529話 青山 挿絵あり
大遅刻です。
今年もおしまい良いお年を!
「ハイです!どうです?なかなかのもんでしょう?」
「私は窮屈で疲れたなぁ〜・・・。」
帰ってきたソフィアに渡されたのは舞妓に扮した写真。中々どうして、2人とも素材がいいのでよく撮れている。フェリエットの特徴的な髪色も武器でも使ったのか黒髪にしてあるし、ソフィアは薄化粧でもされたのか大人っぽく見える。いや、これって普通に写真館とかに飾られててもいい出来栄えなのでは?
親の目と言うか贔屓目に見なくても、何処か芸者遊びが出来る店にこの写真があれば間違いなくこの娘達を呼ぶんじゃない?確か舞妓って14歳くらいから親元離れて修行すると言うし、仮にソフィアがそれを願うなら今から送り出す事になるのか・・・。
「よく撮れてるよ。綺麗だしどこに出しても恥ずかしくないな。まぁ、舞妓なら舞踊が出来ないといけないけどそれも見てきた?」
「こう・・・、扇子を持って手をクネクネするやつですね。フェリエットがウズウズしながら扇子見てたです。」
「見てたら掴みたくなるなぁ〜。キラキラしてこう・・・、パシッとやりたいなぁ〜。」
「本当にやってないよな?」
「やってないですお兄ちゃん。ちゃんとソフィアが止めたです。でも、写真撮ってもらった後に京都を友達と歩いたら周りの人からかなり写真をお願いされたですよ。」
「ソフィアもフェリエットも綺麗だもんね〜。私もしまった着物とか出してみようかしら?」
「着物?成人式に来た振袖か?」
「お正月に向けて遥にお願いしてたのよ。去年はお揃いで初詣行けなかったし今年こそは!」
妻が意気込んでいるが俺はスーツの方が楽でいい。寧ろ、盆暮れ正月ない仕事を続けていたので元旦と言えど普通の日。まぁ、人が少ない分警備員としては楽だったな。まぁ、季節感はなくともあけおめことよろは誰からともなく言い出すので、新年を感じると言えばそことか?
「お揃いは別として東京にいたからなぁ・・・。今年は家族と初詣は行けるだろう。まぁ、まだ10月も終わってないからこんな話をすれば鬼が笑うと言うか半笑い程度はするかもしれないが。」
「笑わせておけばいいのよ鬼なんて。分からない先だから約束して少しづつ分かる様にして未来を作るの!」
「母さんもいい事言うな。確かに分からなくても何かやってれば実るしやらない事には実りもないからな。そう言えばソフィア達が修学旅行行ってる間父さんは忙しそうだったけど何かあったのか?」
フェリエットが出した八つ橋をみんなで食べながら旅の思い出を聞いているが、その間俺も忙しかったよ・・・。まぁ、数日の出来事と言えばそうなのだが事の発端は奉公する者に対する・・・、厳密に言えば青山に対する疑問である。
「多少込み入ったギルマスとしての忙しさだ。流石にこれは職務に関係あるから話せん。」
「そっか。確かに父さんしか知らないとか、誰かにバラしたらまずいとか言った情報もあるもんな。」
「そうそう。でも、それはちゃんと務め出したら分かる所もあるわよ。それより種子島はどうだったの?何かおっきいの作られてた?」
「種子島はまだ骨組みだけだったですね。」
「大きな支柱はあったなぁ〜。」
「大きな支柱か・・・。」
離発着施設は順調に建設が進んでいる様だな。ラボ同様球体でのエレベーターを目指しているので地上に降りた際はどうやって固定するのか?と言う話しがあった。そのまま空中待機も可能と言えば可能な代物でもあるし、ラボの連続飛行時間を考えると離陸後一度も地上に降りてきていないので、燃料切れと言うかエネルギーの効率化はどんどん進んでいる様だ。
まぁ、かなりクリスタルも渡したし藤も発電してるし色々と試している中でもこれだけ飛べるなら、空中給油ならぬ空中補給で済むだろう。ただ、エネルギー系はそれで済むにしても人の乗り降りや破損状況を調べる為には一度地上に降ろして固定してからの方がいいだろうと言う事で離発着施設兼ドックとして建設されている。
やはり宇宙エレベーターの開通は来年だな。息子達が作ったパーツはゲート内ではなく種子島で組むと言う話もあるし、先に試験運用としてミニチュア版のラボを宇宙に上げると言う話もある。流石にテストなしは怖いからと言う話もあるし、何より初めての試みなのでどこに不具合が潜んでいるかも分からない。
まぁ、それに乗ってくれと打診されてるんだよなぁ〜。ゲートを進む進捗自体は何とも言えないが、未だに宇宙に出ればソーツ来るかも説は根強い。まぁ、宇宙服貰ったし魔女がデザインしたので着ないと怒る。
「しかし、修学旅行は行けてよかったな。高校でもあるが中学はどこに行ったって話は割と出てくるし。そういえばネズミの国は大丈夫だったか?」
「すごかったです!ネズミの国はマジでハンパなかったです!」
「確かにあれは凄かったなぁ〜!」
「そんなにか?」
やはりというかなんというか、今まではレーザーライトやスモークなんかの演出に音楽やダンスと言うパレードがスタンダードと言うか普通だった。しかし、サバイバーの登場によりトロンプ・ルイユで演出の幅は大幅に拡大し、USJとためはる程のアトラクションやらが生まれているのだとか。
確かに夢の国としても夢の様な技術で夢の様な技巧で何よりもファンタジーを作れると言うならやるだけの価値はある。R・U・Rが仮想現実とするならネズミの国は現実ファンタジーを作ろうとしてるのかな?それこそ超大掛かりな仕掛けを使って物語を現実世界で展開させたりしている様だし。
「これです!これですよ!」
「ガキンチョが楽しそうに空飛びながら的当てしたり、本物のプリンセスみたいなのがウロウロしてたなぁ〜。」
「やろうと思えば野獣にもなれるし難しいけど小人にもなれる、か。」
戦うばかりが能ではない。ゲートとの付き合いはこれからも続くだろうが、その中でもユーモアは忘れてはいけない。多分、ユーモアを忘れてしまえばイメージは硬くなりすり減って同一のものが増え魔女達も見飽きてしまう。人類が全員道化を演じる必要はないが、それでも道化を演じられる人は貴重だろ?
地位や名誉にあぐらをかいでしかめっ面で誰かのミスを叱責するだけの存在なんて、仕事をするにしても上司やパートナーとしては迎えたくない。その点を考えると奉公する者はそこそこいい道化なのかなぁ・・・?
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「おはようございますクロエさん!奥へ行くお勤めご苦労さまです!お腹は空いてませんか?肩は凝ってませんか?必要なら抜き取りもマッサージも子守唄も歌いますよ!」
「私は赤子ではない。寧ろその赤子と接して幸せな気分だった時間を返せ。」
「・・・、子供を作りましょう!自分で産めばひとしおの喜びががが・・・。ダメだ!中身が!その喜びを手にする機会が!」
「この人本当に近くに置いておいていいんですか?」
「置かない方が怖い。こんな奴だが中層付近まで行って・・・、お前45階層付近まで行ったんだよな?」
「ええ!話を聞かない大馬鹿者を確保しに48階層まで行きましたよ?外に出すにしても無理やり位置情報を抜き取ってスイスに出す予定でしたし。」
ニコニコしながら青山が話すが今更ながらの疑問符が出てくるし。奉公する者がいるのは分かった。魔女に仕えているのも分かった。そして、青山の中に入り込んでいるのも知っている。なら、その青山は中位に至れるのか?とても素朴な疑問なのだが、青山の行動原理は俺に奉公する事で奉公する者は俺の中の魔女に奉公する事。
つまりは同一の奉公先でありつつ全く別の人に奉公しようとしている。それはまぁ、いいとしてその奉公と言う感情が人生をかけてまで望む願いとなるのか否か?考えてみれば中位に至るプロセスとしては青山の場合俺と出会った瞬間に至っていてもおかしくないのだ。まぁ、結婚するなんて事を最終目標にしていれば一生至れないかもしれないが、それは本人も納得して・・・、納得したよな?子供産めとか言ってたけど・・・。
「小憎たらしいくらい便利ですね探索者。他の人も便利屋としてゲート内では重宝されてますし。」
「俺はクロエさんの便利屋であって望田さんの便利屋には成れませんよ。ごめんね?」
「なんか私が振られたみたいでイラッとしますね。」
「それは・・・、すいません。でも誓いを違えず願いを忘れず・・・、俺は俺のやるべき事をやる為にここにいるんです。だからすいません。」
「そのやるべき事とは?」
「クロエさんに健やかに過ごして貰う様、奉公する事に決まってるじゃないですか!あっ、どうぞどうぞアイスコーヒーと火です。」
青山がからのコップに氷とコーヒーを入れつつ、ちょうど一服しようと取り出したタバコを前にライターの火を差し出す。なんと言うか色々と目をつぶれば便利ではあるんだよなぁ・・・。と、そうではない。
「う〜ん・・・、カオリは知ってるから同席してもらおうかな?」
「私が知ってる?」
「魔女や賢者について。前に話したでしょう?人格の様なものがあるって。」
「確かに聞きましたね。それがどうかしました?」
「どうかしたから話そうかと。防音お願いね。」
望田が防音するなら心強い。しかし、話しがスムーズに進むかは別なんだよなぁ・・・。どうして俺が青山を信用するのか?そして、その青山が至れるのか?そんな話をこれからしようとしているのだから。




