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街中ダンジョン  作者: フィノ


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閑話 103 とある巻き込まれた帰還者の話 挿絵あり

「これで・・・、終わり・・・、か・・・。」


 何年旅をしたのだろう・・・。どれほど・・・、別れと悲劇を繰り返し見たのだろう・・・。右も左も分からない俺を助けてくれた仲間は早期に死に、それでも美しい女神に願われ神託を受け入れて旅をし、カビと呼ばれる魔物を倒しその本体を今討ち取った・・・。


「無事・・・、な奴は・・・、いない・・・、のか・・・?」


 女神より賜った流水の剣はカビに聞く。ゲームで言えば特効武器なのだろうがカビの繁殖力は凄く早く、この世界の人達は束になりようやく抑え込める程度。無論強い人はカビを倒せるけど、蓄積されたカビの毒素により命を削られる。


 いや、俺が見た感じだと侵食が近いのか?自浄期間をまたずして戦えば、倒したカビが散る時に放出される粉により徐々に腐る。そして、その侵食を受けづらいからと俺は呼ばれ願われこうして旅を終えた・・・。


 剣を突き立てられた本体は地面に縫い付けられもう動く事はない。大量に舞う粉は毒でありここに来る事は常人では叶わな・・・、い?なんで!どうして君が!あれほど・・・、あれほど待っていてくれと・・・。


「サカキ・・・。」


「もう・・・、来るなとは言えないな。ここにいる意味を君は理解してるんだろ?ドグリス。」


「うん・・・、別れた後にまた襲撃があって盛大に浴びちゃった。ごめんね・・・、もう片腕はグズグズでもう片方の手は指もない・・・。これじゃあもう、サカキを抱きしめられないなぁ。亅


 ドグリス・・・、翡翠色の髪に青い髪をした美しい女性。旅の途中から仲間に加わり恋をし愛した人。ここに来る前の戦いで既に彼女はギリギリでこれ以上戦えば自浄は不可能だと言われ、命を賭す事を否定して待つ事を懇願した人。しかし、彼女はここに来てしまった・・・。その腐る身体を推してまで。


「なら、俺が抱きしめるよ。優しく・・・、とても優しく・・・。」


 動かない身体は不思議なほど軽く、伸ばした手はドグリスに届く。力は込められない。込めてしまえば・・・、俺が彼女を押しつぶしてしまうから。もう、未来の話は出来ない。多分、このままここで2人で死ぬから。


「サカキ・・・、私の最後のわがまま聞いてくれる?」


「今更・・・、だろ?なんだ?もう腹いっぱい料理も出せない、子供は俺達じゃ作れない。願われても口づけ1つ分のわがままくらいしか聞いてやれない。」


「うん、ぞれ・・・かはっ!ぞれで・・・いい。」


 急激に広がる侵食は既に彼女の足を腐らせ、優しく抱く腕に軽い彼女の全てがかかる。体重なんかじゃない、これは彼女自身だ!誰が何を言おうと俺は今、彼女自身の今までを支えているんだ!啄むような軽いキスをして抜け行く彼女の温もりを手放したくないと願おうとも、力いっぱい抱きしめる事は叶わない。


「ありがと・・・、だから貴方は生きて。」


「なに・・・、を?」


「私を捧げコレを生かし、旅の続きを共に思う。終わり無き日のめでたさを、この場にて褒美として承りたく存じ、願わくはかしこみかしこみ申し上げる・・・。」


 朗々としかしはっきりと告げられる神への祝詞。この世界では極々稀に女神に願いを送りそれに応えてもらえる時がある。願われた奇跡だ。人の欲する純粋な願いだ。それなら・・・、そんな奇跡を願うなら俺も願わずにはいられない!


「いるなら答えてくれ女神様!俺は約束を果たした!だから彼女を生き返らせてくれ!」



________________________

 

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「うげ〜・・・、どうします?」


「どうとは?コレの管理はお前に任せただろ?だから言ったんだ、定期的に掃除しておかないとゴミは入るし、異物をいれるなら上手く調整して共倒れさせないと面倒を言い出すと。そもそもあの原生生物を連れてきたのはお前だろ?最後まで面倒みろよ。」


「で、でもあれって凶暴なんですよ?姿見せたら怯えたり飛びかかってきたりとか・・・。それに当初の話ではもっと強いはずでした!ものづくり大好き統合思念群体が運用決定したならもっと高度な・・・。」


「御託は要らん。むしろそんな危険な橋をなんで渡ろうとした!あ奴らはエゲツナイ奴等と取引してああなった集団だぞ?極力接触は控えたい。」


「でも便利なんですよね〜。イメージ送れば作ってくれるし代価はそこそこだし・・・。エゲツナイ奴等ってなんです?その話し知らないんですけど。」


「我々よりも更に超高度な暇人、分かるな?」


「ぐごっ!それはマジですか!?めっちゃ悪徳思念体じゃないですか!あ〜、だから便利なのか・・・。」


「なんにせよこの件は任せた。本来なら純粋培養で方向性のみ示すはずがこんな事になった責任はとれ。」


 ゲロマズ・・・、イメージ吐き出しそう・・・。な〜んで数千年目を離したくらいで絶滅の淵に立つかなぁ〜。と、言うかこんなもの見て何が面白いんだろ?純粋に発生した生命体ならまだ野良として愛嬌があるかもしれないけど、売り物として作ったコレは・・・、さしあたって一瞬の娯楽とか?どうせこの星もどこかの思念体が買って中を見て楽しむ物になるんだろうけど、どうせ見るなら純粋な発生物のイメージの方が面白い。


 あの原生生物、人間だったかな?あれは自然発生で生まれたらしい分、数多くの欠陥を抱えていてそれをどう克服していくのかが見ものなのに、先に唾を付けられたなら見るのはいいけど介入は出来ないかな?まぁ、どうでもいいか。それよりもあの原生生物をどうにかしないといけない。


 どうしようかなぁ〜。今の姿で現れるとか最初の時みたいに走り回るし、面倒だけどガワを・・・、女神とか言うイメージの塊を使って接触しようかなぁ〜。とりあえず仕事した報酬は抱いた腐敗物を生き返らせろって事らしいけどアレが生き返って歩き回ると、まだ菌を撒き散らしそうだしサクッとアレの記録を捏造するかなぁ〜。どうせ改ざんしてもバレないし、バレた所でプチっと潰せば済むだろうし・・・。




________________________

 

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「その願いを聞き届けましょう・・・。」


「女神ユラルタユーか!願いは聞き届けられ・・・、ここは?」


「神域です。」


 神域ってなに?知らないけどコレのイメージ的には女神とか言うものがいる所らしい。いや〜、純粋無垢なおバカは見てて飽きないんだよね〜。最初に怖がって逃げ惑ったり戦おうとした相手は私で、話にならないから視覚とか言うものをいじった。群体の中にこの原生生物の在り方があったから扱いは分かってたつもりだったけど、やっぱり低能だからガワしか見ない。


 中を視れば同じ者が話してるって一発で気づくはずなんだけど、それが自然発生物の限界なのかな?まぁ、年若い所の生物らしいし、群体が介入してるからそこそこ早く成長するかもしれないけど。


「神域・・・、なら彼女を生き返らせてほしい!」


「ええ、その願いを働きの報酬として望むなら。」


「望む!それだけを・・・、その願いを望む!」


「分かりました。ただ、その場に貴方がいる事は叶いません。元々貴方は他の世界()にいた存在です。貴方と言う存在をこの世界から元の世界に戻す代わりに彼女と言う存在を再度構築し、因果の流れに不具合が生じない様にしなければなりません。そうでなければ、1人の死者と1人の生者により境界線は乱れ、また別の悲劇が生まれるでしょう。」


 ザ・適当!なんかしらんけどこの生物はコレで納得するらしい。生き返らせるコストよりも送り返して適当に幸せな記憶受け付ける方が楽だし、生き返ったからって幸せ?とは限らないんだよねぇ。そもそもこの人間が好意を寄せた生物の外観は本人の趣味が反映されて、それはそれは夢の様な世界だっただろう。いやね、そうするとこの人間って生物はやる気を出すらしいのよ。


 私同様人間にとっていい見てくれを見せていたけど本当はもっとこう・・・、無数の足と伸びたストローの様な5本の口、絶え間なく流れる腹からの蜜にずんぐりとした瞳。全体的に浅葱色と萌黄色が暗く混じった身体をしていて愛嬌がある。むしろ人間とか言う生物はキモい。口から炭素吐く時点でマジもうムリ・・・。普通・・・、私達の祖先はヘリウム吐いてたしそれが普通じゃない?


 いや、広い宇宙で偏見なんか・・・、外観なんかにこだわる時点で間違ってるんだけど、何者が見ても美しいと感じる方法とかは超高度な暇人が持つ最悪兵器だから再現はムリだし・・・。ても、もう少しこう・・・この人間っていうのも頭2つとか、足ばかり10本とか、無数の針とかくらいあれば可愛く思えるかなぁ〜。


「俺の人生を・・・、生きる道を彼女に渡せば不都合が生じない・・・。いや、この世界での魂の総量とかか?なんにせよ彼女は生き返るんだな?」


「はい。その先も見せる事は出来ます。」


「分かった、やってくれ。」


 言質ゲット〜。駄々をこねない様に話したけどアレで納得したし、適当な幸せ生活の映像を見せればOK。幸せってアレでしょ?確か知ってる誰かと番って子孫残して価値あるモノに囲まれて笑ってればいいんでしょ?過去に観察した映像に彼女とか言う奴の像を被せて生涯の映像記録を構築。出来栄えは自画自賛ながらいいかな?


「そうか・・・、俺が死んだ後も・・・。俺の記憶は彼女の中に?」


「いえ、死者への恋煩いはよくありません。遠いいつの日にか彼女と出会えたなら、その時は思い出すでしょう。」


 他人に像を被せただけだから最初から記憶なんてナイナイ。むしろ会う予定なんて作らせないし。仮に技術が発展したとしてもその時は多分死んでるし。見たいものを受け入れて納得すればそれが事実。たから、ここで見ている未来も事実。まぁ、過去だけど。


「そうか・・・、彼女は幸せになったんだな・・・。へへっ、俺が幸せに出来なかったのは心残りだけどさ。」


「ええ、幸多き生でした。この生を壊さない為に会う事は控えた方が良いでしょう。」


 とりあえず会うなと言えば怒るし、勝手に会わない様にすればいいかな?どの道彼女とやらはもういないけど。むしろ、これから戻す時に目も戻すから出会ったら最後自分の手で攻撃しだすんじゃない?さてと、この人間拉致ったのは少し前だけど・・・、多分そんなに時間は経ってないかな?


「では、貴方をもといた世界に戻します。時の流れは逆行出来ません。なので、無理のない範囲で少しばかりの持ち物と、来た時のような若い身体と能力を渡します。」


「ありがとうございます。俺の彼女との記憶もどうか女神様の所に置いて行かせてください。」


 ガラクタの透明な石とか光る金属とかでいいんだっけ?なんかこの人間とか言うのが好きらしいし。探せば吐いて捨てるほどあるけど、探しに行くのも面倒だし適当に渡しとこ。渡す能力っていうのも人間とか言う脆い生物の壊れないギリギリの身体能力でいいかな?後はやたら喜んだ収納デバイスとか。記憶を置いてく?その程度ならまぁ?さっさと送り出したし後は勝手にすれば?


「ちゃんと事後処理は済んだのか?」


「ええ!元の星に戻しました。お礼とか言ってましたしいい事したなぁ〜。」


「元の星?確か地球とか言う星?」


「そのはずですよ?普通に光速転送したからどれくらいかは経ってるはずですけどね。それにいい吐出口もありましたし。」


「・・・、そうか。まぁ、概算で千年程度経っていても何ともないだろう。私はその星の事は知らないし何かあればまた対処するのはお前だ。」


「何かなんてないですって。あるとすれば滅亡とかじゃないですか?まぁ、元の星に返すって言う約束は果たしましたしね。」



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 気がつけば俺はどこかの荒野に立っていた。空を見上げれば曇りなのか月は見えず・・・、新月か?星は見えるが月はない。しかし、その星が明るいおかげか空気が澄んでいるからか不思議と暗さは感じない。地球に帰って来たが、もう思い出せない記憶から何か悲しい事と嬉しい事があったと感情が伝えて来る。


 長く険しい戦いだったけど、こうして俺が今感じているのはあの世界での騒がしい仲間達との出会いと別れの思い出がそうさせているのかな?長く戦ったと思ってゴツゴツとした手は、空にかざすとどこかの少年のモノを思わせる・・・。いや、コレ少年と言うか拉致られた15の時の手?


「そう言えば今っていつだ?確か連れて行かれたのが2022年だったけど・・・。」


 異世界を旅したとして多分20年とかか?髭も生えて濃くなって髭剃りも覚えた。あの世界の人達は長寿なのかな俺は歳を取るが彼等は老いた様には見えなかったな。まぁ、耳の長い人もいたしエルフとかだろうか?


 あまり話せず本人達も排他的で、カビと戦う人達を汚れ人として嫌っていたし。実際女神の導きでもあまり近寄るなと言われたから最終的に協力体制は取れなかったしな。そんな事を思いながら腰のポーチに手を突っ込む。入れれば何があるか頭に浮かび、欲しいものを選択すれば取り出せる。容量も大きくハイエースくらいなら入ってしまう優れもの。


 入っていたのは金銀や宝石にスマホに後は数本の剣と杖。杖があれば魔法が使え、剣と合わせて戦うスタイルがメジャーな世界だったけど、実はこの杖持たなくても使えると言う事を発見して練習したっけなぁ〜。俺の作った飯は不味いらしく全然料理チートは出来なかったし、異世界グルメが美味しいというのは全くの嘘で死なない為に仕方なく食ったと言うのはナイショ。


 しかし帰還チートとでも言えばいいのか剣や杖、このポーチは秘密の品だな。現代日本でバレれば争いの種になるだろうし、ほんの少し杖が無くても使える魔法は下手に見つかれば実験動物扱いされかねない。・・・、もしかして正義のヒーローとかなっちゃう?異世界人の言葉もわかったし言語チートも行ける?


「そう言えば俺は行方不明者になってるんじゃ・・・。」


 スマホを取り出し電源を入れブラウザを・・・、ブラウザを・・・、立ち上がらない?時刻は表示されてるけどそれが正確かは分からない。そもそも異世界に行ってどれくらいたった?辺りを見回してもどこかの荒野としか分からないし・・・、米国とか?少なくとも日本にはこんな所ないと思う。思うけど記憶もだいぶ薄れたからなぁ・・・。


 仕方なく歩き出す。取り敢えず水と食料・・・、人里に出られればそれが1番なんだけど・・・。なん・・・、だけ・・・、ど!?いや、あれはなんだ?なんだあの化け物は!数十メートル先には一切の音を出さない身の丈2mはある様な不可思議生物。地球に・・・、帰ってきたんだよな?異世界と違うせいか、こちらに帰ってきて慣れていない頭も痛いし・・・。


「撮影とかじゃない・・・、よな!?」


「危なかったな坊主。と、言うかここにいるならさっさと戦えよ。それとも掻っ攫ってしまっていいか?」


 一瞬の輝きは確かに見えた。そして次の瞬間には誰かが立っていた。いや、なんだコレ?えっ?瞬間移動?てか、戦えってなに?混乱は続くが慣れ親しんだ戦闘感覚は抜けず剣と杖を出し構える・・・。さっきの人がいない?いや、いる?


「おせーよ、もう倒した。まだいるからそっちで我慢してくれるか?って、リリーー!!」


「なになにダーリン!今いいとこなのーー!!」


 呆気に取られる・・・。さっきの男、黒人だろうスキンヘッドの人は外骨格とでも言う様な鎧を纏い俺の横に立ち、手にはクリスタルの様な何かを持っている。そして、呼びかけた先を見れば旋風が現れその中から声が!なんだこれはなんだコレはなんだこれは!?


「Yes!ざっこは雑魚い!本当にここで練習するのダーリン?てか、その子なに?」


「新作買った慣らしならここぐらいでいいだろ?と、その前にお前さん階層間違いか?ソロで来て死んでも自己責任だが、どうする?助けがいるなら助けるが?」


 またいつの間にか現れた少女・・・、自身と同じ長さの白いハンマーを持ち、マントを羽織っているものの着ているのはTシャツにホットパン・・・。いや、ダーリンって別の意味で犯罪では!?何やら黒人の男に抱き着いたりしているけどさ!


  挿絵(By みてみん)


「助けるの?別にいいけど後からハイエナされたとか言わない?新人は生活かかってるからたまにそう言う事言い出す人いるけど。」


「大丈夫だろ?ギルドで話せば一発でバレる。むしろ今どきそんな事を言う奴はジョークとしか思われないさ。それよりも話してる暇はねぇーけど助けがいらないならもう行くぜ。」


「い、いや一緒に戦うが助けてくれ!金は払う!」 


「金?別にモンスターを譲ってくれるだけでもいいんだが・・・。」


「もぉ〜、ダーリンったら男前!くれるならもらっとこうよ。結婚記念日に美味しいもの食べたいし。」


「それもそうか、うんじゃま。金は後から考えるとして戦えるならやるとするか!」


 いや、おかしい。話しながら時折消えて帰ってきて話し、その間に背後に見えたモンスターも倒されている。えっ?何者?と、言うかここどこ?地球じゃないの!?てか、リリと呼ばれた少女はその大きなハンマーを担いで重くないの?頭痛が酷くなりだしたけどそれよりも戦わなければ!戦わなけ・・・。


「おい坊主!おせぇって!なにちんたらしてんだよ!死にたいのか!ビーム避けろよ!」


「ビームを・・・、避ける?」


 速い?速いで合ってるの・・・、か?消えてはモンスターと呼ばれるものが死に、予測射撃の様な光の線は躱される。多分ビームは人を撃ち抜く出力はあると思う・・・。あるよな?現れた時に感じた熱波は顔を焼き今でもヒリヒリした痛みを伝えて来るし、モンスター自体の動きも2人と同速なのか目で追えない。いや、もしかしてフラッシュ映像でも見せられているのか?


「当たり前だろ!スィーパーならと言うか戦闘技術学、判断基準学、イメージ構築学等々は6歳児でも習ってるだろ!なにを今更この階層に来て呆けてる!」


「その子ダメそう?私蹴散らしていい?」


「待ってくれよリリ、お前さんがやりだしたら俺の取り分ゼロだろ?」


「でもその子ダーリンが声かけたから見捨てられないでしょ?そんな所も好きよ〜。」


「俺だって暴れてるリリは好きだが・・・、ええい!今日はやめだやめ。一旦撤収でいいか?」


「しかたにぁいにゃ〜。こんばんはかわいがってよ?」


「ミミも来るかもしれないがいいか?」


「いいよ〜。」


「OK、ミミ撤収だ。回収頼む。」


「え〜、今いくら丼食べ始めたのに〜。でも、仕事は真面目にしないとなぁ〜・・・。」


 何も無い空間に話している様だけど不思議と会話の内容が聞こえてくる。えっ?ここって現代だよな?通信魔法じゃないよな?いや、男の外骨格っぽい鎧?を見るとSF?その前にモンスター?混乱は混乱を呼び更なら混乱が来る・・・。しかしこのハゲ最低だ。こんばんはかわいがってに対して、増えるってなんだ!


 ミミと呼ばれた人の声も女性のモノでハスキーボイスながら割と可愛い感じだったし・・・。もしかして・・・、悪いハゲなのか?俺を助けてくれてるけど、少女と女性を誑かす・・・、いや親子丼?


「来たよ〜!」


「そのまま回収頼む!壊されてもかなわんし上昇アイテム使ってくれ!」


 空から現れた戦闘機?いや、流線型のボディは何処となく魚を思わせるけどどうやって飛んでるんだ?羽もなければ推進力も見当たらないんだけど!?


「あそこまでは行けるな?」


「どうやって!?」


 来たと言うもののその高度は地上から50mくらいのところ・・・。ロープもなくファンタジー的な乗り物にどうやってどうやって乗れと?多少開いたハッチは見えたとしても行く手段が・・・。

 

「お先〜。」


 リリはそう言葉を残して地を蹴りファンタジーな乗り物にジャンプして乗り込んだ・・・。そうか・・・、ああやって乗るのか・・・。いや、無理だろ!なんなんだよここは!いつから地球は化け物超人が住みだしたんだよ!


「まさか・・・、行けないのか?」


「そのまさかですよハゲ!普通の人はあんなジャンプできるかよ!頭が痛い・・・。」


「おまっ!ハゲってカッコいいだろスキンヘッド!普通の人も何もここにいる時点でスィーパーだろうが!えぇいクソ!野郎を抱く趣味はねぇが大人しくしてろ!」


 膝裏から掬われる様に腕を回され背中を支えられ。俗に言うお姫様抱っこ。頭痛は酷くなる一方で考えは纏まらな・・・、い・・・。酷い風圧を顔に受け・・・、この浮遊感は飛んで・・・、る?


「お帰り〜。」


「おう、こら坊主起きろ!起き・・・、ミミ、メディカルスキャンあったよな?」


「それより回復薬ぶち込む方が速いよ〜。」


「そうなんだが、頭が痛いとか言ってるし念の為な。」


「ダーリンやっさしい〜!もう好き、尊さがにじみ出る。」


「それには及ばないがリリの見立てではコイツどう思う?」


「う〜ん・・・、私は上位だけど人体工学はねぇ〜・・・。一応骨や肉体的な・・・、ん?早く出て!この人多分ここにいたらヤバい!」


 夢・・・、夢を見ている・・・。旅をした記憶。仲間と笑い合った記憶・・・、誰かを好きになり別れた記憶・・・。誰かはもう思い出せない。モヤがかかり決別し、未来を祝い幸せを願って別の道を歩きだした。泣きたいほどに恋しく・・・、でもその願いは自らの手ではなく好きな人の手には委ねて・・・。


「はっ!ここは!」


「おぉ〜、起きたね〜。」


「ここも何も俺達の家だ。なんか飲むか?」


「えっあ・・・、はい。はいぃ?」


 記憶を思い返す。ハゲに拉致られた?このハゲをダーリンと呼ぶリリはいない。代わりにグラマラスで猫耳と尻尾を付けた美女がハゲを背中から抱きしめている。はやりこのハゲは悪い奴だ!綺麗な女性を誑かして悪い事をするに違いない!でも、助けてくれた礼に見逃そう。間違っても怖いわけじゃないぞ?うん。


「先ずは・・・、次にハゲと言ったらお前の頭をスキンヘッドにしてカッコ良さを叩き込む。それでも言う様なら外に叩き出す。いいな?俺は如月・E・ジョーンズ。如月でもジョーンズでも構わない。こっちはミミで妻のリリは寝てる。」


「妻・・・、犯罪では?彼女は14歳くらいだろ!」


「?」


「いや、首をかしげるな!未成年を拉致してあんな所で何を!」


「ジョーンズ、コイツバカかぁ〜?超飛び切りのバカか?学校行かずに無能を証明したバカか?」


「ちがっ!」


「バカだな。お前、今とても失礼な事を俺の妻に言った自覚はあるか?あ?」


「それは・・・、すまない。混乱していた。いくら小柄でも成人はしてるのか。」


「そうだ。例え(肉体的に)14歳でも成人してる。」


「やっぱり犯罪者か!14歳は成人してないだろ!」


「?、コイツ脳が溶けて変な事を言ってるのか?」


「知らねぇよミミ。・・・お前、俺が何歳だと思う?」


「ジョーンズが?40歳・・・、とか?」


「いや、俺は250歳だ。リリは俺よりも上で600歳は超えてる。・・・、今何年か分かるか?むしろ、お前何階層にいたかは?」


「何階層?年齢てジョークを言うのはよしてくれ。そんな年齢はあり得ない(・・・・・)。西暦は・・・、正直言うと分からない。それに階層とは?ここもさっきのところだろ?飛んで逃げたとは思うけど・・・。」


 窓から見える外は暗く星が見える。星が見える?見上げるではなく下にも横にも上にも?さっきの所とは違う?いやまて!もしかして何かのセットの中を飛んでいる?仮に俺が地球に帰還する姿を見られ危険人物として拉致・・・、いやジョーンズの方が遥かに強いよな?


「お前・・・、田舎者ってわけじゃないよな?」


「田舎者か、確かに日本の片田舎で生まれたけどそこまで世間知らずじゃ・・・。」


「なら今日本はどうなってる?」


「?、普通に経済活動してるだろ?そりゃあ中国やらロシアやらとは問題もあるし、米国とは仲いいけど大統領次第じゃどうなるか分からないし。」


「お前・・・、それ本気か?」


「本気もなに・・・。」


「いいから答えろ、それは本気で言ってるのか?」


「本気だ。」


「あ〜・・・。」


「クロエちゃん案件だね。久々に会うけど覚えてくれてるかなぁ〜。」


「クロエちゃん?」


 ジュース片手に現れたリリが知らない誰かの名前を言う。クロエちゃんなる人物は俺の現状を理解してくれるのか?してくれるならありがたいけど、簡単に理解してくれるとも思えない。どうしたものか・・・。


「ファーストも知らないとなるとそうなるな・・・。永遠の乙女、グランドマスター、犯罪者の悪夢にモンスターを狩る者等々色々逸話があるにしても、知らないとなる田舎者で済ませられるレベルじゃない。今は西暦3125年ゲート出現から約1000年後だ。」


「1000年後?いや、えっ?じゃあここは?」


「俺達の家、宇宙船フィッシャーマン号さっき火星周辺のコロニーを出てどこに行こうか話してた所だ。」


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