514話 やっと最後の議題か 挿絵あり
「確かにクロエの言いたい事は分かるね。エマ大佐からされる報告にペンタゴンの爺さまや学者達は毎度戦々恐々としていたと聞く。それに、至るプロセスは開示されたが結局の所は本人の考え方次第。それなら同職の中位に教えを請う方がはるかに為になる。」
(大統領聞こえてますよ。若くなったからと言って私を爺さま扱いは困る。)
アライルも来ているはずだったが、この場にいないからどこにいるのかと思ったら外で情報のやりとりをしているのか。イヤホンから漏れた声は柔和だが楽しそうではある。そりゃあ楽しいだろうな。スィーパーが職使いながら討論すればズルも改ざんも仕放題で最後は殴り合いかもしれないが、それを一切禁じられて本当に言葉だけで駆け引きをする姿を見るなんて久々すぎて懐かしんでいるのではなかろうか?
「教育問題に再度あちらが触れる様ならガツンと罵って頂いて結構ですよ?日本政府としても他国から不用意に人は呼び込みたくないですし、何より開示した中位の証言の意味がなくなる。」
「日本での講習会はなしですか?」
「サイさん・・・。個人的な話をするなら私は教育者としては多分不適合ですよ?理論として魔法を考えるならフェリエットの方がよほど考えているし人には多分わかりやすい。」
「えっ!サイラス長官からファーストさんの魔法は凄いと聞いていたのですが・・・。」
話しに加わって来たのは英国のリチャード。接点がなかったから遠巻きに見る感じだったが、意を決して話しかけて来た感じかな?初日はサイさんと話し込んでしまっていたし。しかし、教育者として向き不向きを考えると、賢者にある師となる者はどうも俺にはそぐわない気がする。
そりゃあ教えようと思えば話して見はするが、基本的に自主性を重んじるので考えろと言う言葉に行き着く。職の扱いとしてはそれが正解で間違っていないのだが、技術の手ほどきとなると更に時間を食うし、それをするくらいならモンスターと殴り合った方がはるかに早く成長する。
「クロエの魔法は理解不能が多いですからね。」
「その点は松田さんに同意しよう。最も私は戦闘者ではなく為政者なので聞くにしても話の種程度だが。」
「理解不能と言われると何とも言えませんが、そもそも人のイメージなんですよ?信号機の渡れは青か緑かそれとも黄緑か?日本人は全員青と言うでしょうけど、本当は緑と思ってる人もいるでしょうし、赤信号だって皆で渡れば怖くないから赤と言う人もいるかも知れない。と、そんな事よりもアシストありがとうございました。」
「いいさ、少女ではないが少女の様な君を寄って集って追い詰めるのは見ていられなかったし、自分本意な政治も見るに堪えなかった。それだけの話しだ。」
「と、言うかあそこで口出さなかったら何かヤバい事してたでしょう?青山君から聞いてますよ?なんでもゲートで狂人を確保しろと言われたと。」
「ゲロると時間稼いで再度青山をゲートに向かわせ、中国の武術家に私の頭を吹っ飛ばして貰う事も視野に入れてました。過激ですがいない宇宙人よりも管理出来ていない人間の方が実害があり、中国としても口が開けなくなるでしょう?まぁ、永遠を目指す事を目標にしているなら更に激しいアプローチもありそうでしたが・・・。」
「えっと・・・、その状態からも?」
「巻き戻ります。なんなら木っ端微塵でも元通りです。もう隠しても仕方ないので話しますし、エマには伝えていますが私は米国スタンピードの折、巻き戻りの検証を行いました。その方法が米国で使った地雷の試作品による自爆です。流石に映像はないので証明しづらいですけどね。」
「それは・・・、もしやスタンピードの最後が単騎なのは?」
「ええ。巻き戻りを見られたくないから。戦えば確実に身体は破壊されて腕や足や頭は削られます。かなり改善して削られない様にもなりましたけど初見で無傷はかなり厳しい。それに、最後に出るモンスターはべらぼうに強いので毎回全裸ですよ全裸。恥ずかしいじゃないですか、戦地で1人ストリーキングなんて。」
「想像するといかん、若い身体は簡単に反応してしまう。」
「私は良いですけど他の方だと確実にセクハラですからね、それ。」
「それよりも知らない所でなに危険な実験をされてるんですか!巻き戻ったからいいものの、巻き戻らなかったらどうするんですか!先ほどの舌戦以上に嫌な汗が伝いましたよ・・・。何か確証が?」
「簡単な検証は済ませていましたし、秋葉でも何度も巻き戻った。知りたかったのは全損からの巻き戻り時間ですよ。私見になりますが私はソーツを仕事に対しては・・・、作る事に対しては良くも悪くも真摯な存在だと考えています。それ故にフルスクラッチで作った私に不備があれば彼等はまともではいられない。なにせ、彼等の存在理由は作る事ですからね。」
話を聞いていた松田達がそれぞれ上を向きながら目を押さえる。はて、何かおかしな事は言っただろうか?確かに流していない情報はあるものの俺とソーツの関係はどこまでいってもビジネスライクな付き合いだ。それも超絶ドライと言うか、他部署の名前だけ知ってる人間的な?賢者や魔女がいるから全くの他人ではないが、あちらとしても俺にはあまり会いたくないらしいし、下手すると他部署のお偉いさんの子供とか?
「まず初めに・・・、ソーツの目的はなんですか?米国はご存じでしょうが貴女の口から直接言ってもらいたいですね。いや、サイ大臣とリチャード首席補佐官がいるから・・・。」
「松田副官房長官、ここまで話して隠すのはなしですよ。少なくとも英国、米国、台湾は日本側です。他はまだ日和見する所も多いですが、発言内容的にどちらよりかは分かるでしょう?」
「それはそうですが・・・、内容がショッキングなのでこの場では話せませんね。クロエもその点は留意してください。」
「分かってますよ。流石にギブアンドテイクとは言え今話せばまたややこしくなる。」
依頼内容はゴミ掃除と至ってシンプルだがそのゴミがべらぼうに強いと言う不具合が・・・。いやね・・・、俺も最初引き受けて戦ってみて考えたよ。これのどこが廃棄品かと。寧ろ廃棄品が歩き回って自立思考で襲ってくるとか完成品じゃないかと。でも、結局は作り続ける為には捨て続けると言う矛盾が発生し、結果として完成品はなく廃棄品も無くならない。つまりはソーツはゴミを作り続けているとも考えられる。
だからこそ人類全員でゴミ漁りしていると言う回答にたどり着けばアライルの様にカチンと来る人間もいるし、捨てるなんて勿体ないと言う人もいるかもしれない。と、言うか個体成長薬ってなんの目的で作ったんだろう?好意的に死んだ人の補充と考えたが、下手すると『アレを二足歩行させれば面白いのではないか?』なんて言う本当にくだらない理由かもしれないわけで・・・。
よそう。現時点ではソーツしか回答は持ち合わせていないし、知らんやつの思考なんていい発想で塗り固めてそこそこいい感じに受け取る方が穏やかでいられる。特にわけの分からない宇宙人の事なんて根本から違う。
「事務総長より、全員揃ったので会議を再開する。飛行ユニット技術販売の件は人類として喜ばしい決断だった。しかし、完成していない宇宙空間での居住スペースに対する法案は今の所不明な点が多く、本会議で答えが出るものではない。その点から別途会議を行うかその国に任せる事とする。」
事務総長が宣言するが最後の一言は逃げだろう。どさくさに紛れて有耶無耶のまま実効支配しそう。まぁ、作った国に権利があると言われればそれまでだし、作った国の人間が住むなら変に口も挟みづらい。まぁ、それでもそこの統治が気に食わなければ逃げる先もある。流石にコロニーで産まれたからコロニーから逃げ出せないなんて話はないし、何よりも圧倒的に資源は潤ってるんだよな。
大体コロニーに住む時の問題点って食料自給率、エネルギーや酸素の不足、最後に資源の枯渇となってくる。宇宙は自由だと思うかもしれないが、普通コロニーを作るなら月と地球の引力が安定しているラグランジュポイントを探してそこに作る。それ故に僻地コロニー?だと太陽が当たらないから作物取れないとか、太陽光パネルに太陽光が当たらないからエネルギーが作れないとか、そもそも地球にあって宇宙にない資源。例えば安全に飲める水とかの問題が出てくるが、その辺りが全部丸っと解決済みだ。
つまり、資源恫喝外交は通用しないし、そのコロニーにゲートを搭載していなくても他のゲート搭載コロニーに出稼ぎに行くなんて事も出来る。なので、紆余曲折はあるかもしれないがコロニーが独立を望めば地球と戦争するよりも物理的に距離を取ると言う方が圧倒的に楽・・・、賢者が嫌なら距離を取ると言っていたが、確かに戦争するよりも距離を取る方が圧倒的にリスクは少ないな。1つの問題を上げろと言われるならコロニーの広さとか?物理的に端のある作りになるので狭いと言えば狭くなるのかも。
「ドイツより、事務総長の話によりコロニー建設後の法整備は別の会議でと言う話は分かりました。それに先んじて各国に提案です。今の流れはコロニー建設に乗り出す物だと思いますが、それに先んじて決戦用地建設を提案します。ファースト氏の発言によりコロニー内でのスタンピード対策は実質不可能、或いはS防人が不可欠ですが、その職が出るかは個人の問題です。それならば、中立空白地帯として海上に土地を用意しコロニー内に搭載されたゲートがスタンピードの兆候を示したならば、そこに配置すると言う方が連携は取りやすい。」
「カナダとしてその意見には賛成する。シェンゲン協定拡大の話もあるが、自国内でスタンピード大戦を行いたくはない。人員は最大限に出すとしても民族や思想、国同士の軋轢を考えた時にその国で発生するなら参戦を見送ると言う話しが出るかもしれない。それなら永世中立地を策定し、戦うだけの為に集まるほうがいい。」
「南スーダンとしても賛成します。ゲート運搬は米国の戦いで可能だと示されましたが、それには航空機が必要です。地球で発生した時も優れたパイロットを国連から派遣してもらえると助かります。」
決戦用地作成の提案でガヤガヤしだすが、喜ばしい提案である反面それをどこに作るかで揉めそうだな。確かに自国内で発生しない分市民は守れるのだが、近くに建設されればスタンピード時に危ないのでは?と言う話もある。
まぁ、発生して封じ込めが失敗すればとこにいても危ないのは危ないのだが、いの一番に逃げたい人にとっては遠くにあるに越したことはない。そうなってくると作るとすれば海上とか?土台がしっかりして、ある程度の広さがあって、フラットな地面だと尚良し。その反面航空戦力と言う話しをするとあまり海に突出すると補給の観点から・・・、クリスタルリアクター謹製とかならほぼ燃料切れなしでやれるか。リスクとしては墜落すれば辺りが吹っ飛ぶ可能性がある事だが・・・。
「事務総長より。ドイツの案に対しては土地の選定等の理由により今は決定が出せない。ただし、意見の内容は建設的なものでありこれもまた、本会議外で話し合いの場を持ち海洋学者や地質学者、地震や天候の専門家を交えて話し合うものとする。」
流石に決定は出せないか。まぁ、前向きに捉えているからいいとして、本当に作るなら人工島問題がでてくるなら。永世中立だから主権はないにしても、あまり大陸から離しすぎれば海底まで何kmと言う話にもなるし、船でそこに乗り付けるにしても錨は下ろせない。まぁ、錨がなくても停泊は出来るが・・・、この案通れば海軍がアップを始める?
う〜ん・・・、空母ならいいが艦砲射撃で土地を破壊されても困る。しかし、ミサイルよりも艦砲射撃の方が火力はありそうだ。まぁ、今だと戦闘機よりもヘリの方が多いし弾が無限生成の関係上、自動射撃システムを搭載すれば残弾気にせずトリガーハッピーが楽しめる。
映画で主人公の弾が切れないと思ったが、多分昔から映画の主人公は黒棒持ってたんだよ!最近では爆発物の精々練度も上がりサブマシンガンの発射速度でグレードが飛んだり、拳銃から爆雷が飛んだりするらしい。うーむ、何をイメージしたらそうなるのやら。
「本会議最後の議題として・・・、交渉権使用時に何を交渉するのか?それについて話し合う。先ほどのファースト氏の発言により交渉そのものが失敗に終わる可能性は十分に考えられる。」
事務総長の口は重い。軽口叩ける様な状況でもないし、第一目標の俺の様になるは無理と理解したのかな?早くからコソコソクローンを作ろうとしていた。パンツ盗んだし。しかし、それは不可能だった。ソフィア、子供を使い結合までさせて永遠を探ったが失敗した。他にも色々と研究はしていると思うが、研究対処としての俺からは何も引き出せず、真っ当な道を歩むなら薬の探索となる。
見つかれば国内大荒れだろうな。欲しい人間が1人2人とは思えないし、仮に50人だとしても50人の権力者がその財産を担保に人を使い裏で殺り合う。しかし、その駒だと思っていた人間も薬を手中に収めれば自身で使うかもしれない。早い話が自分で探して飲むのが1番確実で、それも嫌がるなら大規模編成で潜って箱を自分の前で開けさせるとか?
「中国より。職の指定を交渉してもらいたい。出る職はランダムでSも確率は低く国としての戦力にばらつきがある。それを是正する為に職と指定権を交渉してもらいたい。」
「ロシアから、モンスターの減少を望む。モンスターが減れば我々がゲートを進む時のリスク軽減に繋がる。」
「韓国として、交渉の場に誰か選出した人間を同行させたい。交渉はファースト氏がするにしてもそれ以外がいてはいけないとの指定はなかったと思う。」
「日本としては回復薬等の報酬の調整を望みますね。現状、金貨が報酬として出続け資産や貨幣価値と言うものが曖昧になりつつあります。なので、金貨を減らし薬を増やす等の戦いやすい環境作りを要望します。」
「米国としては箱の外に報酬を明記して欲しい。内容物次第では爆発リスク等がありスィーパーなら無事だとしても開ける場所が限られてくる。」
「台湾の考えとしては設計図の曖昧回避を望みます。確かに丁寧なモノですが、このモンスターなら概ね保有する等では採取も作るにしても難しい場面があります。」
「英国としては魔法関連の発展に与するものが欲しい。確かに我々は魔法が使えるようになりました。しかし、その魔術師も使うのが難しいと言う者もいます。なので、魔導書の様な者が欲しいと考えています。これから先、魔法と科学は共に発展するモノです。」
その他にも馬に他の味付けろとか、セーフスペースを5階層終了毎に付けろとか、変わった所ではセーフトイレスペース欲しいなんてのもあった。トイレ問題は職でどうにか出来る人もいるが出来ない人も多い。かと言って垂れ流しやオムツはやはり不評で、しかし生理現象なので確実に起こる。下手をすると尻丸出しで死ぬ羽目になる事を考えると確かに切実と言えば切実かな?
日本でもパワードスーツに導尿機付けるなんて議論もあったし、膀胱に直接針を刺して注射器で抜き取るなんて案も出た。配信でガンナーの水鉄砲には気を付けろと言うのがあったな・・・。指を銃の形にして指先から水が出てると思ったら、成分分析に回すと尿で本人もスッキリしてるとか。
間違っても大でやるなよ?水鉄砲と言いつつ調整すれば高圧縮水圧銃並みに速くなるし、それと同じ様な速度で大が飛んでくるとか嫌すぎる。やるなら人に向けず何もないところでやってくれ。
「事務総長より。様々な案が出ているが集計をする前にファースト氏に問いたい。今出た意見の中で確実に無理と言えるものはあるか?」
「あります。モンスターを減らす、職を指定する、レベル的な表記を人につけて確実に中位に至る目印とする、ソーツに地球での技術講習会をしてもらう。このあたりは無理ですね。」
「横暴だ!話す前からなぜ無理だと決め付ける!我々の案がそんなに気に食わないのか!自身のみ特権を得て職に就きそれを振りかざす様を楽しんでいるのか!」
「そうだ!安全提案を何故拒否する!」
やっぱりいきり立つよね。振り返れば今まで会議でいいとこなしだし、思惑も潰れて優位と呼べる物はほとんど引き出せてない。しかし、無理なものは無理だし話しに出してもいいが拒否されるのは目に見えてるんだよなぁ・・・。




