535話 話しが通用しない 挿絵あり
「この生物が脆いのは仕方なきにして、吾が来たからには大船?とか言うモノに乗って安心めされよ。」
取り敢えずボロボロの身体を治して欲しいが、その前にコイツ何をして欲しいとか分かってるんだろうか?あからさまに魔女は不機嫌と言うか面倒事に首を突っ込みたくないオーラが出てるし、賢者は賢者で我関せずと言うかどこから出したのか『ギャラリー枠』と書かれたプラカードを首から下げている。
そのプラカード俺にもよこせよ。問い合わせ先というか応対者は魔女で確定なんだし俺もギャラリーでいいだろ?青山もかなりウザかったが今の青山(仮)は直感的にウザいと言うか関わったらダメな気がする。
「では、私は引き上げますので後はクロエさんお願いします。ガーディアン捜索の際は声をかけて下さい。」
「この状況で1人帰ります?」
「この状況だから1人帰ります。私としてもコレがどうなったかは気になりますが、それ以上に巻き込まれたら負けな気がしてならないんです!なんなんですかね、この人。」
「ふむ、そこの女は中々にいい勘をしている。中位である分あの御方達の誰かに見てもらえていると言う事か。去ると言うなら去るがいい。吾はクロエに用がある故な。ただ、クロエから去るなと言われたら去るな。勝手に帰ろうとすれば無理やりにでも居残ってもらう。」
「無理やりにでも?」
笑顔を崩さず脆いと言った身体の傷は見える範囲でなくなり、代わりにつま先を上げて下ろしただけで地面が砂の様になる。多分自分の傷を抜き取って地面に注入したのだろう。元々探索者と言う職は継続能力が高いんだよなぁ〜。追跡者程度には動けてゼロからの捜索も知見がある分得意、抜き取りが攻撃の要となるがイメージ次第ではかなりチート臭い。
そして、それを使える宇宙人が入れ替わって表面化したと。うん、俺のキャパは残念ながらそんなに多くない。よって、魔女に丸投げしたい。と、言うか魔女の眷属なら魔女が対応しろよ!何をそそくさと逃げようとしてんだよ!
(こら!逃げるな!)
(違うわよ!私がいると更にややこしくなるのよ!いいこと?よく考えなさい。奉公する者は私に対して奉公するの。今は間接的に貴女の中にいるから話しが通用するし貴女の言い分も通る。でも私が入れ替わって出たら最後、青山とか言う奴以上に貴女に、厳密にはこの身体に奉公するわよ?)
(いや、お前が拒否すればいいだけだろう?奉公する者から逃げるな!)
(・・・、本当に・・・、本当にいいのね?私は責任取らないわよ?)
(いや、責任て。・・・、えっ?もしかして拒否出来ない?)
(出来ない事は無いけど・・・、少なくとも全身丸洗いや面倒事の破壊。聞きたくもない歌やウンチクを話しながら面倒な人の殺害、価値あるモノを貢ぎながら不要なモノの排除。1つ曲解すればそれを行うわよ?そもそも貴女達と私達の価値観が違う様に奉公する者は奉公する者の価値観がある。そして、コレの最優先事項は私に奉公する事。いい?私の望みを叶える、そして自身の望みも叶える。)
奉公に対して拒否は出来る、しかし言葉を曲解されると暴走する。もしかして、腹減ったと言えば商店から金払う前に飯を強奪した来たり、風呂に入ると言えば三助よろしく必ず背中と言うか全身を洗い、帰れと言えば自分の帰る場所は貴女の所だとかいい風な事を言いながら住み着くとか?それだけならまだいい、よくはないが被害と言う面では軽微。
じゃあ仕事を面倒だと言ったら?基本的に仕事と言う物は無くならない。その無くならないモノを無くそうとするなら仕事を持ってくる人間を無くすか、もっと大きく見るなら仕事の産まれるシステムを完全に破壊する。会社員なら分かるだろう。口煩い上司が休みなら変な指摘はなくなりゆっくり出来る。しかし、その人が別日に出社して変な指摘があれば仕事は増える。
なら、そんな面倒な指摘ややり直しを無くすなら会社を倒産させればいい。ここでミソなのが俺が辞めるのではなく会社をなくす事。奉公する者の最優先事項が魔女と俺なら俺の立ち位置は極力変えず変えるのは周りとなる。そして、路頭に迷ったらまた奉公する機会が増える。win=winと言うか俺が疫病神化してるな・・・。
(魔女、ちょっと本体シバキに行こうか。今ならウザいと言う感情でお前の本体も殴れそうな気がする。)
(やめなさい。そんな事をすれば奉公する者の本体が黙ってないわよ?末端である私がいたとしても奉公する者の本体としては私の本体を優先するわ。まぁ、その本体がやめろと言うなら手出しはしないでしょうけど・・・。それよりも目の前の問題よ。貴女が話すのは原生生物の言葉で原生生物としての裁量がある。でも、私が話すのは末端とは言え主人としての裁量がある。だから、私ではなく貴女が緩衝材となるの。)
「そろそろ帰っていいですか?」
「指示は出てないだろう女。暇ならその辺りのゴミでも潰してこい。」
「貴方は?」
「吾はこの方の思考に邪魔が入らぬ様ここで見ている。」
「楽してませんそれ?そもそも青山が至れるのか?或いは中層でも通用するのかを検証しに来たんですよ?中位である私がモンスターを倒して青山が突っ立っていては本末転倒でしょう。まぁ、モンスターを倒せば中位に至れるわけでもないですが・・・。」
「なら吾がここで愛でていてもいいだろう?」
人の周りをくるくる歩きながらも時折立ち止まっては顔を覗き込んでくる。誠にウザい。誠にウザいが流石にセーフスペースでもない所で長考してもしかたない。
「夏目さんありがとうございました。青山は一旦私が引き取るので今回は帰りましょう。」
「分かりました、では次の機会に。青山の事はその時聞いても?」
「正直言うと聞かれて答えられるかは分かりません。次もこんな感じなら打開策が見つかってないと思って下さい。」
3人で退出ゲートから退出して再度36階層セーフスペースへ。流石に青山を外に出すと何をしでかすか分からないし、かと言って6階層では危ないのでここなら大丈夫だろう。一応、ここにも先に進んだスィーパーが進出して来ているが人数は少ないと思う。まぁ、出会っていきなり殺し合いなんて事はないと思いたい。
青山は軽鴨の子供の様にニコニコしながら文句も言わずにピッタリと後ろに付いてくる。たまに髪を撫でようと・・・、違うな。抜き取りでゴミと言うか埃を取っているようだ。そこまで無菌にしなくていいのだが、この程度なら何ともないのか吐血もない。その代わり増血剤を取り出して飲んでいる。
「まぁ・・・、取り敢えず座ってくれ。こうして話すのは2度目かな?」
「違う。吾としては振動の一部を抜き取って伝えたにすぎないから正式に話すのは初となる。それより原生生物クロエは下がっていいぞ?吾が用事があるのはあの御方のみ。なんならずっと下がっていても良いが?寧ろ主導権を差し出し自身を下として全て譲り渡すのが良いと思う。あの御方が2人・・・、忙しくなる!こちらの方は何かを食し睡眠を必要とし休息も・・・、羽毛か!確か羽毛布団とか言うモノが寝るなら最適と言っていた!御身を包むなら鳥とか言うモノを狩り全てを均一にした最高級のものが必要!絶滅しようとも蓄えてれば良いし、必要なら繁殖でもさせれば・・・。」
「ちょっと黙って?頼むから黙って?」
「吾に頼むなどとは!」
「えっ?ダメ?頼むのもダメ?」
「恐れ多くて困る。一応クロエはあの御方の末端を宿す者。そなたが頼むと言う事は一応、あの御方もそれに同意したと言う事。なら、吾は間接的にでもあの御方に頼まれたと言う事になるではないか。話すなら適当に話せ。」
・・・、やりずれぇ・・・。お願いしたら畏まるし、かと言って本人の意思?やりたい事?はガンガン話してくる。と、言うか唐揚げ食えなくなるから鳥絶滅させるのは辞めろ。羽毛布団の羽毛が鶏の羽でない事は知ってるだろうが、試しにと納得するまで狩り尽くされても困る。
「なら適当に。青山は?」
「アレは今、本人の形を見極めている。吾はあの御方・・・、魔女様の本体より『伝言ついでにちょっと末端の1つの所に遊びに行って奉公してきなさい。その間に・・・。』何かされている?吾、何をされている?」
「いや、私が知るわけないし。」
「ふむ、ならば魔女様がでて来ぬと分からぬなぁ〜。奉公する為に魔女様がいないと奉公出来ないなぁ〜。」
チラチラ見てくるが魔女が両手をクロスさせて☓を出してくる。いや、お前の本体案件だろ?俺に丸投げするなよ。と、言うかコレってブラフだよな?本体から魔女に何か連絡って出来るのだろうか?見ている関係上送信は出来ても受信出来るとは聞いていない。寧ろ受信出来ても面倒だとは思うけど・・・。ただ、いい話は聞いたな。自分の形を見極めているって事は中位に至ろうとしてるんだろ?
そこに目を付けた魔女の本体が厄介払い気味にコイツを飛ばして来たと。ロクなもんじゃねぇな・・・。いや、まぁ、時間がかかるならオートモードとでも言えばいいのか勝手に生命維持してくれるから助かるのかな?
「確認するが中位に至れば青山が帰ってくるのか?」
「吾としてはこのまま奉公・・・、やめろ青山変わろうとするな。帰ってきます!抜け駆けするなコイツ!」
帰っては来るらしい。自分の頬を殴っているが2人の関係はそこそこ良好と言うか、互いに奉公したいせいか前に出ようと言う気持ちが強い様だ。しっかしどうするかなぁ・・・。時間がかかるならこのまま置いていって夏目との2人旅でもいい様な気もする。
モンスターを狩って猶予を稼ぐなら人数揃えた方がいいのだろうが、探し物なら身軽な方がいい。それに探してすぐに見つかる確証もないし、本部長を長時間拘束するのもなぁ・・・。中露は会議後薬が見つかって大人しい。正確には技術革新と薬捜索でこちらにまで手を回せないと言う方が正しい。
なにせスタンピードの抑止を掲げ両国ともゲートに連日軍を派遣したり、飛行ユニットの技術開示はされていないものの特性を理解しようと対G訓練なんかをやっているらしいし。今回はお忍びではないので何人かは答えてくれるらしいが、そんなに出会いたいものではないのも確かだな。
「あ〜、うん。ここで待機。」
「何かはしらぬが待機しろよ?吾はクロエについていくが。」
「お前だよ奉公する者!待機命令を受け入れろよ!」
「何を言う。吾が奉公する者なれば、おはようからお休み程度を見守るライオンではなく、1日中見守り原生生物をダメにするクッション張りに堕落させてやろうぞ!あっ、コレを使いコレを飲むといい。叫びは喉に悪いと言うし趣向品が欲しいなら良い酒もある。タバコとか言う物はこの銘柄と青山が言うから段ボール箱一杯ストックがある。心置きなく吸うがいい。」
人を駄目にするクッションを出してそれに座らされ、目の前に出されたテーブルには酒やジュース、軽食からどこかの有名店のテイクアウト料理にタバコの山。いや、確かにそろそろ飯かなと言う時間ではあるのだが・・・。
「何してるんだ?」
「青山と開発したカクテルなる物を作っている。コレは原生生物の女性を持て成す仕事をしていた故に、原生生物の雌の機微には多少心得がある。クロエも女性なればこの様なものも好むのであろう?エンジェルズ・キッスですマイ・エンジェル。」
「ご丁寧にどうも!お前絶対にこのカクテルの意味わかってねぇだろう!」
「雌を酔わせて楽しい一夜を共にするものだと聞いたが?」
「あのな・・・、コレ甘い割に度数が高いデザートカクテルなのな?楽しい一夜って私がお持ち帰りされてるじゃねえか!」
「ならばコレは正解であろう!クロエが楽しい、魔女様もそれを見て楽しい。なればコレに間違いは・・・、ない!」
「真っ直ぐな綺麗な瞳で見ても私は楽しくない!話を聞く耳を持て!」
「聞いているではないか。ささっ、冷めぬうちに食べると・・・、あ〜んなるモノをしても?手を動かすにしても魔法を使うにしてもお主が動かず吾が動けばよいのだ!どれが良い?魔女様はどれがお好みであらせられるか?やはり肉か?」
(おい魔女、コレ引き取れよ。嫌なら言う事聞かせろよ。)
(私が驚いた理由は分かったでしょう?)
(そのドヤ顔いらん。なんだろうな・・・、青山ってまだ理性的だったんだな・・・。)
少なくとも青山は言えば聞き分けはあった。しかし奉公する者は聞き分けがない。マイルールイズベストとでも言えばいいのか、パズルを買ってきたら勝手に完成させて絵が見たかったんですよね?と聞いてくる奴。確かに完成した絵は見たいのだがその作る工程も含めてパズルだろ!いや、パズルか・・・。ふむ・・・。
「奉公する者に問う。私達はガーディアンの捜索をしようとして青山が連れて行くに値するかどうかを見極めていた。そこで質問なんだが、お前ガーディアン探してこれるか?或いは墜落場所を私に知らせに来れるか?」
「ふむ・・・、同調している故に青山が死んでも・・・。」
「死ぬのはなし。それは魔女も許さない。そんな不出来な仕事は奉公じゃない。」
「ぬっ!貴様吾を否定するか?」
「違う。奉公されるにしても要望があると言う事だ。例えばこのエンジェルズ・キッスと言うカクテルだがカカオベースのリキュールの上に生クリームを静かに注いで層を作り、最後にマラスキーノ・チェリーを串に刺して添える。はっきり言って甘すぎる。私の舌には甘過ぎて嫌いではないがそんなに飲もうとも思わない。私はどちらかと言えばウイスキーやブランデー、ジンやウォッカなんかのガツンと来る酒を好む。青山は私にウイスキーを樽でよこした。そして、奉公する者は甘いカクテルをよこした。ここで甲乙付けろと言われたらどちらが有能かは分かるだろう?」
「吾だな糖分は脳によく、こうして話すなら頭を使わなければならない。その点、普通の酒では酩酊し話しにならぬ。TPOを弁えた食前酒とするなら・・・。」
「いや、このカクテル度数高いから。下手したらワインより高いからな?」
「なんと!ココアで作ってもダメだと言うのか!」
「そんなもんエンジェルズ・キッスでもなんでもねぇよ!ただの生クリーム乗せたココアだろそれ!何で酒っぽくだしたんだよ!」
「TPOである。話すなら酔われても困る。話し終わってから好きなものを指定すればそれを新たなグラスに注ぐ。それだけの話ではないのか?しかし、甘いものを好まぬならジントニックでよいか?」
「いいよ、そのココア飲むよ・・・。」
ココアフロートとでも言えばいいのか、味は有名店の味とも遜色ないくらい美味しい。どうしてもココアは粉っぽさが出る事があるが、それもなく舌触りもスッキリしている。美味そうに飲む俺の顔を見て奉公する者が笑顔をたたえているがさてどうするかな・・・。
「取り敢えず、戦う事は出来るんだよな?」
「力加減が難しいが可能である。次いでに言えばガーディアンは早めに回収するならした方が良い。」
「なんで?」
「そろそろ全てのエネルギーを使い爆散するからである。」
「いや、ガーディアンは既に爆散してるだろ?」
「お主・・・、あの御方達が作った物が物理的に破壊されたくらいで終わると思うか?」
(おい・・・、賢者どう言う事?)




