520話 一息 挿絵あり
「父さん・・・、戴冠式で魔女とかエリザベス女王が言ってたけどあれって父さんが・・・。」
「ヒュ〜♪」
「あら、いい音ね。前はもっと低い音じゃなかったかしら?」
「お父さんは口笛苦手でした?」
「それよりソフィア、肉を取って欲しいなぁ〜。」
「フェリエットはもっと野菜も・・・、猫って野菜ダメだっけ?那由多、ポン酢ちょうだい。」
「大丈夫だよ姉さん。単純に好物をしこたま食ってるだけだから。しかし、姉さんが突然帰ってくるとは思わなかったけどなんかあった?はいよ。」
「単純に帰省。東京にいるとどんどん仕事が回ってくるし、ラボにいても仕事が回ってくるのよね・・・。肉体言語は偉大だわ。取り敢えず殴れば黙るし。後から気晴らしに父さんとソフィアとフェリエットは服を作らせてね。」
娘がラボに毒された!まぁ、そこそこ手が出やすい娘ではあったが、それは姉弟間の話で外ではお淑やかでサバサバ系の姉御風だった。しかし、ラボ内は肉体言語を使うので更に手が出やすく・・・。あの変人アルが何かしらの問題を起こしてるんだろ、多分。
「遥お姉様が服を作ってくれるですか?なら、ゴスロリなるものを・・・。」
「えっ?気晴らしに作るから好きなデザインで好きな様に作るけど?そもそもね、色んな国からオファーきて服作る中で一番多いのがゴスロリなの・・・。やれ一着数千万円出すから作ってくれだの、ファーストさんと同型を娘にねだられてねとか・・・。今の所もうレースもフリルも見たくない・・・。」
「なら、ジーパンとTシャツくれ。ロンTでもいいが首回りはタートルネックな。後、10月に入ったしそろそろ産着とかお包みとかも欲しい。」
「クロエの子が生まれるのかなぁ〜?でも莉菜はお腹大きくなってないなぁ〜。ソフィアは白いから豆腐をやるなぁ〜。」
「畑の肉じゃなくて普通の肉を寄越すです!」
「白菜食え白菜。胡麻ダレとポン酢のミックスは中々いけるぞ?」
「それって赤峰さんのところ用かしら?確かに今月が出産予定だったわね。さてと、締めはなににする?おじやにリゾットにちゃんぽん麺にうどんもあるわよ?」
「今回は水炊きだったしトマト缶とチーズ入れてリゾットで。確かウインナーもあったから追加してくれると私は喜ぶ。実際何を贈るかは迷うんだよなぁ〜。今言った物も買い揃えてるだろうし、かと言ってオムツは好き嫌いが出るし商品券はなんだか味気ないし・・・。」
「おしりふき温める奴とか貰ったけど1〜2回で使わなくなっちゃったわね。リゾット意見が出たけど他にないなら決定よ〜。」
妻が〆を作りに台所へ行く。遥が帰省してまだ暑いながらも鍋をやる事になってみんなでつつき、最後の〆はトマトリゾットに決定!食べ盛りと言うわけではないが、みんなそこそこ食うので水炊きといいつつかなり肉と野菜の出し汁は出ている。まぁ、白菜丸ごと2個に肉もじゃんじゃん投入して作ったので本当に食った方だろう。
こちらに帰って来た時点で指輪の中身は望田から返してもらい、また開けてない箱が貯蔵状態になってしまったが、それはいいとして青山から樽で貰ったウイスキーを出しロックでゴクリ。会議での改造発言で息子とも多少ギクシャクしたが、最終的にはどうにかなったと思う。
それは多分真摯に向き合ったからだろう。『なんでそんな重要な事を黙っていたのか?俺が子供だからなのか?』そう聞かれたが答えは違う。解答は話してもなにも変わらないからだ。既に起こってしまった出来事を話したとして、それで何を思い何を感じるのか?それは本人しか分からないし。はっきり言ってしまえばコレは行けない墓の下まで持っていく秘密だった。
そして、それを曝け出して話したとしても誰の手でもどうやっても変えようがない。寧ろ、そんな俺の秘密で悩むくらいなら息子には息子自身の悩みに向き合ってほしい。親の秘密を知りたいと言うのが子供のわがままなら、そんな秘密なんでもないとして振る舞うのが親だろう。これは多分親のプライドなんかではなくエゴだ。
「お父さん私にも1杯ちょうだい。」
「いいけど何で飲む?」
「ならハイボール・・・は、なんかもったいなさそうだしストレートでちょうだい。」
「なら小さなグラス持ってこい。で、フェリエットはなんで私の頭の上に顎を置いてんだ?」
「護衛で疲れた私にも何かご褒美が欲しいなぁ〜。」
「カニカマでいいな。」
「それは摘みだなぁ〜、私も1杯欲しいなぁ〜。」
「はいはい。ただ、明日も学校だから本当に1杯な。」
「お兄ちゃんお酒って美味しいです?」
「さぁな。ギルドでなら飲めるけど進んで飲もうとも思わない。酒で忘れたい程何か忘れたい事も無い。飲みたいと思って味が分かる様になったら飲めばいいんじゃないか?」
「那由多はお正月のお屠蘇で酔っぱらってからお酒苦手なのよね〜。」
神社やお寺で正月に出してくれるお屠蘇だが、何気に度数は15度とワインくらいある。しかし、甘めなので子供でも飲みやすい。正月に実家に帰った時に親父殿が長男だから少し飲んでみろと出したら、ジュースと思い込んで2、3杯飲んで爆睡。
その後若干の頭痛と言うなの二日酔いコースを辿り苦手意識がある。まぁ、今は身体も大きくなったからそこまでダメと言う事はないと思うが、本人が飲みたくないなら飲ませるものでもない。そんな事を思いつつ遥と乾杯して一口。フェリエットも少ない酒を舐める様に飲んでリゾットに舌鼓を打つ。
「私も大きくなったら一緒に飲みたいです。でも、今は甘酒ですね。」
「甘酒は身体にいいからね。」
そんな夕食を終えて妻や望田と共に出勤。見たくもないPCにはメールの山が・・・。かなり減らしてあるとは思うし、内容は説明的なものが多い。スタートとしてはシェンゲン協定かな?取り敢えず米国とは協定結ぶとして、段階的緩和と言う路線。スタートは外交官や軍人スィーパーが主となる。元々在日米国人とかもいたし不可のない範囲からと言うことだろう。いくら協定を結ぶとしても身元不明者が溢れかえるのは不味いしな。
法律的にも主権回復と言うかスィーパーは日本の法律で裁けるので、来る人は一定の教養が必要だと思うし司法取引は一応申し出られるが、証拠等が固まった中での取引となると余程の影響力が必要だと思われる。
続いてはサイラスから。杖を勝手にレガリア化したが大丈夫か?と言う内容だったが、これはもう贈与品の扱いの問題なので俺としては口出ししないとした。あそこまで大々的に使った後に返せとも言えない。しかし、メアリーは職に就いていなかったと思うが、これから職取りするのだろうか?
サイラスがいるので心配はないと思うが、対モンスター戦闘での杖の有用性は未知数として返す。ダメージが出せない事は無い。しかし、スタートは子供の守り手なので過信は禁物。慣れれば補助としても使えるだろうが、最初は普通にゲートから出る武器を使う方がいい。と、言うかメアリー本人が戦うのだろうか?性格的にはやりそうだが、周りとしては気が気ではない。
何にせよメアリーに何の職が出たかは秘匿されるだろうな。ジョージも職は秘匿したし地位を得た人ほど職を明かすか秘匿するかは二分化する。まぁ、最後に自分を守る切り札と言っても過言ではないし、いつ首相バトル大会が開かれるとも限らないし・・・。
台湾からはラボから接触があったと連絡があったらしい。らしいと言うのは松田経由でこちらにメールが来たからで高槻や藤からは来てないから。多分、台湾にエージェントを送ったかゲート内で接触したかのどちらかだろう。
藤も乗り気だしそのうち記憶ライブラリとか作られるのだろうか?作るなら協力者で作ってもらいたいが、俺はパスかな?死んだ人を追体験するなら話しは分からないでもないし、冒険譚としてやるなら面白いと思う。しかし、生きている人はまだ自身の冒険をしている最中なので、他人に口を挟まれたくもない。
それに長く生きれば生きるほどそのデータは膨れ上がるので、容量的にも限界があるんじゃないかな?量子コンピュータとか出土品とかをいじればどうにかなりそうな問題ではあるが、今の所解決の目処は立ってないし・・・。
嫌な話しが飛んで来ていると言えば中露系とか?飛行ユニットの技術開示をさっさと行え。時間がかかるなら日本かラボへ赴くと言っているらしい。当然外務省が却下して待てと返したが、完成品の大まかな寸法を教えろと言うからにはパワードスーツに組み込む気マンマンなんだろう。
確かにあれば宇宙開発は飛躍的に進むだろうし、個人単位で大気圏突入も離脱も出来る。しかし、それをまだラボでもやろうと思わないのはスーツの耐久力や故障時のリスクを考えるから。簡単には壊れる様な物ではないが、やはり単身で宇宙へ行くと言うとなると恐怖心もある。
その点中露系は失敗しても次を送り込めばいいの精神なので歩調は速い。う〜ん・・・、ラボが先に宇宙行って宇宙エレベーターを完成状態にするとは思うが、それでも後から追い抜かされないとも限らない。まぁ、抜かれても問題はないがエネルギーとかどうするんだろ?宇宙ステーションは既に建設済みなので、そこから補給を行うのだろうか?
「ゴタゴタのメールが多い・・・。」
「国際会議も波乱でしたからね。私もギルドで見たりしてましたけど、秘密バラしても・・・?」
「何事にも潮時やタイミングがあるからね。妻とも話し合ったしアレが多分、打ち明ける最後のタイミング。それを超えれば次は戦闘中に負傷してペテン師の様に動き出す姿を見せるしかない。まぁ、相変わらず政府系の人は私をペテン師だと言う人もいるけどね。」
「その声は真実になればなるほど消えていきますよ。気にしない気にしない。そう言えば遥さん露店出してるんですね。」
「帰省して暇してるからね。露店やって好きな物作りつつ現場の意見からインスピレーションを得るんだって。まぁ、学校の友達とかもスィーパーになってるかもしれないし、昔話に花が咲けば何かイメージも出るでしょう。カオリも何か欲しかったらお願いしてみたら?糸の在庫処分も兼ねてかなり格安で作ってくれるし、デザインお任せなら割引もしてくれるって。」
「むむっ!後で覗いて見ようかな?中層の素材とかも死蔵してますし、ここいらで放出してパワーアップを!」
望田が何を溜め込んでいるかは知らないが、奥へ行っているから未知の素材も多数あるだろう。遥としては技術を担保に新しい物が見たい様だし、望田が行けばWIN=WINの関係かな?さてと、一息つける今のうちに俺も奥を目指さないとな。




