545話 幻想的とは? 挿絵あり
「マシュマロがのび~る〜。」
「あんまり伸ばすと飴になってベタベタするですよ?こう、クッキーに挟んでチョコチップとマシュマロの激甘コラボを・・・、熱っ!」
「速く芋が焼ける方がいいなぁ〜、サツマイモでもジャガイモでも焼ければ塩とバターか、塩辛で食ってやるなぁ〜。」
「猫人は塩辛も・・・、イカも大丈夫なんだね。確かに猫人がお腹を壊したとか・・・、回復薬とかエナドリ飲めばそもそも壊した事に気付いてない?」
「そんな事はどうでもいいなぁ〜。適当に串に刺した肉とかウインナーも焼いて食べるなぁ〜。」
家の外では子供達が焚き火をしながらキャッキャと話している。普通焚き火するなら届け出が必要なのだが最近はどうなのだろう?煙たさはあるだろうがBBQしたりするのはOKでも囲いがないとダメとか?何にせよ今日は無風で燃え広がる事はないだろうし、飛び火したならフェリエットが消す予定である。
ただ家に入ってきたフェリエットが冷蔵庫に入れた肉を切って串に刺して持っていったが晩飯は大丈夫だろうか?フェリエットはいいにしても他の人はスィーパーじゃない関係上、食えば腹に溜まるし親御さんに連絡してないと食べ盛りたからと多めに作ったご飯を残す事に・・・、まぁ杞憂か。残れば弁当にでもいれるだろう。
読み進める本は多岐に渡るがこれと言って新しい話はない。まぁ、スポーツ系で言えば格闘技にR・U・Rを導入してスィーパータイトルマッチなんて話はあるし、出土品の相場情報やら鑑定師募集の広告なんかもある。零細企業、中小企業、大企業や業種と今は分かれているが、そのうちコングロマリットが主流の経済体系になるのではなかろうか?
確かに各分野に分かれるのは分かるし、企業として利益を追求するのは間違っていない。しかし、その追求する先で必要な技術が他分野だった場合は提携だの特許だので揉めるし、それを考えるくらいなら企業連合として肥大化していくのではなかろうか?
実際零細企業に腕のいい鍛冶師がいてその人材を欲しがり、引き抜きではなくノウハウごと吸収合併した事例は多数ある。そもそも大企業って一つの分野や研究だけしてるわけじゃないし、利益が出るならどんどん転用する。例えばフィルム製造メーカーが化粧品を作ったり、電子機器メーカーがゲーム作ったり等々。
俺の場合ギルドマスターなんて言う地位に着いてしまった訳だが、時代の変遷次第ではギルドとしての在り方もまた変わってくるんだろうな・・・。ただ、中間組織と言う梯子だけは死守しよう。民間と政府、どちらについてもメリットはあるがデメリットもあるし独立と言う方向だけはないし、今の蝙蝠状態が政府と民間を繋ぎやすくてちょうどいい。
「お父さんもスモア食べるですか〜?いっぱいあるですよ〜。って、フェリエットは肉を焼きすぎです!あっ!その串は私が育ててたやつ!」
「狩猟本能には逆らえないなぁ〜。この肉は今が一番旨いから私の口に入ったなぁ〜。」
「キー!」
「まぁまぁソフィア。そっちの串もいいし芋もいいみたいだよ?」
「あっ!明太バターのジャガイモ美味しい。長谷川君は塾で来れなくで悔しがってたなぁ・・・。後で写真だけ送っとこうかな?」
「やめとけ本田。委員長に泣かれるよ・・・。ソフィアにしろフェリエットにしろお近づきになりたい人は多数。下手するとそこら辺のアイドルよりも仲良くなりたい人多いんじゃない?」
「うっ!世界のフェリエットさんにソフィアさんにファーストさん・・・。僕はモブ僕はモブ僕はモブ・・・、期待せずに絵を描いておこう・・・。」
「そう言うな少年。人は中身だと言うけれど、最初に目に付くのはどうしようもなく外見で、それを乗り越えられたからこそ中身に目が行くものだ。こうして家に呼ばれている以上、変に畏まらず自然体でいればいい。」
「のわつわふー!」
誰かに言ってみたいセリフと言うか、呼んでみたい呼び方そこそこ上位。多分、今なら外見だけなら綺麗なお姉さんなので許されるはず!足りないのは真っ赤な髪とかトランクとか?本田は変な叫び声を上げているが、少なくとも小綺麗にしてればそこまで変な印象は持たれない。そもそも人のファーストインプレッションは外見で、次に話してから変わるが第一印象を変えるのはものすごく大変だ。
例えばかなり真面目そうに見える様になった浦橋とか?大会時はヤンキーと言うか半グレと言うかピアスに髪型にタトゥーとちょっとお近かずきになりたくない外見だったが、宮藤プロデュースと言うか上に立つなら外見もと言う話で今は好青年風に見える。別にOFFの日にピアス山盛り金髪とかでも咎めはしないがTPOは大切だろう。まぁ、コスプレさせられて増田に会った俺が言っても説得力は皆無だが、あのコスプレもまた望まれた姿なので仕方ない。
「はいどうぞ、スモアです。」
「ありがとうソフィア、フェリエットはなに猫耳カチューシャ構えてるんだ?次いでに言えば流れる様にソフィアは背後から抱きついて父親の頭の上に顎を乗せない。」
「朝から見逃した分を取り戻したいなぁ〜。付けてくれるならこの串をやるなぁ〜。」
「ちょうどいい高さと言うものがあると思うですよ?」
「私には眩しすぎる光景だ・・・、悪いけど私もモブ宣言しようかな・・・。」
「ミカンは女の子だからいいよ・・・、僕はこれが見つかったら明日クラスの男子から処刑されるんじゃ・・・。」
娘の友人2人がブツブツ言っているが、どうしたものか・・・。まぁ、中学生だしスィーパーとしてもギルドとしても付き合い出すのは来年以降か。先ずは人なら16歳になる事。そしてゲートに入る許可をとる事。かなり難しい問題で意見もガッツリと割れている。と、言うのも16歳で集団職取させてスィーパーとして働くとしても外で働くにしても、早期に職に触れてイメージを養えば今後役立つと言う層と、スタンピード外でモンスターと戦わないでいいなら危険だから本人の自主性に任せたいと言う層がいる。
確かに親からすれば子を危険にさらしたくはない。しかし、同時に毒親なんかはさっさとスィーパーにして収入源にしたい人もいる。ギルドとしては16歳の入場に規制はかけないし、政府としても自衛手段としてスィーパーを推奨はしても強制はしない。つまり、その家庭の問題として投げてしまっている。
「早くに16歳になる人はいいですね、私は誕生日が遅いから最後尾です・・・。」
「こればかりはね・・・。」
そもそもソフィアも俺も誕生日知らないし、今の年齢が本当に合っているのかも分からない。多分スィーパーには成れると思うがそれが何年後なのか、或いは既に成れるのかさえも・・・。本人との話し合いの結果、中学生卒業時に一応入りダメなら1年後にまた入るとしてある。なので当たりと言うか年齢が到達すれば何時かは成れるんじゃないかな?
定期的に外で受けてる検査も普通の人間と変わらないと言うし、寧ろ健康体なのでその検査も頻度を落とそうかと言う話もある。実際、検査する人はソフィアの出生の秘密は知らないし、その知らない人が健康と言うなら確かなのだろう。
「その・・・、ファーストさん?一緒に写真とかってお願い出来ますか?」
「かまわないよ。流石に大勢で詰め掛けられたら困るけどこうして遊びに来てくれた子とならね。」
5人で写真を撮り肉や焼き芋を食べて暗くなり出したので解散。炊飯器のセットはソフィア達に任せ残り火に更に芋を入れて妻や息子の分を作る。足りない火力?魔法でやればいいし、結構灰も多いので長めに焼けば大丈夫だろう。適当に離れてブロックに座りプカリ。ソフィア達は境界の世代だなぁ〜。流石に今の3年生には法整備が間に合わないが、ソフィア達が中学生を卒業する頃には粗方法律も決まってくるだろう。
高校入試にしても今年まではペーパーをやるが、来年からは何を基準にするのか・・・。下手したら内申点と言うか素行で判断して学力はスィーパーに成ってから考えるとか?人が人を評価する関係上、絶対の評価はないし学校外には目が届かない。さてさてどう言う進め方をするのかねぇ・・・。
「父さんまだ外にいたんだ、日が沈んで冷えてきたぞ?」
「そうだな、芋を出してから家に入るとするか。お前は今日もバイトか?」
「そうだよ、今は先輩達と武器を改造したりパワードスーツを改造したりしてる。ただみんな飛行ユニットを扱いたいって叫んでるかな?流通し出したら間違いなくパワードスーツに着けたいって人出てくるし・・・。」
「あると便利だからな、アレ。魔法程自由度はないし機械制御な分どうしてもモンスターとの戦闘ではラグが出る。でも、それを差し引いてもコツさえ掴めば足の遅い組も高機動に成れるしな。」
「そこなんだよなぁ〜、適当な乗り物っぽい物作ってそれに搭載して固定砲台になりたいって人もいるし、足がやられた時の緊急装置にしたい人もいる。やっぱり奥に行くとして足やられるとまずいよな?」
「まずいどころか薬もなくて移動困難なら最悪見捨てると言う選択肢が出てくる。両手があって逆立ちで走れるならいい。片足でも飛び跳ねるだけの強靭さがあるならまだ助かる可能性もある。ただ、移動出来ないなら致命的だ。」
「やっぱり足は強化しておくか・・・。」
「魔法の話か?」
「いや、パワードスーツ。中には軽量志向で早く動けるタイプを望む人もいるし、そういう人には外骨格タイプを勧めてるんだけどね・・・。」
「アレって確か救急箱だろ?」
様々なパワードスーツが発売される中で使う人のニーズも様々。全身を覆うタイプを欲しがる人もいれば息子の言う外骨格タイプを欲しがる人もいる。外骨格タイプは背中に装着し胸の前と鼠径部で止めるタイプや腰で止めるベルトタイプがある。
ヘルメットには電子制御が組み込まれているが、身体に着ける方にはそれはなく、共通してある機能とすれば四肢切断時の簡易義足義手機能や止血帯機能かな?切断も怖いが失血死も怖いので泣こうが叫ぼうがガチガチに縛り上げる。本来なら定期的に血を流して組織の延命を図るのだが、今だと外にさえ出れれば四肢も再生出来るし結果として血を失わないと言う方向性に舵を切っている。
なので戦闘用と言うよりは最後の命綱として誰が呼び出したか救急箱と認識され、格闘家や盾師なんかの肉体に自信があり動きを阻害されるのを嫌う人から愛用されている。まぁ、魔法糸や調合師の糸なんかで作った服を着ているし装飾師から防御用に刻印をしてもらったり、硬度照射装置で硬度を増したりとルーキーから中堅に成ればなるほどリスク管理に重きを起き出す。まぁ、その中堅も先を目指すとなると更に狂った様に準備をしだすが・・・。
「救急箱は救急箱で物足りないって人もいるんだよな。こう・・・、エマさんみたいに反応装甲タイプが欲しいとか、自己構築した装甲に合う様な変わったやつが欲しいとか。例えば父さんならどんなのが欲しい?」
「パワードスーツとして?う〜ん・・・、パワードスーツよりもマント派かな?厚手で丈夫なら靭性もあるし取り回しとしても楽ではある。それに広げて指輪に入れておけば目の前に取り出しビームも直撃回避は出来るしな。」
コンマの世界の出来事だがそのコンマの世界で戦うのがスィーパー。ビーム着弾前にマントを割り込ませられれば割と有効で一瞬の遅れを元に回避も出来るし、場合によってはモンスターをぶちのめせる。それに直撃するとビームなので熱い。確かに貫通して行動不能よりは熱傷にとどまるのはありがたいが、継続ダメージは避けたいものだ。
「マントかぁ・・・。確かに欲しがる人はそこそこいるし、武器のマントも売れ筋ではあるな。端っこ改造して剣士の剣を仕込んでマントを翻すと切れる様にしたりとか。」
どこぞのボスを目指している様な奴もいるのか・・・。いや、そもそも近代戦を超えた予定調和なしの未来戦闘なので空想から攻撃手段を待ってくるのも仕方ない。筆頭と言えば卓だろうか?スーパー戦隊って人には理解出来ない力で動いてるはずだし。
そんな会話をしつつ家に入ると妻が夕食の準備をしていた。冷蔵庫の肉が少ないと愚痴っていたので追加で渡し、今晩はジャガイモが少なく肉多めの肉じゃがと味噌汁に大根サラダ。さては2人共焼き芋の時にジャガイモやら肉を使ったのを話していないらしい。まぁ、俺も食べて共犯者になっているので、こっそりと食卓に並べて黙っておこう。別に怒られるわけでもないし。
そんな夕食を終えてマッタリ過ごした翌朝。ギルドに出勤してメールチェックから始め日常業務をこなすがそこそこ重要なメールは多いな。1つはファイアーウォールの説明書作成と横展開出来ないかと言う話。奏江に任せたかったが宇宙エレベーター方面で時間がなく手が回っていない。次にギルドフル稼働に伴いお茶会がてらにマスター会議をしないかと言う提案。確かに先輩を頼れと言ったので最寄りの先輩達とは連携が取れている。しかし、それをざっくばらんに話す場がないので、一旦集まって情報共有の場が欲しいとか。
最後は種子島宇宙エレベーター離発着場の視察。増田の話では人員選定中としてあったが、行く行かないは別として神志那を連れて視察はして欲しいらしい。まぁ、乗せられるかもしれない宇宙エレベーターの試作機なら見ておいて損はないだろう。
「クロエは見えない宇宙人が見えるじゃないですか、それって私にも視ると言うか感じ取れる様になると思います?」
「えっ?宇宙人見たいの?やめたほうがいいよ、結構グロいし。」
「でも、一方的に攻撃されたら困るじゃないですか。私は防衛職ですし、こう・・・、なにか幻想的なモノを視るような聞くような・・・。」
「幻想的ねぇ・・・、人が見れる最も幻想的な物ってなんだ思う?」
「人が見れる最も幻想的な物ですか?それはこう・・・、どこかの地底湖とか雄大な自然の風景とか・・・。」
「違うよ。もっと身近で俗っぽい。」
「幻想的なのに俗っぽいんですか?そんなものありましたっけ?」
望田が仕事の合間にポツリと漏らしたが、自分の目と他人の目を通して見ない限り同じモノが見えているとは限らないし、感じ方も違うのでそれを幻想的と捉えるかも違う。例えば神志那の見た宇宙人と俺の見た宇宙人は概ね一緒でも話してみると差異がある様に思う。それに望田は地底湖と言ったが光のない洞窟の先の湖とか怖いだろ?
「こ、答えを・・・。」
「答えはコレな。」
差し出すのは100円玉や千円札、貨幣である。納得するしないは別にしても少なくともコレは中々幻想的だろう。そして最も俗っぽい。なにせ有史以来人は金に狂い金に踊り金を集め続けてるからね。
「俗っぽいと言うか幻想的が消し飛んでますよ!普通にお金じゃないですか!」
「いやいや、コレは幻想的だよ。同質量で同じ大きさの鉄や紙にコレと同等の価値はあるのか?答えを言うとない。」
「それは原材料ですからね。ただの紙にそんな値打ちがあったら誰でも紙の束を買いますよ。」
「なら、インクにそれだけの価値がある?」
「いや、インクにも・・・、柄・・・、そう柄はどうです?」
「この柄に美術的な価値があると?」
「美術的な価値はないと思いますけどお金としては保証してありますし、誰もがコレは千円札って見たら分かるじゃないですが。」
「そうだね、コレは千円と書かれたただの紙だ。なら、それの価値は誰がどう保証するのか?答えは国だけどなら国とはなにか?それが人だと言うなら何故コレにその価値を見いだしたのか?幻想的って言葉は辞書で引くと、現実の世界から離れて夢を見ているようなさまとある。なら、人々がただの紙と鉄を追い求める様は幻想的だろう?」
「いや、しかしですね・・・、でも国が滅んだら紙と鉄になるし・・・、でもコレがないと買い物出来ないし・・・。」
「単純に考えると貨幣と言う幻想は阿頼耶識にある。つまり、誰もが経験を積めば意味を知り活動の拠り所になりえると言う話だね。実際仕事が好きで仕事する人は少ないし、仕事をしたなら給料を貰って生活する。でも、渡すのは貨幣でなくとも面倒だろうけど物々交換でも言いわけで・・・。まぁ、見えない宇宙人が高尚で万能の存在だとは思わない方がいいよ。」
「そうなんですか?」
「だって見えない宇宙人の筆頭って今の所ソーツだよ?今は会う時に斎藤さんの姿をしてくれてるけど、本当は身体なんてないし。」
「あっ、急に俗っぽくなった。でも、結局見るすべか・・・。」
「見えないなら居ないも一緒、相手がアクション起こすまでは無視でいいよ無視で。私達には戦うべき現実が目の前にあるからね・・・。さて、仕事を再開しよう。」




