485話 洗濯物 挿絵あり
「ならやるなぁ〜。時間が短いから早く始めないと間に合わなくなるかもしれないなぁ〜。もう行っていいかなぁ〜?」
「個人的にはGOと言いたいけど少し待って。ここで指輪の中の見え方の検証とかしてしまいます?」
「してしまいたいですが英国側としては多少人を集めたい。それまでの間は教える方を優先してもらって構いませんよ。なにせ秘匿事項でもあるし獣人が職に就いたと言う事実を知る物は少ない。現状では日本、英国、そして米国となるのでしょう?」
「そうなるはずですけど何せ獣人も人数が多い。私達の目の届かないどこかで職に就いた獣人がいたとしても不思議じゃなですね。諜報機関等を使って英国も知っているでしょう?大国と言われる国程獣人を今は丁寧に扱っていると。まぁ、クロエさんが隣人として扱うと言い日本もそれをプッシュしているので、何かあると勘繰る国程慎重ですよ。」
「私の発言なんて木っ端ですよ木っ端。松田さんと言うか政府が日本は不当な扱いを受けた獣人を受け入れるって、宣言したからブレーキかかってるんでしょう?」
割とビビる話ではあるが獣人を労働力として受け入れる国はあっても奴隷労働力とする大国はほとんど無い。それこそ中国やロシアでさえ獣人は対等な隣人として扱いちゃんと飯も食わせている。まぁ、飯=賃金としている国もあるので、厳密に金銭の支払いがあるかと聞かれれば悩む所ではあるが、獣人としても飯=代価として納得しているので問題はないのだろう。
一応本人達に金貨での支払いと衣食住の保証を提示した上で衣食住を選択しているようだし、そもそも野良の獣人と言うのは発生経緯を考えると限りなく少ない。それこそいるとすればパートナーとの死別となるが、そうなった獣人はゲート付近に集まったりパートナーの知り合いの所に身を寄せたり或いは、日本の様にギルドと言うか管理する機関が面倒を見たりしている。
急な話ではあったが、急なら急でどうにかしようと動くのもまた国である。減らない以上市民として登録してみたり集団で何かをさせたりと言う試みもある。まぁ、作る事に慣れてない獣人ばかりだと『完成ヨシ!』と言ったそばから壊れる可能性もあるので管理者の人間はあてがわれている。
ある意味上手いのは中国とかなんだよなぁ〜。大雑把と言うか昔見た竹で作った足場をまた高層建築で採用して、そこを猫人やら犬人が走り回る。ある程度の高さから落っこちてもしなやかに降り立つし、スィーパーなら高所でも余程職に不一致がなければ怪我しないし、そもそも怪我しても回復薬で治したり場合によっては、墜落する人を見つけたら助けに飛び降りたりして何事もなく工事再開。
当然獣人はサボるのだが、それを見越して工期を設定しても利益が出るので働きやすいと言えば働きやすい。まぁ、建設事業そのものがハイスピード化してるからとも言えるな。昔から重機やら天候やらで左右されたが天候は克服出来なくとも重機に関してはどうとでもなる。日本でも工事現場に魔術師:土は引っ張りだこだし高層建築するにしても資材の引き上げを気にしなくていい。
結果として家は資材さえあれば1日で整地から建設完了まで進められるし、海外なんかのDIYが好きな人は昔では考えられなかったものを作ったりもする。そう言えばギルドの人口ビーチも有志が勝手に作ったしなぁ〜・・・。建築基準法が心配だが取り敢えず浮いて使えているので今更危険だからと撤去も出来ない。
それに身体動かすのが面倒と考える獣人は容姿を武器に接客業に乗り出したりもしているし。フェリエットはウェイトレスだったが他の国でも酒を出す店での接客業やらせたりとかね。全員成人なので犯罪臭のする様な姿でも獣人なら大丈夫だし・・・。
「いえいえ、それは間違いですよクロエさん。人の生活とゲートと職は密接に関わっている。それこそ設置されてまだ日が浅いにしてもね。そんな関わりのある中で、ゲートに一番詳しいであろう人が丁重に扱えと言うなら何かあると考えるのが普通です。現に獣人は職に就き人と肩を並べる存在となりつつある。」
「まったくです。英国としても最初フィンの事を日本に・・・、レディクロエに聞くか話し合いました。そして、聞けば既に検証を始め職に就いた獣人も確保していると返答された。余り込み入った事を聞いて答え合わせをするつもりはないですが、それでも貴女の発言には上を動かすだけの力があるんですよ?」
「それって口をつぐんで微笑みながら手を振ってろって話しになりません?下手な事言えなくなりますし。まぁ、詳しいと言う部分は否定出来ません。でも、それでも人である以上間違いもある。間違いをなくす為に出来る限り話し合い等はしますけどね。さて、ここで話していても仕方ない。人を集めると言うなら時間もかかるでしょうし先に師匠のお手並み拝見と行きましょうか。」
「ジャスパー、人を集めるとしてどの程度の時間がかかる?見え方の検証だけではなく獣人が獣人に魔術を手解きすると言う歴史的快挙でもあるが。」
「予定の詰まってない学者を集めるとして、最低1時間は見てもらいたいです。本日は来られてそのままホテルでお休みになると思ってました。一応視察に赴くと言う話しも出していましたが手ほどきとなると・・・。」
「ビデオ撮影でいいんじゃね?撮影機材もあるし師匠の授業風景とかも撮影して映像資料とかにするって話しで、機材を扱える奴はここにいっぱいいるし。」
エヴァが撮影の話しを出しそれなら大丈夫ではないかとサイラスとジャスパーも頷く。まぁ、英国には数日滞在する予定なので大丈夫かな?遊び呆けて本当に観光客になってもいいのだが、こうして国外で活動する機会は少ないし時間は有効に使うとしよう。
フェリエットにどこで教えるか聞くと外がいいと言うので、ジャスパーを残し外へ。ジャスパーはこれから学者や有識者に連絡をとる様だ。エヴァは機材と撮影スタッフを借りに行くと言い途中で別れて外へ。獣人達は洗濯の時間なのかシーツや服を手洗いと言うか桶に入れて踏んだりしているが洗濯機はないのかな?
どうせなら他の獣人達も集めて見せた方が職に就いた時にイメージしやすいのだが・・・。それ以外にも制服?と言うかローブっぽいモノを着た若人が数人獣人達を見守っている。サイラスの生徒だろうか?サイラスを見ると会釈してるし。
「洗濯は何か意味があるんですか?洗濯機でも魔術でも簡単に出来ますけど。」
「日常生活に慣れさせる為のものですよ。別に洗濯機でもいいと言えばいいのですが節約出来る部分は節約するし、自分で出来る部分は自分でやらせる。その方がイメージは出来るでしょう?」
「なるほどサリバン先生方式ですか。確かに水を見ただけでは冷たさも感触も抵抗も分からない。でも、今日はズルしてもいいですか?フェリエットが魔術を講義するなら多くの獣人に見せた方が扱えると言うイメージは作りやすい。」
「それは構いませんが、クロエさんがやります?」
「ええ、言い出しっぺは動かないとですね。」
「なら俺が手伝います!クロエさんが動くのに俺が動かないのは許せませんからね!」
「はいはい。なら水分を抜き取れ。」
「獣人達を集めてくれーーー!洗濯物はそのままでいいーーー!!」
サイラスが叫びみな手を止めて集まりだす。マスクを付けてからずっと目を閉じているが、視界は良好で見たいものが見える。俯瞰しているがズームと言うか注意を引くモノは大きくも見えるし、これと言って問題点はないな。
「建物の裏、猫人が2人ほど寝てますね。聞こえなかったのかサボりかは分かりませんが呼んでもらえます?後、小さい犬人がロビーを・・・、あぁエヴァさんに捕まったから大丈夫か。」
「・・・、遠見の魔術ですか?」
「そんなもんですよ。別に驚くほどのものではないですしさっさと洗濯を済ませましょう。」
十数個の桶があるが中はまちまちで洗剤で泡だらけの物もあれば、濯いでいたのか少し濁った水に浸かった洗濯物もある。1つづつ片付けるのも面倒なので、全て水ごと浮かせて中で水流を作りかき混ぜて一度水を捨て、更に水を集めて濯ぐ事数回。脱水は気にしなくて良いので楽だな。
「はい、抜き取り。」
「ええ!ふわふわに仕上げてみせましょう!」
英国の水は硬水なのでマグネシウムやらカルシウムが多い。しかし、青山はそれも抜き取ったので言った通りふわふわで肌触りも良さそうだ。後はサイズごとに畳めばいいかな?名前が書かれている物はないし汚れも全て抜き取られたのでどれも新品と言っても過言ではない。
「これってどこに置けばいいですか?」
「えっと・・・、台を出すのでそこにお願いします。」
「分かりました。個人名がなかったのでサイズ別にしてあります。新品同様にキレイなので多分大丈夫でしょうがマーキングとかしてました?」
「多分なかったですよ?抜き取った感じ臭いはほとんど落ちてました。」
「そうか、なら大丈夫だな。」
抜き取った青山が言うならそうなのだろう。まぁ、人よりも鼻のいい獣人だが流石に職を通して感じた青山と獣人の鼻とでは青山に軍配が上がると思う。そんな洗濯風景を見ていたサイラスはハッと気付いた様に近くの生徒に獣人を呼びに行かせた。別に洗濯なんて珍しい光景でもなかろうて。
家で洗濯する時も洗濯機を使うかこの方法で洗濯するか迷う時がある。放り込んで時間まで待つか速攻で終わらせるかの違いでしかないのだが、魔法で洗うとそこそこ肌触りが洗濯機よりもいいらしい。
「先ほどの洗濯は複合魔術ですよね?」
「簡単なモノですけどね。水を温水に変えて風で動かし水流を産みつつ優しく洗う。洗濯物は温水の方が汚れはよく落ちると妻に言われて洗うなら最近は温水ばかりですよ。」
(さらっと高等技能を使っとるのぉ・・・。複合で魔術を組むとなると結構難しいんじゃが・・・。)
「そう言えばクロエ。貴女の第2職はなんですか?」
サイラスがそう聞いてくる。松田の表情を読むと別に話しても良さそうな表情をしているので口を開くとしよう。どうせこれも後数日すれば世界に知られる事になるし、その知られた事によって交渉権譲渡の話しに終止符が打たれる。
それでも欲しがる人がいたら?その時はどうしようもないな。本当は身柄確保とか身内の人質事件に発展するとか、マイナスに考えればいい事ばかりではない。しかし現状でも・・・、渡せない条件を話さなければ渡せると思っている輩は動きかねない。それこそ拐われて相手の目の前で渡せないと言ってもそれを信じてくれるとは限らないのだから・・・。
それならば何もない平時にどうして渡せないのか?それを話した方がはるかに信じてもらいやすい。話しの流れとして条件をソーツが指定したからだけでは弱いから引き合いにダブルEXTRAを出す。そして、その時が俺の第2職が世界に知られる時になる。
「EXTRA魔女、それが私の第2職。賢者と魔女だとどこかの物語のようでしょう?これは国際会議で発表します。」




