閑話 102話 お披露目会までの裏話 挿絵あり
「女王陛下・・・。本当に・・・、ほんっっっとうにやるんですか?」
「やるわよ。寧ろやらないなんて話しはないんじゃなくて?」
「サイラス長官・・・。」
「無理でしょうジャスパー。英国国民である以上君主には手出し出来ないし、やると言われれば手伝うしかない。それが嫌なら国賊として他国から止められる人間を連れてくるしかないが・・・、そんな事をすれば私がそれを討ち倒す。」
「・・・、例えばファーストさんとかだったら?」
「多分彼女は要請を受けても自国で何とかしろとしか言わんよ。自分に関係ない面倒事に首を突っ込むような質ではない。それに、贈られた杖は見事な物だ。言われて作って試作品、一晩かけて作ってまだ完成とは言わない。まぁ、誤動作や何かしらの不備を連絡すれば引き取りに来るかもしれないが、そもそもその不備が何かを見つけられるか?」
「寧ろ一晩で完成品と太鼓判を押す物が出来る方が怖いですけどね。その場合アレでしょ?今は女王陛下が持つ杖よりも更に数段どころか数百段くらい先にあるんでしょ?」
「さぁ?私も私なりに杖を作ろうと試してみたが中々どうして、形には出来る。それこそ炭素で作った彼女曰く金属探知機の杖。これはいい教本だよ。無理やり地中を進むではなく同化しながら根を伸ばす様に広がっていき必要な物を見つけてくれる。だから、私としても似た物を作った。まぁ、出来としてはイマイチだったが・・・。」
「そのイマイチの杖が水道管を貫いたのでしょう?」
「はい・・・、貫いたので直しておきました。」
「よろしい。流石に国民に不利益をもたらすわけにはいきません。クロエから贈られた杖は今の所私が持つ物以外はどうしているのかしら?」
「カテリーナは鑑定師達が鑑定しようと躍起ですが、無数のイメージが渦を巻いていて胃を吐き出して洗浄したいほど気持ち悪いそうです。まぁ、魔術の鑑定は誰しもが気持ち悪いと言う。私の魔術だって鑑定師からすれば触って鑑定しようとすれば酷い閉塞感を味わったり、砂の豪雨や鉄の嵐を彷徨う様な不気味さがあるといいますし。」
「解明出来れば英国としてはかなり進歩したと考えられますが、難しいでしょう。先の会議でダブルExtraが開示されて職名も賢者と魔女。その職から零れ落ちた幻想を手元において鑑定出来るだけでも僥倖です。」
「分かってるわよジャスパー。私が私に戴冠式をやるのだってその幻想を知らしめて魔術と言うモノを英国で発展させて昇華する為だもの。様々な国がこの星から出ようとしている。なら、英国は残ってこの星で魔術と共に暮す。当然後から宇宙に出るにしても先ずは魔法の国として売り出してからでも遅くはないわ。」
微笑みながら女王陛下が話す。外見は女学生と見紛うばかりじゃが、実年齢は90を超えた本物の女王陛下。孫や曾孫と共に歩けば兄妹に見える。まぁ、肉体的な年齢だけで言えばそれは間違いではない。なにせ今の乱世を英国を背負って君主であり続けるとして薬を飲み、自分から自分へ戴冠式を行うと言ったんじゃからな・・・。
ゲートが現れなければワシはひっそりと死に、女王陛下も息絶え何かの書物にその名だけが残る様な存在だった。そう、だったはずじゃった。しかし、ロートルはルーキーに返り咲き、返り咲いたルーキーはその老獪さで本物のルーキーを絡め取る。
ワシは英国が好きじゃが、若い者からすればこの国は古臭い。街にある建物は古くは中世からそこに有りて歴史を刻み、宮殿は時が止まった囚人の様に立ち続ける。晴れが少なく何処か街はどんよりとして息苦しさと閉塞感が付きまとう。若者達はシティ・オブ・ロンドンを目指し職人ではなく証券マンに成ろうと金融の世界へ飛び込む。
どこの国にもあるじゃろう、伝統を捨て新しきを呼び込み未来に目を向ける。そんな世代代わりともいえる瞬間が。しかし、現実は幸か不幸か仮想通貨なんて言う訳の分からんモノから金貨へ戻り、武器もバラエティー豊かながら剣や盾と言う物に目が向けられた。そんな中で魔法じゃ。
英国が歴史に刻み幻想の代名詞と揶揄される魔法が現実になり、魔術師を名乗る者もそれを嫌いサイキッカーと言う者も出た。そんな中で国の舵をどう取るのか?
金融街は残る。しかし、株や為替と言う物は不安定が極まり金と言う資産も豊富に出土するから価値が下がる。それでも人が営む上で貨幣は必要で保証機関として先の事は分からんが、まだ潰れる事はまだないじゃろう。じゃが、そんな中で若者達の目はスィーパーに向いとる。
未知への冒険に命を懸けた戦い、一攫千金を狙える報酬にそうでなくとも、売れば数日は余裕で暮らせるだけの物品。魅力はある。入るだけでも指輪と職の恩恵は大きく、それを磨こうとゲートに入りモンスターと戦う。『今日学校終わりにゲートに潜らないか?パーティーを組んで小遣いと言うには多い報酬を取りに行こう。』そう言ったのはどこの学生だったか・・・。
現実は厳しく全員無事でも怪我はある。下手をすれば仲間は減り辛い現実が目の前に現れる。しかし、それでも若者はゲートの中の夕闇に夢を見る。そんな若者達を無闇矢鱈と散らせぬ為に魔法省は設立され女王陛下は魔法立国とする為戴冠式を行う。
惜しむとするならウチの中位がもう少しまともならのぉ・・・。いや、分かっとるよ?ワシも魔術に対して並々ならぬ思いを持ち、自らの短い人生を全て投げ売ってでも極めたいと・・・、自身の持つ可能性を全て注ぎ込み足りないなら足りるまで足掻こうと考え行動し試し、妻のいなくなった穴を埋める様にゲートに潜ったからの。
それがその思いがたまたまあの2人はワシ達には理解しづらいカタチだった。それだけの話しじゃ。実際、2人とも勝手に活動する分には何の不利益ももたらさん。もたらさんが、政治やらが絡むと多少不利益も出てくるがのぉ・・・。
「今回の戴冠式でどの程度若者達を求心出来ると思われますか?」
「さぁ?でも年老いたしわくちゃのお婆ちゃんが若者に物申せばお説教に聞こえる。同い年の子が話せば気に食わないと突っかかる。なら、更に年齢を下げて若い姿のお婆ちゃんが話せば、混乱して真実を確かめたくなるじゃない。クロエはその辺り上手いと思うわよ?人前が苦手だから姿を現さない。だからこそ周りはその美しい顔を見たいと思う。何時も出てこない彼女がわざわざ舞台に上がる。なら、そこには大切な何かがあると思うから注目する。レディの秘密や隠し事は何よりも見たいと思わせる映画よ?」
「その為に自身を捧げたと?」
「どうかしらね?この身は英国君主として長くある。だから老婆の姿を捧げるのは自然な事。そして、その老婆から若い君主へ代替わりさせるのも私の仕事。まぁ腰痛や夜尿症、老人特有の不便からは解放されたし私の子達が私以上に出来る子なら、私はさっさと冠を投げ付けて指輪1つ嵌めて遊びに出かけるわ!」
「なら、私はお供しましょう女王陛下。いえ、その時はメアリーとお呼びしてね。私だけ長官室の椅子に縛り付けて1人で遊びに行かれるのはズルい。どこがいいですか?クラブで夜通し踊りあかし、吐くまで酒を飲んで二日酔いに回復薬キメて何の飾り気もなく一般人として街中を歩くなんでどうです?」
「あら素敵。コンビニ?で何か買って食べながら街を歩くなんていいわね。」
「・・・、私からは何も言いませんが、それは君主である事を選ばなかった女王陛下にさせて下さい。そして、サイラス長官も焚き付けない。」
「分かってるわよジャスパー。若返り老人会の若返ったらやりたい事リストの話よ。米国のハーワード大統領ともこっそり電話で若返って何やった?て話したら『私は日本へ行ったよカメラクルーとしてね。クロエの配信で見たと思うが、私は確かにあの時あの場にいた。そして、設計図を日本へ渡す事に同意した。えっ?そんな政治の話じゃなく面白い事?なら一も二も無く食べ歩きだ!東京のラーメン屋で脂こってりのラーメンを食べ、夜は酒と焼き鳥を何の介入も受けずに好きな様に食べる。権力者とて人間。なら、それを手放して自由に振る舞うのもまた人間らしいたしなみだ。』って言ってたわ。多少勿体ないけど、君主の座を譲り渡したらそれくらいの自由はゆるされるでしょう?」
米国大統領は中々したたかじゃのぉ。スタンピードでクロエと知り合い若返って日本へ行き、自由を謳歌しつつ本人の・・・、米国として押さえておきたい所を押さえる。日米の蜜月は長く、力関係的には日本が今は上に見える。
しかし渡すものを渡した後に、それをどうしたと詮索も出来る様、重要な物を公で渡して本人もその場にこっそりと同席して後から開示する。食わせ物じゃわい。
「そんな電話をされたんですか!?茶飲み友達ではなく一国の君主と大統領ですよ!」
「叫ばないのジャスパー。ひと皮剥けば中身は一緒で、前に描かれたデジタルアートの様に誰しもがトイレでは同じ姿をする。それに、私達の様に若返った権力者は多いのよ?そんな権力者が自身の年老いた姿を捧げて得られた一瞬の自由で何をしたって自慢話くらいお互いにさせなさいよ。」
「自慢話って・・・、えっ?女王陛下は何か自慢されたのですか?」
「女学生になって魔法学校に忍び込んだら魔女に縛り上げられたとかかしらね?」
「ちょ!なんですその話は!たまに姿を消すし女王陛下は病気療養中で誰も貴女を女王と認識してないんですよ!その不届き者の魔女は・・・、魔女?ファースト氏?」
「モルガンじゃな。私が見えてない所でそんな事があってたんですか?」
「試作品の杖を盗んだと思って早とちりしたみたいよ?」
「失礼ですが、女学生への変装はどこで?」
「貴方の部屋、校長室で。それよりも精霊達って姿を多少いじれるから弄ったけどどうかしら?戴冠式には同席させるのだけど。」
確か教室へ行く時変な質問を受けた。女性職員は多いのか?や長官室へは出入りが多いのかと。何かしらの変化を感知して見ておった?いや、初日に遠見の魔術が出来るとは言っておったから・・・、もしかしてマスクを要求したのも何かしらの変化を隠すため?
欲しいものは何かないですか?ペストマスク下さい。突拍子もない話じゃし、マスクもこちらで用意したからおかしな点はない。それを気に入って英国ではホテルでも付けておったと言うし・・・。分からんのぉ。遠見の魔術、確かにこれは出来ん事はないんじゃがワシの場合風が撫でたモノの形を見せてくれるにとどまるが。
まぁ、風が撫でるのでやろうと思えば細部までじっくりと調べられるんじゃが、どちらかといえば大まかに全体像を掴む方がやりやすいのぉ。やはりイメージと何を魔術のシンボルとするか。クロエは煙を多様する。無くても魔術は使える得てして多様するモノは本人が扱いやすいイメージとなりやすい。
なら、それはどこまでも広がり隙間にさえ入り込んで明るみに曝す不可視の侵入者ではないのか?賢者と魔女のぉ・・・。叡智と老獪さが混ざりワシ達では思いもよらん事をしとるかもしれん。それこそ、作った杖さえ説明を受けなければ理由の分からん法則で成り立ったクロエの思考の産物じゃし・・・。
「どの様な姿で?」
「『出でよ守護精霊!四方に有りて護り、災いを退ける者となれ。』この杖を枕元に置いて寝ると言い夢が見れるのよね。そうでなくとも呼べば色々とお手伝いもしてくれるし。」
現れたのは4人の時代錯誤な格好・・・。いや、ゲートに潜る者はそんな格好もするから間違いではないんじゃが・・・。元はエルフの様な姿をしとったが弄って人にしたのかの?
「やはり不思議なものですね、」
「だからいいのよ。国が何を目指すかとしてね!」




