閑話 100 ある日の夕食 挿絵あり
お父さんとフェリエットが英国に行って数日が経ちました。家では相変わらずお兄ちゃんが勉強を見てくれたり千尋お姉様が晩御飯を作りに来たりと賑やかです。ただ、ここに来てからずっとお父さんやフェリエットと一緒だったので少し寂しいです。
「む?少し魚の味が濃かったかソフィア?」
「そんな事ないですよ?どうしてですか?」
「いや、箸が止まっていたからな。ほら、那由多茶だ。」
「ありがとう千尋。今日は母さんも夜勤だから助かった。と、言うか助けられっぱなしだな。」
「ふふっ、かまわんさ。そのうち2人になってこれが日常になる。まぁ、卒業まではもう少し時間があるがな。」
「お兄ちゃんとお姉様は卒業したらすぐに家を出るですか?」
「いや、2人で話し合ってる所だな。地価と言うか家を借りるにもアパートを借りるにもそこそこお金がかかる。最近の借家事情は色々あったぞ?数ヶ月払い込みプランとか滞納時退出保証プランとか。」
「確かに物件を見る限りスィーパー向け保証プランはオプションとして多いな。中でモンスターと戦えばそれだけ死亡リスクがある分、部屋を借りても本当に寝に帰るだけと言う人もいるし。逆に広い戸建もパーティー用として貸し出している所も多い。前は隣の家の住人が誰か知らないと言う話しも多かったが、今は取り敢えず挨拶する方向に動く人が多いらしい。」
「挨拶?蕎麦ですか?ツルツルとして美味しいですね。」
「引越し蕎麦を渡すかは別として、互いにスィーパーだと分かれば日常的な協力も得られるからな。ちょっと鍋が壊れたから修理してくれとか、ゴミ拾いするから風で集めてくれとか。ほれに、しふないへはほ開けてヤバいものが出た時に避難を叫ばないとな・・・。」
「話したいのは分かるがちゃんと食べてから話せ。司さんなら同じことを言う。まぁ、箱は本当にお宝であると同時にミミックだからな。ギルドで手伝ってると数人火傷した人間が医務室に行ったとおもって話しを聞いたら箱いっぱいのニトロがでたらしい。」
お兄ちゃんが食べながら話していると千尋お姉様が注意しています。同い年ですがお兄ちゃんは尻に敷かれるタイプですね。お父さんもしかれるタイプですが、ヒラヒラと掴みどころがなくかわすので敷いても包みこんで逃げ出す風呂敷とか?
「あぶないなぁ〜。」
「ニトロってニトロチャージャーの材料ですか!?一気に加速したりケツから火を噴いたり!」
「なんでそこで嬉しそうなんだよソフィア・・・。まぁ、燃料ではあるけど簡単に爆発するから取り扱いは慎重にしないといけないな。最近学校で危険物やら爆発物、有害物質の化学の授業が増えたけど、スィーパーとしては必須科目かも・・・。」
「スマホはダメですか?アプリで調べられますよ?」
「普通のモノならいいけど鉱物は剥き出しだから下手するとスマホがイカれるんだよ。師匠に連れられてセーフスペースで緑の綺麗な石を加工しろって言われたけど、後から考えると絶対ウランだろ・・・。最後に回復薬のんだから大丈夫なんだけどさ・・・。」
「鍛冶師ってそんな危ない事してるですか!?防護服は!」
「いや、スィーパーってそのあたりの耐性があるんだよ。多分速ければ来年が三学期辺りからスィーパーに付いてって話が出るんじゃないかな?千尋しってる?」
「そこまで詳しくないがあるらしいぞ?16歳からスィーパーに成れると言う事を見越して高校まで行かない人もいるし、定時制に通う人もいる。そんな人がスィーパーになった時に危なくない様、ある程度判明している事は教えていく方針らしい。まぁ、スィーパーになるとするならネットで調べているから真面目に授業を受けない生徒も出てきそうだが・・・。」
「おぉ〜!私もスィーパーに成る準備を到頭!」
夢が広がるですね!何の職が出るかは別として指輪は羨ましいです!暑いさなかにフェリエットが指輪からこっそりと氷を出して授業中に食べてたり、重い物を運ぶ時に先生がまとめて収納して持っていたりするのを見ると、楽そうに見えて仕方ないです!
ただ、確認せずに収納すると全部出す羽目になる人はいるみたいですよ?摩訶不思議な指輪は何でも入る代わりに融通が利かない時はとことん利かないとか・・・。
「成ると出来る事の幅は格段に上がるが、そこからどうするかだな。中位を目指す人もいるしモンスターを憎む人もいる。逆にドライにお金儲けと割り切る人もな。なんにせよ指輪はあると便利だ。そう言えば那由多は免許はどうする?バイクは簡単になったが車は今までどおりだぞ?」
「両方って言うのが理想かな?結城とも話して卒業までに15階層を超えようかって話しもしてる。アイツ、卒業後は専業スィーパー目指すからな。俺としても鍛冶師として次のセーフスペースには行っておきたい。その時の足としてバイクとかキャンピングカーは運転出来た方がいいだろ?」
「あの話しは本気だったのか・・・。その時は私も行く。否定はさせんぞ?」
「置いてけぼりになんてしないよ。ただ、安全を考えるなら護衛を雇った方がいいって話しになって今は資金集め中。加奈子も何かバイトとかを始めるらしいし、千尋へは時期とかが決まってから話そうかと思ってた。」
「水臭いじゃないか。先に言ってくれれば私としても知り合いを探せたのに。」
「まだ話しが出ただけの状態だからな。デッドラインは自由登校期間になると思うし冬休みは・・・、流石にな。」
お兄ちゃんが言い淀みます。多分その淀んた理由は危険性から。誰も彼も簡単にゲートに入ります。とても危険で死に近く命と引き換えに得られる物は釣り合うか分かりません。でも、釣り合うと信じて命を賭ける人もいるし、蓋を開けたらあんまり価値のないものだったと命を胸に落胆する人もいます。
最初にゲートがでて大量に死者がでて、それでも中に入り技術を高めて死ににくくして、それで先に進んで誰かの生活を守ったり有名になったり、或いは自身を高めたり・・・。モンスターが死者の成れの果てと言われたり、箱の中身が誰か死んだ人の指輪の中身だと言う噂があります。
確かにあの中は多くが死に、そしてなにも残さずに消えていく。多分、この噂は怖くさせる怪談じゃなくて希望です。誰かに見つけてもらって自分を残せると言う希望。いなくなってもまた、どこかで見つけてもらえるという願い。
「そうだな・・・、流石に卒業は迎えたい。」
「だろ?専業の人は事も無げに入るけど、自分のすべき事と行く場所を考えるなら計画は綿密に立てないとな。」
「お父さんにお願いしたらどうですか?1番安全で快適な旅ですよ?命の危険を考えるならそれが最善です!」
「う〜ん・・・、それはなぁ〜。」
「ソフィア、多分それじゃ私達はダメなんだと思う。恵まれた状況で全部司さんに任せて行くだけ行って帰ってくる。そこで得られるものは多分何もない。」
「だな、俺達は父さんを子供の時から見てきた。親として大人としてそして今は戦う人としても。多分、手本はよくても全部頼ったらダメなんだよ。多少の手助けはありがたいけど、でもこれは親離れの1つなんだと思う。」
「でも・・・、死んだらおしまいですよ?仲間が死んで生き残って・・・、引きずって引きずられて、追って追われて・・・、どこまでもどこまでもその人の幻影と悪夢が付きまとうかもしれません。だって、それだけ大切な人と潜るですから。」
はっきりしない記憶・・・、怖くて悲しい記憶。もう悪夢に苛まれる事は少なくなりました。でも、ふとした時に鏡に映り込むような気がします。でも、それを私は追ってないし追われてない。でも、お兄ちゃん達やお姉様達の誰かが死んでしまったら、私はその幻影を追ってしまうかもしれません。
最後は分からない。どんな姿で帰ってくるかも分からない。下手をすれば全員幻の様に消えてしまう。それはとても悲しく恐ろしい・・・。確かに1番は決まっています。でも、この1番が輝くには周りにあるモノも必要です。
「そう、大切な人とありたいから考えるんだよ。父さんがいつもやるべき事、するべき事を考えろって言ってたけど多分独り立ちした時に迷わないためだったんだろうな。」
「多分な。その司さんが迷わないどころか突き進んでるから信憑性もある。まぁ、あの姿になって多少自堕落な所は出た様に思うが・・・。」
「お父さんは自堕落ですか?普通ですよ?」
「いや、下着とかでウロウロしてなかったしそんなに薄着でも無かったんだよ・・・。ソファーで寝るのもたまになら、そもそも魔法がなかったから自分で動くしか無かった分今より動いてたかも。」
「確かに最近は農具とかが勝手に動いたり飛び回ってたりするからな・・・。と、言うかあれって難しいんじゃないのか?私は分からないが。」
「俺だって鍛冶師だから分からないよ・・・。多分考えたら負け、感じるんだ・・・。」
「お兄ちゃん、お父さんを感じるってなんだか・・・。」
「倒錯的だな・・・、どこをとっても。どう聞いても・・・。」
「悪かったな!でも、母さんを感じるって言ったら・・・、どうする?」
「マザコンです。」
「莉菜さんも美人だからな・・・。ネットじゃ顔面偏差値の話しをしてたのを見かけて、どれくらい鏡とにらめっこしたか・・・。」
「千尋お姉様は美人ですよ?」
「モデルとか芸能人と言われるソフィアに言われると嬉しい反面複雑だな・・・。」
「そこは気にするな。俺だってたまに鏡見て考え込む。姉さんはそのあたり気にしなさそうだけどな・・・。と、言うかたまに連絡来て変な指示を受けるんだよ・・・。」
「変な指示?」
「宇宙服作るから父さんの写真送れとか、魔法を量産してもらって送ってくれとか・・・。この前は加工して送れって催促されたな。一応頼まれた通り加工して送ったけど。」
「那由多・・・、お前もチート一家に順応してないか?魔法の加工って中々聞かない話だぞ?」
「えっ?父さんに聞いたら何の魔法か知った後はアレンジする感じで好きにすればいいって言われたから好きにしたけど?」
多分お兄ちゃんは半分チートです。まぁ、お父さんと長くいたらその考えも分かるからそうなるのも仕方ないですね!




