられていないが国内のデータだけ見れば出だした頃に比べて半減。
そしてそのデータを集めている政府の見解では来年の4月頃、つまりは約1年でほぼ出土しなくなるのではとの見解がある。まぁ、奥に行けば取り残しがある可能性もあるのでほぼと言う話だし、ソーツにやる気があれば増産と言う可能性もある。何にせよ新しいモンスターが投げ込まれる代わりに見なくなるモンスターもいるし、彼奴等は彼奴等で作りたいモノを作っているのだろう。
「なら対象は今の獣人か。世界は別にいいとして国内でどれくらいいるんだ?浦橋はしってる?」
「知るかよ御堂。俺の所にも毎日ぞろぞろパートナーと来るし他のギルドもそんな感じなら沢山としかいえねぇよ。獣人のマナーとかはいいんだが穴掘ったり狭い所で寝てたりするの見てるとどうしたもんかと考えさせられる。」
「本能だから仕方ねぇだろ?ペットボトル置いてももう意味ないし。その獣人の子供が学校に入るまでは年1回テストするか、パートナーの強い希望により入場申請するでもいいんじゃないですか?」
「確かにテスト受けて受かったのに職に就けなかったと言うクレーム考えると、別のチャンスをよこせと言うスィーパーは多いだろう。私としてもテストは推奨の範囲で後はパートナーの責任とするで構わないと思うが・・・、小田はどう思う?」
「私としてはパートナーが全責任を負うならテストもなしでいいかな?じゃないと不公平感がある気もするし、めんどくさいし・・・。」
「小田さん本音が漏れてますよ。しかし、そうなると最初に戻っちゃうんですよねぇ〜。それにシェンゲン協定の事を考えると日本でダメなら海外って人もいるかも知れませんし。」
「何にせよ唐竹割った様な判断は出来ないよ。現状獣人の職に就く基準が曖昧で知性と対人スキルに依存するならやっぱりギルドとしては知性を見るしかない。テストを嫌うなら学習アプリの進捗で判断するとか?フェリエットのケースを考えるとアレで勉強したから知能指数が上がったとも言えるし。」
実際神志那の作ったアプリはよく出来ていて、細かなアップデートもされているので獣人専用ではなく高校入学試験前の学生も解いたりしているし、予備校でも使われているとか。元々が有名学校の入試やらを集めて作ったので、見る人が見れば一発で転用出来ると気付いてしまう。
テストと言う運の絡む勝負よりも、本人がどれだけ学ぶ姿勢や職に就きたいかを調べると言うなら、進捗判断もありと言えばありかな?まぁ、それを提示するとならどこまですればいいのか?と言うジレンマは出てくるのだが・・・。
「何か獣人側からのアクションはないんですか?人が獣人に基準を求めるのはいいとして、求められた本人達が嫌がるならどうしようもない。」
「アクション・・・、強いて言えばフェリエットの場合本人が入りたがったと言うのが大きいですね。薬で人となった時よりも言動もはっきりしてウェイトレス出来る程度には頭も良くなった。その中で本人がゲートに入ると申し出たからとしか。ふむ・・・、獣人本人の自己申告か・・・。」
飯に釣られないとは限らないが少なくとも獣人は危険から遠ざかろうとはする。しかし、モンスターには敵意を持つ。フェリエットもモンスターは倒したいと常々言っていたし、他の獣人もその辺りに違いはない。なら、本人に一筆書かせると言うのも1つの手なのか?確かに夏目の言う様に人が望んでその願いの押し付けでゲートに入るのは違う。
「パートナーと離した状態で中で起こり得る危険を書き記した書類にサインをしてもらいましょうか。スィーパーと成ったならそれは1人で歩いていると言う事です。本人の判断を持ってゲートへの入場を許可する。ただし、それは毎回書いてもらう。これで皆さんどうでしょう?当然ですが嫌がる獣人は入れません。海外でも少数ですが問題になってますし。」
「それなら手間はないか・・・。」
「海外の動きも活発ですからね。多くを職に就けて警備員に採用したいって話は分かりますけど。」
「飛行機にしろ船にしろ一定数テロの危険は上昇してますからね。その話は何時ごろから始動させます?区切りとしては来年頭からが妥当だと思いますけど。」
「その方向で行きましょう加納さん。さてと、獣人の件はほか意見がなければ本人の同意書と学習進捗状況の確認。場合によってはギルドとして拒否。他に困りごとは?」
「それなら俺から、法律課の人員確保は今の所弁護士転用って話が主流だけどこのままか?新規採用も含めてスクリプター以外も試験採用したがどうも気後れ等があるようなんだが・・・。」
「ウチは特に制限設けなかったですね。元から弁護士の人は法律に強いんで重宝しますけど専門分野外は弱いですし。」
「ウチは半々かな?信用問題もあるし弁護士バッジ持ってるならそこそこ信用出来るって人も多い。」
「俺は弁護士いらなくなるって提唱したからメインは弁護士ですね。日弁連からお小言を軽く貰いましたけど・・・、こう・・・『法律が死ぬ事はない』的な。」
「仕事奪われるからこそですね。まぁ、その弁護士達の発言自体は横に置くとして、スィーパーと成ればイメージ次第では記憶の保存術的なものも使えます。今回の職員採用は初めてなので手探り感が否めませんが、採用人数等は各ギルドに任せますし試験方法も同じです。基本的に職員の出張はあるにしてもIターン以外での任地転属はないと考えてますよ。」
弁護士のアドバンテージって今の所法律に詳しい事と、司法試験に受かったからこそ身元的にも安心出来ると言うのが大きい。しかし、日々新しい法律がゲート関係では生まれているので、過去に囚われすぎるのもよくない。まぁ、これも時代の流れで落ち着いてくるだろうし、AI裁判なんてものが出て来れば何が違反でどの程度の情状酌量の余地を認めるかで判決は出る。
「警察としては検察側と事件のあらましが分かり次第情報共有し、確保後は速やかに判決を出す方針としています。そもそも証拠不十分は限りなく少なくテンプレート的に示談金の下上限が決まれば被害者としても上限を請求するでしょうし、判例が重なれば裁判官としても下手な事は言えない。まぁ、その情状酌量を決めるのは被害者と成ってきますしね。余程難しい事件でない限りこの先は高速化していくでしょう。」
「質問ですが警察側の捜査能力って今どんな感じなんですか?僕としても連携してスィーパーを派遣しているので気になるところなんですけど。」
「いい質問だね卓君。今の所事件対応は追跡者や探索者、スクリプターやオカルトが現場対応して各警察署にいる鑑定師が1人ではなく数人で遺留品鑑定を行い動かぬ証拠と言うモノを作っている。事実として殺人事件なら職込みでもトリックは暴けているし物取りでもそれは変わらない。検挙率と証拠の確定率を言うなら98%はあると言える。」
「うへっ・・・98%。なら法律課の採用は本当に法律に詳しく相談出来る相手と言うだけになりますね。スィーパー側としても新しい法律を気にする人は多いですし。」
「どうしても施行期間を間違う人もいますし、ゲート内に長くいるなら外に出た時に真っ先に新しい法律を確認しろとは教導してますね。うっかり犯罪とか笑えないですから。」
「なら、法律課の制限を次は軽くするかなぁ〜。他の先輩達やら自分を振り返っても物覚えは良くなったし。」
浦橋が頭を掻きながら話すが、この場にいる人間ってひいこらいいながらも本部長業務を滞りなくやれてるんだよな。周りのサポートや連携が取れている証拠でPC上では俺の所にも問い合わせやら相談は来る。本来こうして集まらずWeb会議とかでもいいしデータのやりとりを考えるとR・U・Rのメタバースを利用するのもありではある。ただ、それだと味気ないと言う声も多い。
結局の所スィーパーは誰かに背中を預け預けられなので、いくら現実的な姿の偶像で会えるにしても生身で触れ合いたくなるのだろう。
「職員採用は特に職による区別はなし。寧ろその課の課長やら部長と協議する方がいいでしょう。私の所は人数と欲しい人材だけ聞いて要望を出した後は丸投げしましたし、鍛冶課なんてバイトからの実績採用でしたからね。」
「そこまで人には投げられる胆力が・・・、えっ?大丈夫なんですかクロエさん?」
「大丈夫も何も管理はしますが私はその課の人間じゃない以上、聞かされた問題点に対しても知識と経験からしか考えられません。それなら問題を抱えている課内で処理して貰った方が考える機会も話し合う機会も増えますからね。」
そんな会議はこの他にも様々な議題が上がる。例えば刑を執行する時に暴れた犯罪者への対処法であったり、出土品の買取価格をどう決めるかであったり、私腹を肥やす方法であったり様々。一応、高槻製薬の株はギルドの持ち株に出来ないので俺の資産となっている。ただ、どうしても入り用の時は無利子で貸付という形で決着は付いているし、その前段階で政府予算もあるから大丈夫だろう。仮にクラッシュするならやはり設計図か・・・。
「それで、写真集第2弾が議題に上がるのはどうしてですか?」
「ギルドとして設計図を集めるなら不明な資金支払いよりも物々交換がベターとの意見が多いからですよ。特に米国との取引は誰もが知ってインパクトがありますからね。スィーパーも写真集かお金かを選べてうれしい。政府も予算を気にしなくてうれしい。そして本部長達としても提示出来る報酬が増えるし死蔵されるのを防げて嬉しい。つまり、皆が得すると言う事です。」
「その皆に私も入れてもらって羞恥心の確保をしてもらいたいんですけどねぇ!」
タバコをプカリと吸う横で他の人達が揉み手笑顔で俺を見てくる。クソ、ジョージにしてやられた気分だが、確かに客寄せパンダとしては最高でマッドサイエンティストの手に渡るくらいなら秘密裏にでも持ってきてくれた方が嬉しい。別に他国の管理に文句言うつもりはないが、下手に危ないものが出て来ると知らない所で地球が終わるんだよな・・・。
まぁ、持ってきてくれるなら御の字で他国の政府が確保したなら俺は知らん。それまで俺のせいにされても困るし、どんな論法を使おうとも他国のやらかしを俺のせいにするのはお門違いも甚だしい。
「・・・、時期は未定。政府の関与なし。大々的に報じるのは構いませんが・・・、いえ、報じるのではなく配信で流しましょう。本部長と発見者以外中身を知らない写真集、それなら作りましょう。」
表紙なら配信に載せてもいいかな?他国に巻いた旗のデータないし作るなら本当に新しく作らないとな・・・。ただ、魔女の女とかも馴染んでるらしくて身体を変わらなくとも精神的な魅了とでも言えばいいのか能力を使うとやたらと綺麗だと・・・、いや、それは今更か。最初からそれは言われ続けて既に否定する余地もない。




