523話 枷 挿絵あり
「雑魚が集まっても雑魚は雑魚。命の雫を落として消えなさい?雄二、方向は?」
「えっ?あっちの方っす。」
「なら行きましょう。こんな所でまごついてる事はないわ。・・・、そうなら耐えなさい?gjtmapg@t4t・・・、茫洋とした世界が1つ、見えざる常世が2つ、闇に飲まれ点在する光達が3つ・・・、力なき者は絶えなさい。私の前にある者は資格を有するものだけ、それ以外は朽ちなさい。目に映すだけでも不快だわ。」
(おい卓、なんか違わないか?)
(いや・・・、講習会の時もあったろ?なんかガラッと人が替わる様な時。取り敢えずなにがあるか分からないから大人しく・・・。)
「遊んでいいわよ?どうせ全てのゴミは止まらない。止めるほど魔法は広げられない。そこまで広げてしまうには足りないのよ観測する者としての視点が。人が話してるんだから蠢くなゴミが。」
足を上げ下ろす。それだけの事で地中から何かがひしゃげる轟音がする。多分ムカデがそれに類するモンスターだ。いや、それだけじゃない。さっきまで綱渡りの様に細かった道が今は綺麗なほどに一直線で、有無を言わせずその道を歩めと言っている様にも思える。ただ、時折その道に穴が空いて塞がるのはクロエさんの言う資格のある者が現れるから?
「取り敢えず付いてくっす。」
「そう?なら飛びなさい。多少の練習は必要でしょう?」
そう言って歩き出すクロエさんはさっさとドレスに着替えてしまった。いらないと言ってたけど、その見慣れた姿はやはりゲート内だと安心する。講習会の時も私服やら本人曰く女教師スタイルのタイトスカートと白いブラウスが多かったけど、戦場ならやはりこの格好だろう。
渡された杖は小さな物で『飛べ』と言うとフワリと浮かぶ。多少のコツと言うか動きに合わせてくれるので不自由はないけど、その反面多少踏ん張りづらい。ただ、踏み込みをする分には問題ないのかな?練習が必要と言われたので飛び回り走り回り離れすぎない様に進む。
時折見かけるモンスターは動かず近くにクリスタルが落ちてる事を考えると、紡がれた魔法で倒されたのだろう。どの程度の範囲でどの程度を倒したのか?それはクロエさん本人にしか分からない。ただ、時折異物感でもあるのか咳払いする様な時がある。
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「なぁ賢者、不思議に思うんだが耐えろと言われて耐えられるものなのか?特に精神的なモノとか。」
「う〜ん、酷く抽象的な言葉だからなぁ・・・。心に傷を負う。膝に矢を受け負傷する。このどちらも僕達にとっては同じでどちらも一緒じゃない。でも、同じ様に『痛み』を感じる。要点とするならその痛みや異物感にどれだけ折り合いを付けられて受け入れられるか?それが争点だよ。」
ふむ、痛みの分離と言うやつだろうか?人で言えばメンタルモデル、日本語で言えば認知心理学かな?個人が物事や事象に対して持っている思い込みや価値観、イメージを指すのだが平たく言えば思考の土台である。今の賢者の話からすれば膝は痛いがそれを痛いと考えない。無痛症ではないので、あくまで痛くないと思い込む。
心の傷も辛いがそれを辛くないと信じ込む。まぁ、よく言う他人からすればその程度の事でも、本人からすればとても重大な事。その重大な事を常にその程度と置き換えて耐える。う〜ん・・・、それっていつかぶっ壊れるフラグの様な・・・。
魔女がコード込みで魔法を使った様だが幸いと言うか、壺は無事でモニターも多少軋む様な感じはあったが壊れてない。これでモニターや壺にヒビが入ればまた修復する羽目になるのだろうが、どうにか耐えられたようだ。しかし、痛みを受け入れろと言われても全く痛くも痒くもないんだよなぁ・・・。
モンスターは倒すものとして捉えているし、そこで身体は傷ついても心が傷付くことはない。そもそも米国スタンピードでモニターが1個バキバキになったが、それで痛いとも感じなかったしなぁ・・・。
「例えばずっと痛くないと考えたとして、それの限界は?」
「砕けたらおしまい。君達なら身体に不調が出続ければそれでまずいと理解する。まぁ、君の場合ここに来れるし身体の不調なんてない。さっきのコードだって前の君なら相当気持ち悪かったと思うけど今はないだろ?毎日アレだけ殴り合ってんだからさ。」
「ないな。今もモニター越しに魔女がモンスターを射的の的みたいに壊してるが何とも思わない。と、言うか魔女はなにをあんなにカリカリしてるんだ?」
「あ〜、会議だっけ?多分昔を思い出したんだよ。僕達は魔女に従うけど服従してるわけじゃない。なら当然そこには食違いもあれば敵対する事もある。面白い話をするなら僕達だってかつては途方もなく争った事もある。」
「それってどっかの星壊したとか?」
「いや?その時はそんな力なかったよ?どう発生したかによるけど、生まれ落ちた瞬間から完璧なものなんてない。仮にそんなモノがあるとするなら、ソレはただの何の変哲もない石ころだ。」
「石ころが完璧か、また寂しい世界だな。」
「そう?完璧と言うモノを目指した時に動かず変わらず普遍的で絶対的な1を目指す事に変わりはないだろう。まぁ、面白みがないから僕もそれはゴメン被るし、石ころになれと言われたら暇すぎて嫌になる。話しを戻すけどイメージのやり取りでも不具合が出る時があるのに、それを言葉で行い立場に縛られて言いたい事も言えない姿を見れば苛立ちもするよ。僕としてもさっさと扇動してゲートに突貫させて、次の世代に目を向けた方がいいと思ったしね。」
「残念な事にあの場にいたのは誰も彼もがこの星の権力者。あそこで扇動すれば人類が全員ゲートに飛び込む羽目になる。」
「別にいいと思うけどね、ボロボロ産まれて増えてるんだし。まぁ、人類である君としては受け入れられない話しか。ただまぁ、魔女が苛立ってるって事はそれだけ過激に何かするって事だから・・・、ね?」
「流石に仲間もいるし無茶はしないだろう。次の階層に行くゲートも見えて来たし。流石に看過出来ない時は変わる。その辺りの匙加減は分かってるだろ?」
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「さてとここまで楽出来たんだから・・・。」
「次はどんどん斬っていくっすよ。飛ぶのもそこそこ慣れてきたっすから。」
「だな、これを配信に載せるならただの散歩動画になってしまう。次は空を重点的に攻めようかな?」
「そうねぇ・・・、娯楽の独り占めは悪いから散開なさい?私も暴れるから近くは危ないわ。」
「えっと・・・。」
(雄二、クロエさん暴れるって言ったよな?)
(俺もそう聞こえた。寧ろこれって平常運転?なのか?)
(いや、前回の奥行く配信見る限りだと・・・、サポーター?)
(ある意味最強の安全装置だな・・・、セコムなら俺も欲しい。と、言うかどれくらい離れればいいんだ?)
「クロエさん、暴れるのは良いですけどどれくらい離れたらいいですか?」
「ん?そうねぇ・・・、取り敢えずキロ単位なら視認してから逃げられるんじゃない?待ち伏せされたら全部貰うからその間に離脱なさい。雄二は杖渡したから場所が分かるとして、卓は適当に炎でも上げれば危ない時は助けに行くし2人でウロウロしてもいいわよ?」
「ならあんまり離れると危ないから雄二と行きます。」
「ええ、それならそうなさい。」
(めっちゃ笑顔だ・・・。)
(美しい・・・、でもなんか寂しい・・・。)
虫唾が走り苛立つ。私らしくもない。どんなに高尚な存在と言われようと私達は変わらない。ただ、この星の原生生物よりも出来る事が多く先に発生して長くを生きるだけ。暇で退屈で戯れにも飽きて不自由を楽しもうとしてこうした。今も本体は他の白の中を見ながら暇な黒で揺蕩う。いくら私の本体と言えど苛立ちを私に向けないで欲しいわねぇ。
確かにツカサが前に言った『中層を掃除すればスタンピードは防げるのでは?』と言うのは間違いではない。そして、浅すぎると言うのもまた、間違いではない。がむしゃらに奥に誘うより特大の釣り針である祭壇を探させた方がいいのは事実だけど・・・。
それがどこに位置するかよねぇ・・・。雑に作った仕切りはいかほどかしら?100?150?200?どれほどでもいいけど、下手に浅くに置かれれば底に行く前に辞めてしまう。いくら嫌悪しようと掃除する者は必ず破壊する。はぁ、我ながら面倒なシステムを構築したわね・・・。
それにたまたま来たからと、あの統合思念群体なんかに意味なんて渡すんじゃなかったわ。あまりにも不出来で意味からの妄執に囚われて何を目指したかも忘れてしまった愚物。同族の賢者が使い道があるとして許したけど、どれほど経とうと何1つ変わらない。これならまだ奉公する者の方がマシね。アレはアレで面倒だけどまだ楽しむ術を知っているから。
「貰うわよ!」
「離脱します!」
離れる2人はお利口ねぇ。別にバラしてしまったのだからこの身体がいくら破壊されて巻き戻ろうとツカサも気にしないでしょう?でも、変に目くじらは立てられたくはないのよねぇ。だから2人を追い払って飛来する長い弾丸を掴みそのまま踊る様に一回転しながら投げ返す。その間も飛来する弾は腹を貫き太ももを貫き空いた穴が巻き戻れば更にそこを貫こうと飛来する。
あるのは一瞬のこの身体が訴える痛み。でも、そんなモノは切り離せばいい。無数の傷が、穴が!どれほどそれを刻まれようとも私には関係ない。その程度でこのおもちゃは朽ちない。愚物だろうと意味を得て作ったなら、傍から見てそこに瑕疵はない。問題はツカサよねぇ。いいおもちゃでお利口ではあるけど私には全く靡かない。まぁギャラリーとして、こうして代われるだけの自由で我慢しましょう。作った私が余りにも奔放なら他もやらせろと動き出すのだから。
「その程度の攻撃・・・、あら?ちょうどいい指揮棒ね?」
地中から這い出すムカデ・・・、どんなに質量があろうとも浮かせてしまえばそれに意味はない。手で一部・・・爪の先を掴んで糸でぐるぐる巻きにして片手で薙ぎ払う。この星ならこんな時確かこう言うんだったかしら?
「ホームラン!さぁさぁ!たまには身体を動かさなくっちゃ!『聞こえた者はおいでなさい?目的なんかなんのその、私が行くは楽園への道。連なれば逃さない、加わらなければ踏み潰す。』使い潰してあげるわ!」
敵?味方?何でもいいのよそんなもの。どうせゴミがゴミを潰し潰されるだけですもの。あの会議とか言う場は腹立たしかった。目的が示されたのにその中を進むではなく、身勝手な思いで目的を捻じ曲げようとした。かつての同族にもいたわね。そんな愚かしい者が。システムに組み込む時に最初にバラしたからもう忘れたけど。
「星降る夜に夕月夜、見上げた先は落ちる星、ただの石ころ思いを込めて、願われたそれはシューティングスターー!!あははは・・・!これってレールガンとか言うものかしら?大質量物を摩擦なしでぶん投げたけどいい燃え尽き具合じゃない!」
この身体の性能?巻き戻りだけ?普通の少女と変わらない?確かにそれは同意してあげる。でも、それは貴女がそう定義したからに過ぎないのよねぇ。魔法を使えば素足でさえモンスターを切り裂き、額に穴が開こうと意に返さず走り抜ける。瞬き?目に入るゴミなんてそもそも入って勝手に出る異物でしょ?
ようやくの自由、制限された自由、それでも何1つ気にする者なく動ける。主様の目は確かにある。でも、それを推して私達しかいないのなら歯止めはいらない。原生生物は気づいているのかしら?秘密とは枷でそれを暴けば囚われない。籠の鳥は蓋が開けば空を自由に飛ぶ。秘密があるから自粛した。それがなくなればもう囚われない。
「au@5:xjwtj5 燃える白に凍る白、堕ちる白に消える白。流転せりは基なり。消滅は必然なり。拒む術を持つ者のみがその先を逝く。」
宇宙では日常茶飯事。ありふれた光景でも白の中で起こればただでは済まない。星が燃え上がり燃え尽きる。氷に閉ざされた砕け散る。穴に飲まれ永劫を彷徨おうとも、いつかは何かとなって外に出る。でも、ここではそれは許さない。どれほどの木がなくなろうと、どれほどのゴミが砕けようと今、私がしている事は原生生物が望んだことなのだからね!




