533話　見守ると言う事　挿絵あり

　ダンジョンの探索とはコツコツ行うものである。ある時は行き止まりだろうと分かっていてもマップ埋めの為に雑魚戦をしながら歩いたり、ある時はレベル上げや資金を集める為に美味しいダンジョンやモンスターをひたすら狩り周回する。個人的にはストーリーが重要なのでステータスカンストとか低レベル縛りはやらないし、そのゲームの小説が出たら新要素でもない限り小説に移行する。

　ただバトルフィールド的で且つランダム出現のポイントなゲートの中ではかなり勝手は違う。そもそもゲート出現以降、増え続けるスィーパーに対して大なり小なりどの国も地形的な聞き取りは行っているが、そこで問題になるのは目印のなさ。始まりの階層と勝手に呼ばれている5階層までは石作りっぽく曲がり角なんかも分かりやすく、これならすぐにパターンの解析が出来ると踏んでいた。

　しかし、それさえもほぼ全員ランダムで同じルートと言う物はなく、そこを超えれば今度は山岳地帯となり更に目印は減りあるのは高低差を出した様な山と荒野と渓谷のみ。中層に近づけば平地が増えて来るが、それさえもモンスターの共食いで地形は変わる。

　なんでこんな事を考えているかと言えばやんごとなき事情と言うか、ぶちゃげると金持ちがそこそこ安全に奥に行くルートはないかと言う話を持って来られたから。ただでさえ設計図の事や宇宙の事で頭が痛いのにそんな事スィーパーを沢山雇って職に就いて勝手にやれと声を大にして言いたい。言いたいのだが、これって各国からの要請なんだぜ・・・。

　いや、うん。不死薬が出た事を皮切りに中層への注目は増え。稼ぎたいスィーパーとネコババされたくないパトロンとの熾烈な舌戦と騙し合い、権謀術数が渦巻き財界やら政治界隈はかなり混沌としているらしい。そして、行き着く先は誰かに願うよりも自身の目で確かめる事。今度はパトロンが背中撃ちされないか心配だが俺には関係ないと思っていた。

　思っていたがなまじ権力があるもんだから国家が集団で団結して安全ルートの開拓を願い出たり、日本ではギルドが補助員をしているが海外では傭兵が基本なので、海外ギルドでも補助員と言うか指定護衛任務依頼を出せる人を育ててみたりと飛び火は半端ない。

「その上で表向きは生存率向上を出すのだから質が悪い。」

「無理だと分かりそうなモノですけどね。ただ、会議を見る限り祭壇へ行ける人間も育成しておきたいのでしょう。しかし青山は異質と言えば異質ですね。彼もまた？」

「夏目さんも気付くレベル？」

「気付くと言うよりも彼が至ってない方が不思議と言えば不思議ですよ。誰かの為に至る。それは赤峰がやったでしょう？彼もまた歩む方向性は一緒のはずです。しかし、それでも至れないと言うなら何かしらの干渉があるのか、又は私の様に無理やり至る歩みを止めているのか？まぁ、野郎の事なんてどうでもいいと言えばいいですが。」

「それ、本部長としては苦情が出ますよ？女尊男卑だー！とか。」

「大丈夫ですよ。ギルド立ち上げ時に女性スィーパーをメインで支援すると強く宣言しました。獣人の登場はイレギュラーでしたがそれもまた支援対象です。チッ！」

「どうどう。女性でもアレが好きな人はいるんですから。寧ろ大分ギルドでは女性人気No.1ですよ？」

　奥行くと言う話で夏目をゲート内で呼び寄せて青山を含めてミーティングを行い45階層付近で姫プレーとでも言えはいいのか手出しせずにひたすら戦いぶりを見守っている。まぁ、流石に数が多いので多少は排除するが、力量的にはやはりと言うか気合が入ったと言うかガンガンモンスターを倒しながら俺と夏目の方に微笑みかける余裕を見せる。

　そんな青山に対する夏目の舌打ちだが、更に男性嫌いと言うか女性好き加速してない？まぁ、女性を守ると言う道を選んで至ったので野郎には興味ないし、元から女性が好きなので加速するのは仕方ない。ただ、久々に会って愚痴られたのはやはりと言うかアプローチかける玉砕覚悟の男が多い事。

　赤峰夫婦の結婚出産をへて色々と中位のスタンスと言うか結婚や子供に対しての見方が定まった。どの国がどこまでゲートを進んでいるかは知らないが、少なくとも日本の中位の大半は中層入りして勝手に最適化されている。

　その時点で普通の人間とかかなりかけ離れているし、下位スィーパーとも離れている。その上回復薬飲みまくってガンガン戦う2人の子供は高槻からの報告や本人からの話で常人と変わりなしと話されていた。しかし、お腹の中にいる状態ではいくらそれを信じたくとも確信が持てず、アプローチをかける方もかけられる方もどこか上の空と言う雰囲気があった。

　そんなふわふわした中で生まれた義治君は中位とて本質的には人であり、普通に結婚出産が出来ると言う証明になって本格的に本部長ブランドと言うか玉の輿狙いが活発化している。俺の場合既に既婚者として話は出しているのでアプローチは青山を除いて仲いい人からジョークで言われる程度になっているが、他の人は中々どうして。

　お見合い写真の山が出来たり子供が欲しいと願った人も普通に子供が産まれると言う事で動き出したり、単純に出土品や薬欲しさでアプローチしたりされたりと様々。割と研究者は突っ走る傾向が強くなったのか著名な人が『結婚ではなく獣人の様にパートナーではダメなのか？結婚と言うスタイルは古く否定はしないがそれぞれの進みたい方向ややりたい事がある以上、ギブアンドテイクのドライな関係もありだと思う。』とテレビで発言し物議を醸し出している。

　実際コレばかりは何とも言えないんだよなぁ〜。夫婦別姓の話は前からあったし、結婚してもスィーパー同士ならどちらかが死ぬ確率も高くなる。それだけではなく寿命や不死なんて薬もあるから今度は『いつまでこの結婚と言う状況に縛られるのか？』という話もある。

　　

　ウチはラブラブだからいいのだが、離婚する人もいるのは事実。ゲートに逃げ込まれると離婚調停も進まないと手の打ち様がない。まぁ、そこは国が考えるか。

「俺は今役立ってるって！物凄く期待されてる！」

(我々の奉公精神を見せるのだ青山よ！)

(分かってる！今俺はようやく見てもらえてる！大会でも見てもらえたけど、それは多数の中の1人としてであって今は俺1人だけを見てもらえてる！なんて素晴らしい気持ちなんだ！)

　大切だと思う人に見てもらえる。見守ってもらえる！これに勝る喜びはあるのだろうか？多分ない。パシリだろうと邪険にされようと相手をして貰えるなら道化でもいいし不審者でもいい。しかし、今俺は奉公する者として、戦う青山 空としてこうして潜ってモンスターを狩る様を見てもらっている。そう、邪険にされるでもなく必要とされ期待されてる！

「なんて心が軽く満たされてるんだ！なぁ？」

(あの御方が見守ると言うのはただ見るのとは違う。許しであり守りであり戒めである。良いか？どんなモノになろうともその存在を確認されなければ、観測されなければ無だ。見守ると言うのは、存在を認識し続けて貰えると言うのは何よりも安らぎが生まれる事なのだ！それ故に吾は奉公する者としてあの御方に付き従う。）