518話 ベイビー誕生 挿絵あり
「そう言えばフェリエットさんは一緒ではないんですね?」
「フェリエットは先に青山と日本に帰したんですよ。顔も割れましたけど今の身分は学生です。何かしらの用件で呼ばれる事は増えると思いますが、それでも本分を蔑ろにするわけにも行きませんからね。」
会議の中継は世界的なモノとして、政治への関心を高める為に学校を休みにして家族で見る事を推奨した国は多い。まぁ、昼夜問わずに会議をしたので寝て見逃した部分もあるのだろうが、獣人憲章の部分は会議冒頭で行ったので見ている人は多いし、配信も顔出しなので一気に有名人の仲間入り。
ソフィアの護衛としては面が割れない方が都合もいいのだろうが、見た目ちびっ子獣人のフェリエットと美人だが職に就いていないソフィアのコンビでは、国からの依頼で攫おうとする人間に対しては誰の家族かと言う部分で抑止力が働くものの、純粋に街で見かけて突発的な犯行に及ぼうとする人間に対してはなんの効力もない。
その点を踏まえて最終的に顔を出して誰の家族か明確にし、本人もスィーパーで色々出来る事を知らしめた。まぁ、知らしめたと言っても魔法の方は使えると言うのを見せるだけだったり、身体能力としても1〜5階層を壁や天井を走り回りつつモンスターを倒したりしているだけのもの。
スィーパーとしては普通に出来る範囲の行動だが、常人には出来ないモンスターを爪で切り裂いても接触ダメージ無しと言うのが、獣人スィーパーとしての決定的な証拠とも言える。ゲート発生当初にモンスターを罠にはめようとして、人を襲うなら肉が欲しいのでは?と生肉を投げて接触したらグズグズに溶けたのは中々に衝撃的な動画だったな・・・。
クリスタルを抜けば大丈夫だが、ヌラヌラした肉感的な部分は微量の溶解性が残るらしく、揮発したものを吸っても大丈夫らしいがスィーパーでなければ溶けるらしい。実際駐屯地でモンスターの残骸に接触した蝶は溶けたしな・・・。
「残念ですな。ラボにいる獣人達も会いたがっていましたよ。」
「それは・・・、やはりリーダーとしていて欲しいと?」
「いえ?単純に獣人と言う総体から突出した個が出たから見たいといった感じですな。同じ獣人でもスィーパーになった者とそうでないものはやはり違うと言う認識でしょう。」
「ふむ、フィン君は犬人であるが故に女性犬人から大層モテてましたよ。」
猫は群れないけど犬は群れるからなぁ〜。ベタベタに甘やかすと自分をリーダーだと思って超ワガママになるし、多頭飼いすると愛情独り占めを狙って喧嘩する。獣人になると人がリーダーと言う考えが生まれてきて、腹一杯飯を食わせるとそれが確定してくる。
因みに犬人のスキンシップは猫人以上に過激な所がある。それが何故かと言えば気に入られた方がいっぱいご飯が貰いやすいから。なので猫人はサバサバしてたまに気が向いたら甘えると言う感じだが、犬人は家に一緒にいると横にピッタリとくっついて来るらしい。流石に男同士女同士ならそこそこの距離感があるのだが、それでも人よりは断然近い。
そんな犬人の中でフィンと言う問答無用の犬人がリーダーと認める存在が現れた。まぁ、認めても今のパートナーを優先するので指示に従うなんて事はないのだが、人と獣人の混血が生まれない以上、子供を残すなら同族同士となりその最上級が今の所犬人だとフィンになる。なので、フィンは超モテる。見た目イケメンなので人間からもモテる。
その点フェリエットもモテはするのだが、猫はメス猫が発情しないとオス猫は発情しない。それを引き継いだのか女性猫人が誘って男性猫人が答えると言うのが一般的らしい。そして、発情期なんてものがなくなった猫人達の中では女性猫人の方が優位な社会となっている様だ。まぁ、嫌と言われたら子孫残せないし死活問題でもあるしな。
因みに犬人も猫人も夜のお店で働くのは仕事と言う感じが強く、下手したらお遊びと思っている獣人もいるのだとか。まぁ、子孫が出来ない行為はそう受け取られても仕方ないか。自然界ではする=子孫を残すだし・・・。
「それはうらやましいですな。一度くらいこう・・・、女性からチヤホヤされるというのは体験してみたい。」
「先生ならラボから出て銀座とか行けばチヤホヤしてくれるでしょう?」
「いやぁ、色々と裏を考えると獣人がいいですな。人間だと探りや情報漏洩が怖い。と、獣人ベイビーの報告は聞いていますか?」
「いえ?もしかして生まれたんですか?」
「クロエが日本を立つより数日前辺りですな、産まれたのは。ただ、これは記録として残されたベイビーという話で、本来はもっと先に産まれていた可能性もある。」
「それは・・・、妊娠中の犬猫が飲んだ場合ですか?」
「ええ。残念と言えば残念ですが出産間近の者は多頭妊娠だとしても獣人となる時に子供が1人か2人としてお腹の中で確認出来たと聞いています。しかし、それよりも前段階。人で言えば6カ月辺りでしょうか?その付近から以前の子はいない。多分母体側に吸収されたと見るのが妥当でしょう。今回の記録として残された出産もそんな出産間近だった獣人のモノです。」
「・・・、いえ。お腹の中の子供がどこで意思を持つかは分からない。その点を差し引いて伺いますが、成長としては?」
「耳と尻尾以外は人と変わりません。その代わり髪と歯は形成されていた様です。そして、人の赤ん坊程柔らかくない。」
「柔らかくない・・・、水分量が低く筋肉量が多いと?」
「ええ、そのとおり。小柄ながら体重は約3kgと人と変わらず、泣き声も人とおおよそ同じか、鼻にかかった様な高い声を出す時もある。取り上げた医師の見立てでは早ければ2カ月程度ではいはいしだすのでは?とされていますね。」
ふむ。人の赤ん坊がはいはいするのは早ければ5カ月頃。それ以前だと筋肉もなければ、辺りに慣れる事に必死でそれどころではない。その点を獣人の子供が2カ月ではいはいするとなると、かなり早いが野生動物からするとかなり遅い。寧ろ、産まれてすぐ立って歩けないと野生動物なら食われて死ぬ。
なので、はいはいまでが早いのは納得が出来るのだが、その後の歩行となるとどうなのだろう?う〜ん・・・、最終的にそこで人と獣人が並びそうだな。いくらはいはいが早かろうと、獣人には尻尾がある。はいはいに馴染みその状態で好きな所に移動出来て、バランスを取る尻尾もある中でわざわざ立つ理由。
脳の発達だな。ビルの屋上から人が飛び降りる。地面に到着するのは頭からか足からか?答えは頭からで足よりも重く自由落下なら頭から到着する。なので、はいはいに限界を感じ出したら歩くと考えていいだろう。
発達の状況が分からないが、脳の発達が人と同等だとするなら歩く時期は同等でそこから急激に脳が発達し出す。なにせ今まで掴めなかったモノが掴める様になり両手が自由になるから。体格的なモノは・・・、歯があるから生まれが小柄でも大きくなるのかな?いや、量が食べられないから大きさも一緒?
「その子はどこで産まれたんですかね?」
「ドイツです。」
「カルテの語源はドイツから。高水準の医療体制がある分ベイビーは安心できますね。反面、凝り性なので追求しだすと見境がない。」
言語学者のアルがいい例かな?前にお姫様抱っこでさらわれたし。なんにせよ高槻の情報もアル達からもたらされたものだろうから確度も高けば信用度も高い。そのうち見てみたいがお披露目はテレビのニュースからかな?ネットには流れていないなら今は国として研究段階で情報封鎖中かもしれない。
「その辺りは大丈夫でしょう。憲章も発表されて直ぐに不当な扱いをすれば獣人達も・・・、母親が先ず黙っていない。」
「それもそうですね。なんにせよ赤ん坊の誕生はめでたい事です。」
「早くも赤峰夫妻の子が生まれたのでござ・・・、永遠の美少女であらせられる本部長殿におかれましては、付喪として記念人形を作成する機会を頂きたく・・・。」
「却下。絶対許可すると何かにかこつけて人形増やしていくから却下。」
「社長、失敗したでござるよ・・・。既にラボをイメージした物は作ったでござるが・・・。」
「そこで私を巻き込むのは辞めていただきたいですな。と、いいつつ会社のマスコット人形に白衣を着た市井ちゃんを使わせてもらいましょう。」
「それ、断っても断らなくても作るつもりだったんでしょう?寧ろ試作品が出来てるし・・・。で、藤君はなにしにここへ?」
「?、佐沼殿から何やら社長達とR・U・Rについて話をして欲しいと言われて来たのでござるが?」
本社GO前に藤を寄越すと言う事は、既に台湾チームとの共同開発はする流れかな?まぁ、政府からもオファーされてるし断るに断りづらい状況でもある。しかし、藤に暇があるかも確認しないとな。ここで警備員やりつつ斎藤の補佐もしてるから、宇宙開発方面でも仕事してるし。
「藤君は奏江本部長の様にネットには繋がれますかな?」
「難しいでござるな。拙者の電気のイメージはエネルギーでござる。しかし、PCやネットはエネルギーではなく信号。それ故にネット空間でモデリング等を行うとするなら造形物を作ると言うよりもドット絵を書いている風になるでござる。自慢ではないが拙者、フィギュアは作れても絵は苦手でござるよ。」
器用そうに見えて絵はダメらしい。確かに魔術師:雷になったのも嫁達を自由に動かす為だしなぁ。データを粘土とでも見立てれば出来ない事もないかもしれないが、固めたそばから変化する粘土は中々手強い。そうなると、何かしらの固める道具・・・、例えばコテとかあればどうにか?
「出来るイメージがゼロなら組み立てて行けばどうにかはなりそうですが、先ずは藤君が今携わってる仕事次第ですね。暇見てVチューバーとかの動画でも見て下地作ります?」
「携わっている仕事と言えば最近は斎藤殿の補佐で動力系が多いでござるな。ラボを直接外に出すのはやめて1から宇宙仕様品を作りラボ2号として外に出す予定でござる。各ギルドの鍛冶師に外壁等をお願いしていたでござるが本部長殿は知らないでござるか?」
「外壁?それってもしかして、かなり厚さとか寸法とかに注文つけたやつ?」
「多分それでござる。1つのギルドに依頼を出すとノウハウを盗まれる可能性があるとして多数のギルド鍛冶師にパーツ毎に作成依頼を出したと聞いているでござるよ。」
夏休みのアルバイトで宇宙開発。絶対息子達が作ってたのって宇宙開発用のパーツだろ!いや、まぁ、作って悪いと言うわけではない。誰しもに初めてがあり、初めてだからこそ持てる情熱もある。最終調整をラボ側でするとすれば、次世代の鍛冶師を育成する場としてはこの上ない所ではある。まぁ、作ってる本人達が何を作っているか知らないと言う点を除けばだが・・・。
しかし・・・、これに手を出させると言う事は大分ギルド鍛冶師見習い組は全員採用路線かな?実績と言う面でも口を挟めないし、出荷前の最終確認を課長が点検して不備がなければそれだけの腕があったと認められる。一足早い採用試験だな、こりゃ。
外部にこれが漏れれば俺が怒られそうだが、それを課長が背負うつもりで話さなかったのなら見逃すとしよう。なにせ製作依頼は課長に自由采配が認められてるしね。ただ、帰ったらそれとなく聞いて万が一にも不採用者が出なかったかだけは確認しないとな・・・。まぁ、不採用予定者なら最初から別の仕事を割り振っているとも考えられるが。
「なんにせよラボ2号開発で忙しいと思っていいんですね?」
「忙しくはないでござるな。拙者はエネルギー装置が仮に暴走したりしたら対応するくらいで、もっぱら人形達と獣人達とでラボ周辺を見て回るばかりでござる。後はフェムを改良したりするくらいでござるかな?」
「ふむ・・・、先生どう思います?」
「台湾の開発したシステム的にはフェムと親和性は高いと思いますな。後は本人のイメージと言うところですよ。」
「確かにそうですよね。う〜ん・・・、ネット世界は一旦保留して先に杖を作るところから始めましょうか。」
「杖?なんでござるかそれ。」
「英国で作ったんですよ、魔法の杖を。多分どんなものかはメアリーが大々的に見せてくれると思います。」
「メアリー?誰ですかな?」
「エリザベス女王です・・・。」
自分で話しながら震えてきやがった・・・。何を話すとかシナリオとか全く知らないのに、杖で何かするって言うんだぜ!自分戴冠式とか本当になにするんだろ?




