544話 OFFの日 挿絵あり
増田と話して見送り妻と昼食をとる。格好のせいかかなり見られるが諦めよう。ソフィア達が修学旅行で種子島の離発着場所を見たと言っていたが、最近の建物の建設速度はどんどん加速しているので分からない。ただ、来月やるからにはシステム的な問題もないのだろう。
「何か考え事?物思いに耽る貴方も素敵だけど私も見て欲しいかな?」
「いや、増田さんから遥の頑張りを聞いてね。今や娘は時の人、アイドルじゃないけど大成したなぁ〜と。」
「あの子また何かやったの?前は宇宙服作ってるとか言ってたけど。」
「その宇宙服が形になって来月宇宙に上がる。いや、莉菜はニュースで知ってるか。浦城さん達が使った宇宙服と言うかパワードスーツの中身やマントを作ったのが遥だよ。」
「子供はすぐに大きくなって離れちゃうわね。那由多も来年以降で家を出たら残るのはソフィアとフェリエットだけになっちゃう。あの2人はどうするのかしらね。」
「ソフィアはまだ3年、長くとも7年はあるしフェリエットは結婚に思い至るかかな?老後は猫と3人で暮らすと思ってたけどまだまだ老け込むには早いよ。なにせ帰る場所は家だからね。まぁ、仕事して県外に出れば残った人が今の家を貰う事になるだろうし、私も住み続ける予定だからあの家は当分空にはならない。」
40も中盤になれば親の介護やら仕事する子供達に持ち家を譲る譲らないなんて話がちらほら出てくる。幸いお互いの両親が元気だからいいのだが、寿命と言う曖昧なモノが更に曖昧になってしまった世界でどう決着を付けるのか?と言う課題は大きい。
元々の考えとしては定年まで働いたらウチの実家に2人で移住して、今の家は息子か娘に譲ると2人で話していた。仮に相続しないと言われたら寂しいが売ってしまってもよかったが、人生の転機と言うかフルスピンして捻じれに捻じれてしまったので簡単には移住も出来ない。
ウチの両親もそれは早々に理解して実家を売る方向にシフトチェンジしてしまい、出来たお金で大分に移住するか適当に旅して暮らすなんて話も・・・。墓の管理さえ出来ればいいらしいのでゆくゆくは墓を大分に移すかもな。流石に色々無視すれば秒で着けるとしても大村はそこそこ遠いし、墓参りするにしても実家から車で2時間程度かかる島原方面なので面倒に思ってしまう。
「そうね・・・、あの家には思い出が多いから住んでくれるなら私も嬉しいけど、それに囚われ続けるなら売ってもいいわよ?」
「人は思い出の中だけでは生きていけないよ。どんなに過去を見ても明日は来るし出会いもある。と、ちょっと湿っぽい話になったな。救護課はインターンシップとかはどうする?法律課は自由登校時に教育含めて採用者をローテーションでこさせるって言うし、食堂は調理師免許取ってからこさせる。鍛冶課は夏休みからと言うかバイトをそのまま判定付けて採用したから問題ないし、鑑定課は神志那さんが現状人がいらないって採用はなし。その他は受け付けとか補助者とかは来年4月からって話だけど。」
着々と新入社員と言うか採用者取り扱いは決まって行っている。特に法律課は忙しいのでスクリプターを多く採用しつつ他の職も本人の能力やイメージ次第では採用するし、食堂も責任者の3人は夜間警備員も兼ねているので料理だけ出来る人員を新卒から採用して鍛えたいとも言っていた。
鍛冶課は既にバイトとして働いて来た実績もあるし、その時間分の結束力や自分達が扱う物が人の命を左右すると言う話でプロフェッショナルとしての意識が強い。そこに加わる装飾課も魔術師からの糸の提供や魔法の提供も受け、新人含めて4月から試行錯誤をすると言う話で落ち着き、方向が決まっていないのは救護課のみとなる。
「ウチは看護学生とかお医者さんの卵とかも出入り多いし、インターンシップとして来られるよりも卒業優先かしら?調合師に治癒師、格闘家にと採用出来ない人がいない分知識優先で実務はそれからって話よ。特に退出したとしてもギルド内に出るわけじゃないし一刻を争う事態も想定して本格的に機動救護班も作る予定だしね。」
「アレか、普段は外を見回ったりしつつ負傷者がいたら駆け付けて回復薬投与しながら運ぶっていう。」
「ええ、それよ。発見が遅れたりするとやっぱり危ないし、出るだけで精一杯の人とかもいるからね。大半の人は自分の力量って言うの?それを分かってゲートに入るけどそれでも絶対の安全はないし、何より来年から新しい専業スィーパーとかが増えれば負傷者の割合もね・・・。だからトリアージとか後回しにして回復薬ぶっかけて救護所に運んで来る人達がいるのよ。」
実際運悪くズタボロの状態でギルドから2km地点に出た人はいる。幸いと言っていいのか昼間だった事と早期に発見出来て且つ、近くの人がいい回復薬を惜しみなく使ってくれたから一命は取り留めた。ただこれが夜間だったり発見が遅れれば彼は死亡していただろう。
手持ちの薬は使い切ってしまいなく、左肩から右下腹までの広い裂傷にそれに伴う胸骨及び肋骨の一部切断、臓器もレーザーカッターで切られたのか熱傷が目立ちその他指の欠損や右目の失明状態等々・・・、微小と言うには小さくない傷が多数。幸い妻達救護課で対処した後病院に送り順調に回復したと聞く。
入る人の背景にギルドとしては関与しない。それがソロだろうとチームだろうと、だ。中が治外法権である以上、他者を信用出来ない人も一定数いるし何らかの利害関係を元に入る人もいる。仮に止めるとするならゲート入場時に誰かが嫌がっていたりした時だろうか?
外見での判断は既に難しく16歳でスィーパーに成れる関係上、小柄な子もいれば大柄な子もいるしライセンスを取得している以上入るなとは言えない。そんな中で明らかに入場を嫌がっているならそれは別の事案だろう。なにせゲート外は法治国家日本なのだから。
「確かに今まではスィーパーの協力と言う名の善意が強かったし、その辺りは手厚くしよう。人選は済んでるんだろ?」
「もちろん。体力ある子や人探し出来る子を重点的にね。ただ、流石にギルドの屋根とかに出られたらおしまいだけど・・・。」
「翌朝まで頑張ってもらうか引っかからず滑り落ちるのを願うしかないな。流石に全ての壁に対人センサーとか入れるわけにもいかないし、飛んで退出してなければ大丈夫だとは思うけど・・・。」
「あら、もうこんな時間。仕事に戻るけど貴方はこの後どうする?」
「う〜ん・・・、本屋に寄ってから帰るよ。何か買うものある?あるなら買っとくけど。」
「何でもいいからお肉お願い出来るかしら?フェリエットもソフィアも食べるし、那由多は部活引退して少し食が細くなったけどまだ食べるからね。」
「分かった、最近はどこのスーパーも業務スーパー並みにキロ単位で肉とか売ってくれるからそれを買っておこう。」
妻と別れて食堂を出てスィーパーや獣人が見つめる中猫耳を外し、残念そうなため息を置き去りにしつつバイクで本屋とスーパーを巡り帰宅。本屋はいいねぇ、Natureにしろ宇宙科学雑誌にしろ専門書にしろ漫画にしろ、行けば興味をそそられるもの多数。流石に国家レベルの情報はないにしても、逆を言えばこれが大衆レベルの話となる。
ただ、その大衆レベルも昔よりレベルが高く予想外と言えば赤本とか資格取得の参考書なんかも売上にランクインしているし、スィーパー向け雑誌も色々な出版社から出され特集記事が組まれている。試しに魔術師入門なる雑誌を立ち読みしたが、わざわざ魔導書っぽく作る必要はあったのだろうか?中身は魔術師のイメージ特集とかなので実戦向きではあるのだが・・・。毎号集めるとタロットカードが揃うらしい。
そんな本屋を後にしてスーパーで肉とお菓子を買い込み帰宅。鮮魚はどうしてもキロ単位で買うのが難しい半面、肉はお安めなので欧米化した食卓と言うかどこの家庭も肉料理がメインになりつつある。確かにスィーパーにサンマ1尾で我慢しろと言うのは酷で、外で日常生活を営んでいるなら足りるのだろうが、それでも車で間に合わないなら走ると言う選択肢がある以上、相対的に食事量は増えていく。
まぁ、ウチの場合ソフィアは一般人と言うか職に就いていないので、食べ盛りの子供と言う範囲内ではある。買い込んだ物を一応冷蔵庫に詰め込み入らない物は指輪に入れたままでソファーに寝転びゴロゴロしながら適当に音楽を流して読書開始!誰もいない事をいい事にポテチを開けて本が汚れるのは嫌なので浮かせて口に運ぶ。
種子島の離発着場の記事は雑誌でも取り上げられているし、スマホでニュースを見ても様々な意見が出ているな。何が悪いとかいいとかは書いていないが、まず持って安全性にはどこにでも出てくる有識者からの意見が多数出てきている。
まぁ石英ガラスの球体を浮かべて宇宙に行くと言えば耐衝撃性とかに疑問を持つ人もいるし、それに対しての安全性や硬度をうたっているモノが多い。後は飛行ユニットの可能性とか?まだ民間に開示されていないので様々な憶測が飛び交っているが、日本国内に対する情報開示は宇宙エレベーターが飛んだ後に照準を合わせているらしい。
多分そこが中露への開示のタイミングなのだろう。自国の技術を最後尾で自国内に開示するのはいささか癪に触るが、下手に早期開示をしても難癖付けられる。それなら中露と同時タイミングで開示して丁寧に無視していけばいい。
実際開示された米国では山口が精力的に大量生産に向けた方法を模索しているらしいが、そもそもがモンスターの素材からの発明品となるのでやるならモンスター・ハントからだろな。まぁ、米国はエマを筆頭に中位もそこそこいるしどうにかならない事もない。
「ただいまー!」
「帰ったなぁ〜。ソフィアさっさと芋を持ってくるなぁ〜。畑で焼き芋するのは今頃に限るなぁ〜。これ以上寒くなったら私はコタツで丸くなって動かなくならなぁ〜。」
「私も参加してよかった?」
「いいですよミカン。焼き芋は人が多い方がおいしいです。」
「マシュマロとクッキーも買ってきたけど上手く焼けるかなぁ?」
「本田それはスモアだなぁ〜。熱くて火傷しそうだなぁ〜。」
どうやら読書タイムは終了らしい。子供達が友達を連れて帰って来たなら出迎えて持て成すのもまた大人の務めだろう。別に一緒に焼き芋をする気はないが、火の始末だけはしっかりしてもらわないと火事になりかねん。
「おかえり〜、焼き芋するのはいいが火の始末には気をつけろよ?」
「ほへっ!ファーストさん!?」
「は、初めてこんなに近くで見た・・・。」
「ただいまですお父さん。水はフェリエットがどうにかしてくれます。」
「猫科のマーライオンっぽく口から出してやるなぁ〜。」
「それは普通に水道から出していいから。2人もいらっしゃい、何もない所だけど適当にくつろいで遊ぶといい。必要なら燻製機とかバーベキューセットも使っていいし、肉の備蓄やお菓子もあるから遠慮なくどうぞ。」




