524話 毒 挿絵あり
忙しくて短いです
「あははは・・・、脆すぎる!」
(敵性個体確認、はいいいい・・・。)
「か弱い少女の一撃でひしゃげるなんて・・・、クリスタル取ってる?」
キセルを伸ばし振り下ろす。地鳴りがするような音と地面にめり込むモンスターなんて素敵ねぇ。ただ、骨はない。雑に魔法を紡ごうとも雑に強化しようともそれで事足りる。仕方ないわねぇ。まだ中層の始まり。下層のゴミなんて言う憂さ晴らしにはうってつけのモノはまだ出ない。見回せば共食いするゴミが絡まり合い、どちらかが生き残ろうとしてるけど、無様だから両方潰す。遠くに確認出来る2人はゴミと戯れてるけど、そこまでの危なげはない。
「次のセーフスペースとやらまでは暴れていいのかしら?」
(やりすぎなければ。さっきの魔法だって隕石に木を溶かす熱波に凍って崩壊するモンスターとか、既にこの世の終わりを見せてるんだ。これ以上にやりすぎるとは思いたくない。それと、呼びかけるなら口に出すな。これもカメラで撮られてるだろ?)
(この首輪?まだ動くのかしら?額にいいのをもらって木に張り付けにされたけど、すぐに巻き戻って弾の方が崩れ落ちたわ。まぁ、首には貰ってないから大丈夫だとは思うけど。)
中から見てたよ。T字の弾が飛んできて額貫かれてそのまま吹っ飛んでいって木に張り付いて後頭部もゴチャッと・・・。人の身体だからと好き勝手使いやがって・・・。少なくとも自分で自分の傷を映像として残さないなら構わない。雄二達も離れているから多分撮影も出来ない。ただ、詳らかに見せたいものでもない。
(端ないな魔女。もっとスマートに出来ないのか?)
(臆病な主様の代わりよ?出来る事をしない。可能である事から目を逸らす。あの時ああしておけば良かったなんて全くの無駄だもの。自爆する勇気があるなら身体を上手に使う勇気も持ちなさい?)
勇気・・・、勇気・・・、なのか?だいぶ機嫌は良さそうだが喋りながらも手は緩めない。邪魔と思えば視界に映るモンスターは串刺しにするし、喋る奴だろうとさっきみたいに叩き潰す。強化していようともその殴った反動でキセルが手にめり込み、巻き戻って再度手の中に戻る。そして、口に咥えて吹いた先から出る煙は黒く、広がる事なくモンスターを包み込みそのまま消えていく・・・。
え?今のってモンスターが使う空間攻撃?多分コイツならキセルなくても出来るし、更に言えばもっとはやくできる。と、言うか殴り合ってる時にたまに使われて殴りかかる拳を消されたり、魔法を消されたりした。一応原理だけ聞くと対消滅かな?反物質を指定地点に出現させ文字取りその地点を削り取っているらしい。
らしいと言うのはそれが時にはマイクロブラックホール的なものを出している時もあれば、分子分解している時もあるから・・・。一見同じ様に見えて結果も崩壊なので同じと言えば同じなのだが、それに見分けがつくかと問われれば多分視界を変えてよく見ないと無理。だって一瞬だし。
しかし、変わって魔女が戦う姿を見て思う。前よりも雑と言うか躊躇い的なものが無い。いくら巻き戻るからと言って保身なき近接戦を繰り広げなくてもいい。そんなモノはどこぞの伍長にでも任せておけ。確かに近接戦を練習した事はあった。三日坊主だけど。格ゲーを思い出して家でやった事もあった。必殺技は現実で出せるんだな・・・。180度足を開く様な蹴りでモノを斬るとか地面殴ると何か吹き出すとか。
それはさておきモニターが目まぐるしく移り変わりどんどんとイメージが引き出される。それこそ覚えている様なモノから覚えのないもの、ネットで見た様な気がするものからゲームや何かの事故映像や実験映像。さっきの消失攻撃もイメージとしてはあった。
そもそも空間攻撃とは何か?紐解いていけば多分瞬着する炎や水、電気と変わらない。なら、何が問題点かと言えばどう崩すのか?そこだろう。モンスターの研究と言うか捕獲はNGなので外見だけ見るなら機械と肉体の複合体から機械全振りに肉体全振り、或いはよく分からないもの全振りもいる。
ただ、そこに物体として存在するなら構成する原子があり分子があり形を保つ為の引き合う力がある。空間攻撃と言えばそれの引き合う力を限定空間内で解除して消失させている。その作用するモノが魔法やら反物質やらとなるわけだが、これの難しいのは不可視の地点指示だろうか?
高速で動く中で地点がずれれば当然無駄に終わる。さっきの魔女の様に包み込んでやるなら問題ないだろうが、アレをするならカウンター気味の攻撃となる。まぁ、視界を変えて行えばその限りではない。現に端ないと言ったら今度は走りながら消失させている。
ただ、これはどうも俺にはしっくりこない。そんな小難しい方法ではなくもっと完璧な否定と言うか無を俺は見た。アブザだ。産まれて消えた子は確かにここにいてここにいない。俺とアブザは互いに出会う事はない。出会うと言う事は即ち、俺が吐いていると言う事だから。
「君はこの視点をどう思う?」
「この視点を?思考とイメージと現実を一緒に見ている・・・、普段と変わらないと思う。人は考えて動くモノだ。なら自身のイメージを見ながらモンスターを倒すとしても普段と変わらない。単純に目に見えるか否かの差でしか無い。」
「自分で動いていないのに?」
「方向性は変わらない。モンスターは倒すし仲間は守る。誰かがするであろう仕事の誰かとは自分であっても問題ない。そして、その自分が受け入れてこう言う形で仕事をするのもまた、仕事のやり方としては問題ない。私に出来るのはその仕事で問題が出た時に対処する事だ。だから、上位者としての権利も渡さないし、魔女や賢者を下とする。」
「まぁ、手本があれば君としてもイメージは増えるか・・・。最初からここまで来れてもおかしくはないんだけどね。」
賢者が何を言わんとしているかは分からないが、経過時間はどれくらいだろう?あまり長居をするつもりはない探索で1つ階層を降りただけでこのザマだ。今も上空から来た巨大なモンスターに取り付こうと宙を駆ける。飛来する弾丸は煙で巻き受け流すが、貫通力が高い物は貫いて来る。しかし、それさえも避け服を掠めるビームも、近寄れば湧き出る触手も薙ぎ払いながら取り付き、内部に煙を流し込んで制御を奪い自身の脚として使い上空のモンスターに突貫させる。
視界の端には遠くで火柱が上がり、卓達の存命を知らせるが割り振りと言うか数的にはどうなのだろう?コチラはかなりの数がいる。それこそ派手に暴れているのでモンスターの数は増え、途切れる事なく集まってくる。巻き戻りをバラしたらコレが俺にも出来る。
いや、考え方がおかしい。賢者の言う様に最初からこの身体はコレが出来た。それこそ魔法の腕は悪いだろうが、お釣りが来るほど進む事が出来る。そう、大きく回り道なぞせずにスタンピード後にゲートに籠もりひたすら前だけを見て進む旅・・・。
「・・・、お前が毒を流し込むなんて珍しい。魔女に何か言われたか?」
「毒?なんの事かな?」
「過去を思い返させた事。自身の判断に疑惑を持たせ様とした事、そして何より奥へ行けと言い出した事。お前はスタンスとして魔女に協力はしているが同じモノは見ていない。そのお前が『最初から』なんて言葉を今更言うわけがない。過ぎ去って確定した過去をほじくり返すほど、賢者は無駄な事はしない。」
「うへ・・・。君の語録で固められた分、手に取る様に分かるって事?まぁ、何にせよ事実の突き付けは必要だからね。物事を多方面から見る事が出来ても君には圧倒的に俯瞰する視点が足りない。」




