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街中ダンジョン  作者: フィノ


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525話 干渉しないにも程がある 挿絵あり

「俯瞰する視点?既に視点は切り替えられるが、アレよりも広げてモノを視ろと?」


「そうとも言えるし違うとも言える。ティーカップの底はあるけど、飲み干すか捨てるか、或いはひっくり返すまで何一つ確定する事はない。ラーメンだったかな?スープを飲み干した後に『ありがとございます』とかお皿に書いてあるの。その事実は見るまで分からないでしょ?」


「それは確かに分からないが・・・。」


 分からないからと言って不都合があるかと聞かれると判断に迷う。話を総合すると内側を見ろと言う事なんだろうが、夢想は出来ても確定事項はない。それこそただの箱を渡されて何も言われなければ、空箱と思うかもしれないし綺麗な装飾がしてあればプレゼントと思うかもしれない。


 時、所、状況にソレの重さや外観、判断する材料は無数にあるかもしれないが、それは状況的に判断する事であって箱を開いて中身を確認するまでは不確定の塊だろう。それこそ、どんなに俯瞰して見ようと事実は変わらない。


「分からないものなら押し付ければいいんだよ。君の中で確定した事実と箱の中にある事実。相違はあろうとも騙し続ければ真実にもなる。」


「いや、それはないどんなに上手く騙しても事実は変わらない。」


「いや、変わるよ。事実が産声をあげて完璧な証明をしない限り虚構と現実は変わり続ける。それこそ君の中身を知らない人にとって君は君でしかないけど、現に今は魔女が暴れてるだろ?」


 賢者にそう言われてモニターに目を向ける。目を・・・、あいつ何やってんだ!?端ないと言ったのが癇に障った!?大型モンスターを片っ端から縛り上げてモミジおろしの如くモンスター同士ですり潰し、撃ち込まれたビームや弾丸も転送して相手に撃ち返す。そして本人はモンスターの残骸を神輿の様に担がせて悠々とキセルを振るう。あっ!戯れみたいに神輿担いでるモンスターを殺した・・・。


  挿絵(By みてみん)


 配信する予定だけど雄二達の方がメインになるかな?流石に暴れすぎて載せるのは躊躇われる。引っこ抜くのを苦労する木も引っこ抜いて投げ付けてぶち当たったモンスターが根に絡め取られてるし・・・。


「君の知る真実がすべてじゃない。虚構だと思うものが全て存在しないわけじゃない。全ては曖昧にして蒙昧だけど、それを少しでも確定させる為に統計はある。まぁ、思考を止めない事だね。君もかなりコードに耐えられる様になったし、それの扱いも覚えて来てる。」


「そうか・・・。」




ーside 卓 ー




「とうっ!」


 頭の中にはヒーローソングが鳴り響き不屈の精神や鋼の心と言うフレーズが舞い踊る。やっぱり聞くならサビが好みだ。何よりも熱く勇気を奮い立たせてくれる!


 風景を置き去りにした様に繰り出した拳をモンスターが受け止める。いや、既に風景なんて見ていない。戦闘速度は上がり続けコンマ以下で判断を間違えば殺到する攻撃で蹂躙される。必殺技と呼ばれるものを何と繰り出したか・・・。


 必ず殺す技と書いて必殺技。イメージはあるがそれも変更しなければならない所だ。こうしてそれを受け止めるモンスターがいる以上、ただの技と言うべきだろう。


「やっぱり多いなレッド。どう考える?」


「多分ここまでが多いのだろう。モンスターが減ると言うのは考えづらい。しかし、上層から降りてきたモンスターと中層で生き抜いたモンスターが喰らい合う場所、それがこのあたりだと考える。」


 点滅する様にモンスターを斬る雄二が話しかけてくるが、多分この考察は間違ってないと思う。モンスターは進化すれば奥を目指す。理由は分からない。そんな分からない中でも様々な学者が学説を提唱した。曰く、戦闘によるエネルギー消費が増大する為、より純度の高く大きなクリスタルを求めている。曰く、興味の対象が移り変わりほかを探して降りる。曰く、奥にはモンスターの目指すものがある。


 いくつも作られた仮説の中には、たまたまゲートの近くにいて吸い込まれた何ていうものもある。そんな曖昧な中で戦う僕から言わせれば、階層としては上層と中層の狭間はふるいではないかと思う。力を付けたモンスターがさらなる高みを目指して進み、下に鎮座する通過点を通り過ぎても生き残ったモンスターに取って代わろうとする試験場。


 そんな試験場に僕達は足を踏み込み、興味の対象として一斉に目を向けられる。多分、ここでは殺し合いが日常で対話でその力だけが言語として成立する場所。業と炎を噴き上げ陽炎に浮かぶモンスターに蹴りを放ち、突き抜けた衝撃を更に燃え上がらせて虎を型取り背後に控えたモンスターを食わせる。


 爆炎は止まず、秘めた怒りは鎮まらず、幾度となく傷付いた身体は不屈の闘志で立ち上がる。ヒーローはくじけない。その姿が人々に希望を与えるなら立ち止まる事は僕の怒りが許さない。ただ、離れろと言ったクロエさんの方から途方もないプレッシャーを感じるけど・・・。


「雄二、一旦離脱しよう。流石に戦い詰めじゃパフォーマンスが落ちる。」


「なら、ついてこい。」


 雄二が背を見せそれを追う。行く先は木の上か。巨木と言う言葉を体現するかの様にそびえ立つ木は、切り株ならテーブルマウンテンを思わせる。そんな木を2人で飛んで登り枝に立つ。


「お前も感じたか?クロエさんがデタラメな魔法使ってるの。」


「プレッシャーは感じた。そして、ここから見てもデタラメだとは思う。」


 上空から飛行船の様に巨大なモンスターが地上に向けて幾本ものビームや弾丸、ミサイルを放つがそれがモンスターの上面に現れた影からそのまま降り注ぎモンスターを削り、とどめと言わんばかりに地上からは引き抜かれた木が投擲されて貫通する。その木も普通ではない。引き抜かれた当初は木でも投擲された後は眩い光を放つ光の矢となっている。あればプラズマ化でもしてるのか?


 モンスターに通常兵器は無意味だけど、それはあくまで普通の鉛弾や核なんか。米国ではゲート内で核を使ったと言う話があったけど、それで与えられたダメージは極小だと言う。なら、あの木も魔法をまとわせているのだろう。


 高度を落としたモンスターに地上にいるモンスターが取り付き再度空へ舞い戻る事は叶わず互いを殺し、己を殺し見つめるクロエさんも視線を外す様に顔を動かせば骸だけが残る。それをクリスタル共々手早く指輪に入れる辺り、クロエさんてしてはそれが平常運転なんだろう。


「相変わらず凄いな・・・。」


「雄二・・・。仮に、仮にここで僕達がクロエさんに戦いを挑んだとして勝てる勝算はあるか?」


「ない。それだけは断言出来る。どんな道を辿ろうとも、例えば命を賭けるなんて脆弱な事を言ってもない。」


「そこまでか・・・。やっぱり上位に至り先に進むしかないか。」


「えっ?お前クロエさんに勝ちたいの?」


 グビリとエナドリを飲む雄二が驚いた様に僕に聞いてくる。勝ちたくないと言えば嘘になる。超えたくないと言えば男として逃げた様な気になる。可憐で美しく、人の目を惹きつける容姿をした元助言役で今は同僚のクロエさん。本来なら守るべき仲間だけど、先の会議であった『暴走したらどうする!?』と言う発言がどうしても頭にこびりつく。


 信頼も信用もしてるけど・・・、暴露された話しも信じられるけど・・・、なら守るべき人に牙を彼女が剥いたら僕はその前に立たないといけない。ヒーローとして、正義を目指した怒る者として。多分、恥ずかしいから見せたくないと言うのは詭弁でこの光景を見れば外れたくない人の枠から外れると感じたからだろう。


 人の事を僕も言えない。思い描いたヒーローのイメージ。不屈であり負傷しようとも生身に戻るまではその炎は消えない。副長や職員を鍛える為に潜り盾となってビームを受けようと噴き出す炎がある限り・・・、僕自身がそれを致命的なダメージと認識しない限り軽傷ですむ。


 それは雄二と2人で中層を旅したとしてもだ。腕や足が切り飛ぼうとも拾い押しつけもとに戻し、或いはビームで焼かれようとも炎で形作りもとに戻す。そして十全の力でモンスターと戦う。多分、僕や雄二は恵まれている。全てを賭して敵わない相手がいると言う事は、裏を返せば必ず始末(・・)してくれる人がいると言う事だ。


 それも・・・、永遠と言う長きに渡って・・・。


「高みにあるならそこから見える景色を見てみたいだろ?」


「なーにおセンチか?卓。高い所から見る景色なんて風景じゃなきゃ人のつむじか、そうでないなら豆粒みたいに顔の分からない人だろ?俺はそんな所には行きたくないな。」


「でも、クロエさんはそこにいるだろ?」


「いや、あの人の場合繋ぎ止める奥さんとかいるし、今見てる様な事を外でしたら本人が言う様に、求めてるイメージと懸け離れすぎる。だから、あの人は多分暴走しないさ。それよりもそろそろモンスターが来る。食うなら今のうちだ。」


「取り敢えず飲むだけでいい。下手に食えば動けなくなるからな。」


 感がいいと言うか対人レーダーを備えていると言うか・・・。目立つクロエさんを尻目にコチラにもモンスターが集まり木を登って来ている。それも仲間と言う意識はなく小競り合いをしながら、木に取り付きそれを狙うかの様に上空にも集まってきている。


「なら、それ食ったら当然の様にモンスターを狩るとするか相棒。」


「あぁ、当然の様に悪を討つとしよう。」



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「ざぁ〜こ、ざぁ〜こ。進化してその程度なの?恥ずかしくないの?顔も見たくないから潰しておくわね?」


 グシャリと小さな足の下で喋るモンスターだったモノが身体ごと圧縮され、浮かび上がったクリスタルの形から位置を特定して引っこ抜く。モンスターで作られた神輿は既に崩壊し、自身の足で静々と森を歩く。既にここに来て2日以上は経過しているな。いや、そもそもスマホを見ていないから経過時間は更にあるかもしれない。雄二に方向だけ聞き歩みを進めているが、その歩む先には常にモンスターがいて遅くない戦闘速度でも足止めを食らう。


 流石に雄二達と離れ過ぎたとは思わないが、このまま別れて進んでも埒が明かない。せめてこう・・・、何かしらの目印があればいいが、ここに来た時の光景を思い返せばどこかの虚か洞窟の中にゲートはあるのだろう。振り返っても出た入り口は確認出来ないが、かなり厄介だな。


 上層なら空からゲートは発見出来たが、隠されているとなるとこうして地上を進むかもっと捜査系に優れた優れた職持ちを連れてきた方が楽だろう。柏手や煙を広げているが端も見えなければ洞窟内なら音の返りも悪い。さて、そろそろ魔女と代わるか。


 賢者は視点を広げろとか俯瞰しろと言うが、今以上に広げる術を俺は持たない。寧ろ広げられるものなのだろうか?遠くを見ると言うなら望遠鏡でいいのだろうが、広く見ろと言われると自分が一歩引いた場に立つか、サテライトビューでも使って360度見れるようになるとか?


 しかし、サテライトビューって今の賢者から教えられた視界と変わらないんだよなぁ〜。高低差も視たい物へのアップも自由だし、こっちの方が高性能だろう。おかげで車の運転も楽々、目をつぶっていても車庫入れ出来る。


(流石に交代だ。存分に戯れただろ?)


(この程度で?この階層を更地にしてないわよ?)


(しなくていい!私は奥に行きたいんだ。)


(そうねぇ・・・、ここから250km地点。そこよ。)


(ゲートがそこにあると?)


 プカリと煙を吐いているが、そこに次に進むゲートがあるのだろう。距離的にはそこまでない。問題はとめどないモンスターの襲撃で今も腹に槍を突き立てたモンスターをねじ切った所だ。服への損傷は自身で作った魔法糸の関係上補填で直せるから気にしなくていいとして、雄二達の消耗具合はどうだろう?時折離脱して食事したり回復薬を自分で使う分余裕はあると思うが・・・。


「雄二ー!!!卓ーーー!!集まれるーーーー!!!!?」


 声を上げた後に周囲を凍らせる。宇宙でもモンスターは活動できるのか、普通に凍らせても勝手に溶かして出てくるが、内部から凍らせればそこそこ動きが鈍くなる。流石に2人を呼んだ後に周囲を完全凍結させるとかフレンドリーファイアもいいところだろう。


 程なくして2人が来たので集まったモンスターを蹴散らし木の上へ離脱しタバコを吸う。個人で判断しても仕方ないし、今回はパーティーで来ているなら2人の意見も聞かないとな。


「手短に話す。ここから概ね250km地点にゲートがある。一旦退出するか進むかの判断を話し合いたい。」


「雄二、回復薬の残量は?」


「俺はまだまだ余裕がある。食いもんにしても後半月は行ける。卓は?」


「僕も問題ない。上昇アイテムを使うにしても後3階層は行ける。」


 ここが58階層として上昇アイテム限界が61階層。やはり物理的な広さとゲートの見つけづらさはネックか。望田達と比べればかなりのハイスピードと言えるだろうが、どうする?このままイケイケドンドンで潜って大丈夫なのか?それとも余裕を感じているうちに外に出るか・・・。


「次に入って上昇アイテムで離脱。ケガはないにしても連戦は精神がすり減る。それに、出産予定日の兼ね合いもあるしね。」


「もったいない気もするっすけどね。」


「雄二、本部長業務が3日分くらい溜まってるんだぞ・・・。余力もいるだろ・・・。」


「東京ギルドは安定して分業先もクロエさんと話し合ったから割とそんなに・・・。」


「はぁ?千葉ギルドとか毎日種類の山だぞ!特に人材派遣系で夢の国からこんな感じの事が出来るキャストいないかとかさぁ!」


 卓と雄二が言い合ってるが、俺は俺で知りたくもない夢の国の裏事情を聞いてしまった・・・。確かにパレードにしても何にしてもやたらと最近テレビでも持て囃されてるんだよなぁ〜。スィーパーでない人にパワードスーツ着せて高速飛行体験とか、魔術師使った水中散歩とか・・・。あれ、卓が手配してるのか。


「ま、まぁ?次を覗いて帰る。それでいいだろう。」


 話は纏まり先陣を切る。魔女に地点指示をお願いしたので迷う事なく一直線で最大速度。こんな時に盾師が欲しくなるが、いないものは仕方ないので盾師のタワーシールドを何枚も重ねて突貫!雄二が何も言わないから多分安全な道なんだろう。


 ゲート直上に到着し、地面に大穴を開けて雪崩込みそのまま脇目も振らずに通過!前回を考えれば洞窟内だと思うだろう?そんな美味しい話はなかった・・・。


『飛べ!』


「空の・・・、上?いや影が・・・。」


「上昇!上昇アイテム!!」


 見渡す眼下は白一色。雪の森を思わせるがただ木が白いだけ。巨木と思しきものも見えるが、それも足よりはるかに下。はい。今回のゲートは大型モンスターに引っかかってるよ!俺達は一体何を試されてるんだろうか?これって下手すると飛べない人は落ちて死ぬんじゃ・・・。


「アイテムを使います!」


「お願い!私はゲートだけどうにかモンスターから切り離す!」


「なら、俺が切りますよ!」


 飛行した雄二が剣を抜き伸ばしてモンスターの一部を切り飛ばす。モンスター直下のおかげか気づかれてはいないようだ。そのまま上昇アイテムで56階層セーフスペースへ上昇し、今回の掃除はお開き。カメラのデータは後からもらうとして内容は吟味しないとな・・・。


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恐らくゴミがゲートを体に取り込むのはソーツ的にNG設定と思われるが、引っかかっているのはOKとか抜け道あるなあ。
賢者の説明は不確定性原理と言うか量子論の観測によって可能性が収束するって考え方に近いな まあその観測結果を他人に押し付けてやれば色々オッケーだ 裕二の方はクロエとの違いは巻き戻るかどうかだけで旧時代…
上昇アイテム最初にもらった2つは上限無かったはず 今回持ってきたのはそれとは別? モンスターの設定変わった? 放射線など有害なの垂れ流して職持ち以外に有害はあったけど 職持ちの武器か魔法コーティング…
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