490話 お忍び 挿絵あり
エリザベス女王の本名はエリザベス・アレクサンドラ・メアリーその後に王朝名であるウィンザーを付ける事がある。肩書となると更に長くなるが、それは置いておくとして彼女は確か御年90を超えていた。まぁ、年齢はいい。ジョージだって若返って青年になったし国のトップが若返る事を止める事は出来ない。
人か肩書か。それを問われた時に女王である人と人である女王では似ている様で全然違う。少なくとも彼女は王族である前に人でなければならない。そうでなければ人の気持の分からない王として立ち、こんなに長く王座について愛される事もないだろう。
って!そんな小難しい話じゃないんだよ!仮に、そう仮に!このメアリーと名乗った女性が若返った女王だとしたらどうする!?椅子に座った女王を縛り上げて尋問する・・・、不敬所の話ではなく極刑といわれたらどうしよう!?その前に国際問題?ヤバい、どんなに考えて札を用意してもかなりの確率でヤバい状態になる!
(ヤバくなんてナイナイ。まだまだ統計を測るにしては甘過ぎる。もう少し考える幅とプラス値を増やして・・・。)
(悪いが物事は基本マイナスからスタートさせる。最低を考えた上で大成功が分かれば中間値で無傷。その中間値の幅がどれくらいあるかが必要だ。)
(その割にはマイナス値が振り切ってるけどね。)
賢者が統計とか言ってくるが王ないし女王を縛り上げたら、昔なら断頭台コースだろ?よくて幽閉とか・・・。もしかしてはめられた?何かしらの事案を発生させて国外に出られなくする。タイミング的に可能性はゼロじゃない。平時で気が緩みそうなタイミングを狙うなら・・・。
いや、彼女はメアリーと名乗った。それならお忍び視察にし来たタイミングとバッティングして、このない胃が痛い状況とない脳をフル回転するタイミングを作った?そもそもさっきのセリフもお忍びで散歩している時に女王に気づかなかった観光客に向かって話した言葉だ。それなら名前を聞いて言い淀んだ理由にも繋がる。なら・・・。
「分かりましたメアリーさん。その杖をどうして借りたかも知りませんし、なんでここで椅子にして話しを聞いているかも遅刻した生徒だからとしか思いません。ええ!メアリーさんは遅刻した生徒で間違いないですね。」
「そうね!そうよね!私は遅刻した生徒メアリーでクロエさんが謁見に来ないだろうから勝手に会いに来た女王ではなくて、サイラス先生のお気に入りだから杖を借りて、こうして遅刻したからこっそりと講義を聞くメアリーで間違いないわね!」
コンマ数秒で女王の可能性を封じるために彼女をメアリーと定義したのに、本人が女王とか言っちゃったよ!女王発言聞き流しヨシ!知らんぷりヨシ!彼女にヨシ!俺にヨシ!てか、女王に謁見とかする必要ないしするなら松田だろ?俺がする必要はないし、仮に申し込むにしても理由を作る方が難しい。
謁見するにしても10のルールなんてのもあるらしく、初めて言う人は触れてはいけないとか、先に座るまで座ってはいけないなんてものがある。流石に急に来てそれを全て守れるわけもないし、女王の権限はどちらかと言えば天皇陛下に近い。政治的には中立で君主ではあるが政治的な決定は議員が行い、やる事は儀礼的なものになる。例えば外国要人への接待とか。
まぁ、女王ならではと言うなら免許無しで運転出来たり納税義務がなかったり、専用の詩人がいたりと羨ましい様な、立場の割に物足りない様な気もするがそこは本人の考え方なのでなんとも。まぁ、さっさと拘束を解く必要もあるしチラリとサイラスを見るキョロキョロしている。メアリーは別として急に消えたから心配にもなるだろう。
「では疑いも晴れたので拘束を解除します。声は出さないでくださいね?今は隠れていますけど解除すれば見つかりますから。」
「そうなの?確かに周りがコチラに注目しないからおかしいと思ってたけど、やっぱり魔法って凄いのね。サイラスがテレポート出来るのが羨ましいわ。もしかして、この杖でも隠れたり出来ない?マスクの方。」
「流石にその魔法はこめてませんし、マスクのままで失礼とも言えませんよメアリーさん。少なくともここにはマスクの少女と遅刻者メアリーしかいない。解除後は静かに講義を聞くとしましょう。」
早く解除しないとサイラスが焦れそうだな。今は2重で覆っているような形だからメアリーの姿隠しを解除すれば俺も見える様になる。一応一緒にいたメアリーがオレがどこにも行ってない事を証明してくれるから大丈夫だろう。
「サイラス長官、講義中に失礼。少々お耳に入れておきたい事が・・・。」
「なんですか?早急に解決しなければならない事以外は講義後に・・・。」
誰か知らんかサイラスの所に用事のある人が来た様だ。顔もしらないしなにを話しているかも耳打ちしている様で掴めない。ただ、なにやら額を抑えている様だがなにか問題が発生したのだろうか?これでエヴァが来たならフェリエット達の方で何か問題が発生したとも取れるのだが、そうでないなら何とも言えないな。
「モルガン!モルガンはどこにあるか!」
「えっ?モルガンってなにかしら?そんな生徒いるとは聞いてないんだけど。」
「私ですよ。その偽名で話しを通しています。まぁ、大多数の生徒は私がファーストである事を知っているので今更感はありますけどね。では、呼ばれたので行くとします。杖よ権限を解除、椅子へ。」
「そう、また後でね。」
「そ、そうですね。会えたら会えましょう。」
また後でって会わないと駄目?出来ればコレっきりの出会いとして会いたくないんだけどな・・・。日本人の会えたらとか行けたらは行けないの意味なのでその辺りを汲んでくれるとありがたいが・・・。
魔法を解除して講堂の最後尾からひとっ飛び。注目されるが彼女がここにいるとバレる方が問題がでそうだ。と、言うか彼女が若返った事実を知る者はどれくらいいるのだろう?国民周知ならそこまで気を使わなくてもいいと思うが、現状不明だし若返っていると言うニュースもネットからは拾えない。
これがジョージ同様最後のバカンスなら邪魔するのも悪いし、貴重な時間を邪魔するのも悪い。その人にはその人の考え方があるし、こうしてここにいると言う事はある程度の自由は認められていると思う。
「モルガーーーン!姿を表して欲しい!」
「魔法省長官の御前へ。そんなに叫ばなくともちゃんと聞いていますよ。」
「おぉ!急に姿を隠したから何事かと思いましたよ。どうかされました?講義がつまらなかったのならそれまでとしか言えませんが。」
「いえ、少々遅刻した方と話していたもので。」
「遅刻?全員揃っていると聞いていましたが・・・。」
「それはこっそりと、サイラスさんが私のマスクを外してください。」
(メアリーが来ています。この意味わかりますよね?)
(はぁ!?メアリーが!?)
生徒がざわざわとする中、サイラスにマスクを外してもらいながらこっそりと耳打ちをする。驚きからするとやはりメアリーが誰か分かっている様だ。しかし、杖を貸したなら貸したと教えておいて欲しかったな。壊れる様な物ではないがなくしていい様な物でもない。まぁ、女王が貸してくれと言って拒否出来る国民がどれくらいいるかは知らないが・・・。
「英国の皆さんはじめまして。クロエ=ファーストと言います。今回の講義を最初から聞かせて頂いていました。さぁ、楽しく魔法を使いましょう。」




