511話 会議2日目 挿絵あり
「流石にうちに核発射ボタンはないにしてもまだ稼働している原発やインフラを攻撃されれば流石に冷静ではいられない。副官房長官として要請しますが、R・U・Rのファイアウォール体制を文面化して政府に提出してください。」
「それは構いません。多分、文章自体はラボに問い合わせればあると思います。それよりもサイさん。R・U・Rは処理の関係上回線こそ通常回線を経由していますが接続先は必ずR・U・Rサーバーとなる。だからこそあの挙動や再現が可能な代物です。その接続先を弄ったりはしてませんよね?」
「そこは弄れなかったと聞いています。他の・・・、例えば通常の通信会社のサーバーではサーバーダウンしたと。ただ、それがスパコンなら動かせるのでは?と言う見解もありました。」
世界最高のスパコンは米国のモノだがR・U・Rは更にそれの先を行く。なので無理やり通常回線経由で動かそうとすれば動かない。それが更に違法化して容量食うなら動けないとかもあるかも。ワンチャンあるとすればそれを魔術師:雷が使って奏江ルートを開拓するとか?そうなるとかなり面倒なイタチごっこが始まるな・・・。
救いがあるとすれば核兵器はどんどん廃棄されているのでその点のリスクは少ない。しかし、魔術師が絡みだすと痕跡も消せるのでヤリ逃げは出来る。う〜ん・・・、ハッキングはいい。本来なら技術に精通した人が解析や改変、検証などの行為を行うことだから。しかし、クラッキングは悪意ある敵対行動なので問題となる。ん?悪意ある?
「サイさん、試作品を早急に開発してください。場合によってはラボに私から要請を出して共同開発でもいい。」
「ど、どうされました?許されたと思ったらゲート内で打首ですか!?」
「違いますよ。思考ダイブトレースシステム、これが完成してしまえば悪意ある思考を検知できるじゃないですか。問題は悪い事を考えているだけなのか実行しているのかですが、少なくともどこの誰か分かれば対処もしやすい。」
「悪意ある思考を読み取るシステムを完成させると?それって監視社会の極み、ディストピアじゃないですか?」
「何言ってるんですか。あくまでネットの中の出来事であって現実世界では思考ラーニングなんて出来るわけないでしょう?寧ろ現実世界でそんな監視装置を作るなら私はぶっ壊します。それに作るのはセキュリティの一環なので、そう言った不明なノイズが迫れば迎撃する様なシステムですよ。そもそも人が何かをすると言う事は自由度は高いですが反面、コンピューターが何かをするよりも断然無駄が多いんです。」
「そんなに人間の思考って無駄が多いものですかね?」
「多いです松田副官房長官。1+1=2。コンピューターならこの解答は何回質問しても同一解答を出します。しかし、人にこれを聞けばアニメの主人公なら何倍もの数をだしたり、数学者ならコンマの世界を夢想したり、哲学者なら2かもしれないと言いながらどうして2なのかを考え出します。だからこそ、思考ダイブトレースシステムは理論こそ出来ましたが完成はしませんでした。」
「代わりにR・U・Rサーバー直行便みたいな感じになってますけどね。まぁ、ファイアウォールも暇してるので来たらいい遊び相手にでもなるんじゃないですか?」
(それって僕の事?確かに毎回チェスやら将棋やらで完封してるけどさ。)
(えっ?サーバー攻撃お前が撃退してんの!?)
(えっ?暇つぶしにやってるゲームって本当にゲームだと思ってたの?確かに普通にゲームすることもあるけど、動きの決まった駒をどんなに操っても中盤からは結果は見えて暇だよ。その点まだスィーパーが来るなら楽しめる。まぁ、ほとんどは見て楽しんでるけど骨のある人は相手するかな?それに、奏江だったかな?彼女は案内人の所によくいるしね。)
常時接続と言うか勝手に電波捕まえてると思ったらそんな事してたのか・・・。てか、奏江がネットジャンキーと言うか電子の住人になりつつある。業務が滞ってるなんて話は聞かないので仕事の合間にいるのだろうか?ただ、案内人って誘蛾灯だから喋りもしないし見てて面白いのなか?謎は深まるが何にせよ助っ人はいるので安心しよう。
(因みに危ない場面はなかったか?迷路が攻略されたりモンスターが撃破されたり。)
(魔術師:雷が盲目的に来ても誘い込まれるし、単純な物量戦だとサーバーの方が上かな?場所に適したイメージを作れる魔術師ならまだ拮抗出来るかもそれないけど、あの世界を完璧に理解出来る人っている?それもサーバーを上回る速度で。)
(多分いないかな?ワンチャン奏江が該当しそうだけどその他は分からない。)
ただその奏江も自身のモデリングは平面だったし立体となると難儀していた。う〜む、コンピューターの世界となるとやはり単純な方が速いのだろうし、複雑になればなるほど速度は落ちる。多分、最適解は1つの点とかになるのだろうか?それなら不要なものはないので限界までそぎ落としているとも言える。ただ、それを自身と認識しデータを操作出来るかと聞かれるとかなり難しいんじゃないかな?
何にせよスパイウェア見つける様なシステムを作れないかな?パワードスーツはいいけどロボテックスーツは大型化する分ネットと言うか通信環境は必須になってくるし、宇宙エレベーターを操作するにしてもネットは不可欠。聖域と言うわけではないが、ガチガチの防壁は作りたい所である。
「しかし、ファイアウォールに意思がある様な物言い・・・、意思とかないですよね?電子生命体勝手に作って配置したとか言われると私としてもどう注意していいか分からなくなりますよ?もしかして、英国でのあれはそれの延長だったりします?」
「アレやソレ言うのは良いですけど、そこまでここで話していいんですか?サイさんはまだいますよ?」
「あぁ、いいも悪いも会議が終われば女王陛下のお披露目がありますからね。その時あの杖で何か催しをするとか。」
「私のないはずの胃が今から痛いんですけど?」
「私が聞いていお話しですか?ダメなら退出します。」
「サイ大臣はここに来て話した以上、さっきのR・U・Rの関連で日本政府としても逃がせませんからね。いつ引き込むの?引き込むなら今でしょ!と、言う事でフライング開示ですよ。クロエ、杖ってあります?」
「青狸じゃないんですから言えば出すと思わない。全て英国に渡して作ってませんよ。・・・、杖、杖か・・・。小さくすれば魔法の鍵とかに・・・。」
構想はするとしてそれは後回し。メアリーが何かすると言うと結構派手になりそうだな。精霊従えて騎士団ごっこも出来るし、魔法の国として大々的に売り出しも出来る。と、言うか糸は人に馴染んたりしていくので杖も馴染むのかな?外装と内装と言うか魔法は使えば無くなるが、杖そのものは多分残る。なら、杖の部分と魔法発動部分を個別に作れば更に扱いは良くなる?
やはり今イメージを固めるのは早計だな。試作品を多数作って納得の行く物を作りたいし、フェムなんかとも連動したプロテクト的な物も作りたい。サイは思考ダイブと言っていたが、フェムは成り立ちを考えると橘の思考を分離して投影している。交わるとすればそのあたりかな?
「松田副官房長官、ファースト氏が考え込んでいますが杖とは?」
「彼女の考え癖は元からある様です。話しは聞いているのでこちらで話しは進めましょう。ただ、私もクロエには理解が及ばないので見た限りの話しとなりますね。取り敢えず座りましょうか。」
タバコをプカリ。2人が座ったので俺も座る。サイが真顔の俺をチラチラ見るが理由は分かる。表情とは感情であり人間らしい営みである。だから黄金比で作ろうとも受け取り手側でニュアンスが変わる事もある。しかし、真顔は真顔なので相手としてもそれ以外に受け取れない。よって、全裸のお人形さん状態が1番美しくなると。って、違う考えるのはそこじゃない。
「杖と言うのはクロエが作りエリザベス女王陛下に日本からの贈与品として渡したものです。簡単に言うと魔法の受け渡しを更に発展させ、複数の魔法を使える物ですね。魔法も任意で変えられるのでかなり自由度は高い。そのうち作り方を開示すると共に、子供の防犯グッズに出来ないかと考えています。」
「そんな物を・・・、杖を振れば誰でも魔法が使えるんですか?」
「いえ、呪文が必須らしいですよ?受け渡しだけならそうでもないですが、杖は呪文が必須とクロエも言ってましたし、実際に使った私も呪文を唱えましたからね。ただ、それも個人のイメージで弄れるのでしょうから国としてもこの技術が広まるのは頭が痛い。まぁ、それの救世主が獣人でしょう。法治国家として特定エリアに入る際は指輪の中身を全部出す等の規制は今後法律として文面化していきます。」
「羨ましい・・・、私の国も中位がいて様々な分野に挑戦を!と言う方向で技術革新を行っていますが、魔法関連を現代技術と直結させるのは水と油の様に中々混ざらない。・・・、こうして話が出来るので日本側に付いた国の大臣として話します。台湾は国ですが他の国家と関係を結ぶ能力が低く未承認国家状態でしたが今回の会議以降、多数の国と関係を結び樹立していきます。そこで問題なのが中国です。」
「排他的経済水域や領土減少は中国としても看過できませんからね。更に言えば思想の違う国を真横に置きたくもないでしょうし。まぁ、台湾の人は台湾を中国とは思っていないと聞いていますが。」
「ファースト氏の言う通りです。本来なら我々は国でありながら中国からの脱却はかなり難しいと考えていました。しかし、転機は訪れ姿勢を示した。ですが、そこでまだ問題が出てきています。中国から台湾に来るのはパスポートが必要ですが、それでも多数の方が来ている。そんな中で脱却を許した理由は・・・。」
さてなんだろうな?政治的に見れば単純に反乱を起こされたくないから引いたとも言える。あんまり上からモノを言って真横の国が決起して後ろ盾を着けて襲ってくるとか考えたくない。それにスタンピード発生するから中国処理よろしくと言われると、中国としても今までの主張がある以上嫌とは言えない。
そのリスクを軽減し地続きの部分を中国として再編し守備すると決めたなら話しは分かるし今回の会議の流れ上、各国に派遣要請は出せたとしても最大戦力を出さなければならないのはその国で、例えば中国スィーパーより派遣スィーパーが多ければ批判は飛んでくる。
それに国土という話もかなり旨味が消えて来て、広ければ広い程守る場所も増えていくし、スィーパーには目が届かなくなっていく。その反面、なら石油やら海産物を取ろう売ろう!としても天然資源も食い物もゲートから出てくるし、今更油田開発を行っても予備備蓄としてはいいかもしれないが、保存どうする問題も出てくるしクリスタルを燃料とする製品も結構出回って来たので地球産の資源を使うと言うのは割と効率が悪くなってきている。
「日本への足がかりですね。丁寧な無視をしている我々に対して擦り寄るではなく、隣国に流れた技術をそのまま抽出して使用する。そうすれば冷えた関係でも『我々は話しかけているが相手が応じない。』と言うスタンスも取れますし、何より私達に優しくない国として不満も押し付けてこれる。」
「離脱期としては良かったですね。世代がわりして小皇帝がメインで政治をしだせば抜け出すのは更に困難を極めたでしょう。」
小皇帝とは一人子政策で生まれた世代の事で、当初は人口爆発を抑える為の政策だった。それは一定の成果があって年齢ピラミッドは歪になったものの人口的には抑えられた。しかし、それの弊害が一人子であるが故の超絶甘やかし。向こうのセレブと日本のセレブは持ってる資産額も違ったし、孫には良いものを家族は大事と言う思考が強いのでどんどん欲しいものを与える。
まぁ、子供が一人子しかいないので大切なのは分かるが、自分の事を自分で出来ないほど甘やかすのはやはり違うし、学力水準は高いかもしれないが、それしかなければ今度は何をしていいか分からなくなる。何にせよその世代が今は社会人数年生か大学卒業するかくらいなので、思い通りにならないモノに対してはどこで癇癪を起こすか分からない。
「過去の事なので私達は見守るだけです。国としても出来る限り距離を取りたいとしていますが、立地的にも状況的にもかなり難しいところがある。協力体制を取るにあたり私達も審査しますが日本側でも納得の行く審査を厳重にしてください。今回の奪取の件もありますから・・・。」
「国として抗議なされないのですか?」
「共同開発と言う名目があったので多分、うちにも権利があるとして取り合わないでしょう。完成品の強奪ではなかったのまだ良かった。」
サイとの話しは終了し帰って行った。協力体制は強化して行くとして思考ダイブトレースシステムねぇ。持って行ったと言う事はデータも横流しと言うか共同開発ならある程度揃ってるんだろうし今日明日完成すると言う物ではないのだろうが、R・U・R関連のデータは取りに来るかもな。あのサーバーも出土品を人が使えるようにして作っているのでゆくゆくは開示と言うか、これだけ販売して広まっているのでいずれは似た様な物を作り出す。
それまでにどれだけ先に進めるかだな。追い付け追い越せではないが今あるイニシアティブをどれだけ維持できるかにかかってくる。まぁ1番でなければいけないわけではないが、今1番ならそのまま1番でいたいと言うのも人の性だろう。ただ、ラボのスタンスとしては一企業であり且つ、政治にも絡む気はないので技術の開示はしても指図を受けるつもりはない。
そんな事を考えながら高槻に文面を送り話し合ってもらう。協力体制を取るとサイには言ったが、どこでどう言う形での体制となるかはラボに決めてもらう必要があるし、場合によってはラボからの派遣も考えられる。行くのと招き入れるの、ゲート内で体制を整えるのとゲート外で体制を整えるのはまた訳が違う。
世界が何面化もしているが、それに宇宙が加われば更に混沌として来そうだ。まぁ、平穏で代わり映えのしない日常は愛すべきものだが、刺激的で血の流れない日常なら歓迎しよう。松田と入れ違いに帰ってきたご機嫌なフェリエットと寝た後はまた会議・・・。サイと話したせいで多分5時間くらいかな?寝たの。
今日も着物を着込んで国連本部に行きフラッシュの雨を浴びながらフェリエットとフィン、鑑定師に検査されて会場入り。昨日と違う点は出席者がフェリエット達の事を理解して指輪の中身を減らすが、申告書を真面目に書いた事だろうか?流石に2度目でもゴネたら周りから白い目で見られる。
そんな俺と松田とは入れ違いに出てくる集団の中には青山が。昨日は何もなかったが今日も何もないとは限らないので、会場を確認したい国のスィーパーは集団で先に入り会場を確認している。その後入った俺達が一応の確認をするも何もない。テロの火はここには着いていない様だ。
「事務総長より、会議再開を宣言する。今日も長い話し合いになると思うが有意義な時間としたい。最初の議題として宇宙開発での協力体制・・・、これは開発だけではなく他の知的生命体との接触時はどうするのか?と言う事も盛り込まれている。」
さてとここからが俺が来た理由。いや、警告と言った方がいいか?上から目線と言われたらそれまでだが、少なくとも身をもって脅威を知っている。なら、やはり不用意な行動はするのだろう。別に宇宙に行くのはいい。宇宙人の方から来るのは仕方ない。しかし、自分から探しに行って災いを呼び込む事はない。魔女達が俺達を原生生物と呼ぶ様に人はまだ自分達の事も宇宙の事も何一つ知らない。仮に分かる事とすれば事実として宇宙人はいるし、隕石は鉄を含んでるから磁石にくっつくとか?そんな隕石もギベオン隕石だと地球上にない物質を含むとされている。
「ロシアから。我々は大規模宇宙開発を行い人類への貢献を目指す。それに際して飛行ユニットに関する情報開示を中国、韓国等の国と共同で要請する。これを一企業が独占し開示する権利も有するのは受け入れがたい。広くに開示し研究を行えば更なる発展があるものと言えるだろう。」
「インドより。先ずは宇宙開発についての技術提供を世界に呼びかけます。先進国、それもごく一部の国しか有人ロケット技術はなく、更に言えばラボの様な浮遊物体を作る所まで到達した国はない。資源や金銭の次は技術で国力差が出るのは避けたい。それはいつか埋められるかもしれないが、それがいつになるかは分からず、下地のない国は淘汰される。」
「エジプトとしては先ず宇宙開発は必要なのか?その点が疑問です。何の為に宇宙へ行き、そこで何をするのか?国内が落ち着かない間はそちらに目を向ける余裕はない。他国に開発を行うなとは言わないが、なぜ行うのかの説明は要求する。」
「赤道に位置する国々は宇宙開発を歓迎するよ。ロケット発射場を作るなら依頼して欲しい。その代わりノウハウや技術は現地の人間を使いながら教えてもらおう。そうすれば雇用もお金も増える。ただ、環境破壊はよしてくれ。再生可能だとしても無闇矢鱈と破壊していいものじゃない。」
「ギリシャとしては事務総長の真意が知りたい。宇宙開発までは分かるとして、さも宇宙人を探している様な物言いはなんだ?確かにソーツも他の宇宙人も見た。でも、それに会いに行く必要はあるのか?私達は宇宙にでても精々月辺りまででいい。それ以降の開発は出来る所に任せて後から開示してもらおう。ウチも国内平定を優先する。」
「トルコとしても国内を優先する。交渉の内容を会議での話し合いで決定するなら、自国に置くギルドを優先する。」




