501話 スイス入り 挿絵あり
杖の受け渡しは終わり呪文を記入した紙も渡した。これから先誰かが杖を作るかは本当に分からない。なにせ今メアリー達の手には杖があるが、他の人はその存在も効果も分からない。俺以外の誰かが願われて魔法の受け渡しから杖や、その他に発展させるかもしれないし、歴史の闇に消えていくかもしれない。
事を成すのはイメージだが、そのイメージもまた人に願われて浮かぶ事も考える事もある。サイラスが魔法陣やらと言わなければ俺は魔法の受け渡しで済ませていただろうし、杖を作るにしてももっと簡単な物だったかもしれない。引き篭もるよりも外へ出よう。人との対話はインスピレーションやユーモアにはいい刺激になるのだから。
「受け渡しは完了ですか?私は現物見てませんけど。」
「正常に稼働しましたよ。今も効果があります。」
「?」
発見出来ないメアリーにサイラス達はやきもきしているが、少なくとも俺には見える。今の状況を言うならメアリーはサイラス達と共に魔法省の裏へ見送りに来ているのだが、校長室で解除する様に言ったらメアリーからテストの一環としてこのまま見送ると言われてしまった。本当は解除させた方がいいのだろうが、英国では無敵の君主であり犯罪でもないので俺には止められないし、王権によりサイラス達にもお願いは出来ても強制は出来ない。
まぁ、最後の最後くらいは安心させる為に解除しようと思うが、これから本当に一波乱あるかもな。なにせメアリーは若返っている。そして若さとは自由。なら、王宮内に閉じこもらず精力的に外に出るだろう?遠山の金さんや暴れん坊将軍ではないが、王宮から見る景色と市民に混ざり見る景色はやはり違う。
危ないからスラムに行かない、行かせないと言うのは正しいのかもしれないが、それが安全に見られる様になったなら、そんな世界を見るのも一興か。・・・、もしかして俺って担がれた?
そうは思いたくないが子供の手に渡る前にメアリーが使い方を知ってしまったので、脱走の手伝いをはらかずもやってしまった形だ。ま、まぁ?使う人次第だよ、使う人次第。実際、俺が杖を作らず他の人が作り子供に持たせると言う話が話題に上がったなら、俺も自分で試すし。
「本当に大丈夫なんですよね?」
「大丈夫ですよジャスパーさん。少なくとも私がいる間はそれだけで警備も厳重でしょう?見えない者を警護すると言うのは確かに精神的にきついかもしれませんが、その見えない者が共にあると見える者が言ってるんです。それ以上の心配は英国の警備体制が脆弱だと自身で語る事になる。」
「ゔっ・・・、ですが警備や警戒に慢心して大丈夫と思えば足元をすくわれる。どこで何があるかは今の御時世全く予想出来ない。それこそ巨大な土地が空を舞うように。」
「それを言われると弱いですね。まぁ、常識を置き去りにする速度で世界が進んでいるとしましょう。さて、後は私達は空港に向かうだけと成りますが・・・。失礼を承知で言います。『こらメアリー出て来なさい。』」
逃げ回る子供を探すのは親の義務。なので姿隠しの強制解除をコレにしたのだが、俺が怒られそう・・・。制作者権限も使えない事もないのだが、まだ馴染んでない杖に権限を振りかざすと色々と問題も出るので正規と言うか呪文での解除を行う。
メアリーはちょうどサイラスの横にいたのだが、姿が見えるようになり、気配を感じたのかサイラスがそちらを向いて驚いている。別にメアリーが悪い事をしたわけでは無いが何処かバツの悪そうな顔をしているのは、隠れていたのが見つかったからかな?
まぁ、誰しもが隠れていて見つかったら気分と言うか、悪い事をしていた様な気分になるし、杖としても魔法を強制解除されるのでビクリとする。この強制解除を使えるのはあくまで親、子供よりも先に杖を扱い杖と共にあった人のみ。メアリーがこの杖を孫に渡すのか、それとも今の王子に渡すのかは分からない。
しかし、英国の王子はそこそこいい年だし守る者とするなら孫かな?王子が職に就いているかは知らないが、守られる側である地位ある者もゲートで職取りだけは行う様な流れが広まっているし、何よりSPが全滅してしまえばただの一般人としての能力では生き残る事は厳しい。
人質だから命は無事。それは相手が何かしらの取引を望む時であって、本当に憎しみしかないなら殺害がメインになるし、見せしめで指の1、2本は覚悟しないといけない。まぁ、テロや誘拐を行う大多数のスィーパー相手に1人で立ち向かうのはかなり危ないが、逃げる場合はまだ職があれば望みがある。
しかし、そのうち意見の食い違いをタイマンで決着つけようなんて言う人も出てくるだろうな。実際ブラジルでは長年の意見対立をへて市長と元市議リングの上で決着を付けるなんて事があった。そうでなくとも昔は日本でも国会で議員が暴れる事もあった。血気盛んと言うわけでは無いが、明確に負けたと分かれば従う他ない。
一度くらい世界トップリーダーバトルとか見てみたいな。まぁ、やらされるリーダー達はたまったものではないだろうし、仮に勝ったリーダーの意見が無茶苦茶なら世界は暗くなるので簡単には開けない。しかし、純粋にどちらの意見と捨て難いと言う様な状況なら、そんな話も持ち上がるのだろうか?
「その言葉を聞くのはいつぶりかしらね?大人になる、地位を得る、そしていい人であろうとする。どの点においても怒られる事はなくなるから、もしかしたらこの呪文は親が最後に子を律する言葉として長く使えるのかしら?」
「さぁ?悪さをしない子を怒る必要はありません。しかし、その杖で隠れる状況と言うのはかなり限られる。遊び呆けて仕事をせずに逃げ回る子供を叱る必要はあるでしょう。まぁ、本当に悪用には気をつけてください。その杖を使ってスキャンダルを起こされれば、私としても折る以外の選択肢がなくなる。」
「させないわよ。多少のオイタには目をつぶる事も親として必要だとは思うけど、それも度を過ぎればただのわがままになっちゃう。親として模範を示すべき王族として、この杖を渡すからにはビシバシ厳しく教育しないとね!」
カメオだった杖は今はメアリーの思う姿に変わっているが、何処となく王錫っぽいのはガレリアとかを見慣れているからだろうか?なんにせよ本人曰く重い剣や杖を持つよりもコレを代用品にした方が軽くて扱いやすくて無くさないから楽と言われたのはなんとも。そのうちすり替えたりしないよな?
「さて、そろそろ時間です。行きましょうかクロエさん。」
松田がそう声をかけてきたので車に乗り込み空港へ。ゴタゴタした様な緩やかに過ごせた様な英国滞在だったが、関係は密に出来たのではなかろうか?メアリーに会う事はほぼ無いにしてもサイラスとはこれから先も付き合う事になるだろうし。
「しかし、メアリーを前に偉く静かでしたね?」
「関係が良好になるならわざわざ口出ししませんよ。ただ、杖の件は国内でも開発すると思ってくださいね?」
「拒否はしませがどれ程広まるかは別ですよ?なにせ受け渡しでも事足りる技術ですからね。個人に起因する技能を伸ばすのか?それとも大衆的に出来る方向に舵を切るのか?人の考え方次第でしょう?」
「それもそうですね。政府として、犯罪には厳しく人には優しく、そしてスィーパーには常識を説かない。それが多分、流れになるでしょう。さて、スイスでは和装でお願いします。貴女が来る事は知らないSPも多い。嫌でしょうが目立ってもらいますよ?それが1番疑われないですからね。」
「仕方ないと諦めましょう。」
乗り込んだ飛行機で着替えスイスへ降り立つ。多数の屈強なSPと報道陣のフラッシュにはうんざりするが、サングラスのおかげで眩しくない。しかし、タバコを吸いながら降りろとは大きく出たものだな。それが俺であると印象付くらしいが、禁煙よりはよほどいい。




