508話 愛を叫んでみる! 挿絵あり
「それを断言する根拠は?」
「私がファーストだから。最初の被害者であるとは周知の事実でしょう?その結果です。言いたくはありませんが私はかなり身体をイジられたんですよ。それこそ永遠を手に入れる程に。永遠を歩むファーストレディがメッセンジャーとして仕事をする。何一つ瑕疵のない話しでしょう?」
ファーストレディだからファースト。安直なネーミングで橘が名付け親と言う話しだが、名は体を表すと言う言葉がある様に俺はソーツやゲートに対して第一線に立つ代表的な女性となった。いや、なってしまったの方が正しいか?
何にせよ生まれは誰でも一緒だが、その後の生き方は千差万別。なら、俺の様な人生と言うのもあるのだろう。なにせ首相や総理となる人間が最初からそうなる様に教育されて育てられたわけではない。それこそ今話している中国の人だって元を正せばどこかの農家の息子かもしれないし、神の子は大工の息子だしな。
「それの証拠はないのでしょう?」
「ここにあります!」
「おい!会議中だ!如何に日本側の護衛と言えど許される行為では!」
「控えなさい。青山は私の手の者です。彼は金銭や下心で動く者ではない。この場に明確な証拠を運ぶ様、私が依頼しそれを完遂したに過ぎない。誰しもが私の身体の事を知りたいのでしょう?データを出しなさい。」
「どうぞ。」
(あちらの確保は?)
(バイトと共に捜索しましたけどかなり難しいです。全力は尽くしますけどまだ・・・。)
(分かった、予定次第では諦めていい。ゲートの広さや階層を考えると出来たらいいと言う程度の保険だ。)
(分かりました、でも引き続き捜索は続行します。)
「事務総長、コチラを身体データとして提出します。」
別に裁判ではないがこうなる事は予測出来る。だからこそ青山をラボに行かせ大分や講習会の時・・・、高槻がまだ今の姿に若返る前の姿をしつつ俺が身体検査を受けている映像を持ってこさせた。いゃあ危なかったよ。元々データだけ残せばいいものだからほとんど映像もないし、確実に残っているだろう物は0時の変身時のもの。
一応、アレも冒頭部分を消せば・・・。いや、過去改変の折にその辺りも・・・、男性だったと言う事実抹消の為に消したのか?流石に何度も見る映像でもないし編集はかなり難しい。しかし、スクリプターではなくエディターなら改変出来る?講習会のメンバーって雄二と卓以外公務員だからかなり無茶が効くんだやなぁ〜。それこそ国家ぐるみの隠蔽工作をするなら最小人数で最大効果を叩き出せるほどに。
青山は再度旅立ったが次の保険は間に合うか分からないし、使いたくない保険でもある。寧ろ、この保険は使えば荒れる。それこそ一国がガタガタになる程の劇薬だ。しかし、ここでしかその保険は意味をなさない。う〜ん・・・、本当に使いたくないな。意を汲むなら青山は失敗したと連絡してくれるだろうし、そもそも期限はもうそんなに残っていない。
「それは・・・、この場で鑑定し改ざん等を調べてから発表しても?」
「ええ。埒のあかない議論に埒をあけるなら出せる証拠を出すしかない。必要なら何人でも鑑定師を使うといい。人の目も鑑定師も多いに越した事はないですからね。」
「受け取りましたが審議の場を設けます。休憩される方は休憩を。トイレ等に行かれる方は再度入室する際に鑑定師から鑑定を受けて下さい。」
一旦ブレイクか。まぁ、中国との舌戦に出された事実についての話し合い。そして、交渉権譲渡不可を前提とした各国の動きに、鑑定師の探り合いもあるか?人を集めている関係上、この場で少数派の意見を出すと出した人の立場が危うい。データはMicroSDに保存されている動画とタイプライターで打たれた紙媒体、そのデータが改竄されたか否か。白黒ハッキリ出せるものではないし、どの時点で改竄されたと部分的な文句も付けようと思えばつけられる。
しかし、だからこそ人が集まると言うのは有利にも働く。全くの改竄されていないデータで鑑定師も文句が付けられないなら、それは真実となるだろうしベースデータは本当にあったデータなので大丈夫だろう。ただ、継ぎ接ぎにはなっているかもしれないが・・・。
「私も席に戻っても?」
「いえ、この場で待機を。席に行かれてどこかで魔法を使われても困る。衆目に晒されなにもしていないと言う事を知らしめて下さい。」
「よろしいでしょう。ただ、喫煙は許してもらっても?」
「こちらで用意したものなら。銘柄もライターも用意しています。それを使うなら許可しましょう。」
「従いましょう。流石にここで毒タバコやらを出されるとは思いませんし、精々唐辛子を仕込むとかの嫌がらせですかね?あるとすれば。」
「そんな事はしない。心配なら鑑定師をつけよう。」
「では中国の鑑定師の方を指名します。その方と手を繋いで吸うとしましょう。」
タバコ用意してくれるなら持ってこなくて良かったな。運ばれて来たタバコの封を切りその人が手を差し出す。仮に毒入りとするなら1/20。更に言うならこの場での暗殺は愚の愚。交渉権保有者を殺そうとするなんて批判どころの騒ぎではない。発言者が映されていたモニターは外の映像に切り替わり、フィンとフェリエットがインタビューと言うか会見を開いているが、ほとんどフィンが話しフェリエットは面倒臭そうにしている。
SPも多い様だし2人ともスィーパーなので警戒は必要だとしても、普通の獣人よりは安全性は高い。そんな会見の中でも獣人憲章を何度も連呼しているので浸透率は高そうだ。後はその国の方針次第だろうな。獣人皆成人と言う話しは獣人ベイビー誕生まで保留にするしかない。ただ、母体からのデータでは成長過程は人と変わらず違いは尻尾の形成とか?
獣人は頭の上に耳がついているが、外耳道つまりは耳の穴が長いだけで鼓膜なんかは概ね人と同じ位置か少し高い位置にある。その外耳道が長い分人よりも耳が大きいし内部構造的にも人より鼓膜が大きくそして三半規管等も大きいので、平衡感覚とかもべらぼうにいい。因みに長く耳の穴を守る為か頭蓋骨を守る筋肉も発達していて、それのおかげで髪とかも動かせる。その反面耳に水が入ると中々出て来ずにそのまま吸収を待つ事になるので不快感が続くのだとか。まぁ、腐ってカビはえるよりはいいかな?吸収率と乾燥率はいいらしいし。
「このデータに改竄された形跡はない。継ぎ接ぎな部分はあるが真実だ。それにPCウイルスも確認出来ない。」
「その継ぎ接ぎの部分に伏せられたモノがある可能性がある。結合して1つの動画とされていないが、削除された部分は確認で来る。」
「最初の動画の冒頭部分だろう?必要な部分はその後、不自然な点は感知出来ない。時系列としてもゲート発生当初、続いて日本が行っていた講習会付近、最新の物は米国より帰還後。主治医も高槻医師とされ本人の若返りとも時期的には符号する。」
「その前にこのデータそのものが改竄されたデータだとしたら?結果の数値がすべて同じと言うのは疑うに値する。診断書だって早急に作れば間に合う。」
「でも、保存日は過去を示しているわよ?データを転送したのだって1つのPCからであってそれの使用者も明確に高槻氏とされてる。ラボの責任者PCを勝手に扱えるとも考えづらいのだけど。それにタイプライターで打たれた物は作成日も過去。動画やデータ、紙媒体どれも過去を示すなら真実よね?インクも過去の物だし。」
「まだ疑う余地はある。そもそも人が永遠となれるのか?ファースト氏の発言や薬を考えれば不可能はないと思う。しかし、私は不老も不死も鑑定した事がない。このデータのみで永遠の証明をするのは些か早計過ぎると思う。」
「永遠の証明なんてどうやってする?我々は多分、誰もファースト氏を鑑定出来ないぞ?」
「・・・、一度立ち返ろう。先ずはデータが真実か否か。記載投票で決を取る。意見は書き込まず真か偽を書けばいい。」
タバコをプカリ。かなり難航している様だが、これでは納得してくれるならありがたい。しかし、納得しないなら他の手を考えるか。それが保険でもあるのだが穏便に出来るなら穏便にしたい。そんな事を考えていると松田がやって来た。話の流れ的にアドリブが多いのは否めないが、打ち合わせと概ね一緒なので多分大丈夫。
「なにか飲み物や軽食は必要ですか?」
「ならビュッフェで食べるくらい山盛りでお願いします。と、連絡用のイヤホンとかってありません?スマホも何もかも通信手段は持ち込んでないんですよね。疑われると嫌ですし。」
「・・・、事前打ち合わせは全て覚えてますよね?」
「ええ。そらんじれる程度には。」
「なら、イヤホンは必要ないでしょう。下手に連絡を取っていれば疑われる。必要な所は発言するのでその様に。ただ、今も強めに情報を叩き付けているのでお気を付けを。」
「事実や真実と言うものは常識とは違い固いものです。だからこそ正論パンチは痛い。鑑定師達の見解次第では次の手を・・・。」
「鑑定師の総意が出ました。」
ちっ!食い損ねた。まぁ、馬やら魚だからいいか。食おうと思えば好きなだけ獲って食えるし。流石に中層の乗り物は並んでない様だが、誰も取ってこなかったのだろう。まだ見た事ないがそうとうキモいらしいし。事務総長に渡されたのは手書きのメモだが、PC入力もされているので終われば開示となるだろう。
トイレ休憩は思ったよりも早く終わり松田も含め出席者全員が席に着く。多分立ち話と言うか廊下会議がないからだな。音声は拾わないにしても廊下の様子をカメラで配信されていたり、フェリエット達の会見が行われていたりするので不用意な接触はみんな避けているとか?そのうちR・U・R会議が主流になりそうだな。
裏でやり取りしたい人ほどズーム会議は喜ばれるだろうし、画面に映るモノ以外は追求も出来ない。まぁ、やり取りしたデータが残ればそこから辿られるのだが、高額な秘匿通信サービスもあるし使う人が増えれば増えるほどそのシステムにはメスが入れづらくなる。
「鑑定師達の総意として今から放送される映像データ及び、紙媒体で持ち込まれたものは真実であるとされました。先ずはご覧下さい。誓って言いますが、私も内容確認はしていない。ファースト氏、内容に過激なものが含まれている可能性は?」
「過激なもの?ふむ・・・、あるとすればトップレスでしょうか?検査や診察を行う関係上、肌や下着が見える場面はあると思います。その点が不快と言えば見る人にとっては不快でしょう。そこはじっくり見る必要もないので飛ばして下さい。」
患者衣を着てからの診察がメインだが、何がどう映っているかは知らないし男の感覚もそんなに抜けてないので、音聞くから腹を出してと言われると首元まで服を捲る事もあれば、レントゲンを撮ると言われれば上は全部脱ぐ。流石に一度止められてからはやらなくなったが、今回資料映像をくれと高槻に連絡した時に見返すと、そう言った映像もあったから可能な限り必要部分以外は削除すると言う話しをしていたが、俺の方で疑いを晴らす為に何もしなくていいと言った。なのでもしかしたら多少見えるかも。
と、言うかね。スィーパーならトップレスも全裸も誰もが通る道。ビームで服は焼かれるし避けようとしても服は切られるし、普通の服なら能力に追いつかずに勝手に破れる。報道でもモザイク規制とか弱くなってるし、案外昭和の頃の様にテレビでオッパイとか放送しだすかもなぁ。
「あなた自身も中身を知らないと?」
「主治医が残した資料映像をどうして患者が見た事あるとお思いで?撮影の許可や依頼は私からしたとしても、本人が自身に起こった事を見返す機会は少ない。まぁ、全身麻酔されての手術なら見返してみたいですが。再生も放送も許可するのでどうぞ流してください。」
なーんか熱い視線がモニターと俺に集まるが中学生のAV鑑賞会じゃないんだよ!いや、今ならストリーミングだったか?なんでもいいが、これは医学的な資料映像であっていかがわしいものではない!
「・・・、では。先に宣言しますがこれは個人の意思により許可された映像です。国連や各国は強要していないし。」
「いや、それ言ったら後ろめたさが目立つんじゃ・・・。」
ツッコミとも指摘とも取れる俺の声はモニターから流れる声で消えた。妻と高槻が慌てている声でペラペラの俺が膨らむと言うか人の厚さに戻る所から。消されたのはその前の段階、多分男だった姿を保っていた時かな?見守る妻と高槻であったが『呼吸がない!』を皮切りに心臓マッサージが開始され、脈や聴診器も当てられる。むっ!ギリギリ乳首は見えなかったか。その代わり結構前開けているな。多分電気ショック用に開いたんだろう。そして0時20分頃に目覚めて妻と喜びあう。
次は東京での健康診断。MRIにレントゲンにCTスキャンに採血等々を行うが結果は出ない。輪郭はあっても中身は真黒で空洞を示している。てか、ここも撮影してたのか。2人だけで検査したから服の開け方も大胆だし黒い下着とかも見える。下が面倒でワンピースタイプだったんだよなぁ〜。まぁ、それはいいか。どうせ布だし。
「ふーむ、ここまで清々しくUNKNOWNだと、調べがいがありますね・・・。」
「そんなもんですか。仮説とか立ててみたらどうです?」
映像はここで途切れ、連続再生される次の映像はアレか、ガーディアンとやりあって気絶して賢者に姿を与え魔女と出会った時辺り。寝ている俺に付けられた心電図やら脳波計はフラットで死亡している事を示している。高槻が点滴を刺そうとしたが針は毎回短くなるに終わり腕から滑り落ちる。泣きそうで顔色の悪い小田が治癒師として色々試したが、出来る事もないのかただ見つめている。
「導尿カテーテルも不可能。点滴も針がなくなり不可能。外見的な傷もなく胸は微かに上下してたまに聞こえる息は寝ている様を出している。起きるまで待つしかないですね。」
「それは何時ですか!?波形もなく心電図もゼロ!これじゃまるで死んでるみたいじゃないですか!それともこの機械は故障してるんですか!?」
「いえ、正常ですよ?この方にとってこれが正常なんです。彼女はファーストですからな。」
「その解答を盲目的に信じろって言うんですか・・・。」
「今はそれしか言えません。」
そこから何の変化も見せずシークバーもかなり長い。事務総長が飛ばすと言う宣言をしながらどの辺りで変化するかと聞かれたので多分3日後といい、バーを進めると普通の部屋に運ばれて起きる所。結局医療機器は何1つ反応しなかったな。しかし、俺は置きて普通に話し元気に動き回っている。なんなら寝起きの一服をしようかとタバコを見つめているな。
映像は以上となり残りは検査結果に対する高槻の考察やデータ群。女性なら体重知られるの嫌とかあるかもしれないが、22kgの時点で米俵より軽いし身長も140cmと低いので今更恥ずかしいとかない。寧ろ下着が見えるたびに変に男性のボルテージと言うか、女性の方もボルテージ上がってない?
確かに真っ裸最高美説のある俺が肌を見せれば本能的に見てしまうのは仕方ない。しかし、その熱い視線そのままに俺と映像を見比べようとするなよ・・・。早送り中髪や顔を拭いていた看護婦もえらく俺の顔を覗き込む場面があったが、なにもされてはいない様だ。
「映像は全ての様ですね。かなり長いものでしたが、これで私が死なないと言う証明でよろしいですか?」
若干残念そうな雰囲気が漂うが、下着のファッションショーでもなければ奇抜な服を着るファッションショーでもないんだよ!最初にトップレスとか言ったから期待してたとか?よしてくれよ、ここは真面目な場だ。
「今も心音はない・・・。いや、中身は空洞であると?」
「ないですね。この身体はこの身体に巻き戻る。それがいじられた内容です。故に永遠の乙女であり私は私として存在し続ける。身体の秘密をさらけ出しましたが、これでもまだ不満ですか?」
(クロエ、目標を発見した。)
(バイトか、このまま監視でいい。今の所ソイツは必要ない、監視しつつ青山と待機。)
(しかし青山が捕縛した方がいいのではと動き出している。)
(そうか・・・、ならそのまま捕縛まではしてもいい。だが、そいつがどんな状況か分からん。耳がイカれて話しが通じるかも分からんが一応、どうしようもなくなったら私の名を出して呼んでいると伝えれば多分大人しくなるだろう。いらんくなったらまた伝える。)
(御意。)
保険確保は間に合ったが使いたくない。寧ろ映像とデータで納得してくれるのが1番いい。それよりも穏便に済ますなら髪の一房でも切って見せればすむのかな?あの保険は劇薬だが『まだ足りないなら私を撃てばいい。』『なら撃ちます!』なんてやり取りは夢物語。誰も引き金は引きたくない。しかし、損傷する姿を見なければ永遠を信じる事も出来ない。
たとえ時が経って同じ姿でも納得せずに疑心暗鬼になるだろうし、何度でもその話は持ち上がる。必要ならここで不老と不死を飲んでしまってそれのせいにしてもいいが、これから飲む人にとっては俺と同じ様にならなければ騙されたと訴えられる。それも未来永劫延々と。流石に死なない人を背負うのはちょっとねぇ・・・。なにで納得するかもわからないし、なにが許しになるかも分からない。だからこそ、最初に不老と不死の薬を飲んだと言う話しは除外したんだし。
「不死や不老はいいが、貴女の暴走は誰が止める!話の流れからすれば貴女は力を示しダブルExtraを開示し永遠を世界に見せた!それは一個人が世界に対して逆らうなと言っている様なものだ!」
「そうだ!思想の合う者は受け入れ合わない者は排斥する。その上ラボと言う超技術者集団を傘下に置き技術協力もほとんどしていないではないか!公正公平に権利を分配しより良い未来を作る術はないのか!誰しもが平等に明日は向かえなければならない!」
中露が先手を取ったか、流石に上手い。このタイミングで平等や公正と言う好ましい言葉を使いどさくさに紛れて技術開示要求と俺の無力化、或いは個人としての決定権を削ぎに来た。確かにテレビの前で見ている人にとっては化け物級の強さの人間が永遠に存在し続けて且つ、自分と同じ様に感情で動く可能性があると言われればおちおち寝ていられない。長く生きた人間でもそこそこ生きた人間でも怒った事のない人間はいないのだから。
「日本から。技術協力の話しはラボについては高槻氏が決定権を持ち、クロエは出資者と言うだけで何1つ指示は出していません。また、彼女自身についても住む地域全域に公安を多数配置し日々の確認はなされています。人は怒る者ですよ。今の貴方がたの様に声を荒げてね。」
「怒る怒らないの話しではない!ファースト氏の暴走リスクの話しをしている!ファースト氏が絶対に暴走しない保証はなく、その矛先がどこに向くかは分からないではないか!」
「何をそんなに怯えているんですか?ゲート内は治外法権。その点は私も認めていますし、何もなかったでしょう?」
「卑怯だそ!治外法権を認めるならなぜゲート内と言う話を出した!」
「それは不公平だからですよ。持つ者と持たざる者、世の中には必ずその2者がいる。そして私は今持つ者として示せるだけ持っているモノを示した。何1つ譲れない、何1つ手放せない。そして私は妻を愛している。心の底から何よりも愛している!だから暴走なんてしない。出来るはずかない!妻のいる世界をどうして自らの手で戦火で包平穏を捨てなければならないのか?・・・、あぁ、1つ言いそびれていましたね。私がモンスターを狩る理由を。」
「モンスターを・・・、狩る理由?」
「ええ。私は別に闇雲にモンスターを狩っているわけでもスタンピードに参戦しているわけでもない。私がモンスターを、ゴミを狩る理由は妻がいて家族がいて、その他大勢の知人友人がいるからです。大切な人達をゴミなんかに汚されたくない。それが理由です。」
望みは光で希望は導く。賢者の言葉だが導かれた先がモンスター退治なら魔女も賢者もソーツも妻も誰も損はしない。はっきり言ってしまえば交渉権なんて後から文句を言う権利であって、願いのはけ口でもなければ夢を叶える場でもない。どちらかと言えば殴り合い上等でメンチ切り合って今から手を出そうか言う場である。
これは言葉選びの失敗だな。交渉権と言う言葉は間違いではないのだが、ルビ振れるなら決闘権とかつけた方がしっくりくるかも。でも、最初の時姿とか見てないし、勝てるかも分からない相手にケンカ売るのは愚かだし、そもそも俺ってまともなケンカとかこうなるまでしたことがなかったしなぁ・・・。
てか、全世界で報道されている中で妻に愛を叫ぶとか恥ずかしすぎない!?ヤバっ!ないはずのアドレナリン切れた?顔から火が出そうなほど恥ずかしくなってきたんだけど!?やっぱり親父殿の言葉を借りて『怒るもなにも貴方がたが何かしても私は困らないし。』とでも言えばよかった?よそう・・・、それはそれで自分の無責任さに嫌気が差す。
「素晴らしい!ラブ&ピースーーー!!!和を以て貴しとなす!米国はかつて日本と戦争をした。しかし、長い年月の中で互いに助け合い時を刻み米国スタンピードにも駆け付けてくれるほどの友人となった!我々米国政府は日本政府やファースト氏との・・・、友人としてジョージとクロエと呼び合う互いの友情を感じ権利譲渡については他適任者不在として交渉人はクロエに委ねる。」
「台湾としても同意する。配信の映像を見た限りではソーツはクロエ以外と交渉をする気がない様に思う。未知の知的生命体に対し、人類のエゴは通用しない。現状、示された道を歩みその中で互いを知ってから話しを出す方が最適だろう。」
「日本は何も言いません。ゲートやモンスター、ソーツについては本部長殿に任せていますからね。」
「英国としても先ほど技術交流と視察を受け、ファースト氏に追いつけない状態での権利たらい回しは保有者の死亡リスクも考え控えるべきだとの考えになった。これは女王陛下も納得している。」
「スウェーデンから。開示された映像とデータを元に議論していますが、交渉権譲渡の話についてはまだ保留と言う姿勢です。」
「ブータンからです。戦う理由に納得しました。王は国民を守り夫は妻を守る。戦士として、人として交渉権を悪用する事はないと思います。」
その他多数の国から保留や交渉権は俺でいいと言う言葉と拍手が起こる。丸く収まっている様で嬉しいのは嬉しいのだが、頭の中では恥ずかしさでゴロゴロ悶えているのでどうにも締まらない。でも、保険の中層送りにした武術家を使わなくてすみそうだ。これで荒れるならアイツに頭を吹っ飛ばしてもらう予定だったからな。




