543話 底はどこなのか? 挿絵あり
「引き抜きと言うと警察専属とかのスィーパーが欲しいと?それはもう警察採用試験でやってくださいよ。足並みを揃えると言うならギルド職員採用試験と合同とかでもいいですけどね。」
「学力と言う指針がそこまで重要視されなくなる方向になりかけているので、それも長期なら視野に入るでしょう。実際クロエからアドバイスを受けた後に色々と問題を解いたりしましたが、ミスの部分が見つけやすい分、長考出来る時間が増える。今の将棋対局がいい例です、新たな定石なんてものがどんどん産まれてその場での対応力が磨かれ続けてますよ。」
「あっ、それ私も見ました。竜王戦とか凄かったですね、早打ちを互いに繰り返して対局時間は同じくらいなのに打ち手は何倍にも増えてるとか。」
「そんな事になってるの?」
「ええ、職あり対局だと駒が復活するルールがあるせいで何千手先の為にそこに打つなんて事がザラみたいですよ?前はスクリプターが強いって話でしたけど、今だとプランナーやオカルトも有利ですね。クロエもボードが好きですけど将棋します?」
「打ち方は知ってるけど流石に常勝不敗はなぁ〜。」
「ネット将棋のトップKENはプロ棋士とも言われていますが、毎回定石無視の常習犯なので誰かは不明と言われていますね。」
KEN・・・、それって賢者じゃない?人のうち筋に対して対応するから前半戦は常に変化するし、駒が復活するからこそどんなに取られようとも余力があれば逆転も出来る。それこそ互いの駒が盤面に王しか残ってないし状態でも手持ちさえ揃っていれば何回でも王が取られるまで再起が出来る。
見てないけど盤面格闘技は混迷の時代を迎えてそうだな。チェスとかなら復活がないから早期決着もありそうだが・・・。まぁ、普通にゲームする分には俺に辿り着く確率は少ないし辿り着かれてもネットで対局する分には問題ないか。
ただAIが囲碁で世界1位を取った時にプロの人が、独創性は消えて勝ち筋をなぞるだけになってしまったと言う言葉は印象的だった。まぁ、ルールがある以上指定された勝利条件を探るゲームで人がAIに勝つ方法を考えるなら、あり得ないミスを布石に使うとか?それも学習されたら厳しいと言うか別の勝ち筋を考えるしかないが。
「将棋はいいですよ将棋は。ちらっと見ましたけど来月のアレって本気ですか?」
「どうぞコーヒーです。キリマンジャロ産の風味豊かなものを使いました。」
「ありがとうと言いたいが、こういう場では私には安くで苦くてクソまずいコーヒーでいいよ。旨いコーヒーでリラックスしても眠くなるだけだ。」
「次からはマズイのも用意します!それで何の話ですか?」
「あ〜・・・、一応お前も聞いとけ。来月・・・、12月の中旬から末当たりで宇宙エレベーターの試作品を種子島から飛ばす実験をするそうだ。まぁ、エレベーターと言っても単体飛行するから厳密には方舟の試作品と言った方が正しい。それで、その試験飛行には誰が?」
「技術者として斎藤技術者主任。その部下として藤君。米国側から山口現地管理主任に・・・、後は選定中となっています。政府としてはクロエを宇宙に上げるかは議論していて保留となっていますね。」
「到頭宇宙ですか・・・、またちょっかいかけてきません?中露への技術開示は最後尾と聞いてますけど。」
「開示と言っても作成方法を書面にまとめ売るだけですからね。ビジネスとしては酷く簡単で問題とするなら買った国が作れるか?と言う点に集約されます。ただ、早い国は素材確保にゲートに入ったりオークションで落札しているので、その流れを見た他の国が勘ぐって追従しています。」
「経済活動が活発化するなら私としてはどうとでも。そもそも宇宙に行く意味を見出だせない私がいますからね。」
スィーパーも慈善事業じゃないしどちらかと言えば・・・、どちらでもなく金にはうるさい。そもそも命がけでモンスター倒してシビアな消失時間を気にしながら回収して素材持ち帰ったり、販売する方としては価格=自分の価値なので釣り上げていいならどこまでも上がる。それこそ初出品の品なんて交渉か指定品としかされない程。まぁ、それも潰すほどに本部長含め俺自身が選出戦時にモンスター素材を放出して価格を安定させた。
心苦しい面もあるが買われない品に意味はないが、命の価値を決める手段がないのもまた事実。しかし逆を言えば価格の決まってない時期にそれで売り払うと早くに示せれば実績が出来る。なら実力のある者がそれを示してしまえば後続はそれを無視出来るので、言っては悪いが本部がその値段で認めてしまえばいくら後続値段を釣り上げようと嘆願先が見えてしまうし、上限額を決めた交渉も出来てくる。
専業スィーパーは為替に興味がなくても市場には興味あるんだよ。主に食費的な面で。そもそもスィーパーの運動量は時間や日数にもよるが、ゲート外でも行動次第では常人の数倍なると言う。俺自身は巻き戻るので満腹から小腹或いは無限に食えるので腹ペコと定義出来るが、常人が戦闘を終えてゲートから出て来れば、或いはセーフスペースに撤退してくれば基本的に空腹である。
食うもの自体は最悪ゲート内でどうにかなるが、それでも旨いものは食いたい。なので料理人は獣人以外からも丁寧に扱われるし、企業は兼業っぽく駐車場を潰して畑にしてたりする。割と食料自給率は上がってるんだよな。食うに困る事はないが消費は上がり葉物は若干値上がりしてるけど。
「どちらかと言えば中露への牽制と言う側面も強いと松田さんから聞いています。先に大規模宇宙ステーションをあちらは建設したのでそれを監視したいと言う話もありますし、別の宇宙人を呼び込まれても困りますからね。流石に外宇宙と言うか月以外へ有人で向かうと言う話はないにしても何らかの方法を有していないとも限らない。」
「やっぱり月に行く気なんですかね、クロエはどう思います?」
「さぁ?月に行くにしても裏側見るしかないんじゃない?それに金星は暑いし火星は寒い。その付近まで行けたとしても生きて帰ってこれるかどうか・・・。」
どちらかと言えば行くなら火星方面。設計図から出た技術を元にエネルギー関係を考えると寒い方がエネルギーは生み出してくれる。それを元に疑似太陽光で農業やらを行えば少なくとも人や動物は住めるし、管制システムさえしっかり管理出来ていれば隕石の衝突前にコロニー側が移動して回避出来る。
まぁ、場合によっては隕石壊してこいなんて言うミッションも発令されそうだが、飛行ユニットって対物理バリアにも出来るからそこそこ小さくしろって意味合いになるのかな?冥王星も復活したし開示してない技術も多数あるが太陽に近づくのは怖いもんね。そう言えば若い人は火星人をタコ型だとは思ってないらしい。
「現段階での計画としては離陸と着陸に要点を起き且つ、宇宙空間での問題点の洗い出しに注力するそうです。現行の宇宙エレベーター(仮)は余りにも高級仕様と言う面が強いですからね。」
「高級仕様?」
「ええ。遠心力による引力発生方式ではなく引力により上下を作るそうです。その為飛行ユニットが相当数必要で建造費の大半はそこから来ています。モンスターの素材は値崩れと言うか売り手側としても値引きしない姿勢が強く、買い手としても無理を言って拗れるとその後の取引に響くので高止まり傾向です。NASA側は遠心力固定方式も建造費節約出来るのではと視野に入れていますが、現在主導はJAXAとラボが担っているのでやるにしても今後の課題と言う話になります。」
「今後簡略化出来る部分を減らしていくと。まぁいいんじゃないですか?低予算で作って不備連発よりもガチガチに作って不要機能を減らす方が。最悪不備が出たとしても爆発するわけでもないですし、精々砕けるくらいでしょう?素材的に外壁に穴があいて吸い出されると言うよりも一気に破片になりそうですし、宇宙服と言うかパワードスーツも指輪に入れてるんでしょう?」
「ええ。そちらは既に浦城さんと風海さんが上昇と降下及び宇宙空間での運用テストを完了しています。ちょうどクロエがゲートを進んでいる間の話ですね。コレは国内外問わずに報道されました。」
増田がタブレットを取り出し画像を見せてくれる。なんと言うか簡素でヒロイック?マントっぽいモノを付けているが武装はない。まぁ、報道されると言う状況で武装しているのは体面が悪いし、いざとなればどうせ指輪から出せるから問題ないのかな?しかし、徒歩で宇宙に行くが実現してしまったか。実際上昇に付いてはスーツさえ保てば飛行ユニットでかなり速く行けるだろうし問題は帰りかな?地球の引力に均衡を保ちつつゆっくり降りると言う。
「このマントって必要なんですか?カッコつける為に着けてるとは思いませんけど。」
「それって安全装置らしいですよ?小型のデブリは斥力飛行の関係上弾いてくれますけどそれでも怖いから背面を守る為に着けてるらしいですね。」
「それだけではなく遥さんが魔術師:火の糸を使い服を作り保温性や耐熱性を増しているとか、魔法の受け渡しで作られた魔法を加工して緊急補助システムを作ったりと大活躍でしたよ。」
娘は頑張ってるらしい。らしいと言うか歴史に名を残したんじゃないだろうか?親としては鼻が高い。少なくとも遥には親の威光なんてものはほとんどなく、俺がやった事と言えば素材を渡したりしたくらい。その素材が凄いとか周りが凄いとか言うのは物作りには関係ない。そもそも遥がやっているのは服の作成だしな。
ネットを見れば装飾師の作品は多く出品されているし、魔法糸や固定処理されたゲブラー素材のスィーパー装備も売られている。流石にゲブラー素材は対ビーム性に一部難が出てくるが刻印されていれば1発から数発は耐えられる。この辺りも遥発信な部分が多いので人の命を守ると言う面では俺よりも貢献してるかも。
「息子と共同で何かしたり色々試していたみたいですからね。さて、今回の報告はこの程度で?」
「そうですね・・・、私としても何もなかったと持ち帰るしかないのでこれ以上は雑談となるでしょう。ただ、何かあれば速やかに連絡してください。」
「ええ了解しました。私もOFFなので下まで見送りましょう。カオリ、何かあったらすぐ連絡して。青山も少しは休め後、つきまとうなよ?」
コーヒーを飲みあげ言葉を残して増田と部屋を出る。生憎と妻も仕事だし家に帰れば1人か。まぁ、時間的に昼食は一緒に取れるかな?コツコツと2人で廊下を歩きエレベーターへ。そんな中で増田が口を開いた。
「詳細に調べられてないにしても63階層迄で祭壇はなし・・・、やはりまだ奥だと思いますか?」
「そればっかりは判断しかねますね。ゲートが何階層まであるのか、祭壇の形がどんなものなのか。何1つ明確なものはないですからね。まぁ100階層が底なら嬉しいですし、そこまでに祭壇があればいいんじゃないですか?なければ更に奥に進むだけですし。」




