532話 諦められない人達 挿絵あり
取り敢えず計画を立て様とスケジュールを確認するが基本的には平時は定常業務で埋まっている。まぁ、これが全て空欄で朝から毎回業務を組み立てて下さいと言われても困るのでいいのだが、それはそれでいざ動くと言う時に割り振り先をどうするかで悩む。これがスタンピードなんかなら全て停止でもいいのだが、やろうとしているのはガーディアンの確保だしなぁ・・・。
いっその事宮藤さんに任せてみるのも1つの手かな?教導官として東京を起点にギルド職員となるスィーパーを育成したり、悩める副長を指導したりと色々使い回しされているものの、本質的には奥に行きたい人でもあるし・・・。
PCで宮藤がどこにいるかを確認すると今も東京近郊でスィーパーを指導している様だ。ほぼ各都道府県のギルドが稼働状態に入るにしても人材と言う面では心許ないし、何より警察官の育成は急務と言う事でかなり忙しいらしいし。
前にチャットで愚痴っていたが特に年配警官は今までの警官としての常識が色濃く、武器使用に関してだけでも威嚇射撃を無意識にしようとしてしまう。犯人とは言え傷付けない精神はいいのだが、公共の場でガンナーが銃を抜けば後はお察しだろうし取り押さえ案件である。
黒棒がなければそのまま厳重注意からの解放となるが、どうしても誤認逮捕したと言う感じで上司が怖いらしい。まぁ、キャリア組なら経歴に傷がつくのは避けたいだろうし、巡回中にそんなシーンに出くわしてもやはり躊躇する。
その代わりと言ってはなんだが、若い人の方は結構対スィーパー戦術に馴染んだりリスク管理が優秀だったり、危険と判断する速度が速かったりとかなりいい塩梅らしい。特に去年採用された新人はゲートが出現した年に採用されたと言う事もあり警官としてもしごかれたし、スィーパーとしてもゲートに入り鍛錬具合がいいのだとか。
これもまた犯罪者許すまじ放送のおかげか、そこからかなり気合が入ったと言う話もあったし何より特定の誰かが優秀ではなくチームとして犯罪者を捕まえると言う意識も強く、更に言えば自衛隊とも共同で訓練する関係上、自分の役割と言うのを深く意識する事に繋がったとか。
過去の冤罪ではないか?と疑われた事件も再捜査されたり新しい事件もスピード解決したりと今から警察官を目指す人はかなり忙しい日々を送る事になるだろうが、逆に裁判所や雄二が言った様に弁護士は暇をしている。なにせ起訴された時点でガチガチの証拠があり弁護士としてもどう示談をまとめるかに注力している。ただ、それでも過去の判例から出て来る基準もあれば交通事故以外にも弁護士基準を設けようと言う動きもあるので、本当に弁護士は不要になっていくだろうな。或いは行政書士の亜種として公文書作る人とか?
「さて計画なぁ・・・、ん?増田さんからメールだ。」
「珍しいですね。最近は政府と何かする様な事はなかったと思いますけど。国際会議も終わっちゃいましたし。」
「11月以降はギルド職員採用でどこも忙しいからね。うちは1つのモデルケースと成り得るけどどこもそうとは限らないし、何より世界各地にギルド作るからって政府も営業データ集めに奔走してる。保険はまぁどこからも金貨が出るからそこまで混乱はないと思うけど、治癒師の腕前は個人差あるからその国頼りだね。」
「イメージ違えばやり方も違いますからね。私がネットで見た限りでは治癒師と肉壁でコンビ組む人が多いみたいですね。後は医者の鑑定師がいれば早期に病巣が見つけられるとか。」
「そっか、確かに医者からすれば人は商品か。」
鑑定師の占い師とか医者の鑑定師とか後は入国管理系の仕事をする人が鑑定師になれば人物鑑定出来る人も増えるのかな?まぁ、確率論で言えばいるはずだけど職自体が適性とランダム性があるから何とも言えない。でも、鑑定師の占い師とか詐欺し放題の様な・・・。少なくともその人にとっての正解を全て的中出来るなら洗脳されそう・・・。
「商品・・・、商品ってなんでしたっけ?」
「哲学的な問だけど医者からすれば不良品を治して再度使える様にするから商品だよ。何にしても人物鑑定はかなりイメージが必要だから身体はよくても記憶はダメとかあるかもね。寧ろ記憶はスクリプターの領分っぽいし。さて、メールの内容は・・・。」
『お久しぶりです増田です。
本日メール差し上げたのは、米国ら譲り受けた設計図に関して作成の可否を伺いたく連絡差し上げました。米国からの設計図:超重力加速器、地球名称大型ハドロン衝突型加速器(LHC)については既にスイスジュネーブにあるCERNが大統一理論および超対称性理論を実験的に検証する事を目的として実際に観測試験を行っています。
その中で解答となりえる超重力加速器の作成及び、使用実験を行いたいと打診がありこうしてお伺いを立てています。現状、この設計図については様々な分野の物理学者が人類の手で作成可能な装置として注目し、日本政府としてもその意見を好意的に受け止め出土品に頼らない科学の発展と言う面で貢献出来るのでは?と議論され作る方向に舵を切ろうとしています。つきましては、現状設計図所有者のクロエ・ファースト特別特定害獣対策本部 本部長より許可をいただきたくメールを差し上げました。』
相変わらず硬い文章だが要は設計図を元に人が作れる物を作らせてくれと言う打診か。しかし、超重力加速器ねぇ・・・。一時期流行ったゲームでCERNは登場したが本当にある機関と言うか施設なんだよなぁ・・・。
タイムスリップは別としてアインシュタインの提唱した一般相対性理論を元に粒子やらを観測する目的で作られた施設だが、それの謎を・・・、宇宙への注目が集まったこの時期に一気に推し進めようと言う話だろう。確かに飛行ユニットの製造方法を開示すれば斥力飛行に行き着き重力関連の話に飛び火する。そして、重力関連の終結地点はブラックホール。多分JAXAとNASAが手を組んだ時点でブラックホールエンジンの話は漏れてるだろうなぁ〜、主に田辺理事から。
今まではいきなりブラックホールエンジン作らせろと言う突拍子もない話だったが、その前段階の理論構築に乗り出したと思えば分からない話でもない。しかし、これは許可していいか迷う。迷うが許可しなくても他の本部長巻き込んで無理やり許可を出そうと思えば出せるし、ここで足踏みさせていいかも迷う。
「これって結局何をするんですか?と、言うか何になるんですか?」
「色々出来ると言えば出来る。それこそ輸送機みたいにとなりの銀河まで飛んでみたり浦島効果・・・、平たく言えば重力力場の違いによる時間の流れを調整したりとか?SFの話になるけど光の速度に近づけば近づくほどその物体以外の時間は遅くなる。なぜかと言えば短距離選手が分かりやすいかな?同じ時間の中で1位とドベでは何秒かの差が出るけど、それが年単位で出るのが光速移動。」
「ほう、その差を埋められると?」
「さぁ?感じなくするは出来るよ?前にホテルで全ての時計がズレた事があったでしょ?アレを例えば惑星単位でやれば中の人は誰も気付かない。気づく場面があるとすればそれは外部から接触があった時だけ。」
「差をなくすと言うか感じなくする方法ですか・・・。えっ?もしかして完成すると地球が高速で飛び回るんですかね?」
「流石に厳しいと思うよ?ブラックホールに飲み込まれる時って間延びしていくらしいし。でも、それを回避するなら飛行ユニットかな?全周囲に斥力力場、つまりは引力に対して等価の斥力を発生できればブラックホールには飲み込まれないと言うか、自分から突入しない限りは逃げられるし、仮に突入しても球体である関係上どの面からも同等の重力を受けるから反発は出来る。つまり、水に水滴落としても何も変わらないのと同じ状態で、ブラックホール自体は吸い込むものだから溢れようもないし突き抜けるにしても厚さが分からない。」
地球も半径1cmまで圧縮すればブラックホールに出来るが、そんなに圧縮されたら誰も住めないしされたいとも思わない。しかし、それを考えると超重力加速器ってやばげなものだよなぁ〜。今地球にあるLHCがどこまで設計図に近づいてるか分からないし、頭に超が付く以上比べるまでもなく超未来技術なんだろう。
「よし決めた。」
『お久しぶりです、クロエです
LHCの各種観測実験が全て終了し、安全性が証明され扱えると言う証明が成されたら設計図を開示します。そもそもこれを開示すれば事象の地平動力の製造に動き出す懸念があり、今の所多分作れる多分扱えると言う不確定な証明しかないので基礎科学分野を固める様にして下さい。流石に私の一存で人類を危機的状況には導けません。』
「こんなところかな?」
「地球でブラックホール作られても困りますからね・・・。確か見たら死ぬんですよね?」
「見れるまで意識があるかも分からないけどね。いや、不死薬飲んだ人とか私なら吸い込まれても生きていられるんだろうけどさ。」
ずっと暗い所に1人、寂しくて嫌になる。流石にブラックホールの中がどうなっているかは分からないし、ホワイトホールがあるかも分からない。流石にずっと細長くなり続ける事はないと思いたいが、なら終点と言える中心は穏やかなのだろうか?いや、渦潮だって周りも荒れていれば中心点はそこまで引き込もうとするし錐揉み回転が続いてそう。やはり逃げ1択だな。
「それって生きて出られるんですかね?中で生活するのは不可能そうですけど・・・。」
「光を逃さないなら光を超えれば逃げられる。一応特殊相対性理論ではタキオンなんてものもあるし、同じく特殊相対性理論では超えられないとされてる。まぁ、群速度は光速を超えられるんだけどね。」
「またわからない単語が・・・。群速度って?」
「横1列に並んで全員時計見ながら短い間隔で順番に『ハイ!』て言うと前の人が言う前に横の人が『ハイ!』って言える。これは単純にその群れの中なら音速を超えて行動を起こしたと言える。それを光速に置き換えると秒速約30万kmでみんなが走ってる時にロケットブースターでも他の人を蹴ってでも少しでも前に出れば光速を超えた事になる。まぁ、光速って真空中の電磁波の伝播速度だから特殊相対性理論が解明出来れば超えられるんじゃないって大丈夫?」
「ツカサ先生大丈ばないです・・・。つまり蹴っていけばいいんですね!」
先生って、俺は学者でも教師でもないぞ〜。だが望田の言う事は乱暴だが間違ってはいないんだよなぁ〜。要は同じ光速に到達した場合それよりも更に加速すると言うなら周りを蹴って加速すればいい。それがどう言う仕組みとなるかは分からないが、あるもので理論を作るならやはり斥力だろうな。
伝播する電磁波の頂点を捉え波に沿うのではなく飛び越えながら直進する。もしかしたらワープと言われる方式に似ているかもしれないが、あれは空間がネジ曲がったところを進むと言う話でそんな歪みは見た事ない。
「そのとおり!光は波長だから頂点だけゲームみたいに蹴って進んで谷底に落ちなければより早く進める!」
その波をどうやってとっ捕まえるかが問題だが、どうなんだろう?流石に硬度照射装置で光を固めましたとは聞かないし・・・。う〜ん、ここからは魔術師の時間かも。行き過ぎた科学は魔法の様だと言われるが、魔術師の魔法はイメージの伝達で現象を起こしている。つまり、光の速度で進むイメージや耐えられる身体があれば出来る?
卓の瞬着だって大元を辿れば熱の伝播とも捉えられる。実際長時間火を出し続けるよりも瞬間的に出す方が俺はイメージとして楽だしなぁ・・・。何にせよ科学的に目処が立つならそれでもいいし、魔術師なんて言う色々と常識をぶっ壊す存在がいるのだからアプローチは無限大だろう。
「あっ!だから私の音はどこまでも響くんですね!」
「どこまでも?」
「ええ、割とピンポイントにウィスパー出来たりしますよ?中層行った時はインカム壊れたりしたから伝令やったりしてましたし。」
「なるほど、音の瞬着はそんな感じになるのか。確かに受け取りて側が認識出来れば成立するし、波長としてなら宇宙でも通用する。要はデジタルボイス的な?」
いよいよ持って同じ人間でも同じモノを見ているか怪しくなってきたな。賢者がもっと視野を広げろと言っていたし論文やら学術書ばかりではなくもっと誰かと話したりモンスターを観察した方がいいのだろうか?お誂え向きと言うか煽動すればそこそこモンスターは言う事を聞くしキモいが観察出来ない事はないと思う。
「デジタルボイス・・・、コレで宇宙とかも話せますかね?」
「まぁ、出来るんじゃない?」
「そう言われると物凄く困りますね・・・、どうしようかなぁ・・・。」
「なんかあったの?」
「オファーと言うかツカサを宇宙に出そうプロジェクトがあるじゃないですか?」
「本来は別のプロジェクト名だけどまぁ、あるね。行ってソーツ来なければ終了。本来の目的は宇宙エレベーター稼働実験ってのが。えっ、カオリも呼ばれてるの?エレベーター防衛要員とか?」
交渉内容は決まってるし来ない前提の宇宙旅行?なのでそこまで気負う事はない。組み立ては着実に進んでいる様だしこの前は斎藤が種子島に来て指揮をしていたとも聞く。まぁ、宇宙への夢が叶うなら精力的に動くだろう。しかし、望田が呼ばれているとは初耳である。基本的に今回宇宙へ行くのは技術者ばかりで例外が俺となる。
「宇宙まで来た事を知らせる人がいるじゃないですか。その白羽の矢がぶっ刺さりまして・・・。」
「うわぁ~・・・、そこまでしないと信用出来ないと言うか、交渉権無駄にしたくないんだ・・・。」
今回が失敗すれば流石に正規ルートを進むと思うが、来たら最悪だな・・・。頼むから来ないでくれよ?来たからと言って交渉権返還するわけでもないんだからさ!




