542話 まだ早い 挿絵あり
「先ずは詳細を。今回録画映像は?」
「ないです。流石に道中はどうにかなりましたがガーディアンは無理ですよ。あの場でカメラを首につけてたら辿り着く前に全員首チョンパです。」
「人類の危機って寝てる間に来るもんなんですね・・・。あっ、ゲートは起きてる時だったか・・・。」
ゲートを出て家に帰りトラブル対応での出張と言う話をでっち上げ、シレッと真実を捻じ曲げつつ前に買った東京土産を渡して嘘の強度を増やして隠蔽工作。実際ガーディアンの件は増田を通して松田クラス・・・、つまりは国のトップしか知らない事となっている。まぁ、ガーディアン解体まででトータル15日、11月も半ばに差し掛かり寒くなりだしている。
定時報告はこまめにしていたので国としても口外はギリギリまで待つ姿勢を示していたし、仮にヤバいと言う連絡だとしても増田の話ではゲート内での事と何処か気後れしている部分もあったと言う。まぁ、正常性認知バイアスかな?確かにいきなり地球が滅ぶと言われても俄に信じられないだろうし、それがゲートに入らないペーパースィーパーなら更に浮き世離れした話になるな。
そんな事を考えつつマスタールームで増田、俺、望田の3人で話している。半月開けたので望田には休んでいいと言ったのだが、逆に今日まで休めと望田に懇願された。ただ、増田の事もあり休みと言い張りながらのサービス残業である。まぁ、話しが終わればそのまま帰るだけだからいいのだが・・・。
「それとその格好は何ですか?その格好は!」
「一応OFFなのとギルドでハロウィンイベントがあって、遅ればせながらハロウィンらしい格好をして欲しいと言われて着ています。堅っ苦しくスーツで悲壮感漂う顔でお出迎えした方が良かったんですか?その場合悪い知らせしか言いませんけど。」
胃の痛い増田に多少のユーモアと言う名の清涼剤を届けたかったのだがお気に召さないらしい。因みにこの格好で居ると猫人が更に集まってくる。フェリエットが一緒に居たいと学校をサボろうとして大変だったが、帰って来たら撫でくり回す約束で手を打った。獣人的には尻尾があった方が自然だし耳は大きく長い方がいいらしい。ただ人としての感性もあるので、ないならないでそれはそれでもいいらしい。
ギルドのハロウィンイベントは託児所の子供達が仮装してお菓子を貰いに行ったり、本当にお化けと言うか妖精と言うか・・・、魔術師が腕試し的なイベントを開催して色々と出していたとか。定番と言えば龍やらリヴァイアサンにゴーレム。変化球なら雷獣に蝶等の虫なんか。
モンゴリアンデスワームを作ろうと魔術師:土と火がタッグを組んだようだが、そもそもモンゴリアンデスワームって吐くのは毒で火を吐く時点で別の何かだろう。タバコを取り出しプカリ。
「悪い・・・、知らせがあるんですか?」
「私も聞いてませんけど?」
「最上級に悪い知らせです・・・、青山が至りました。」
「それはいい知らせなのでは?」
「探索者と第2職はなにを選んだんですか?」
「肉壁です・・・。夏目さんと旅をした分変化は得意な様です・・・、ね!」
ああ!窓に!窓に!青山が!持っていたカボチャのクッションを投げつけたが、ギルドはクライミングOKなんだよなぁ〜。上層の山岳地帯で渓谷を登るのにもクライミングスキルは役立つし、目の前の建物を巨大モンスターと見立てて何処から攻める?と言うイメージ訓練にも使われる。見られたらまずい場所はカーテン閉めたりやミラーグラスなので大丈夫だが、スィーパーのやる事に絶対の対策はない。
ただ、今の状況に限って言えば青山は入ってこれない。厳密に言えばスライムみたいに隙間から入って来ようとしても骨が邪魔になるし着ている服が残る。指輪に瞬時に収納すればクリア出来ない事もない。まぁ、服は肉壁のボディースーツなら身体と一緒に変化するので大丈夫と言えば大丈夫だが、今度はその指輪が邪魔をする。
ここから見た感じスーツは着てないしここで真っ裸になるなら中層送りにするしかないな。ただその青山も当事者なので中に入れないわけにもいかない。窓を少し開けてやるとそこから滑り込むように入ってきてクッションを拾い渡してくれる。一応真面目な話をしようとしているのを感じたのか黙っているな。
「大分だけで中位が3人・・・、政府としては分散をお願いしたいですが種子島の件を考えると増強警備としておきましょう。それで、詳細をお願いします。」
「簡単に話せば事の始まりは初期に反応して講習会メンバーと撃退したガーディアンが処理しきれてなかった事が問題ですね。私もあの時点では跡形もなく消失していると思ってましたが、中層・・・、具体的には63階層で残留している知らせを受けました。そして、そこまで進み無力化に成功、解体したガーディアンはそのままゲートに食われておしまいです。」
「なにも回収出来なかったと?」
「ええ、ただでさえ中層のモンスターは厄介です。無力化とモンスターの迎撃、私は解体がメインでしたが流石に戦場での解体で絶え間なくモンスターからもガーディアンからも攻撃されていれば回収する暇もない。無力化後は集まったモンスターからの離脱だけで手一杯ですよ。」
回収したガーディアンについては3人で口裏を合わせて還元変換された事にした。流石にこれをラボに持ち込む気もなければ公にするつもりもない。賢者曰く人類にはまだ早いオーバーテクノロジーの塊。それを公にしたとしてどう扱うかと考えれば・・・、その前に手を加えるだけでも何が起こるかもわからない。
これから職に就く獣人が増え、俺の指輪の中身を全面的に開示するような事態にでもならない限りはしらを切るし、そもそもガーディアンの分解されたパーツを見ても何に使うかは分からないだろう。
「本当に消失した、その回答に間違いはありませんか?」
「ありませんよ。元々ボロボロの状態で自爆覚悟で戦っていたガーディアンです、機能停止後は速やかに消失していきました。」
「ふむ・・・、今までの経験則から尋問するとスィーパーには足元を掬われる。嘘発見器は騙されるし、呼吸や表情を読もうとも肉壁なら作り変えられるし、貴女の様に表情を隠す事も出来る。貴女の言葉を信じるしかない以上、信じるしかないのですが・・・、本当に安全と宣言してよろしいのですね?」
増田の視線がチラリと望田に向かうが望田にも何も話していない。本当に廃棄するならこっそりとゲートに入ってセーフスペースでなくなるまで確認するつもりだが、流石に機能的にそれはもったいない。長く生きるのでいつか来るいずれの日までは死蔵か、限定的に扱えそうな機能だけ選定しようかな?
ちょうどいい事に設計図が見つかったとでも言えば、その情報が俺から漏れたのではなくソーツからのものだと解釈してくれる。やっぱ割りと欲しいのは自動修復機能だよなぁ〜。宇宙エレベーターと言うかコロニーに組み込めばメンテナンスフリーも実現できそうだし、危険な宇宙空間での作業も減らせるし。
「クロエさんの言う事は真実です!あのヤバい所でヤバい戦いをして俺なんて片腕は炭化して下顎はなくなって、死んでいたかもしれないんです!それを疑うんですか!信じるまで殴ればいいですか!」
「こら、暴力的に訴えるな。やるならスィーパーの犯罪者とっ捕まえるときにしろ。お前なら周りへの被害も最小限に出来るし犯人も見つけやすいだろ?」
「俺はクロエさんの壁でありたいんですけど?」
既に壁だよ・・・、立ち塞がって迂回しようが回れ右して走り出そうが追ってくる壁。毛先ほどの可能性もないが、俺が青山からの奉公を全面的に受け入れて仕事も投げ出して貢がせたとする。その場合奉公する者と青山はこの上なく幸せで、受け入れている関係上俺にも何の負担もない。
だが、それではスィーパーとは名乗れない。そんな飼われるだけの生活なんてまっぴらだし、休むのは程々じゃないと堕落し続ける。別に仕事が好きな訳では無いが、それでも誰かにおんぶに抱っこで楽し続けるのは違うだろう。ある意味反面教師だな。或いはサボろう君とか?
「立ち塞がってもいいが私はそれを乗り越える。勝手に道を譲るなよ?お前は奉公したい、私は受け入れない。そのバランスが大切なんだからな?」
「はい!あっ、灰皿変えてコーヒー淹れますね。」
「彼の配置換えは無理ですね。」
「無理でしょう。ここに来た経緯から考えても。」
「私としては警察貸し出しとかでもいいんですけどね。伊月さんとか青山さんによく捜索の手伝いしてもらってますし。」
「その点は私としても黒岩さんから警察機構の改革案を聞かされています。警察機構そのものが存続するのか、ギルドと統合してよりスピーディーな方向に舵を切るのか。現状、どの組織にしても企業にしてもスィーパーと言う存在は無視できません。そんな無視出来ない存在を管理する組織に対して警察機構としてどう共存していくのか?そんな議論が最近交わされています。」
「アンチテーゼは必要でしょう?警察がなくなろうとも警察の傘下に入ろうとも、どちらにしろ批判したり監査したりする一定の距離を置く組織は必要です。その為にギルドは政府傘下で民間との中間組織。これが崩れれば暴走した時に誰が止めるんです?私は嫌ですよ?大多数の賛成に対して1人の否定ではただの我儘になる。」
「それは松田さん達と付き合って分かっています。ただ、現場調査に限り職員からの引き抜きもあり得ると言う話です。」




