538話 余裕を持って到着?
「方向は?」
「離れておるぞ?」
「それでも進まなきゃならないんだよ!」
突発的に潜りだして早10日、かなりの強行軍で寝る間も惜しんでフル稼働で進み続ける。この身体のいい点は本来なら休憩を強いられる状況でも動き続けられる事だし人としての生理的機能にとらわれない事かな?
トイレに睡眠に食事、水分補給はしなくてもいいが適当に進みながら何か飲めるしタバコも吸える。本来なら階層を降りる度に装備の点検をしないと不安でもあるのだろうがそれをまるっと無視出来るだけのスペックがあると言うのはこう言う時ほど有り難みを感じる。
幸いと言うか最適化については青山も正常に最適化された様だしそれで至れないと言う事は無い様だ。まぁ、そんな事があれば優劣どころか掃除そのものが滞る。人の精神をソフト面とするなら肉体はハード面、そのハードを増設と言うか補強と言うか耐えられるものにするのがやはり最適化と取るのがいいのだろう。
「やはりムカデや空の魚は面倒です、ね!」
「離れすぎないでくださいよ!今回はモンスターに構う必要はありません!」
目標は60階層以降となるだろうが、ゲートを進むなら結局全ての階層を進み次へ進むゲートを探さなければならない。脱出アイテムと退出ゲートと上昇アイテム。発見された出土品や要求したアイテムでは出る事や階層を戻る事を出来ても一気に何階層も行った事のない階層に降りる事は出来ない。
それは掃除をすると言う関係上仕方ないにしても、こう言う時ほどそんな機能が欲しいと思ってしまう。しかし、後どれくらいガーディアンは保つと言うか大丈夫なのだろうか?奉公する者が切羽詰まった感じではないのでそこまで急務ではないと思っているが、誰一人と言うか奉公する者も賢者も焦った様子はない。
そんな事を思いながら夏目も加勢に加わり中層を進む。元々夏目はソロでこの辺りを歩いていたので戦い方と言うか、治癒師と肉壁のシナジーがいいのか言い方は悪いが劣化版俺の様に傷付いても再生しながらモンスターを倒している。
これで魔法まで使えれば離れているモンスターも効率的に狩れるのだろうが、それは高望みし過ぎか。ただ、パワードスーツをオーダーメイドで買っているので、その辺りもぼちぼちこなせる。小田がクリスタルランチャー発見して、その火力から欲しがる人も多いのだがあれも中々出ないし、出たら出たで研究したい人は多くオークションに出品されれば軽く海外の豪邸が買える値段がつく。
まぁ、その豪邸もスィーパーからすれば頑張れば買えない事もないと言う額である。物価と言う面ではそこまで上がっていないと言うか横ばいなのだが、新技術や研究費と言うものは加速度的に予算が増やされ、なら何故物価が横ばいかと言えばそれだけ消費が増えているから。流石に新しい物は高いがそれでも多数からモニターを集めると言う方向にシフトチェンジしているので、余程隠したいもの以外は販売競争が加速している。その中でも勢いがいいのがスィーパーの装備関連と食品関連。
「見逃していいとしてもモンスターはムカつきますね。こう・・・、引千切たい的な。」
横でボリボリと保存食と言うか栄養バー的な物を齧る夏目がぼやく。その気持ちには同意するが早く進まないとな。こう・・・、元々待たされるのはいいけど待たせるのは苦手だし、早めに着けば出来る対処方法も増えるし話し合えるのでまごつくよりはいい。
「気持ちには同意しますが今は速度重視です。離れてるってどれくらい?」
「コレの足で半日あれば届く。」
「なら更に半日短縮する。夏目さんもバイトに乗って。空を突っ切るから概ねの場所で指示しろ。」
「心得た。」
森にはプレデター空には魚群。ただの魚群っぽいモンスターならいいがクラゲっぽいのまで出て来て更に面倒な・・・。前に勝った魚がムカデを取り込んで参加したのが小魚をミサイルみたいにホーミングで撃ち出してくる時もあれば、クラゲっぽいのが触手を広げて上空から森を刈り取る様に降ってくる時もある。
クラゲそのものが巨大なので普通なら穴掘って地下に逃げるか、全速力で範囲から離脱するしかないのだがその巨大なクラゲは付いてくるし、何よりも直下なら安全かと問われればそんな事はなく普通にビームを乱射してくる。まぁ、直下がお留守な戦闘兵器とかいい的でしかないし、弱点を露出してくれるのはシューティングゲームくらいか。
「空は空で私としても戦力的半減、青山に至っては攻撃手段がハンドガンしかないですが?」
「構いません。時間はたっぷりと残して問題には取り掛かるタイプですからね私は。それに、未到達階層まで進むんですよ?時間が足りないと言う事はあっても余るとは想定してません。夏目さんは何となくでもいいのでその辺りだと思えば言って下さい。」
下手すれば止める前にどんどん強化されて手がつけられなくなるし、止める手立てがあっても近寄れと言われたらどこまで近寄らないといけないかも分からない。乱射状態なら嫌だけどモンスターを扇動して盾にして進むしかないな。
そんな強行軍を経て未到達階層へ。喋る奴は殺意増々で狙ってくるがそれさえも掻い潜り進むしかない。安心しろ、後から確実に始末してやるから。その殺意の駄賃は自らの死で支払ってくれ。
「次へ行きますよ!」
「62階層、本当に未到達階層ですね。60階層にセーフスペースがなかったのは惜しかったですが・・・。次は65階でしょうか?青山的には?」
「知らぬよ。休憩所など必要なかろう?よこせと言われて適当に作ったのだ。本来なら少しゴミが来ない程度でよかったものをわざわざ壁で仕切ったに過ぎぬ。多分、適当に壁を差し込んでゴミが少なかったから・・・、なるほど。早期に溢れたのはセーフスペースとやらに残ったゴミを外に出したかったからか。空の空間が出来ればそれで安全であろう?」
「するって言うとセーフスペースを求めたからスタンピードが東京で発生したと?」
「吾はあの物作りの民ではないから知らぬ。ただ、効率を考えるならそれが一番分かりやすいだろう?掃除を依頼しその依頼人にゴミを掃除させる。機能テストも原生生物の戦闘力の査定も出来るから分かりやすい。流石にセーフスペースとやらの安全地帯予定地のモンスターは確保していたであろうが、それをアレが破壊するとも思えん。」
「嫌な発言どうも、今更そんな事を言われても背負うと決めたから動じない。ただ、やっぱりソーツはどこかでギャフンと言わせる。」
真実か否かは別としてセーフスペース予定地に残ったゴミを出して安全確保。確かに毎回何万規模とか教えてくれるが、もしかしてあの規模ってセーフスペースに残ったモンスターの数?と、言う事はセーフスペースにクリスタルが残ってたのって共食いの食べ残しとか?
一応安全ではあるのだろうが、次のスタンピードからが本番と言われている様な・・・。はぁ・・・、掃除はするにしてもこうも毎回変な事態に巻き込まれては骨が折れる。やはり底まで行って一端ゲートの事についても把握しないと怯えて眠る日が続くかも。
そう思いながら足を伸ばして63階層・・・。うん・・・、多分ここだ。夏目を見れば首を縦に振ると言うか呆気にとられている。俺だって同じ気持ちだよ・・・。
「ここで間違いないな。」
「だろうな。木の上に出たけど、それで助かった。遠くの空がずっと光り続けてる・・・。」
(あの光の方向で間違いないよな?共食いとかではなくて。)
(多分間違いないけど・・・、思ったよりも時間はあったね。まだ中性子星の形成迄は進んでないようだ。)




