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街中ダンジョン  作者: フィノ


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46話 遥 挿絵有り

花粉症で死んでます。短くて申し訳ありません。

遥イメージが追加されました

 帰ってくるなり望田が叫んでいる。メッセージは送ったはずだが、何を叫んでいるのだろう?出来れば下着姿なので早く扉は閉めてもらいたい。叫びを聞いた遥もビクリと肩が跳ねる程驚いたし。


「司、あれだれ?」


「ツカサ、私というものがありながら、他に手を出すんですか!?ワンナイトでラブなんですか!?」


「あ~、SP?普段はいい人だよ?」


 普段はいいが、今は何やら訳のわからない事を叫んでいる。望田は俺のモノでもないし、そもそも手を出した覚えもない。ここにいるのは娘の遥だし、なにやら錯乱しているようだ。


「黒江 遥。司の娘よ、よろしくね望田さん。」


「うぉっ、娘さんでしたか・・・。望田 香織です莉菜さんとは友人で、ツカサのSPをしています。名前は伺っていますが、初対面ですね。どうしてこちらへ?と、言うかなんでツカサは剝かれてセクシー下着着てるんですか?」


 やたらジロジロ見てくるが、何時ものシンプルなスポブラとパンツではないので若干恥ずかしい。水着と変わらないと思ったが、どうも尻が・・・、山笠の褌か!なるほど、あれと考えれば、ずれないし服を着ていれば、見えるものでもない。なら、あまり気にしなくてもいいのか?つけ心地もフィット感もいい、肌触りも問題ない。スケスケのおかげか、ムレもしない。


「遥は装飾師なんだ。昨日作った糸を鍛冶師に布にしてもらって、それを細工してもらった。」


「そして、出来たのがそれですか。着心地どうです?」


「フィットするし蒸れないし、素敵らしいから似合ってるんだろ?せっかく娘が作ってくれたんだ着るよ。」


 ベッドから立ち上がった俺を、くるくる周りながら望田が見るが、後ろで止まった。やたら尻を見られている気がするが、上げすぎて食い込んでいるのだろうか、違和感はないが一応、後で直しておくか。


「また、セクシーなのを作りましたね遥さん。GJですけど、ツカサ、気を付けてくださいよ?下手するとお尻丸見えです。」


「前に見た祇園山笠なら、みんなこんな感じの格好でうろついてたけど?積極的に見せる気はないな。」


 一旦服を着ながら考える。トイレも行かない特殊ボディなので、日常生活で何かを脱ぐ場面はほぼない。あるとすれば入浴くらいで、仮に見えたのならそれは不可抗力だろう。それを怒るのも筋違い、新しく丈夫な服も出来そうだし、戦闘での服の破損問題は解決しそうだ。


「お祭りと一緒にしない。それで、服とかは作れそうなんですか?女性陣は諦め半分な所はありますが・・・。」


「一応、鍛冶師と装飾師と糸があれば、自損は防げると思う。強度や量産はこれからの課題かな?」


「そう、それで糸を早く出して?」


 出してもいいのだが、口から・・・、いや、最初はキセルの先から出せたのだから出せるはず。口から出したのは、糸切り歯で切った方が、分離というイメージが付けやすかったから。ふむ・・・、駄目だ。噛み切るイメージ以上に分離のイメージが今ない。


「遥、カオリ、今から出すから糸巻きお願い。それと、カオリ笑わない事。」


「ええ?分かりました。」


 キセルを一吸い。プカリと煙を吐き出し、その煙を糸にする。昼も結構な量を出したので、その辺りのイメージは固まっているが、シュールな光景だろう。明日、宮藤達魔法職メンバーには出し方を伝えて、これもまた練習の1つに盛り込もう。延々と俺1人で出しても出る量はたかが知れている。


「昨日はキセルの先からだったのに、今日は口からなんですね。」


「望田さん笑いを堪えない。私は介護してる気分なんだから。」


 酷い言われようである。口から続く煙の糸はやはり涎の銀糸に見えるのだろう。座って出しているので、惚けているように見えるのに拍車をかけるのかもしれない。早急に改善せねば!と、思うのだが今固まってるイメージを書き換えると、糸もなくなりそうなので、今回まではこれで我慢しよう。


 しかし、娘の前でこの光景は恥ずかしいな。ヨダレではないと、わかっていてもなんだか、嘔吐したものをひたすら引っ張られている気分だ・・・。なくなった未来だが、年老いて介護されれば、こんな気分なのだろうか。老いるのは仕方ない。四十を過ぎて、身体の疲れも溜まりやすくなっていた。今はなんともないが、そのうち立場が逆転して、老いた娘の介護をする未来はあるな・・・。


 よそう、それは先の未来だ。今は糸、いつかはきっと蜘蛛男みたいに、手首辺りから糸が出せる筈!シュルシュルと糸を出して、糸玉がかなりの大きさになった頃に糸切り歯で糸を切る。服一着にどれくらい糸がかかるか分からないが、少なくとも華美な装飾が無ければ一着分はあると思う量を出した。


「遥、足りるか?」


「1人分の上下、小柄な人でシンプルな物なら何とか。」


「なら最初はツカサの服ですね。」


 望田がそう提案する。小柄でシンプル、まぁ今の講習メンバー中、一番小さいのは俺だし、あくまで試作品。普通の服はただの糸で作るとして、内側に着込めるインナーがあるといいかな?


「デザインの要望はある?」


「そうだな。それは魔法糸と言って、用途はインナーがメインになると思う・・・。」


 高槻製の糸と魔法糸の違いを話す。望田は戦闘で衣類破損による恥ずかしさが減り、もっと思い切った行動が出来ると喜び。遥はまた指でファインダーを作って、イメージを固めている。しかし、遥は糸を布に出来るのだろうか?鍛冶師が出来たのだから、作成を使えば出来るのかもしれない。


「遥、職の説明はどんな感じ?」


「ん?装飾師は刻印、固定、作成よ。武器はこれ。」


 見せられたのは、細い黒棒。先端が尖っているのでアイスピックの様な印象を受ける。刻印と言うからには、その針先で衣類や身体に印を刻めるのだろう。入墨は元々が魔除けや身体装飾の意味があるので、装飾師としての面目躍如という所だろう。


「その刻印と言うのは消せるんですか?」


「付けた人なら消せると思う。装飾師が少ないから私も分からない。でも、自分に付けたものは消せた。」


「こら、消えなかったらどうする?女の子の身体なんだ、大切にしなさい。」


 知らない間に、娘がタトゥーを入れた疑惑が・・・。昔から思い切りのいい子ではあるが、そういった事はやめてほしい。流石に本人も不味いと思ったのか、視線が泳いでいる。そのままじっと見つめていると、本人も悪いと思ったのだろう。謝罪の言葉が出た。


「お父さんごめんなさい。でも、多分、お父さんが思っているのと違うよ?入墨みたいなものじゃないし。」


 昔から直線的な性格だが、寂しがり屋。今も俺の事をお父さんと呼んでいる。久々に呼ばれたが、娘に呼ばれるなら落ち着く言葉だ。話を聞いた限りでは、痕が残るようなものではないようだ。良かった、嫁入り前の大切な娘。傷なんてついたらたまったものではない。


「そうなのか?痕も残ってない?」


「うん、大丈夫。メモ紙借りるね。」


 そう言って電話横のメモ紙を1枚取り、武器で何やら描き出した。描かれたのは簡単な盾のマーク。書き終わるとマークはスッと紙に吸い込まれるように消え、白紙に戻った。これで刻印は完了なのだろうか?


「これでおしまい。後は・・・、このペンでいいかな?」


 白紙にペンを走らせるが、一向に書ける様子はない。ペンを借りて書いてみるが、やはり書けず他の紙に試しに書くとかけた。どうやら、変化に対する耐性を持ったのだろう。装飾と言うと華美なイメージがあったが、これならインナーに細工してもらっても派手にならずに済む。


「これは、人にしても?」


「うん。装飾師なら見えると思うけど、そうじゃない人は多分見えない。刻印自体は壊れない限り持続するみたい。」


 娘が説明する横で望田もペンを持ち、紙に書こうとしているが一向に書ける気配はない。要点だけ聞くと、結界とかルーン文字のような感じか。装飾師で戦うなら刻印で戦うのだろうが、使い方次第では強力そうだ。


「刻印に種類とか法則とかあるんですかね?あっ、破けた!」


 書こうと力を入れすぎたのか、刻印されたメモ紙は破けてしまった。これが刻印された物が紙だからなのか、単純に娘のイメージがまだ弱いからかはわからない。ただ、物体そのものに刻んでいる訳ではないので、直接刻めばまた変わった結果になるのだろう。


「法則はないです。ただ、余り攻撃的なモノは刻めないですね。例えば水は出せても飛ばないし、火は焚き火みたいになります。刻印するとすぐ発動なので、後から使うっていうのも今はできないですよ。」


「なるほど、発動トリガー=刻印なのか。未完成だと本人しか使えないし、刻み方や組み合わせのイメージで変わるのかな?」


「何枚か服に刻んでみたけど、多分組み合わせは出来るよ。ただ、普通の服だと2個位で服が駄目になる。破け散ったりとか、バラバラに分解したりとか。位置を離しても変わらなかったし、単純に耐久力の問題かなぁ?」


 耐久力か。魔法糸には修復機能が有るので、耐久力は大丈夫だと思う。出すのはいくらでも出せるし、娘の成長の機会でもある。なら、親として背中を押してやろう。


「魔法糸には修復機能がある。遥、お前に時間があるなら、好きな様に刻印して作ってみなさい。泊まるなら、部屋もどうにかする。糸も欲しいなら紡ごう。・・・、やってみるか?」


「えっと、いいの?糸出すの嫌がってたみたいだけど・・・。」


 娘が不安そうにしているが、一度糸を出している所を見せたし今更だ。それよりも娘がやる気なら、気負わせないようにした方がいい。いやいや出してると思われるのも嫌だしね。


「いいよ。糸を出す練習にもなるからね。どの道、メンバー分の糸は確保する予定だ。」


「糸巻きは手伝いますよ!」


「でもまぁ、先ずは腹ごしらえと行こうか。」


 ルームサービスを頼んで3人で食事をする。娘と久々に会ったので話は尽きないな。家の事、妻の事、息子の事。他にも山程話す事はある。


「それで、望田さんはそろそろ帰らないの?」


 そう言えば娘には言ってなかったな。妻は電話した際、望田の事を伝えたし、望田本人から連絡があったので了承している。ただ、浮気はするなと釘は刺された。自分で言うのも何だが、する気はないしできる気もしない。ムラムラしたらまぁ、1人で・・・。


「今はルームシェア中だから泊まるよ。」


「あのお父さんが珍しい。お母さんが嫌がるからって、女の人とは必ず一線引いてたのに。」


「成る程。ツカサらしいですね。」


「ベッドは2人で使って。私はソファーで寝るから。」


 時刻も21時を回り、そろそろお開きと言う時に寝る場所問題が出た。元々妻と泊まっていたので、ベッドは2つあるが望田が泊まる様になって空きがない。元々娘は伊豆の方に宿を取っていたらしいが、今回の話でキャンセルし俺と妻が泊まったホテルなら、一緒に泊まれるとの算段だった。


 俺の方も呼んだ時点で既にソファーで寝るつもりだったし、いい部屋に泊まっているので、俺が身体を伸ばして寝てもソファーには余りがある。望田はゲートで疲れてるだろうし、娘は伊豆からココまでバイク出来たので疲れている。なら、俺がソファーで寝るのが一番効率がいい。


「・・・、遥さんちょっと。」


「なんですか望田さん?」


 2人でヒソヒソ仕出したが、俺はさっさとシャワーでも浴びるかな。望田は多分駐屯地で入って来ただろうし、遥はお父さんと一緒のお湯は嫌とは言われた事はない。いい娘である。


「先にお風呂貰うよ〜。」


 頭からシャワーを浴びる。ソファーで寝るのもいいが、たまには漫画を読みたいな、ネカフェに行ってマイナーからメジャーまで無作為に。或いは雑誌とかこう、スマホで読むのも悪くないが、やはり本は手で紙を捲る感じがした方が好きだ。ゲートのゴタゴタ以降、本を読む暇も中々取れないし、遥が寝た後にでもこっそり出かけようかな。ダメそうなら、コンビニで雑誌を買ってもいいし。いや、コンビニなら新作のおにぎりやスイーツを買うのも・・・。


「お父さん、いつまで入ってるの?」


「ああ悪い、すぐ出る。」


 どうやら思いを馳せ過ぎて、長風呂になったようだ。身体を拭いて、娘の作ってくれた下着をつけロンTで外へ。パジャマとか買ってないので、寝るときはもっぱらこれである。


「上がったよ、次どうぞ。」


「その前に発表があります。」


 望田が改まって何かを発表するようだ。横にいる娘も、小さく手を叩いて望田を見ている。何を発表する気かは知らないが、突拍子もない事じゃなければいいな・・・。


「今日私、友達の所に行くことになりました。では、明日は何時もと同じ時間に迎えに来ますね。では!」


 言葉を残すや否や、望田はそのまま部屋から出て行ってしまった。どうやら気を使わせてしまったらしい。彼女も疲れているだろうに悪い事をしたな。しかし、出ていった彼女を呼び戻すのも違う。好意を素直に受け取るのもまた、大人としての嗜みだ。


「遥、たまには一緒に飲むか?」


「うん!話したい事いっぱいあるんだよ?」


「そうか、なら何から話してくれるんだい・・・?」


 望田がいる時は大人びた様子を見せていたが、いなくなるとどうして、甘えん坊の寂しがり屋が顔を出した。出る話は、初めてゲートに入ったときビビってた話や、那由多の手前それが出せずに精一杯強がった話。秋葉原のニュースを聞いて、莉菜と飛び出しそうになった話など、中々面白い話が多い。


「それで、お父さんはいつ帰ってくるの?」


「そうだなぁ、今の仕事が終わったらかな?」


「かなり先だね・・・、よし、ならお父さんを守るように、丹精込めて装飾しようかな。」


 そういうと、頬をパンっと叩いて武器を持つと糸玉に差し込んだ。鍛冶師が糸を布にするのは見たが、装飾師は・・・、なるほど作成か。糸作成は成分や配合の出来る調合師か魔法職しか作れないが、糸の加工は生産職ならどうにかなる。寧ろ、布にした後が勝負だな。鍛冶師に改造してもらうもよし、装飾師に刻印してもらうもよし。検証は必要だろうが、防具関係はこれである程度目処が立ったと考えていいだろう。

 

 目の前で娘が一生懸命にアイスピックを振るい、思い描いた形に糸を操作していく。ファッションデザイナーを目指しているだけあって、糸の扱いにしても上手いように見えるし、型紙も無く服を仕上げていく。多分、これは、俺と娘の遥だからここまですんなり行くんだろうな。


 作り始めて既に2時間は経っただろうか。一生懸命にアイスピックを振るう手が、ようやく止まった。多分、完成でいいのだろう。出来たものを手にし俺に渡してくる。


「先ずはこれ、刻印はしてないけどサイズは合ってるはず。一度着てみて。」


「分かった、着てみよう。大丈夫、ピッタリさ。」


 渡されたインナーは黒一色。形としてはズボンタイプの競泳水着かな?身体にフィットして動きを妨げないし、このインナーなら、多分女性陣も恥ずかしくないと思う。遥謹製の下着のおかげでラインも出ない。・・・、割と普段着で行ける?


挿絵(By みてみん)


「なぁ、遥これ普段・・・。」


「お父さん、着れるよ?ただ、明日望田さんの反応見てからがいいと思うよ?」


 普段着になりつつあるチューブトップとホットパンツより、布面積は多いと思うのだが・・・。デザイン的にもシックにまとまって悪くないし、魔法糸で作ってるので破れても大丈夫。吸水性とかは分からないけど、そこまで無いようにも思えない。通気性は抜群。とりあえず、これで寝てみよう。


「悪くないと思うけどなぁ〜。遥はセンスいいし。」


「ふふ、ありがとう。刻印は明日にして、今日はそろそろ寝ようか?」


 遥も長距離移動で疲れているだろうし、寝るにはいい時間だ。明日の遥の予定次第では、ちょっと駐屯地まで付き合ってもらうかも知れない。その辺りは千代田との調整ありきだな。国の方で装飾師を出してくれるなら、娘をわざわざ危ない所に連れて行かなくて済む。


 職と言うのは厄介だ。同じ職でも、宮藤と卓はああも違う。なら、国の用意した装飾師と遥では、出来る内容も違うかもしれない。オンリーワン、育て方次第ではそうなるのか・・・。


「おやすみお父さん。」


「おやすみ遥。」


 電気を消し、娘の寝息が聞こえる中考える。介護か・・・、先にあった、共に歳を取ると言う未来は既に捧げてしまった。後悔は、ない。言えば莉菜はきっと薬を探しに行くと言い出すだろう。好きな人と共に永遠を、時よとまれ君は美しい。今なら気持ちは理解出来る。理解できるが、理解するだけ。何が幸せかは分からない。ただ言えるのは、隣のベッドで寝る娘は愛おしい。


「おはようございまーす。」


「あれ、朝か?」


「おはよ、お父さん。よく寝てたね。」


 初めてかもしれないが、望田の挨拶で起こされた。久々に娘に会えて、肩の力が抜けたのかもしれない。遥は朝の用意を済ませ、望田も準備万端。なら。お披露目といこう。


「カオリ、この服どう思う?着れる?」


「うぉっ。試される服ですね・・・。」



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[一言] 望田氏の言葉を翻案して北海道服と名付けよう。
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