492話 知りたくない! 挿絵あり
「一番後ろの通路は使うので、実演を見るなら前か中段から出てください。私達は多少の準備をしてから行きます。」
実演するなら外としたので特に不自然はないだろう。メアリーも一緒になって動かないか心配だったが喋ればバレると言う事は、口を動かしただけでもバレるのではと警戒したのかお行儀よく座っている。まぁ、それを見越して中段と前の通路から出ろと言ったわけだしな。しかしどうしたもんかな?
英国のお家事情なので俺は口出し出来ないし、したらしたでメアリーと仮面の少女と言う構図も崩れる。寧ろ俺はファーストと名乗ってしまったので、不確定なメアリーが女王であると確定してしまうのでそれは避けたい。少なくともサイラスは俺に対してメアリー=女王とは言っていないし、俺もメアリー=女王とは口外していない。
要すれば公の秘密と言う奴だ。前に橘とジョージを迎えに行った時と同じ構図で、メアリーは推定女王であるが誰もそれを指摘しないので推定女王となる。そもそも若返ってるし、スィーパーが影武者として年老いた女王を現在演じていてもおかしくない。少なくとも衆目に晒されている女王は御年90超え。それを若返らすとするならかなり無理して薬を集めないと・・・。
そうだよな、買い付けに飛び回れるサイラスがいるんだよな・・・。ネットインフラが未熟な土地に行き、そこで買い漁れば価格も抑えられるし掘り出し物がないとも限らない。若返りの薬は確かに効果があるのだが、1日単位だと実感がわかないので当初は微妙とされていたが、価格高騰が本格的に始まったのはジョージが飲んで大統領として姿を見せてから。
つまりそんな状況を知らない人なら、半値か底値で売ってしまう可能性もあるし物々交換と言う手もある。スィーパーとの取り引きで地味に出てくる物々交換。現金にしろ金貨にしろ自分で稼ぐ思考が強い人は物々交換ならと言う人もいる。交換品で多いのは回復薬や武器。鍛冶師に改造してもらうにしてもある程度使い慣れたいとイメージに合う武器と交換する人もいれば、パワードスーツよこせと言う人もいる。
誰が何で納得するかは本人次第なので何とも言えないが、オークションでもこれらを指定するから交換希望とかもあるんだよな・・・。なんだよ出品:各種等級回復薬及び武器数十点、求む:ロットナンバーなしの俺のポスターとか。
「さてと遅刻者メアリーはどうします?」
「クロエ、メアリーが誰・・・。」
「知りません。えぇ!知りませんとも!私が話したのは遅刻常習犯であるはずのメアリーと言う生徒についてです。会えたら会うとは言いましたが、日本人の会えたら会うや行けたらは行くは行かない会わないの意味です。サイラス長官も場所は分かっているでしょう?悪い事は言いません。部屋に連れて行った方がいい。」
「そうしたいのはそうしたいんですけどね・・・。これは英国としての問題ですが日本も例外とは言えない。皇族や王族が若返ったとして、どこまでその権能を維持させるのか?という問題で・・・。」
「あ〜!あ〜!聞きたくない聞きたくない!私はそんな高貴な方達と会ったり話したりお茶飲んだりしたくない!一般人の私が粗相してお茶でも零したらどうするんですか!?打首獄門晒し首と言われるなら全力抵抗しますよ!」
耳を両手で塞いで声を出しているのでサイラスが何を話そうが聞こえない!若返ってその人が王権を継続する?それとも特定年齢で代替わりする?そんな話しどぉーでもいい。確かにジョージは大統領だが大統領とは選挙で選ばれるので、どんどん交代させる事もできる。その代わり王族や皇族となると血筋なので、簡単に次の人に継承させていいかは確かに判断つきづらい。
最適と言うなら外見は別として特定年齢での継承とか?外見20歳でも実年齢100歳なら十分公務もやっただろう?或いは引退後に若返りの薬を渡して一般人を希望するなら野に降り、継続と言うか家を守ると言うなら・・・、やっぱり推定部外者だな。そんな傀儡継承者なんて嫌だろうし、本人も自由は欲しいだろう。
ノウハウはあるから新人が頼るのはいいとして、頼りすぎてその人の意見100%では交代した意味がない。まぁ、お世継ぎ問題が発生したら舞い戻れとか言われそうではあるが・・・。
「それは困るわね。無力だとしても国を壊そうとする逆賊には抵抗する。それは王族の義務よ。」
「メアリー・・・。」
「聞こえないし知りません。私はメアリーと言う人とは話しましたが王族とは話していません。そもそもロイヤルファミリーに喧嘩売るとか怖くて出来ません。そんな事したら・・・、心臓発作で死んでしまいます。」
「クロエも落ち着いて。私では力不足と言うか立場も何も弱すぎますが、一旦私が預かりましょう。メアリー、今は生徒のメアリーとしてここにいる。こう呼ぶのも憚られますが、それが妥協点です。」
「ええ。元からそのつもりよ?魔法に憧れてサイラス長官のお気に入りだから、こうして杖を借りて魔法少女に憧れたメアリー。職に就いてないのが玉に瑕だけどね。」
「だ、そうですよクロエ。彼女は生徒のメアリーです。私のお気に入りらしいのでよろしくしてやってください。と、言うか聞こえてます?」
「憎たらしい事によく聞こえてますよ。彼女はメアリーでファイナルアンサーされました。なので、どこまで行っても彼女は私の中ではメアリーです。ええ、メアリー以外の何物でもないんです!お気に入りの生徒は厳重に守ってくださいよ?」
責任逃れは多分出来た!拘束したり尋問したりしたけどさっさと水に流すか『私が尋問してのはメアリーです』と言う言い訳が立つ。寧ろ立たせて下さい。これが異世界なら王族とかに喧嘩売っても構いはしない。だってその世界で俺は異物で守るべきモノは自分の命しかない。
なら軽装やら端金で魔王倒してこいと言われたらさっさとトンズラする。そもそもね、1人で魔王倒せるなら国も軍もいらないんだよ!世界にある秘宝が必要?世界の危機っぽいのに他国が協力しない?悪いが呼ばれた国ガチャハズレである。街に出て魔王軍の噂を聞いた、他の国でも魔王軍の悪逆非道な噂を聞いた。いや、その時点で連合軍で人海戦術で秘宝集めて勇者の血が必要ならその人を万全に鍛えてから送り出せよ。
ゲームなら納得出来るが、現実世界で1人に背負わせるにはちょっと荷が重い。そもそも世界一周して宝集める時点で年単位なら魔王軍はそれを見逃さずにさっさと攻めてくるだろ?あくまで均衡が保たれているから悠長な話しが出来るのであって、仮に魔王軍優勢なら、その秘宝を魔王に確保されて負け確定である。
他の世界の話だからどうでもいいが、それはもう種としての敗北で後はひっそりと少ない生存圏で生きるしかないんじゃないかな?地球では人が覇権を取っているから人優勢の考えになる。しかし、異世界で魔物が覇権を取っていたなら魔物優勢の考えとなる。それこそゲート内はモンスター優勢の考えで出会えば殺し合いしかないと言う様な。
「それは心得ていますよ。さて・・・、メアリーは大人しく帰ります?帰るならすぐに迎えを呼びますけど。その方が安全そうですし。」
「サイラス長官はお気に入りの女性をエスコートしてくださらないの?それに、ここは英国魔法省。今の英国最大戦力の一角である長官と、文字通り最強と言われるクロエがいるこの場所以上に安全な所ってどこかしら?」
「それは・・・。」
「頑張れサイラス長官!諦めるなまだやれる!私はどこが安全か知りませんがまだやれる!」
どっかあるだろ!なんか凄い魔導書で結界張った宮殿とか教会とか、或いは聖遺物のある博物館とか!近代風なら核シェルター?急に脆く感じてしまうのはなんでだろう・・・、多分ぶっ壊せるからかな?意味不明なものは壊すにしても探る所から始めないといけないが、核シェルターなら壊せる。それこそサイラスでも宮藤でも壊せる。流石に結城君は厳しいかな?時間があれば出来るかもしれないが。
「レディクロエ。英国紳士とは悪足掻きもしますが、無理な時はさっさと従うものです。」
「なら決まりね!」
「・・・、分かり・・・、ました。でも、くどい様ですが貴女はメアリーです。それ以上の扱いは出来ません。そして長官・・・。」
(このメアリーって周知の事実ですか?)
(いえ、一部の者しか知りません。理由はこう・・・。)
顔をスッと引く。高齢だから体調不良だろ?いわせんぞ?それを聞いたら若返った誰かになるだろ!そりゃあ、英国として女性陛下を守る盾は多い方がいい。しかし、俺は女王陛下と確定させたくない。知ってから変な態度取ってたら後から松田に何を言われるか・・・。
少なくともここは彼女の領地で家、そして俺はたまたま訪れた客。知らなくていい事はとことん知らないで押し通す。それが最善だからね。




